仄暗い氷の底から                   冬は鍋だろ  何せ焚き火が出来るのだ。  長生きはするものだ。  それは一本の杖だった――女がローブを着込んでいたのは、寒さを防ぐ為では、ない。 僅かな冷気も逃がさぬよう、ぎゅっと身を封じ込めるため。  大昔、どこぞのえらい貴族さまが有り金ぜんぶをはたいて羊皮紙にせっせと書き写して 配り散らした図版がある。  北と南に大きな筒を敷いておく。  あたたかいものは大きくなり、つめたいものは小さくなるので、その中では延々と続く 川のような流れが出来るに違いない。  干ばつなどに悩まされない、安定した水車の動力源が出来上がるに違いないと。  羊皮紙の為に借金までした格好つけのお貴族さまが、あっちにこっちに頭を下げて廻り 続ける――そういう仕組みが完成した。  酒場にぞろぞろよってきた水夫たちが、年がら年中そんな話を交わすので、どれここは 私もひとつと勢い込んで船に乗り込んでみたところ。  なんの面白みもない氷の世界に飛び込むはめになったのだ。  寒い寒いと言いながら歩いていたのが確か48年。  暑い暑いと言いながら歩いたのは17年。  どうも私の身体はそこらの氷より冷たくなってしまったらしい。  氷の山に勢い込んでぶつかった海賊船が見えたので、黒いマストを拝借してまとうこと にしたのがたった3年。  その杖は私の生活を一変させた。  寒い暑いの水準はとうに越えた。  鍋である。  炬燵である。(じぱにぜ等と名乗る奴らが犬を引き取りに来たので代わりに貰った)  そして、お貴族さまさまである。  図版を天と地にそっくり変えたら熱差タービンの完成だ。  じぱにぜ、いい奴。やってるラジオも面白い。  私、アウリラはつくづく思う。  ただ、じぱにぜとそれ以外の区別は氷の世界ではなかなか判らない。  みんなモコモコとしているからだ。  だもんで、モコモコしてない奇妙なじぱにぜを見つけた時、思わず飛び出したのは言う までもないだろう。 「くー! 酒が沁みるわ!」  ふんぞり返って豪快に息をつくじぱにぜ。  冷静に考えると髪の毛がもも色のじぱにぜ等みた事はない。何これこんなの初めて。  肌けた服の隙間から零れるほど溢れる乳。  これ絶対おかしい。 「つ、つっつみれどうぞ」 「おお、悪いね。あうりらさんもたんと食わんか。客人(まろと)の吾しが恐縮するわ」  アハハ。  豪快で可愛い笑い声というのは初めて聴いた。 「それで、ええ、なんじゃ。何処まで話したかの」 「ひゃくびしんの棒がなんとか」 「ひゃ・く・く・び・ぬ・し、じゃ。百首主の坊頭丸 惟景(これきよ)と言っての」 「はあ」 「狸がどうだと騒いでいるので、なんというかの、こう、ばっさりじゃ、ばっさり」 「ばっさり、ですか。はあ」 「これぞ西に見るアライグマとやらに違いないと」 「パンダに似ているという」 「喧嘩になったので斬り付けてやった」  言って、一升瓶を丸ごと呷る。  やめてじぱにぜ。  じぱにぜやめて。  その子は最後の一本なの。  願いは遥かユメウツツ。 「どれ、一宿一飯の大御礼に、この吾し桜斬がお見せするのは――」  泊まる気だぁ。 「世にも奇妙な『当たり前』! 『枯れ木に華を咲かせましょう』!」  突如として刀を振るう酔っ払い。  氷の底に華が咲く。長生きはするものだ。                     了 ■設定■ 断層の冷人アウリラ 極地のクレバスに住む長寿の女 大昔に極地に流れ着き たまたま生き残ってしまったため 恐ろしく低い代謝能力と長寿を獲得した クレバスを覗き込み その闇の中でだけ目立たない漆黒の姿を見つけてしまった時 確かめる為に降りていく事を選んだ者は 一体何を求めたのだろうか ■RPG■ 桜斬(サクラギ) 極東出身の神出鬼没の流浪の剣士 酒と甘味と花鳥風月を愛する風流で豪快な女傑。年寄口調で話す 鮮やかな桜色の髪と真っ赤な眼が特徴。巨乳 冥界の桜の木から作られたという妖刀「活殺剣・夢現(カッサツケン・ユメウツツ)」を携 える その刃は命を奪うことも与えることもできる 06/09/08(金)21:35:14 No.6951644 ■RPG クリーチャー 亜人種 百首主(ヒャククビヌシ) 地の霊脈の関係からはるか極東の島国にのみ住まう大型亜人種の一。 紫色の体躯と、鋭い角、血走った目を持つ。 尚、生存が不可能なのではなく、生息域以外での繁殖が不可能である事を付加える。 女性器を象徴する凹みのある、鉈と見間違うばかりの蛮刀好んで用いる優秀なマン・ハン ター。 狂猛な狩人達であり、人間に関しては常に獲物-狩人との意識を持ち、理解しようとしな い。 因みに、彼らの族長達が長年使い続けた無骨な獲物は、人間を切り潰すのに持って来いの 力を宿すようになると言う。