一
この話は、雅生愛飛と愛川妖美との、あ
の運命的な再会から出発すべきであるが、それについては、まず主人公の男であ
る、雅生愛飛の、とても風変わりな正確について、説明しておかなければならな
い。
雅生愛飛は、すでにこの世を去った両親から、莫大な財産を受け継いだ一人息子で、当時二十八歳の、私立大学中退学者で、独身のニートであった。
ということは、あらゆる貧乏人、あらゆる家族所有者の羨望の的であるところであるが、この上もなく安易で自由きままな身分を意味するのだが、雅生愛飛自身は不幸にも、その境遇を楽しんでいくことができなかった。
彼はこの世にたぐいまれぬ人間嫌い病であったからである。
彼のこの病的な性質は、一体全体どこからやって来たのか、彼自身にも全く不明であったが、その徴候は、はるか遠く彼の幼少時代に発見することができたのである。
彼は人間の顔さえ見れば、なんの理由もなく、勝手に眼から一杯の涙が溢れ出した。
そして、その内気さをひた隠すために、ありえぬ天井を眺めたり、手の平で顔を隠したり、まことぶざまな格好をいちいちしなければならなかった。
隠そうとすればするほど、それを相手にジロジロ見られているかと思うと、より一層おびただしい涙がふくれ上がってきって、ついには「ワーッ」と泣き叫んで、気ちがいになってしまうより、もうどうにもこうにも仕方がなくなる、といった感じであった。
彼は肉親の父親に対しても、家のお手伝いさんに対しても、時として母親に対してさえ、この摩訶不思議な羞恥心を感じた。
従って、彼は極端に人間を避けた。
人間がとても懐かしいくせに、彼自身の恥ずかしい性癖を恐るが故に、人間を避けたのだ。
そして、真っ暗闇の部屋の隅っこにうずくまって、身のまわりに、レゴのおもちゃで、可憐な城壁を築き上げ、ただ独り、幼い即興童話をつぶやいている時は、
僅かながら、安らかな気持ちになれた。
時は流れ、小学校というこれまた不可解な社会生活を送らなければならなかった時、彼はどれほど当惑し、恐怖に打ち震えていたことであろう。
彼はまさしく異様な小学生であった。
母親にさえ彼の人間嫌い病を悟られるのが非常に耐え難く、恥ずかしかったので、独りで学校に通学することはできたけれど、そこで人間との戦いとは実に無残で、残酷なものであった。
先生や同級生に何か物を言われても、涙ぐむ他に術を知らなかったし、受け持ちの先生が他のクラスの先生と話しているうちに、雅生愛飛という名前が漏れ聞こえただけで、彼は「エーン」と涙ぐんでしまうほどであった。
中学、大学と進むに従って、この忌々しい病癖は、多少は薄らいでいったけれど、小学校時代は、全期間の三分の一は病欠して、病後の養生ということにして学校を休んでいたし、中学生時代には一年のうち半分ほどは仮病して登校せず、
部屋を閉め切って、家人が一切入って来れないようにして、そこでノート型パソコンのネットサーフィンと、荒唐無稽なたった独りの幻想の中に、うつらうつらと日を暮らしていたものだし、大学生時代には、進級試験を受ける時のほかは、ほとんど教室に入ったこともなく、といって、他の学生のように色々な遊びに耽ることもなく、自室で、こっそりアダルトビデオ店で買い集めた、女性の身体の各パーツの、匂いスプレーの匂いをクンクンカンカンと嗅ぎ、それらの醸し出す幻妖な大気の中で、ますます崇高な空想に耽り、昼と夜が逆転したような生活を続けていたものである。
そのような彼でしたから、後に述べる唯一の友達を除いては、まるで友達というものが存在しなかったし、友達のいない彼には当然恋人もいるはずもなかった。
根は人一倍やさしい心を持ちながら、彼に全く友達も恋人もいなかったことを、どう説明すればよいのであろうか。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。