労働時間規制について議論している厚生労働省の審議会で、労働基準法改正の骨子案が示された。通常国会に提出される改正案のもとになる。

 経済界が求める規制緩和が並ぶ一方で、過労死や過労自殺の原因となる長時間労働を防ぐ方策は内容が薄い。一言で言えば骨子案はそんな内容だ。

 まず、緩和の中身。働く人が始業・終業時刻を決められる「フレックスタイム制」を活用して、より繁閑に対応しやすくする。あらかじめ想定した時間だけ働いたとみなす「裁量労働制」では、認められる業務を追加し、手続きも簡単にする。

 目玉は「高度プロフェッショナル労働制」だ。高度な職業能力を持ち、高い収入を得る人が対象で、残業や休日・深夜労働をしても、割増賃金が一切払われなくなる。

 政府は「時間ではなく、成果で評価される働き方」と説明してきた。しかし、労働基準法は成果で賃金を決めることを禁じているわけではなく、賃金制度は労使で決めればいいことだから、この理屈には無理がある。

 似た制度として、経営者に近い立場の管理職に適用される「管理監督者」があるが、こちらは深夜の割増賃金は必要だ。それもない新制度は、従来の考え方を大きく変えるものだ。

 別の制度が必要だというのなら、無理な長時間労働を防ぐ手立てを講じて、運用をチェックすることが不可欠だ。

 長時間労働が強いられる社会で、規制緩和だけが進めば、働き手の不安は募る。大切なことは、社会全体から働き過ぎをなくすことだろう。

 それなのに、骨子案に示された働き過ぎ防止策は、通達や指導にとどまるものが目立つ。

 1日8時間を超えて働かせる時に結ぶ労使協定の問題は先送りされた。

 この労使協定には、1カ月の残業の上限を45時間とする基準があるものの、特別条項があれば、労災の過労死認定基準(月80時間)を超える残業が認められる。このため、長時間労働の温床になっているという指摘があり、審議会でも見直すべきだという意見が出ていた。

 監督指導の強化もうたわれてはいる。しかし、取り締まる労働基準監督官が増えず、権限の根拠になる法律が変わらないなら、実効性は乏しい。

 ニーズがある規制緩和をする一方で、問題が明らかな部分では規制を強化する。それこそが規制改革ではないか。審議会は働き過ぎ防止策をさらに詰めて結論をまとめてほしい。