中国の昨年の経済成長率は7・4%だった。他国より随分高いが、13年の7・7%から減速し、中国にとっては90年以来の低い数字だ。

 昨年3月に掲げた目標は「7・5%前後」だから、7・4は目標達成といえる、と中国政府は説明する。しかし、わずかに下回ったことに意味がある。統計の信頼性に議論がある点を別としても、政策しだいで7・5は達成できたはずだからだ。ここには成長軌道を修正する習近平(シーチンピン)政権の意図が込められているとみるべきだ。

 習政権は成長率が鈍化しつつある現状を「新常態(ニュー・ノーマル)」と呼び、局面が変わったとの認識を浸透させている。今年の成長率目標は7%程度に抑えるとの見方が強い。

 過去の高速成長は、農村出身者を低賃金で使って労働集約型産業の輸出で稼ぎ、国内ではインフラ投資や不動産投資を牽引(けんいん)役とするものだった。

 こうした資源大量投入型成長は行き詰まりをみせている。そこで習政権は「市場の役割の重視」を打ち出し、規制改革、新成長分野の創出などで経済全体の効率化を目指している。

 成長一辺倒から転じて成長の質を磨くのも大切だが、忘れてはならないのは、分配への目配りだ。

 都市と農村、内陸と沿海、富者と貧者。発展の不均衡と所得格差は長く中国経済の代名詞となっている。労働力不足で低所得層の底上げがみられるが、まだ深刻な状況だ。不動産の高騰も、持てる者と持たざる者との差を広げた。

 その意味で必要なのは、税財政の再分配機能を高める改革ではないか。

 現状は、個人所得税が税収に占める比率は低く、相続税がない。資産・所得の格差是正が難しい。地域間の財政移転の仕組みも不完全だ。年金をはじめ社会保障制度は構築途上で、給付面の仕組みも欠く。

 これらの改革のいくつかは検討課題に上っているが、先行きは不透明だ。実現すれば社会が安定し、個人消費を促し、投資に過度に依存した体質からの脱皮を図れるだろう。

 中国経済は80年代以降、改革を跳躍台とした。外国企業を呼び込み、国有企業を整理し、世界貿易機関に加盟した。

 習政権もまた、今年を「改革のかぎになる年」と位置づける。世界第2の経済大国とはいえ、国民1人当たりでみれば中所得国だ。急速に進む少子化と高齢化を考えれば、残された時間はあまり多くない。