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黒の星眷使い ~世界最強の星眷使いの弟子~ 作者:左リュウ

第二章 巫女の目覚め

第二十三話 通りすがりのお人よし

 女性の悲鳴が響き渡り、ソウジたちはその方向を振り向いた。大通りで何者かが馬車に乗って疾走していた。大通りにはたくさんの通行人がいたにも関わらず、だ。中には馬にはねられかけた者が何人かいたし、子供はあやうく馬の脚に踏みつぶされるところだった。

「人攫いだ!」

「あっちに逃げたぞ!」

 馬車に乗っていた者はマントとフードに覆われてその正体が分からない。体格からして男か。どうやら馬を魔法で強化しているらしく、そのスピードは凄まじい。さながらソウジの前世で言うところの自動車のようだ。馬車の荷台には恐らくさらった人質が乗っているのだろう。

「……!」

 ソウジはすぐさまその馬を追いかけようとしたが、オーガストが止める。

「学外で魔法を戦闘行為に使ったら罰せられるぞ。それにポイントも大きく減点される。今の順位から転げ落ちることも考えられるぞ」

 オーガストはソウジがどうしてもポイントを稼ぎたかったことを知っている。だからこそ、今の順位から落ちることを心配しているのだ。とはいえ、ソウジも人攫いを黙認することはできない。それはオーガストたちも同じだ。だからこそ、オーガストも歯がゆい気持ちがあるのだが。そんなオーガストの気持ちを察したソウジは妙案を思いつく。

「それなら、俺だと分からなければいいんだよな?」

「え?」

 ソウジのニヤリとした表情に、なぜかオーガストは嫌な予感がした。ソウジは人けのない路地に身を隠すために駆け込んだ。気になったオーガストたちはソウジのあとを追いかけた。ソウジは周囲に人けがないことを確認すると、右手から魔力を発した。

「『アトフスキー・ブレイヴ』」

 すると、右手に集まった魔力が黒い剣の星眷を眷現させた。その様子を見たオーガストは嫌な予感が的中したことを感じた。

「おい、まさか……」

「そのまさかだ。『スクトゥム・デヴィル』!」

 ソウジがその名を呼ぶと、真っ黒な剣であった『アトフスキー・ブレイヴ』は白銀の輝きを取り戻した。同時に、黒い魔力がソウジの体を渦巻き、嵐を生み出す。その嵐は切り裂くようにして中から漆黒の鎧に身を包んだソウジが現れた。

「やっぱりそれか……」

 オーガストは呆れたようにソウジを見る。そしてクラリッサは納得したようにぽんと手をついた。

「なるほど。その姿ならソウジってバレないわね」

「そういうことだ」

 ソウジが学園でこの姿を見せたのは一度きり。春のランキング戦の時だ。その時はランキング戦専用の結界の中であり、そのうえ外から中の様子は見えない状態になっていた。暴走し、怪物と化したエイベルとの戦いの際にこの姿でフェリスたちの前に現れたが、他の目撃者は大手ギルドの一部の生徒たちだけだ。その姿は学園内で細々と『突如として現れた謎の騎士』として噂されている程度だ。

「騎士団に任せておけばいいものを、わざわざその姿に変身してまで……お前は本当にお人よしだな」

「そうか? まあとりあえず、行ってくるよ」

 そう言い残すと、ソウジは転移魔法で姿を消した。

 ソウジが転移した先は王都の建物の中でも頭一つ抜けて高い建物だ。ここからなら街の全域を見渡せる。馬車は既に大通りを抜けようとしていた。騎士団はようやく動き始めたようで、動きとしては後手に回っている。人攫いの馬車が街を出る前に追いつくかは微妙なところだろう。馬車をひいている馬は魔法で強化されているので階段もすぐに抜けられそうだ。

「さて、さっさと片付けてくるか」

 ソウジは馬車の移動ルートを先読みすると、転移魔法を使用してその場を離れる。次の瞬間、ソウジは馬車の目の前に転移していた。

「なっ!?」

 まさか人攫いも目の前に人が突然現れるとは思っていなかったようで一瞬だけ戸惑ったものの、その戸惑いを瞬時にねじ伏せた。馬車はソウジもろとも轢き殺すつもりで突っ込んできたので、ソウジは対処する。
 やることはいたってシンプル。強化魔法で強化されて荒れ狂う馬の動きを見切り、軽くかわすと右手で馬の頭を掴んで魔力を流し――――馬を気絶させ、強引に動きを止める。

「……!」

 だが、人攫いの男は止められたことが分かると懐からナイフを取り出してきた。それだけではない。ナイフを媒体にして魔力の刃を作り出し、ソウジに向かって斬りかかる。これだけのことを瞬時にやってのけたことに驚きを隠せないソウジだったが、まずは冷静に魔力の刃を裏拳で叩き割る。人攫いの男はアッサリと自分の刃を叩き割られたことに驚愕していたが、すぐに返しの刀で空いた方の手で魔力を集約させる。

(この魔力量……中級か!)

 こんな街のど真ん中で中級魔法を撃とうとする暴挙に出た男にソウジは若干の怒りを覚えた。この鎧を身に纏っている限り、たかが中級魔法では傷一つつかない。だが、その爆発の余波で周囲の人間に被害が及ぶかもしれない。今、この場にはソウジ以外にも大通りにいた通行人たちがたくさんいる。ここでそんなものを撃たせるわけにはいかない。
 ソウジは瞬時に相手の魔力を塗りつぶし、魔法を消滅させる。

「なっ……貴様!?」

 塗りつぶしのスピードがあまりにも早すぎた為に男には何が起こったのか分からない様子だった。その動揺の隙を突いてソウジは右拳を男の顔面に叩き込んだ。人攫いの男は咄嗟に防御魔法を重ねがけしたものの、ソウジの黒い拳はそれをすべて叩き割った。

「がはっ!?」

「こんな街中で人様に迷惑かけてんじゃねぇぞ」

 そのあまりの拳の威力に男は馬車から勢いよく吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。その一撃で完全に気絶したようで、一息をつく。気が付けば周りにはざわざわとギャラリーが集まっており、頭からつま先まで黒い鎧姿のソウジは注目を集めていた。周りの目線も気になるものの、ソウジは早急に荷台の攫われた人間が無事かどうかを確認するために封をされている荷台をこじ開けた。どうやら魔法でロックされているようだが、それも力づくで砕く。
 中にいたのは一人の少女だった。帽子を被っており、ソウジはその隙間から長い耳が僅かに見えた。少女は全身を縄で縛られた状態で転がされていた。年齢はだいたいルナと同じぐらいだろうか。とにかく小柄な少女だった。猿轡をされていたのでそれをとってやると、ぷはっと口が解放された少女は呼吸を少し乱しながらぐったりとしていた。どうやらかなり体力を消耗しているようだ。その後、全身を縛っている縄をとって彼女の体を優しく抱えて荷台を出る。
 すると、このタイミングで騎士団が到着した。
 騎士たちはいきなりこんな街のど真ん中に黒い鎧に包まれた謎の鎧の人物が現れたことで目を真ん丸にしている。若干遅いなぁと思わなくもないが、両手で抱えている……というかお姫様だっこしている少女を到着した何人かの騎士のうちの一人に預ける。パッと見、到着した騎士の中で一番年上に見えたのでこの男性がリーダーだろうとソウジは思った。

「えーっと、それじゃああとはよろしくお願いします」

 正体を明かしてはわざわざこの姿になった意味がないし、特に名乗る必要性も感じないのでソウジはそれだけを述べる。だが少女を預けた騎士は、虚を突かれたような顔をしていた。

「き、君は……?」

 戸惑う騎士に対してソウジはなんと言っていいやら分からなかった。とりあえず何かヒントは無いかと前世で見たヒーロー番組を思い出す。

「通りすがりのお人よしです」

「は?」

 それだけ言い残すと、ソウジは跳躍して建物の屋根へとひとっとびすると、そのまま跳躍を重ねてその場を後にし、頃合を見計らってフェリスたちの待つ路地裏に転移して『スクトゥム・デヴィル』を解除した。

「お疲れ様です。ソウジくん」

「ん。ありがとう」

「まったく、お前というやつは。騎士に何もやらかさなかっただろうな?」

「別に何もなかったよ」

 オーガストはジトッとした目でソウジを見ていた。
 ソウジは本当に特に何もなかったのでオーガストの視線は心外だったものの、それから本来の目的であるルナの買い出しに付き合うことにした。

「それにしても驚きました。ソウジさんがあの噂の黒鎧の騎士さんだったんですね」

 ルナがしげしげとした目でソウジのことを見る。ソウジはそれがちょっとむずがゆい。そもそもその噂はこれまでのソウジの受けていた噂とは違い悪意が特にないのでむずがゆくなる。とはいえ、この噂をしている生徒たちはその正体がソウジであることを知らないのだが。

「ん。そうだけど……でも、とりあえず秘密にしておいてくれると助かる。さっきバッチリ王都のいろんな人に見られちゃったし、あれが俺だとバレるとあとで罰則があるかもしれないし……」

「わかりました。言わないです」

 ルナはそう言いふらすような子じゃないということは知っているのでソウジとしてもこれで一安心である。

「それにしても騎士団のおひざ元である王都の、それも『太陽街ソル』のド真ん中で人攫いなんてなぁ。バカなチンピラなのかねぇ」

「いや、あれはただのチンピラじゃないな」

 レイドが何気なくそんな言葉を呟いたが、ソウジはそれを否定した。

「……どうして?」

「明らかに動きが手慣れてた。俺が目の前に転移してもすぐに動揺をねじ伏せて瞬時に判断を切り替えていたし、攻撃の対応も鮮やかだった。あれはそこらにいるチンピラじゃなくてプロの動きだ。それも、かなり戦い慣れた」

「そんなプロが王都のド真ん中で何で人攫いなんてやってたのかしら。リスクが高すぎない?」

「……もしかして」

 クラリッサの言葉に何か思い当たったのはフェリスである。

「そのリスクに見合うだけの価値がその攫った人にはあったから?」

「正解。あの人攫いが攫ってた子、妖精族エルフだった」

「エルフだと? それこそエルフがなんでこんなところに……」

 オーガストが疑問に思うのも尤もである。この世界は人間、獣人、エルフ、ドワーフ、そして魔族という五つの種族ごとに大陸に分かれている。他の大陸に別の種族がいないわけではないが、それでも他の種族がいることは割と珍しいことなのだ。

「さぁ? そこまでは俺にも分からないさ。ただ、エルフは高い魔力を持っているし魔法の研究もかなり進んでいる種族だから利用価値は色々とあるんだろうな。気分の悪い話だけど」

 実際、他の大陸を訪れたエルフが狙われるケースも少なくない。それ故にエルフは自分たちの種族の大陸から出ることは滅多にない。

(魔法の研究、か……)

 思わずその言葉でつい色々と考えてしまう。
 ソフィア・ボーウェンの力を取り戻すために必要な強力な魔法アイテム、『星遺物』。未だ多くが謎に包まれている『星遺物』に関する研究も、エルフの大陸では進んでいるのだろうか。ソウジはそのことが気になった。とはいえ、今はそのことを気にしても仕方がない。すぐにエルフの大陸に行けるわけでもないのだ。今、自分にできることは学園の図書館でヒントを探すことだけ。
 帰ったらまた図書館に行ってみようとソウジは心に決めた。

 ちなみに、その日から王都で黒鎧の騎士の噂が広まりソウジの頭を悩ませることになろうとは、まだ知る由もなかったのだった。


 学園の生徒数を変更しました。

 修正前:一クラス三十人の五クラスが三学年、合計四百五十人。
 修正後:一クラス五十人の五クラスが三学年、合計七百五十人。

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