二人の神が授けるプレゼンテーション&デモンストレーションの極意
12月18日、クラウド名刺管理サービスを展開するSansanで開催された「Windows女子部・第36回勉強会」。
パネルディスカッションは、Windows女子部・初代部長である椎野磨美さんのファシリテーターのもと、今回の勉強会への参加者(抽選40名)から寄せられた質問をベースに、澤円さんと西脇資哲さんが答える形で進められた。
lesson1.「プレゼンテーション上達」の秘訣とは
- 相手に伝える時(相手を動かす時)に特に注意していることは?
- プレゼンで人の心を掴み、わかりやすく話すために心掛けていることは?
- プレゼンテーション上達の秘訣は?
- プレゼンの評価は何を基準とし、OKとしているか。
澤 :僕はプレゼンテーションをする機会が大変多いのですが、相手となる人は、比較的エグゼクティブな方が大きな割合を占めます。ということは、その人が直接何かの作業をするケースはあまりない。何かを作るとか、手を動かすとかですね。むしろ、その人は誰かに作業の指示をするわけです。
そもそも、社長さんとか役員の仕事というのは、大きく分けて2つ。1つは人と会うことで、もう1つは判断することです。そこで判断する材料を与えてあげて、判断したあとに誰かに指示する際に、二次的に利用されるであろう言葉をチョイスする。それが僕の仕事になります。
▲日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンター センター長 澤円さん
従って僕が伝えた言葉が、その相手のところで止まるのではなくて、もう一つ先にどういったかたちで伝わるのかを、常に意識しながら話すようにしています。つまり、その人が指示をしやすい言葉にして渡してあげる、というのがポイント。
その人が会社に帰って、「お前、これやっておけよ」とか「こんな話を聞いたんだけど、調べておいてくれる?」とか「こうなってしまっているから、次から気をつけろよ」とか……。そんなふうに二次的に使われる言葉をチョイスするのが、僕のやり方なのです。
そこで上達の秘訣ですが、ある意味、練習なんですけれども、今言った「二次的に伝わっていく」という状況を想像することはすごく大事だと思います。それを僕は「思考を飛ばす」と言い表しているのです。
要するにその人の立場になって、どういう人にどういうシチュエーションで話をされすんだろうか、ということをイメージする。それを繰り返すと、いろいろな人の考え方がシミュレートできるようになるので、必然的にプレゼンテーションの技術は上達していくのではと考えています。
西脇:私が自分の講座や、プレゼンテーションテクニックの時にいつも言っているのは、「伝えること」を目標にするのではなく、「伝えた結果、相手が動く」ことを目標にしてください、ということです。
▲日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト業務執行役員 西脇資哲さん
たとえば「この機材は黒いです、早いです、いいです」じゃなくて、使ってもらうためにはどうすればいいか。「手にとって、使ってみてください」と……。要するに相手を動かすための言葉が、どれだけ含まれているかが重要なのです。
商品を技術的にどう上手く説明するかではなく、相手を動かすということをキーワードにすると、相手を動かすための言葉というのがいくつかあります。ぶっちゃけた話、売り込みだったら、最終的な言葉は「買ってください」なんですよね。そういう言葉をたくさん重ねることが大切だと思います。
だから私はお客さんに、平気で「買ってください」と言います。だって、売り込みに行っているわけですから。そんな言葉が自然に出てくるかどうか。それが、一つ目の質問に対しての回答です。
では2つめの質問。「プレゼンで人の心を掴み」とありますが、私は、そんなにたくさんの言葉を上手に操れる人間ではないので、とにかく、「非常に単純な言葉を繰り返す」ということを、よく行います。
難しい言葉を1つ言うよりも、簡単な言葉を2つ並べたほうがいいと思います。わかりやすく話すということは、イコール、わかりやすい言葉を使うということ。2回繰り返せば、それだけ相手に伝わりやすくなります。
3つ目の質問の「上達の秘訣」。「西脇さん、プレゼンテーションの練習は、どうやってますか」と聞かれることがあります。澤さんも言っていたように、練習は絶対に重要です。
でも私、それ以前に他人のプレゼンをめちゃくちゃ見ています。先ほどの澤さんのお話もそうですが、非常に細かいところまで見ています。そして心の中で、「あ、自分だったらこう言うな。ここはこんなふうにしゃべっちゃうな」と思っています。それが上達法かなと。
――4つ目のご質問についてはどうでしょうか?仮に自分が聞く側になった場合に、どういうプレゼンを良しとするのかお聞かせください。(椎野)
澤 :僕の場合は、先ほど言ったことは逆も真なりで、聞いていて「何かしよう」と思わされたら、そのプレゼンは成功だと思うんですね。これはたぶん、西脇さんも賛同されると思うんだけど、しゃべり方、あるいは手振りや声の出し方、あるいはかまずにうまくしゃべってるなとか……。
これらはみんな枝葉のテクニックなんですね。これは本質でも何でもなくて、つたない伝え方であったとしても、それを聞いて何かしようと思ってもらえたら、それは成功なんです。西脇さん、どうですか。
西脇:じゃあ、私はちょっと違った角度で。澤さんもそうだと思うんですが、アンケートの結果ってとても大事にしているんですよ。
セミナー等で配られるアンケートをみると、「ためになりましたか」とか「理解できましたか」とか「よかったですか」とかいった設問が並んでいたりする。「なんじゃいこのアンケートは」と思うわけです(笑)。いいアンケートというのは、「このセミナーを他人に紹介したいですか」と書かれたアンケートだと思っています。
そして、これに「YES」が付くかどうかが、大きなポイントだと思っています。これがいちばんわかりやすい基準です。
澤 :プレゼンテーションで一番いいのは、二次感染、三次感染していくこと。どんどん伝播していって、人が動いていくこと。そんな状態を作るのが、プレゼンテーションの醍醐味かなと思っています。西脇さんが今言った「紹介する」は、まさにその二次感染にあたるわけですね。
lesson2.プレゼンの主旨が伝わっているかは、どうしたらわかる?
- 技術を紹介する時に「この技術を使ってみたい!」と思わせるアピールのコツ
- プレゼンの主旨が伝わっているかどうかを、どう判断しているか
- プレゼンの主旨がうまく伝わっていないと感じた時は、どんな対策を取るか
西脇:なるほど、具体的には「MicrosoftのAzureを使ってみたい」とか、「Hyper-Vを使ってみたい」とか思ってもらうにはどうしたら、ということですね。プレゼンの最中に、もう自分から言ってしまいますね。「これ、使ってみたいですよね!」って(笑)。いや、正直になんでも言った方がいいんですよ。
私の場合は、ここではプレゼンテーションとなっていますが、徹底してデモンストレーションを行います。与えられた時間の7割以上はデモンストレーションに割くと思います。紙に書いてあるものはなかなか欲しいとは思いませんけど、目の前に出されたものは、やはりちょっと欲しくなるものです。
それから、「プレゼンの主旨が伝わっているかどうか」ですが、これは、うなずく人が多いかどうか。それだけですね。ありがたいことに、今日は大変多いですね。そして、うなずいている人が少ない時は……我慢します(笑)。
たとえば会場で半分の人がうなずいていて、半分の人がうなずいていないとします。その場合、私は、うなずいていない人をうなずかせることに時間を費やすよりも、すでにうなずいている人を大事にします。
まあ、よほど上手くなれば、うなずいていない人に対して「よし、うなずかせてやるぞ!」でもいいんですけれど、上手くないうちは、余計なことは考えないほうがいいです。これは最初ですね。次は、先ほども言ったように、できるだけ単純な言葉を相手にぶつけることですかね。
澤 :僕もだいたい同じような内容になると思います。ちょっと皆さん考えて欲しいんですけれど、ものすごく美味しいレストランに行って美味しいものを食べたら、他人に教えたくなりますよね。自分が体験したものは、人に教えることができます。
だから、自分が使ってみて、すごくいいと思うからあなたにもお勧めします。使って見せて、「これ使ってみたいですよね」って言うのは、すごく正しいんですよね。セールストークであっても、嘘がない。これが、自分は使ったことがないというのでは、信用できない。
特に技術系の方の場合、技術は「触ってナンボだ」と思うので、触った上で人に勧めるのは、最も基本の部分だと思います。
「伝わっているかどうか」「伝わっていない時にどうするか」は、西脇さんとまったく同じですね。「我慢する」というのを、言い方を少し変えると、「動揺しない」ということです。
うなずかない人どころか、にらんでくる人とか、時々いるんですよ。その人にペースを乱されたら負けです。うなずいている人を大事にしていないことになるので。
これは常に言っていることなんですが、プレゼンテーションをしている時は、聞いている人は味方だと思ってください。少々、苦虫を噛み潰したような顔をしている人がいても、そのうち味方になってくれると考える。あるいは、その人は単にお腹が痛いだけかもしれない。彼女に振られたのかもしれない。何か、別の理由でそうしていると考えるのも一つの手です。
そして、反応のいい人を大切にして、それを少しずつ広げていければいいと考えればいいんじゃないかな、と僕は思います。
lesson3.質疑応答は自分を鍛える大事なポイント
- プレゼンテーションの質疑応答が得意になる、もしくは苦手でなくなる方法
- プレゼンで想定していない質問にも、うまく答えるコツは?
澤 :僕は、プレゼンテーションは質疑応答こそが醍醐味だと思っています。
有名なライターの上阪徹さんという方と食事をする機会があった時に、とても印象的なことを言われたんです。
「あなたはもう自分のプレゼンテーションをビデオにとってチェックなどしなくても、アタマに入っているでしょう。その代わり、チェックするなら、質疑応答を撮るといいです」と。
質問は、想定していない内容のものが来る……というより、ほとんど想定なんかしていません。どんな切り口から来るかわからないものに、瞬時に答えようとすると、アタマの中の、案外開けていない引き出しから何かを取り出して渡す、ということをするんですね。脳の反射神経が、すごく鍛えられるんです。
ですから、強いてコツといえば、なるべく興味の範囲を広げ、いろんなことを勉強し、覚えておくこと。そしていろいろなものを繋げて考える癖をつけておくことがいいんじゃないかなと思います。
これはちょっとずるいテクニックなんですが、相手の質問に対し、「ちょっとそれに関連して面白いことを思い出したんですが」と別の話を返してしまう。そこで「あ、コイツ、私のの質問に答えてないな」と思わせずに、「なるほど、面白い話を聞いた」と思わせたら、そこで勝ちなんですね。まあ、これは「答えられないや」と思ったら、こういうテクニックもある、という手合いのものですが。
西脇:プレゼンテーションをするときというのは、こちらが知っていて、相手は知らないという前提で話をするわけですね。ですから、澤さんが言ったように、基本的には自分が説明できることは、想定している/していないに関わらず、すべて答えられるくらいの網羅性は持っていたほうがいいですね。それは「深く」でなくていい。「広く/浅く」の水平方向の網羅性を持っていたほうがいい。
それくらいの準備をしておけば、想定にない質問が来た時に、浅いかもしれないけれど、とりあえず引き出しを開けるくらいのことはできる。
もう一つ。私も実はちょっとずるいテクニックがあります。澤さんの場合は、「話を別のところに持っていく」という、国会議員の先生あたりの常套手段ですね(笑)。さて、私の場合は――まず、質問が来るというのは、相手がボールを投げてくることに例えられますね。そのボールを、思い切り打ち返す!
たとえば、こんな質問が来たとします。
「西脇さん、MicrosoftのAzureに移行したいんですが、顧客データをクラウドに保存している事例はありますか?」
うわ、ヤバイ、そんな事例はないよ――と思っても、「すみません、持ち帰って調べてみます」ではアウトです。そこで、こう返す。
「ええ、ございます。ございますが、想定しているデータとは、どんなデータですか。後で私にメールをください」
つまり、質問が来たのに質問を返しちゃってるんですね。その人は、公衆の面前で私の質問を受け取ってしまったので、宿題を持って帰ることになる。まあ、場所を選ぶテクニックではありますが、相手に行動を促すという点でも、使ってみていいテクニックではないかなと思います。
澤 :今のお話にあるように、「質問には、必ず答えなきゃいけない義務はない」という覚悟は、非常にいいかもしれませんね。質問を受けたときに、おもてなしの心を持って、100%答えようと思うからしんどくなってしまう。
「全部答える義務はない、けれど、ちょっとでも答えてあげられたら、私はイイコトをした」くらいに思っているのがちょうどいいんじゃないかと思います。まったく答えないんじゃ嫌われちゃいますけれど(笑)。
あとは逆の話なんですけれど、自分がオーディエンスになったときには、質問はどんどんしたほうがいいです。質問は、オーディエンスに許されている、唯一の能動的な行動ですから、これは遠慮せずに、大きい会場でも怖じずにすべき。ちなみに僕は、必ず質問をします。
lesson4.相手の気をそらさない、いくつかのヒント
- テレビ会議や映像配信などでプレゼンテーションをする場合の配慮は?
- 想定していたよりプレゼンの時間が足りなくなってしまった場合の対処は?
- パワーポイントに多くの情報を入れたがる社内文化に対抗する方法(経験談)
西脇:では一つ目。いわゆるオンライン・プレゼンテーションですね。これは、配信とかテレビ会議などのインタラクティブなものだけでなく、録画の場合もありますね。
その場合、私が気をつけていることは2つあります。視聴している方は、はるかに小さい画面を通して説明を聞いているということ。従って、映し出す資料などは大きな文字で映し、こちらもきちんと指し示したり、あるいは言葉で「何行目を説明しています」と明言するなど、部位を明確にすること。
2点目は画面に映るものを動かし、「ここで右から左に動いて、こちらに収まります」と行った具合に、単に聞き流すのではなく、画面にも注意してもらう工夫をすることです。
澤 :指示代名詞を使うと、結構見てもらえますよね。「ここ」とか「あそこ」というと、「えっ、どこ?」と、注意を引くことになる。それもある意味、「相手を動かす」ということに繋がってきます。
正直に言うと、僕自身はやりにくいというか――こういうライブ感があるほうが得意なんですが、少なくとも、オンラインでは視線が泳がないようにする、という点は注意しています。例えばこういう会場だと、相手の目を見て話しているので、視線を移しても泳いでいる状態にはなりませんが、カメラの前だと、いわゆる「キョドった状態」に見えてしまう。自信がなく見える可能性があるので、注意しています。
――2番目の質問に関しては、私から先に説明させていただきますね。このお二方が大きなイベントで話をされるとき、当然、セッションの時間は厳しく決まっています。話題が膨らんで時間が足りなくなるということではなく、前が押して、時間が足りなくなるということがあります。そのような場合、どんな手段に出るか。
参加されている方が聞き取れる範囲内で、可能な限り話す速度を上げて、時間の調節をして、前の時間が延びた分を見事に収め、次の人がオンタイムに始められるよう引き継がれるんですね。つまり、どれくらいのスピードまでなら相手が聞き取れるかを踏まえ、そのタイミングで語彙を選ばれていますよね。(椎野)
澤 :そういえば西脇さんは、自分の持ち時間が20分の時に、「すみません、20分押しなんで調整してください」って言われたことがあるんでしたよね(笑)。
西脇:はい、そうですね。20分しかないのに20分押しを調整してくださいって……ないじゃん!(笑)。
澤 :まあ、巻きを入れる時は、早口でしゃべるといっても、やはり2倍速でしゃべっては聞き取れないわけです。ですから、そういう時は情報をつまんで、純度を上げるということをします。喩えて言えば、コーヒーのアメリカーノとエスプレッソの関係です。飲み物としての分量は違っても、水分の差だけで、カフェインとか、成分の量は変わらない、というのが僕の考え方です。
西脇:私は、よりドラスティックに、飛ばします。自分がせっかく作ったスライドをジャンプさせるのは、非常に勇気が要るんですよ。その勇気を持つのが大事だと思います。
澤 :3番目の質問、これは自分のポジションや考え方によって違ってくると思います。基本は、文化を変えるということに関しては、自分が先駆者になって、その背中を見せるというのが一番手っ取り早い。
僕がお客さん相手にやるプレゼンのスライドは、文字はほとんど入っていません。それで、僕は質疑応答も含めて5分喋ります。きっちり文章で説明しようとしたら大変なことも、説明してしまえばすぐ終わってしまう。ということは、スライドでクドクド説明する必要はないんですよ。
西脇:私の場合は実例があります。まず全部相手に読ませました。次にびっしり書かれた内容を、20秒くらいでさっさと説明して、こっちの説明に変えてよ、と言いました。つまり、資料に合わせてぜんぶやるのか、やっていることに資料を合わせるのか、どっちかやって、と。
澤 :なるほど。自分が指導できる立場にいるなら、間違いなくそれでいきますね。
西脇:どうしても「情報の多い仕事をオレはやったぞ!」という達成感に引きずられがちになるんですけど、話す言葉が少なく済んでいるなら、そっちに変えたほうがいいわけです。
澤 :それに、文字がびっしり書かれていると、オーディエンスは画面を目で追い始めるから、結局、話していることはアタマに入らないんですよね。
西脇:また、あまりに文章が長いと、説明しているところより先とか、要するに、違うところを読んでいる人が出てくる。「目が散る」っていうんですけれども、もったいないですよね。だから、視覚に提示する情報は少なめのほうがいい。
lesson5.伝えたいことをシンプルにまとめるには
- 伝えたいことの「核」の設定をセルフチェックする方法
- シンプルでわかりやすいメールのやりとりを実現させるコツ
澤 :プレゼンの練習法について聞かれることがありますが、私は「寝ている時間以外は全部練習です」と答えています。直近でお客さんに対して言わなければいけないこととか、最近の旬な話題だとか、それらについて、どんなふうに伝えたらよいか、常にアタマの中でリハーサルをしているんです。
例えば5分時間があった時に、誰かに話をするシーン。あるいは、1時間のプレゼンをするシーン。シーンをいろいろ想像して、その中で話をして、「これだったら人が動く」と思えたら間違いがないですね。「あれっ。何の話をしているかわからなくなってきたぞ」と感じてきたら、間違っている。そんな、脳内のリハーサルという形でセルフチェックを行っています。
西脇:私は全体の流れではなく、パワーポイントのスライド1枚1枚についてのチェック法をお話ししましょう。私が必ずやっているのは、パワーポイントのスライド一枚あたりを5文字くらいに置き換えてみる、という方法です。
実際には、スライド一枚にたくさん文字が書いてあったり、写真があったり、図表が入っていたりすると思うのですが、それを、例えば「美しさ」とか「使いやすさ」とか「安さ」とか「新鮮さ」とかいった言葉で表現してみる。
そして、単純にこのことを説明しているスライドなんだという意識付けをする。そして、この時に、この5文字前後に置き換えられないスライドがあったとしたら、そのスライドは、実はあまり意味がない。うまく整理ができていないんですよ。
澤 :そういうことをすると、話の軸がずれなくなりますよね。自分の話すことの再整理にもなる。
西脇:そうですね。
澤 :それからメールに関してですが、これも根っ子はプレゼンと同じだと思います。メールも届くことで、相手が何らかのアクションを起こすという共通点がありますから。ひとつ重要なのは、そのメールが第三者に転送された際に、そのままちゃんと通じる内容になっているかどうか。
もちろん、プライベートで親密な関係な中でのやりとりは関係ないですよ。しかしビジネスの世界では、「転送された時にうまく伝わるか」、もう1つ「転送された時に本人が困らないか」。この2点をアタマの片隅に置いておいて、チェックをするといいと思います。
西脇:私もまったく同じ意見ですね。長い複雑なメールが「こいつ、こんなことを言ってるぜ」と転送されてきた場合に、それを添削して短くまとめてみる。これがわかりやすいメールを書くことに関して、いい練習になります。
澤:例えばマイクロソフトの社内のメールは、新任の挨拶とかはかなり長大なんですが、通常の業務に関しては非常にシンプルです。まず、冒頭の挨拶は書かない。相手もそれを失礼とは思わない。なぜなら、そのほうが便利だからです。簡潔に、1画面に収まるように書いてあれば、わざわざ開く必要がなく、すぐに返信できます。
また、相手はパソコンでメールを開いているとは限りません。スマートフォンかもしれない。すると、ますますスクロールは面倒な手間になります。それを考えれば、挨拶等の文言は余計。ノイズだと思っていい。
西脇:それに関しては、お願いごとは先頭の3行で書いてしまう、というのを私はやっていますね。細かい説明はその後で書く。上の3行に書いておけば、パッと見て用件はわかるわけです。
lesson6.好き嫌いは「どうにもならないこと」もある
- 苦手な人、自分とは違うタイプとの付き合い方
澤 :正直、大人になるほど、面倒なヤツと付き合わなければならない状態はあると思うんです。これには2つのやり方があると思います。1つはスルーする、受け流すという方法。もう1つが圧倒してしまうというやり方です。
自分が、他で圧倒的なバリューを発揮している、あなたにはもう潰せない、という存在感を示すこと。出る杭は打たれるといいますが、出すぎた杭は打ちづらい。そういうやり方もあると思います。もちろん、いきなりやるのは難しいので、スルーするだけしておいて、いつの間にか大化けしているというのがいいですね。
上司なんかに自分の人生狂わされたらたまらない。上司というのは単なる役割で、偉いわけではない。上司だからといって自分より優れているとは限らない。そんなふうに、最初から認識しておいたほうがいいかもしれないですね。その代わり、自分より優れているなと思ったら、惜しみなく尊敬するというのも、自分の精神状態を安らかにするために必要だと思います。
付き合い方ですが、相手のペースに合わせる必要は全然ないと思います。自分の棚卸をして、自分の成長領域をきちんと確保して、もしその領域が自分が働いている場にないというのであれば、転職の潮時です。
西脇:上司の問題で悩んでいる人は多いですよね。昔で言えば、「かーちゃん(あるいはダンナ)と上司は替えられない、我慢しなさい」と言われたわけですが、今のご時勢では替えられますし、何か問題点があれば指摘する仕組みもある。
そもそも下が苦労しているということは、上も苦労しているはず。そういうことを考えると、1人の上司に苦労してノイローゼになって人生を棒に振るなんて、ホントにもったいない。私がそこで言いたいのは、「チェンジをすればいい」ということ、そのための勇気を持つということです。
非常な苦労の末に会社を辞めている人も、私はたくさん見ていますが、けれども上司は辞めない。そんなおかしなバランスはないですよね。それは非常に悔しい話なので、私は、「スルーし、チェンジをする」という選択をきちんと持ってもらいたいな、と思います。
もう1つは、海外のビジネスマンがよく使う手で、「ネーム・ドロッピング」というのがあります。これは、上司と同等、あるいはそれ以上の立場にある人の名前を会話に混ぜて上手く立ち回ること。今は部署間の壁も薄くなったので、この手は使いやすくなったと思います。
澤 :今のネーム・ドロッピングで思い出したんですが、「これをやると、あなたの評価も上がりますよ」というプレゼントを1つ用意するというのも手かもしれませんね。たとえば、「これをやると社長も喜びます、私がやりますから、あなたがそれを報告してください」と言えば、相手も得をするわけですね。それなら相手も嫌な気分はしないので、動くにあたっての障壁は低くなる可能性があります。
人間である以上、誰にでも好き嫌いはある。苦手な人や嫌いな人がいてもしょうがないかな、と思うんですよ。もちろん、実際に殺してしまうと社会的にいろいろ不都合が起きるので(笑)、せいぜい藁人形に釘を打つ程度に納めておいたほうがいいですが、少なくとも、そういう感情も自然なのだと受け入れるのは大事だと思います。それを無理矢理封じ込めようとするからストレスが溜まり、最終的には体を壊すことにもなります。
lesson7.他人は上手にメリットを提示して動いてもらう
- 一緒に仕事やプロジェクトをしたいのはどういう人か?
- そういった方をどのように探し、どうやって口説き落としているか?
- 普段どのようなことを心掛けて仕事をしているか?
- モチベーションを保つために行っていることは何か?
西脇:わかりました。一緒に仕事をしたいと思う人は、レスが早いひとですね。例えば私が澤さんにメールを送ったとします。例えばその内容は3日くらいかかる宿題だったとして、問題は、澤さんがそれを半日で仕上げてくるかどうかではなくて、「わかりました、やっておきます」という返事だけでいい。そういう、基本的なレスの早い人。そういう人は、多分仕事そのものも早いだろうし、あるいは仕事がつまった時にはつまったと教えてくれる。
そして、スピーディな人を見つける手順は簡単なんですよ。単にメールを出して、すぐに戻ってくるかどうかを見ればいい。これが私のやり方です。そして、私自身もスピーディにコミュニケーションをとることを心掛けて仕事をしています。
澤:まさにそうですね。あとは、私の場合は「安請け合いをする」というのが大好きなんです。とりあえず、言われたことは自分の専門ではなくても、どんなものでも「はい、いいですよ」と返事をする。
ただし、その「いいですよ」は、自分がやるとは限らない。「できる人を探す」でもいいわけです。やってもらって、それは当然、その人の手柄にする。それは僕自身のモチベーションにも繋がる。つまり、自分ひとりで仕事をしているわけではないというのが、一つベースとして持っています。
一緒に仕事をしたい人というのは、当然ながら、優秀であったり、特殊な技能をもっていたりとか、いろいろあると思うんですけど、やはり一番いいのは、反応が早く、しかもそれが基本的にポジティブである人ですね。
それから、「口説き落とす」というのとはちょっと違うと思うんですが、仕事を頼む時には、その人の得になるストーリーを作る。この仕事をすることで、あなたにはこういうメリットがあるということを、シナリオとしてちゃんと定義できるのであれば、比較的簡単にお願いできるかなと思います。付け加えれば、その時に、どれだけ自分のメリットを度外視できるかがポイントになると思います。
西脇:澤さんはマネージャータイプなんですね。普段、面倒見もいいし。私は、人を口説かないんですよ。一緒に仕事をしたいと思った人がいたとして、ダメだと言われたらそこで諦めてしまいます。私の持論は、「同時にたくさんの人とは仕事ができない」。それだけに、付き合いのいい人と仕事をしたほうが効率がいい、という考え方です。
澤:確かにマネージャー的な部分があるかもしれません。僕自身はエンジニアだったんですが、実はエンジニアとしての能力は低かったんです。必死にコードを書いてコンパイルして、しかし一度で通ったことがまったくなかった。絶対コンパイルエラーが起きる。無限ループなんて朝飯前です(笑)。
しかしそれだからこそ、人に頼るしかなかったんです。それで、結果的にそういうマインドになったのかなと思います。自分の周りがみんな自分より優れているという状態に慣れてしまったんですね。その代わり、うまくその人の成果になるということを説明するスキルが身に付いたと言えるかもしれません。
lesson8.これがプレゼンの達人たちの「目標」
- 今まで読んだ本で一番面白かった本は?
- 今のポジションになるまでに一番力を入れて取り組んだこと
- 仕事における目標、人生の目標は何か?
澤 :僕の場合は、「エバンジェリスト養成講座(西脇資哲著)」かな(笑)?まあ、読んだのは最近じゃなくて100万年前ですけれどねえ。面白いです。お勧めです。
あとは上阪徹さんの『職業、ブックライター。(講談社)』と、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?(あさ出版)』。この2冊が面白かったですね。
「今のポジションに着くまでに、一番力を入れて取り組んだこと」――これは、体を鍛えたことです。力を入れたというよりは、ずっとやり続けてきたこと、という感じですね。健康であるように、体を鍛え続けてきました。これには2つの意味があります。
自分の人生設計に非常に大きな影響を与えたことなんですけれど、実は僕、運動音痴なんですよ。通信簿で、体育2とかだったんですよ。小学校、中学校の間に、運動神経が鈍いということが、男の子にとってどれだけ残酷なことかわかります?
でも今、僕はスキーと空手のインストラクターなんです。しつこくやり続ければモノになることというのはこの世の中にあって、それをキープしたい。キープをすれば、健康を保つことができ、健康を保てればいい仕事もできる。
鍛えるというのは別にボディビルダーになることではなくて、自分の体を律することができる、ということです。それができる人は、仕事の量も、仕事の内容も律することができると、僕は考えています。
そして仕事の目標、人生の目標は――「一生現役」ということですね。仕事に関しては、人を育てる仕事はしたいなと思います。今の感じで言うと、大学の先生とか、私塾の先生とか、そういったものもいいなと思っています。
西脇:私の場合、最近読んで面白かったのは、 東野圭吾「虚ろな十字架」ですね。この謎解きが、結構難しかったんですよ(笑)。読まれた方、いますよね。たいへんいい小説です。いや、これホントの話ですよ。面白かったんです。
「今のポジションに着くまでに、一番力を入れて取り組んだこと」――これは、澤さんと非常によく似ていて、私も「健康」なんです。実は私、生まれてからインフルエンザに罹ったことがないんです。だから「罹ったら死ぬぞ」なんて言われたりするんですけれどね。まあ、それは私がそれほど力を入れたわけではなく、親に感謝なのか、日頃衛生的にしているからかわかりませんけれど。
さて、ここにポジションとあるので、ポジションに関してお話しすると、私はいま、社長室という部署にいます。マイクロソフトの社長室は、広報の人がいたり、法務の人がいたり、社会貢献のチームがいたり、CSを調査しているチームがいたりします。なんでそんなところに私がいるのか。
それは、「そこにいなければいけない理由」を作ったからなんです。マイクロソフトの大きなイベントでは、社長が講演することがある。けれど、社長自らが製品のデモをするわけにはいかない。そこで私の出番になるわけです。
つまり、ポジションに着くまでにやったこと、ではなく、自分がそのポジションにいなければいけない理由、そればかりを突きつめていました。ほかのことはやらなかったですね。何でこのポジションに自分がいるのかという理由を箇条書きにして、それをきちんとできるようにしました。「私でしかできないことをやろう」ということです。
仕事の目標、人生の目標は――人生の目標は澤さんと同じで「生涯現役」です。そんなに大それた目標ではありません。私はエンジニア出身ですが、「100歳を越えてもコードが書ける。デバッグができる。無限ループには入らない」(笑)。こういう力を、ちゃんと身に付けておきたいと思っています。
澤 :……あと、モテたくないですか?
西脇:それはもちろん、モテたいですねえ。もちろん女性にはモテたいですが、それ以外でも、男性にも上司にも部下にもモテたいです。やはりそうなると、それだけカッコイイところを見せようと思いますし、仕事においても、汚いやり方は避けようと律することができる。
澤:それは、ちゃんと意識していないとキープできないことですからね。
西脇:あとは……我々、2人とも45歳なんですよ。45歳になったら、あとはもうマイナスです。髪は抜けるし、抜けたら生えてこないんですよ。だから、何が言いたいかというと、キレイに見せる、カッコよく見せるというのではなくて、「守る」! 髪も肌も守るんですよ。健康を守る。スピードを守る。笑顔を守る。こういうやり方を、今はしてますね。
澤 :決して「守りの姿勢」になるということではないんですよね。「守る」というところの努力が「攻め」になる。縮こまっているわけではないというところがポイントです。
lesson9.最も印象的だった「決断」
- これまで意思決定の中で特に印象に残っているものは?
- その時の背景や状況、実際の意思決定のプロセス、振り返ってなど
西脇:たぶん、澤さんが素敵な話をしてくださると思うので、私から(笑)。想像がつくことだと思うのですが、私の場合、これまでで最大の意思決定は「転職」ですね。
私は、前職の会社には13年間勤めていました。暦を一回りしているわけです。そうしたなかで、パートナーやお客様の信頼を得て、他の社員との付き合い、メディアへの露出を考えると、そこからマイクロソフトに転職することは、意思決定としてはリスクが大きかったと思う。
ただし、結果としてはそれらはプラスで返ってきたわけで、振り返って、転職を選んでよかったなと思います。
これに関し、ちょっと面白い話があります。「フクギョウ」というと、普通は「副業」という字を当てる。これは、マイナスのイメージがあります。本業のほうに黙って、自宅でコソコソやる。けれど、今はそうではなくて、別の字を当てて「複業」という書きかたをする場合があります。
これはどういうことか。皆さんもそうだと思います。誰しも、いろいろな能力を持っているんです。一生の間、一つの会社に勤めるのが、昔の考え方でした。それが変わって、一生のうちに転職をして、5つの会社に勤める。さらに変わって、今では5つのコミュニティに関わって、同時に貢献をする。
今の時代は、さまざまな能力を活かしていったほうがいいわけですね。そういうことも考え合わせると、自分のいろいろな能力を発揮する機会を広げた転職は、いいことだったのだなと思ったりします。
澤 :僕もその意見にはすごく賛成します。僕も、別にベンチャー企業の顧問をしていたり、コミュニティということで言えば、冬場には実際にスキー場でインストラクターも務めています。また、茶道の師範ももっているので、将来的にはそういうこともできます。
僕自身が、意思決定で印象に残っていることとしてお話ししたいのは、人を辞めさせたことです。これは、今でも思い出します。どうしても、会社の都合で人を減らさなくてはいけない。場合によっては、夜道を歩けなくなる。そんな役回りが、マネージャーをしていると避けられないことがある。
そして、日本の会社の場合、労働基準法で指名解雇はできないことになっています。直接の命令で辞めてもらうことはできないので、説得をしなければいけない。その状態でなおかつ、誰をそうするのかも判断しなければならない。しかし、メンバーを見渡すと、それぞれ都合があるわけです。
その時に、「相対的に言って、このなかで選ばれるとしたら私ですよね」と言ってきた人がいるんです。それまでも、ずっと仕事上でサポートしてきた。それだけに、自分がまだサポートが必要な立場であることも自覚していたんですね。結果的に、その人に辞めてもらうことになったのですが、しかし、そこに至るまでに、ものすごく話し合いました。
たまたま辞めてもらうことになるけれど、これをチャンスと捉えることもできる。奇麗事でそう言っているわけではなく、僕自身、そう納得できるまで考えました。「会社の都合、第三者の都合で辞めさせる」のではなく、この人と僕との間で、コミュニケーションによって次のステップを定義する時間として、その話し合いを持った。そうしたら、今なお、その人からは「こんな仕事をしています、こんな感じで元気にやっています」と連絡が来ます。
これが今まででいちばんタフな経験だったと思っていますが、ここでのポイントは、その最中、常に当事者意識を失わなかったということです。
今日は基本、プレゼンテーションの話だと思うんですが、プレゼンテーションは、根っ子は自己責任であるべきだと思っています。「自分が話したことは、自分が全部責任を取れる」――まあ、すべてというのは大げさかもしれませんが、少なくとも何かがあったとき、「それは私のことじゃないです」というふうになるんだったら、プレゼンテーションのテーマに取り上げるべきではないと思うんです。
もちろん個々のパーツではそうでない部分があっても、柱となる部分は自分で責任を持つ。また、そうしている限り、後悔しないと思うんですよ。やり方に関しては「ああ、こうすべきだったかな」と思うことはあってもいいけど、根っ子のところでの後悔は、非常に自分自身を傷めることになる。そうならないためにも、常に自己責任の姿勢を持つべきではないかと考えます。
講師プロフィール
西脇 資哲(にしわき もとあき)氏
日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員・エバンジェリスト
2012年に日本経済新聞で紹介されたIT「伝道師/エバンジェリスト」。2013年には日経BP社から “世界を元気にする100人” にも選出。マイクロソフトにて多くの製品・サービスを伝え広めるエバンジェリストとして、講演や執筆活動も行い、IT企業、製造業、金融業、官公庁でのプレゼンテーション講座を幅広く手がける。
著書に「エバンジェリスト養成講座~究極のプレゼンハック100~」など。
ITmedia オルタナティブ・ブログ「IT世界の車窓から」
Twitter:@waki
澤 円(さわ まどか)氏
日本マイクロソフト株式会社
マイクロソフトテクノロジーセンター センター長
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。2011年7月、マイクロソフトテクノロジーセンター センター長に就任。
著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」
CodeIQ MAGAZINEで「澤円のプレゼン塾」連載中!
Twitter:@madoka510
講演の合間は名刺交換と「Eight」体験会
今回は澤さんと西脇さんのパネルディスカッションに加え、Sansan株式会社 日比谷尚武さんによる同社の名刺管理サービス「Eight」の説明が行われた。
講演の合間には、参加者同士が名刺交換を行い、その名刺をその場でスキャンしてデータ化するという「Eight」体験サービスもあり、休憩中も大盛り上がりだった。
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【アニメ用語続出】喜屋武ちあき、マイクロソフトでエバンジェリストと「Visual Studio」を学ぶ
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