社説:日銀と物価 目標設定をより柔軟に

毎日新聞 2015年01月22日 02時30分

 日銀が2015年度の物価上昇率見通しを、3カ月前の年1.7%から1.0%へと大幅に下方修正した。黒田東彦氏を総裁に迎えた日銀が13年4月、大規模な量的金融緩和政策を導入した際に宣言したのは、「2年を念頭にできるだけ早く2%を達成」だった。これが困難になったことを事実上、認めた形だ。

 実際の物価上昇はすでに鈍化傾向が鮮明になっていた。円安などを背景に、1.5%(消費増税の影響を除く)まで高まった後は縮小に転じ、最新データである昨年11月は0.7%となっていた。急激な原油価格の下落が背景にあるが、その後も原油安は一段と進行しており、市場では再びゼロ%近辺まで低下するとの見方が広がっていた。

 そんな現状を追認しただけに見えるが、明らかになった問題がある。

 まず、人々の心理に働きかける手法が、想定通りの効果を発揮しなかったことだ。黒田日銀と従来の日銀の大きな違いは、「2年で2%達成」を明確に宣言した点だった。日銀が国債の保有額を2倍以上に増やし、お金の量を2倍にすると、2年で2%が達成できる−−。赤く「2」を強調したパネルを総裁自ら示し、「異次元」を演出した。

 満2年を目前に今、目標は遠のく一方である。そこで来年度(平均値)の見通し修正となったのだが、それでも「15年度を中心とする期間に2%に達するという見通しは変わらない」と強気だ。年度前半は低くても後半には2%が現実味を帯びてくるとの見立てのようだが、もはや、ショック療法的に人々の物価感を動かし、景気を浮揚させる当初の戦術は効果を期待できそうにない。固執するほど信用を失う恐れがある。

 もう一つの問題は、物価見通しと金融政策の関係がわかりにくくなったことだ。日銀が10月末に追加緩和に踏み切った際、原油安を最大の要因に挙げた。本来、原油安は日本経済に朗報だが、日銀は、理由が何であれ、物価上昇見通しが下がると、これまでの緩和努力が無駄になる、と言って追加緩和を実施した。

 原油価格の下落はその後一段と加速し、結果、今回の物価見通し引き下げとなったのだが、人々の物価上昇予測は「維持されている」(黒田総裁)として、今のところ再度の追加緩和を実施していない。

 そのうち原油価格が反転し、再び物価上昇率も拡大するとの説明だが、シナリオ通りにいかなければ、市場は追加緩和を催促するだろう。

 目指す物価上昇率は、多くの国の中央銀行が掲げている。問題はそれをどのように政策に活用するか、だ。日銀は目標をもっと柔軟にとらえた方がよい。

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