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これまでの放送

No.3602
2015年1月20日(火)放送
“無届け介護ハウス”
急増の背景に何が

都内にある、ごく普通の一軒家。
ここで7人の高齢者が介護を受けながら暮らしています。
老人ホームとしての届け出を行わずに運営されている、“無届け介護ハウス”です。
今、全国でこうした無届けの施設が急増しています。
介護が必要な高齢者が増える一方で、施設は不足。
所得が低く、身寄りがない高齢者の受け皿となっているのです。

入居者
「自分の行くところがないから、ここが一番いい。」

しかし、届け出がされていないため行政の指導が及ばず、一部では高齢者の生活が脅かされるおそれも出てきています。
都内にあるこの建物では、短期間に多くの高齢者が死亡。
外部の目が入らない中で、感染症が広がっていた疑いがあることが分かりました。

「閉鎖された空間。
何事もなかったかのように済まされてしまう。」

急増する“無届け介護ハウス”。
その背景に何があるのか実態に迫ります。

“無届け介護ハウス” 高齢者の受け皿に

東京・江戸川区の住宅街。
この一軒家が今、“無届け介護ハウス”として使われています。
経営者は、こうした施設がなければ高齢者の行き場がない実情を知ってほしいと、取材に応じました。


狭い階段を上がった先の和室。
そこにはベッドが1つ。
その隣の部屋にもベッドが2つ並んでいます。
木造2階建ての家に、7人の高齢者が介護を受けながら暮らしています。

月々の利用料は食費も込みで15万円ほど。
有料老人ホームの平均より10万円安くなっています。
7年前に入居した86歳の女性です。
介護を頼れる家族はいません。
体調を崩して入院して以来、自宅で1人で暮らすのが難しくなりました。
収入が少ないため、入れる施設はここだけだと区役所から紹介されたといいます。

「家族は?」

入居者
「いない、誰もいない。
自分の行くところがないから、ここが一番いい。」

この施設は、国が求める老人ホームの基準を満たしていません。
廊下の幅が狭く、部屋もすべてが個室というわけではありません。
消火器などはありますが、今はスプリンクラーは設置されていません。
しかし、安い料金で高齢者を受け入れるためには施設の改修に費用はかけられないといいます。

施設を運営する 宇井米司さん
「今の日本で老人ホームをやるには(個室が)1人何平米以上と決まっていますから、これを確保しなきゃいけない。
だけどこういう民家だからできない。
それだけ工事をしてやるまで採算的な問題になってくる。」

常に空きがないというこの施設。
入居している高齢者は、自治体や病院から依頼され受け入れているといいます。

施設を運営する 宇井米司さん
「行政からの依頼を受けたり、病院からの依頼を受けて、うちみたいな所を探してくる。
やっちゃいけないというのであればやめます。
でも、入っている人はどうするんですか。」

こうした実態はどこまで広がっているのか。
無届けの施設は東京都内に86か所。
高齢者の受け入れを自治体や病院から依頼されていたのは、取材に応じた施設の8割以上に上っていました。
地価が高いため、特別養護老人ホームの建設が進んでいない、東京・世田谷区です。
入所待ちが2,300人に上り、無届けの施設に頼らざるをえません。

保坂展人世田谷区長
「大変待機者が多い。
高齢者施設が身の回りに少ないということで、無届けの場所があるというのが現実だと思う。
そこをどう解決すればいいのかは大変悩ましい。」

わからない実態 高齢者に何が…

取材を進めると、行政に届け出ていない施設の一部では、高齢者の生活が脅かされるリスクがあることが分かってきました。
東京都内にあるマンションです。
高齢者およそ160人が暮らし、食事も提供されていますが、届け出はされていません。
NHKが独自に入手した内部資料などから、3年前の冬、僅か4か月で28人の高齢者が死亡していたことが分かりました。
元職員の男性です。
その時期、感染症がまん延していたといいます。

元職員
「最初にインフルエンザ発症の入居者が出て、それが広がり始め、その後にノロウイルスの患者も出てまん延し始めて、全体的に感染者が増えた。」

届け出をしている一般的な老人ホームで集団感染が起きた場合施設は保健所に報告したうえで衛生上の指導を受けなければなりません。



しかし、ここでは届け出をしていないため報告の義務もないとして、事態が公にされることはなかったといいます。

元職員
「もし老人ホームとして届け出がされていれば、2人目の重症患者が出た時点で保健所に届け出るはず、保健所から指導が入るはず。
そこで感染は食い止められる。
閉鎖された空間。
何事もなかったかのように済まされてしまう。」

届け出が必要な施設かどうか、現在、都の調査を受けているマンションの運営側。
取材に対し、“届け出が必要な施設には該当しないと6年前、都から判断されている、考えうるかぎりの感染症対策を行っている”と答えています。

無届け施設 その実態は
ゲスト髙橋絋士さん(高齢者住宅財団理事長)

●“無届け”の中にもさまざまな施設があるように見えたが?

無届けというのはいろんな意味があって、非常に今の制度にはなじまない、先進的な質の高い介護を提供するミッションというか、使命を持ってやっている小規模な施設というか、住まいもあるんです。
それから、最後の施設は非常に大規模な、しかし施設には該当しないといったようなところも、非常に多様ですよね。
ですからその多様性が、単に無届けが一概に悪いとか、いいという話ではなくて、一つ一つの介護がどれだけやられているか、それから入居者の、入居者本位に立って住まいの運営が行われているかどうか、そういうことを一つ一つ見なければいけないなと、改めて感じました。

●ひどい実態のところもあるが、何が問題?

やっぱり規制をかけますと、どうしても規制逃れっていうのが起こるんですね。
だからこれは今の指導は、先ほどの保健所の話もそうですが、こういう施設で起こったら届け出なさい、それに該当しないと、非該当といったのは東京都ですから。
該当しないところは届けてなくてもよろしいっていう、そういう話ではなくて、共同生活を送っていて、そういう感染症や、事故やいろんなことが起こったら、制度はどうであれ必要なところにきちんと情報を出す、そして指導を仰ぐ。
そういうことをやる必要があるのに、こういう類型でないからやらなくていい、こうでないから届けなくていいっていう、そういう話では全くありません。
だからといって一方で、規制のやり方、これも実は問題があって、介護の質をどうやって維持するかという視点からの規制をしなければいけないので、合うか合わないかとか、そういう、しゃくし定規なやり方ではよくないなというふうに思います。

●6年前の群馬県渋川市の施設火災で入居者10人が亡くなったが、無届けの施設は減っていない?

あの事件のあと、やっぱり届け出をしましょう、それから有料老人ホームの規定を非常に広くとって、届け出をしやすくしてます。
ただし、届けられたものを、きちんと質を保つような指導をするための体制が、結局今の行政、地方自治体の状況を考えると、なかなかそういうところに力を入れようという自治体はあまりありません、それが1つ。
それからもう1つは、われわれが想定以上に、大都市は特にそうですが、1人暮らしで、低所得で、ちょっとした介護が必要になると、今までの賃貸・借家の住宅には住み続けられないような方がやっぱり増えてるんです。
これ、急増といっていいと思います。
大都市の高齢化は本格化してますから、そういう問題の、いわゆる受け止める場所になっているということでしょうかね。

●どう取り組むべき?

そうですね、私はまず第一に、ひっそりと閉鎖的にやっているところが非常に多いなあという印象があるんです。
そうではなくて、どんなに意図がよくても、やっぱり閉鎖的では何か起こったときに全部隠されてしまいますから、地域の目や行政の目も必要だけど、むしろそこが立地している地域の人たちが関心を持って、オープンにしていくような。
事業者さんのほうも、自分たちがこういうことをやってますので応援してくださいっていうぐらいのことを言っていただけるような環境を作れないもんかなというふうに思うんですけどね。

無届け施設 急増の理由

冬が厳しい北海道。
自宅の除雪ができなくなることをきっかけに施設への入所を希望する高齢者が多くいます。



人口34万の旭川市。
町で目指すのは、グループハウスと銘打った無届けの介護施設です。
介護事業者に加え、建設会社や警備会社などが参入しています。
その数は、届け出をしている施設よりも多い100余り。
地域の介護を担う中心的な存在にまでなっています。
ここまで広がった理由は、格安の料金で入居できることです。

市内にある無届けの施設。
21ある部屋は、ほぼ満室状態です。




部屋の広さや廊下の幅は国の基準を満たしていませんが、すべてスプリンクラーを完備した個室です。
3食ついて、月々の利用料は6万8,000円です。

入居者
「みなさん親切にしてくれるので、ありがたいと思ってます。
極楽ですね。」

この施設を経営する川畠崇史さんです。
格安の料金でも、毎年黒字を続けているといいます。




去年(2014年)の収入の総額はおよそ7,500万円。
このうち5,500万円余りを占めるのが、訪問介護事業によって自治体から受け取る報酬です。



訪問介護は、通常ヘルパーが事業所から一軒一軒家を訪ね、介護サービスを提供することで介護報酬を受け取っています。




一方、無届け施設の多くは同じ建物に訪問介護事業所を設けています。
訪問する時間をかけず、たくさんの人に効率的にサービスを提供し、より多くの介護報酬を得ることができます。


例えば、この高齢者1人を介護して受け取る報酬は、1か月で34万円余り。
施設の利用料を抑えても、介護報酬によって経営は安定するといいます。


施設を経営する 川畠崇史さん
「介護報酬が入ってくるのであれば、この料金設定でやっていける。
利用者も月々払う金額は安くなるし、ウィンウィンの関係じゃないかと思う。」

急増 無届け施設 自治体の苦悩

介護報酬の増大は、旭川市の財政にとって大きな負担となっています。
これまで介護費用を抑えるために、公的な施設の数を制限してきた旭川市。
その結果急増したのが、無届け施設という想定していなかった存在でした。

市の介護費用は膨張。
その額は毎年10億円ずつ増え続け、今年度およそ307億円に達する見込みです。



旭川市 福祉保険部 野﨑幸宏担当部長
「今の状態を予測していたかというと、そこはなかなかしていなかった。
財政的にはなかなか厳しい。」


さらに無届け施設の増加で、旭川市は本来必要のない負担も背負うことになりました。
介護保険制度では、高齢者がほかの自治体から施設に引っ越してくる場合、介護報酬はもともと住んでいた自治体が負担します。
“住所地特例”と呼ばれる制度です。

しかし無届けの場合、住所地特例は適用されません。
介護報酬は旭川市が負担するしかないのです。

旭川市 福祉保険部 野﨑幸宏担当部長
「制度的にはおかしいということになる。
市の負担も増えていくから厳しい。
(他の)政策的経費に回せる額が非常に少なくなる可能性がある。」

増え続ける 無届け施設

自治体の苦悩をよそに、北海道の外から高齢者を呼び込もうという動きも始まっています。
花香雄介さん、32歳。
北海道で無届けの施設を経営しています。
今年(2015年)網走市にオープンする新たな施設に、東京の高齢者を入居させたいと考えています。

施設を経営する 花香雄介さん
「東京には介護施設をお探しの方とか、退院先を探している人がいっぱいいて、受け皿がないから東京都内でも(チラシを)まいてます。」


花香さんは、去年買い取ったこのホテルを施設として使おうと準備を進めています。




25ある個室にはテレビやベッドなどが備え付けられています。
ホテルに残された設備をそのまま使えば、利用料を安く抑えても運営していけると考えています。



施設を経営する 花香雄介さん
「3~5年のスパンをかけて(入居者を)徐々に増やしていく。
需要はありますので、大丈夫だろうと確信しています。」




国が想定していなかった形で拡大を続ける“無届け介護ハウス”。
介護保険制度のひずみを浮き彫りにしています。

“無届け介護ハウス” 介護制度のひずみ

●今のケースをどう見た?

やっぱり、需要のあるところにはビジネスがあるっていうことを改めて感じたんです。
(それだけ需要が大きい?)
大きいということです。
ただし、それが単なる収益を上げるためのビジネスであっては困る、とりわけ介護というのは、人と人の支援、サポートですから、そういうものをちゃんと考慮に入れて経営していただきたい。
それから旭川とか、北海道はもともと雪の問題があるので、施設がもともと多いんです。
特養にしろ、病院にしろ。
だけど、それだけではどうも足りないらしい。
これは、単なるこの届け出の…ここではあえて施設と言っておきましょう、住宅という側面もあるんだけど。
だけどそれは、やっぱり本当の需要にきちんと応えるような政策がなかなか打ちにくかったための思わざる結果ですが、やっぱり根っこに需要があるということ。
それからもう1つ気になりましたのは、地方から受け入れるという話。
これは私は、やむをえずあそこへ動くというのはとても不幸なことで、住まいというのは、あくまでもご本人の選択と自己決定の問題だと思うんです。
これを、介護が必要になったからやむをえず動くということは、私はある意味では重度化の要因になるなと思っていて、本当にこれでいいのかなと。
そのために地域には仕事ができるので、これは1つの地域創生だというふうに考えられないこともないんだけども、だけどそれでいいんだろうか。
その背景には、病院がものすごく重度化して受け入れざるをえない現実があって、それはますます退院促進で広がりますから。
しかも従来型の施設は、4人部屋が多い特養もそうです、決して療養環境はよくないです。
そうすると、そこまで含めて全体の在り方をどうしたらいいかっていうのを、ぜひ他人事ではなくて、国民的な議論をしてほしいなというふうに思うんですけど。

●今の介護制度が実態に追いついていない?

想定外のことが起こっている。
介護保険制度だけでは対応できません。
例えば住まいの問題は、家賃補助とか住宅手当というのを何回も試みてうまくいきませんでしたけど、アメリカでさえ住宅手当はあるんです。
そういうことをやると、ああいう介護報酬に頼るような、ちゃんとした住居提供もできるわけです。
そこに適正な介護サービスを導入して、住まいでできるだけ住み続けられるような仕組みがどう可能なのか、施設依存・病院依存ではない仕組みを考えないと、どうにもならない時代になってきてるんです。
(見直すことも含めて、考える時期に来ている?)
そうです。

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