第九話 魔力測定
ソウジが黒魔力を持っていることはもう学園中に広まっていた。そのことでよく廊下ではヒソヒソと噂話もされることが多くなっていたが、それももう慣れようとしていた。オーガストを倒したという噂と化け物だのとなんだのという噂が広まり、名前を売ることだけは成功したとソウジは思った。
ランキング戦の日程も発表され、目下のところはレイドの補修を手伝うことだった。
「ちくしょー。なかなか上手くいかないぜ……」
放課後になるとソウジ、レイド、フェリスの三人は食堂の片隅に集まってレイドの強化魔法の練習に励んでいた。もう補修まで三日しかない。補修の時に行われる補修試験に合格しなければまた補修となる。
レイドは片手を強化の対象である土団子から手を放す。ソウジが土属性の魔法で作った、卵と同じ形をした土団子だ。
「うーん。やっぱり、まだ強化の魔法が全体に行き渡ってないな」
ソウジは用意したボウルの中に土団子を落とす。すると、土団子の一部は崩れて残りの部分は卵の形を保っていた。明らかに失敗だ。ソウジはそれを確認すると崩れた土をまた元の団子の形に戻す。
「イメージとしては、手に集めた魔力でそのまま対象を包み込む、って感じなんですけどね」
フェリスが考え込むように顎に手を当てて唸る。
魔法は感覚的な面もあるために他人にコツを教えるということは難しい。
「それは分かってるんですけど、コツがなぁ……なんか、こう、片手だけだとなんかムズムズするっていうか……調節が難しいって言うんですかねぇ」
強化魔法はコツさえつかめば、そのコツは他の魔法にも応用がきく。割と重要な魔法であるがために、プルフェリック先生もこの魔法の授業に気合を入れているのだろう。しかし魔法の感覚的なコツもまた、人それぞれなのだ。つまるところ、レイドに合ったコツを掴まなければならない。
「コツか……片手……ムズムズする……調節……」
ブツブツと言葉を呟くソウジ。やがてソウジは、レイドにあることを確認していく。
「なぁレイド、お前って魔法を使うときにどうしてる?」
「どうって……必要な魔力を集めて、こう、手で……」
そういってレイドは右手をぱっと前に突き出した。基本的に魔法を扱うときは、手からが多い。さらに言うならば、片手だ。
「よし、なら今度はこう、両手を合わせて魔力を集めてみろ」
ソウジは両手の手のひらを合わせる。ちょうど、よくレイドが「いただきます」をしている時の手つきだ。
「ほら、よくお前が食事するときに『いただきます』、『ごちそうさま』をしているような感じで」
レイドはなんでもよく食べる。更に言えば、とても美味しそうに食べる。一緒に食べていると思わずお腹が減りそうになるぐらいに。
「こ、こうか?」
「そうそう。その状態で、手に魔力を集めてみろ」
「お、おうっ」
レイドはじっとそのままの状態のまま両手に魔力を集めていく。
「その魔力を使って強化魔法を使うんだ」
「……………………」
レイドは両手に集めた魔力を右手に集めて、そのまま土団子に強化魔法をかける。ぼうっと黄色の光に包まれた土団子。ソウジはそれを持つとボウルの中に落とした。
コツンっ。という音と共に、土団子は崩れずにボウルの中に綺麗な形を保ったまま転がっている。
「で、できたぁっ!」
レイドが強化魔法の成功に大はしゃぎし、フェリスは驚いている。
「え、どうしていきなり?」
フェリスは目を真ん丸にしてソウジを見る。そしてレイドも気になるようで、ソウジのことをじっと見つめていた。
「まあ、レイドのコツがこれだったって話だよ」
そういってソウジは両手の手のひらを合わせる。
「レイドの強化魔法が上手くいかなかったのは、魔法を使うときの感覚じゃなくて魔力の集め方が問題だったんだ。魔力を集める時に不安定な波が生まれるから、魔法をかけても安定しなかった。だから、コツを掴んで安定して魔力を集められるようになったから魔法も安定したんだ」
「なるほどなぁ。オレ、今までずっと魔力を集める時は片手だったから気が付かなかったぜ」
「こういうのって、本当に気づきにくいんだ。でも、よかったよ。レイドのコツが見つかって」
「おうよ! サンキュー、ソウジ!」
そういってレイドは両手を合わせて魔力を練る。
「おー、すげぇすげぇ。なんかめっちゃくちゃ魔力が練りやすいぞ!」
「たぶん、レイドの感覚的には片手に練った魔力を集めるのっていうのは合わないんだろうな。だから一度魔力を両手に分けてまた集めるって方が安定したし、その方が魔力も練りやすいんだろう」
レイドは再び強化魔法を使った。そして、また成功して大喜びしている。
「うおーっし! これなら補修試験もいただきだぜ! 今日から、俺の得意魔法は強化魔法だ!」
苦手魔法から一気に飛躍したなぁ。とソウジは苦笑し、隣を見るとフェリスも同じような表情をしていた。だけどその瞳はどこか、昔を懐かしんでいるようなものだった。
「おつかれさまです」
ちょうどレイドが強化魔法の練習に一区切りつけたタイミングでルナがソウジたちにデザートを持ってきた。
「差し入れです」
「ありがとう、ルナ」
食堂での練習しているとルナが差し入れを持ってきてくれるのも定番化していた。
「なんか、いつも悪いな。本当にありがとう」
「いえ。みなさん、頑張っていらっしゃるので」
あくまでも淡々とするルナ。傍から見たら無愛想に見えるものの、ルナが優しい子であるということは重々承知している。ただちょっと気持ちを表に出すのが難しいだけなのだ。
「ところでレイドさんが何やら騒いでましたけど、もしかして……」
「おうよ! よーやく上手くいったぜ!」
誰かにこの喜びを伝えたくてうずうずしていそうなレイドが待ってましたとばかりにルナに説明をはじめた。自分がいかに苦労して強化魔法を習得したかを語っているレイドだが、話の内容が若干盛られ気味なのは気にしないことにする。
「つーわけで、俺はソウジのおかげで晴れて強化魔法を習得したってわけだ!」
「そ、そーですか」
ルナがやや困ったように言った。確かにいきなりつらつらと語られても困るかもしれない。なにしろルナもレイドが苦労していたことは知っていたし、だからこそ話の内容がちょっと盛られていることも分かるだろう。
レイドが補修試験を無事突破した頃、魔力測定の日がやってきた。
生徒たちは講堂に集められて魔力を測定する。測定と言ってもクリスタルに触れればいいだけで、測定そのものもすぐに終わる。生徒たちは列を作りながら、これからの魔力測定にあれやこれや話をしていた。
何しろこの測定で春のランキング戦で得ることのできるポイントの量が変わるのだ。ランキング戦で上位に入ればそれだけでメリットがある。
例えば図書館の閲覧権限の上昇、または生徒会や風紀委員などの学生間の上位組織に入ることも出来るし、ランキング上位チームにスカウトされることだってある。また、成績をつけられる際にプラス評価されるし、卒業する際にも騎士団をはじめとした魔物と戦う実戦的な職業に就く時に有利になる。
ソウジも勿論、魔力測定のために生徒たちの作り出す列に並んでいた。講堂のあちらこちらには上の学年の生徒たちが見物している。ランキング戦では個人で戦う場合もあるものの、チームを組んで戦う場合もある。そのチームに将来有望な生徒をスカウトするためにこうして魔力測定の見学に来るのだ。
おしゃべりに興じている生徒たちもいるものの、そんな生徒ですらちょっとした緊張感を持っている。とはいえ、ソウジは別に将来、就きたい職業もない。チームを組むにしても自分を入れてくれるところがあるとは思えないので関係ない。実際にこうして今も他の生徒たちからヒソヒソとされている。途切れ途切れに「黒魔力」「呪われる」「化け物」の単語が聞こえてくるが、この状況にもいい加減慣れてきた。
「では次、Eクラスのソウジ・ボーウェンくん」
ソウジの名前で会場全体がザワつきだした。否応なく、全員の視線がソウジに集中する。もちろん、スカウトの目もだ。ため息をつきながらクリスタルの近くに行くと、監督の先生であるプルフェリック先生が穏やかな笑みを浮かべていた。
「さあ、どうぞ」
「はい」
息を整える。何もする必要はない。魔力を込める必要はない。クリスタルに触れるだけ。たった、それだけのこと。でもこのクリスタルのことを見ていると、八年前の『色分けの儀』のことを思い出す。
(あの時とは違う。俺はソフィア・ボーウェンの弟子、ソウジ・ボーウェンだ)
ソウジは心の中でそう吐き捨てながら、クリスタルに触れた。
その瞬間、クリスタルが黒く輝きだした。
魔力量がどれぐらいかは細かな数値には出さない。クリスタルの発する光で判断する。だが、その輝きは講堂全てを覆いつくさんばかりのものだった。
「…………?」
ここでソウジは首を傾げた。クリスタルに異変を感じたのだ。
その異変の正体はすぐに判明した。ピシッという音と共に、亀裂が入ったのだ。
(や、やばいっ?)
そう思ったが、遅かった。
ビシビシビシビシ……バキィィィィィィン! と、ソウジよりも一回りも二回りも大きなクリスタルが粉々に砕け散った。
「えーっと……その、これはどういう……?」
「はっはっはっ。どうやら、ソウジくんの魔力量に耐えきれずにクリスタルが砕けてしまったようですねぇ」
「つまり?」
「そうですねぇ……結果と言えば、『測定不能』となるんじゃないでしょうか。何しろこんなケースは初めてなものですから」
プルフェリック先生の呑気な言葉に講堂にいた誰もが顔色を驚愕に染めた。もちろん、二、三年生も含めてだ。恐ろしさ半分、驚き半分といったところだろうか。教師側は、学園始まって以来の事態に慌てて対応している。ソウジはその光景を見ながら、申し訳なさそうに頭を掻いている。
「入試のときはこんなこと無かったんだけどな……」
「まあ、魔力測定のためのクリスタルとはいっても所詮は道具だ。許容できる限界値は当然、存在する。入試の時とは違って、今回は魔力を測定する時に気合でも入れ過ぎたんじゃないのかな?」
何かを見抜いているかのようなプルフェリック先生の眼にソウジは気まずそうに頬をかいた。
「……そうかもしれません」
今回、魔力測定に使ったクリスタルが入試のものよりも大きく、形も少しバウスフィールド家の『色分けの儀』で使ったものと似ていたのも関係しているだろう。入試の時はソフィアに魔力量を抑えてから測定するように言われていてその通りにしたが、今回はそれを忘れていた。
「ふむ。しかし、困ったことになりましたねぇ」
「どうしてですか?」
「『測定不能』なんてはじめての事態ですから。もしかすると、評価は保留になってランキング戦のポイントも保留になるかもしれません」
「なっ!? じ、じゃあ、俺は何ポイントからのスタートになるんですか?」
「それはもちろん『0』、でしょうね。正式な評価が決まるまでは」
ソウジはがくっと肩を落とし、失敗したと思いながらトボトボと講堂を出て行った。
そんな中、オーガストはソウジの背中をギリッと歯ぎしりしながら見つめていた。その瞳に、恨みと妬みの炎を燃やしながら。
そしてオーガストと同じく、ソウジの背を見つめる十二家の生徒がいた。
エイベル・バウスフィールド。
かつてのバウスフィールド家の次男であり、現在のバウスフィールド家の長男でもある少年だ。
「見間違いでも聞き違いでもない。あの化け物め……生きていたのか」
エイベルはソウジの背中を冷たい眼で眺め、忌々しい何かを握りつぶすように拳を作っていた。
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