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黒の星眷使い ~世界最強の星眷使いの弟子~ 作者:左リュウ

第二章 巫女の目覚め

第二十九話 呼応する輝き

 風紀委員会のギルドホームの地下には模擬戦用の闘技場が存在する。ここは風紀委員会に所属する生徒のための鍛錬場としても使用されているが、こうして模擬戦で使用されることも珍しくない。
 広さは野球のグラウンドほど。フィールドにはソウジとコンラッドが相対しており、その周囲の観覧席は風紀委員会やイヌネコ団の面々というギャラリーで構築されていた。

「コンラッドさーん。あんまり無茶し過ぎないでくださいよー。このあと、警備任務があるんですから」

「わーってるよ。っつーか、俺はどうせ交代要員だから多少の無茶しても回復する時間ぐらいあるだろ」

「ソウジー、先輩だからって遠慮せずにやっちゃいなさい! 負けるのは許さないわよ!」

 クラリッサの声はマジだ。何しろソウジが負ければその分、ソウジのポイントが半分も持って行かれてしまう。それはつまりギルドポイントの低下を示す。

「コンラッドさんも出来れば負けるのは勘弁してほしいんスけど……大丈夫ですかね?」

「おいコラ、デリック。お前オレが負けるとでも?」

「いやいやコンラッドさん。実際、あの一年坊は強いッスよ~?」

「バカ野郎。んなもん知ってる。強い相手だからこそ燃えるんだろうが!」

「まーたはじまった……相変わらずバトルフリークだなぁ」

 呆れたようにため息をつくデリック。しかし、ソウジもコンラッドのことは笑えない。ソウジもワクワクしていた。強い相手と戦うことに。自分にこんな感情があるなんて知らなかった。ソフィアが外の世界を見てこいといった意味が少しわかった気がした。

「そんじゃ、とっととはじめますよ。時間もおしていることですし。学園の決闘のルールに則って、審判であるオレが戦闘不能であると判断した方か、降参したら負けってことで、異存は無いッスね?」

「おう!」

「わかりました」

 二人が了承の意思表示をし、場内は静まり返った。
 それを見計らったデリックが片手を振り上げ、そして振り下ろす。

「そんじゃ……はじめ!」

 デリックの合図が出ると同時に。
 ソウジの全身から魔力が迸った。

「『アトフスキー・ブレイヴ』!」

 ソウジは右手に星眷『アトフスキー・ブレイヴ』を眷現させる。漆黒の刃を持つ剣がソウジの右手の中に納まり、黒い魔力が渦を巻いた。それを見た風紀委員の面々が「おおっ」と感心したように声を漏らす。

「うわっ。すっげぇ魔力量……生で見るとすごい迫力だな」

「ほぅ……」

 デリックとアイザックもソウジの魔力に驚きを隠せないでいるようだった。そして驚きを隠せなかったのは、コンラッドも同じだった。

「なるほど……それがてめぇの星眷か。こりゃマジですげぇな。クライヴ以上の魔力を感じるぜ」

 コンラッドはトントン、と靴で軽く地面の叩くと戦闘モードに入ったのか一気に鋭い目つきに変わった。クライヴ、つまりランキング二位である風紀委員長以上の魔力をソウジが有していると認定したのだ。元々高くしていた警戒レベルを更に高くしていく。

「出し惜しみはなしだ」

 轟!! と、コンラッドも魔力を一気に高めていく。ソウジは剣を構えつつ、その様子を窺っていた。あれだけの魔力を一気に展開させるということは次に来るのは間違いなく――――、

(星眷魔法か)

 ソウジのその予想は的中した。

「いくぜベイビー! カモン! 『レプス・キッカー』!」

 その名を叫んだコンラッド。すると、彼の周囲に展開していた魔力が渦を巻き、収束していく。収束先は彼の脚。強大な魔力と共に緑色の魔力が輝き、やがてその星眷が眷現した。
 その星眷は脚に装着するタイプのものだった。まるで脚だけ鎧に身を包んだようだ。かかとからは耳のウイングのような装飾が施されており、これまでのような剣や槍、杖や弓といった分かりやすい武器のカタチをしていないだけにその力を見極めにくい。

「驚きやがれ! これが俺の『うさぎ座』の星眷、『レプス・キッカー』よ!」

「う、うさぎ座……」

 なにそれかわいい。と思ったのは秘密である。何よりコンラッドの極道や、ヤのつく人を髣髴とさせるいかつい見た目から『うさぎ座』という組み合わせがシュールだ。
 しかし、かわいくてもシュールでも星眷は星眷。油断は禁物だ。

「お前は確かに強い。魔力量もダンチだ。が、俺は星眷コイツでどんな高いハードルも一緒に飛び越えちまうのさ!」

 同時に、コンラッドは地面を強く蹴ってジャンプした。その一度のジャンプで地下室の天井にまで到達するほどで、空中で慣れた動きで体をくるん、と回転すると、ソウジめがけて天井を蹴り、ジャンプキックを仕掛けてきた。だが動きとしては単純なもの。横にかわして反撃、と考えていたソウジだったが、目の前のコンラッドは空中で消えた。
 身動きの取れない空中で消えるなんてことは転移魔法でも使ったのか、飛行したのだろうかと思ったがそのどれでもなかったことを知る。コンラッドは空中でジャンプしていた。そこに足場はないはずなのに、まるで足場があるかのように自由自在に空間中を跳躍していたのだ。だがコンラッドが空中でジャンプするその瞬間にソウジは視た。コンラッドの足裏から魔法陣のようなものが構築されており、それを足場にしてコンラッドは次のジャンプを行っていることを。

「空中で足場を作って跳躍している?」

「おうよ! これぞ俺の星眷の力が可能にする『うさぎ飛び』! 今は飛び跳ねちゃいるが、歩くことだってなんのその! そして驚け、これが俺の必殺技!」

 だんっとコンラッドはソウジの視界から外れた瞬間、一気に加速した。そしてジャンプキックをソウジめがけて放つ。

「『ラビットキィ――――ック』ッ!」

 ソウジは直感的にコンラッドの『ラビットキック』を剣で受け止めるのではなく、真横にステップを踏んで避けた。ソウジが避けた瞬間に、その場をコンラッドのキックが通り過ぎる。やがて目標を外れて空を切ったコンラッドの脚は、そのまま地面に激突した。
 だがただ激突したのではなく、轟音を響き渡らせながら地面に巨大な風穴を開けてその周囲の地面にクレーターを生み出していた。

「避けたのは正解だったな? あのまま受けていたら、俺はお前に風穴開けてごめんなさいをしなけりゃいけなかったからな」

「模擬戦だっていうのに、随分と物騒なもの撃ってきますね」

「そりゃ、星眷使いのバトルだぜ? 多少加減しても、大怪我はしてもおかしくないだろ。まあ、そういうことを普通に許容しているこの学園も、やっぱもとは兵隊さんの育成学校の名残みたいなモンはあるよな」

 ボゴッとクレーターから脚を引き抜いたコンラッド。そしてまた魔力を迸らせ、跳躍した。

「今のはちょっとしたパフォーマンスよ。俺はランキング戦の時にお前の星眷の力を少し見ちゃいるが、お前は俺の星眷を見ちゃいないだろう? だからこれでフェアってやつだ。ここからが本番、さァ、いくぜぃ!」

 コンラッドは再び空間中を跳躍する。そのスピードは徐々に加速しはじめていた。
 牽制するためにも、ソウジは剣に魔力を集めていく。接近して『黒刃突ブラックショット』を撃ってもまず当たらない。ならば、攻撃範囲を広めて撃ち落とす。

「『黒刃散ブラックスプレッド』!」

 ソウジは剣から黒魔力の刃を拡散させて『突く』。幾重にも散らばった刃はそのままコンラッドを撃ち落す……ことは無かった。刃の網目をコンラッドは易々と潜り抜けて見せた。それも、スピードを加速させたままでだ。それはつまり、あのスピードにも眼が追い付いているという事。

「『ラビットキック』!」

 脚に魔力を纏わせ、再び空中から弾丸のような蹴りがとんできた。今度は確実にソウジをとらえている。しかし、ソウジには関係ない。すぐさま転移魔法でその場を離れる。
 ラビットキックの着地点を割出し、反撃するのにもっとも適した場所へと転移する。一瞬だけ視界がブラックアウトし、次に現れた瞬間には着地点でコンラッドを待ち構えている体勢になっていた。このままさきほどのようにコンラッドの脚が地面にめり込んで一瞬だけ身動きの取れなくなっているところを狙う。
 はずだった。

「甘いな一年!」

 コンラッドは『ラビットキック』をソウジに転移魔法でかわされ、そのまま地面に突き刺さる――――ことはなかった。地面に着地するその瞬間、脚の先から魔法陣が浮かび上がってコンラッドはその上に着地する。間髪入れずに転移を終えたソウジに向かって飛び跳ねて、再び魔力を纏った脚で飛び蹴りを仕掛けた。

「『追撃のラビットキィ――――ック』!」

「ッ!?」

 転移した先がすぐさま攻撃できる剣の届く位置にいたのがまずかった。今度の一撃は転移魔法で避けることは間に合わず、直撃コースとなっていた。ソウジは咄嗟に『アトフスキー・ブレイヴ』を盾にしてコンラッドの『ラビットキック』を受け止める。
 ズギャッという重苦しい音と共にまるでダンプカーと激突しているかのような衝撃が伝わってくる。この状態で転移してもコンラッドも一緒に転移してしまって意味が無いので転移魔法での回避は不可能。かといってこのまま力づくで押し返すのは魔力の無駄遣いだ。

(思い出せ、師匠の言葉を)

 ソウジはこの八年間、ソフィアに鍛えられてきた時のことを思い出す。



「いい、ソウジ。敵の攻撃と真正面からぶつかった場合は力づくで押し返す必要はないの」

「じゃあ、どうやるんですか?」

「簡単よ。その力を受け流せばいいの。あなたの魔力なら正面から弾き飛ばすことも出来るでしょうけど、それだと魔力の無駄づかい。コツさえ掴めば、あなたもすぐに出来るようになるわ」

「はいっ。師匠っ!」

「それじゃあ、コツだけど――――」



(――――力を受け流すコツは、相手の力に逆らわないこと)

 奇しくも、それは先日の戦闘でオーガストが見せていた雷属性魔法対策と同じ原理だった。

 ソウジは真正面から受けていたコンラッドの『ラビットキック』を剣の軌道と体を傾けてそのままを通す。まるで何かに滑り落ちたかのようにコンラッドはその軌道を流され、別方向へと飛んで行ってしまった。攻撃を受け流されてコンラッドは体勢を崩す。その隙を見逃すソウジではない。瞬時に魔力の刃を構成し、閃光として放つ。

「『黒刃突ブラックショット』!」

「うおっ!?」

 体勢を崩されたところに接近され、『黒刃突ブラックショット』を叩き込まれるコンラッド。さしものコンラッドもこの状態で咄嗟に回避するのは不可能だったようで、脚の『レプス・キッカー』を盾代わりにしてなんとか受け止める。だが、その衝撃を受け止めきれなかったようで弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。だが転がりながらもなんとか体勢を立て直す。

「うぉー、あぶねぇ……まさかアレを受け流されるとは思わなかったぜ。完全に決まったかと思ったのによ」

「生憎、日頃からもっと重い一撃を受けていましたからね」

 言うまでもない。ソフィアのことだ。

「だがよ、受け止めるだけじゃ勝てないぜ? いっとくが今度は受け流しなんかさせねぇからな」

「別にかまいませんよ、それで」

「おっ?」

 ひゅんっ、とソウジは軽く黒剣を振り回すとその切っ先をコンラッドに向ける。

「今度はその技を、真正面から叩き潰します」

 ソウジのその宣言に、コンラッドはニヤリと笑う。

「言うねェ。なら、こっちも全力全開の最大攻撃を叩き込んでやる」

 トンットンッ、とコンラッドは軽くステップを踏むと、魔力を高めると同時に再び跳躍した。そしてソウジの周りの空間を加速しながら飛び回る。これだけならばさっきと同じパターンの行動。が、ソウジはすぐにその異変に気付く。

(足場に使っている魔法陣が消失していない?)

 コンラッドは空中に魔法陣の足場を作ることで空中でのジャンプを可能にしている。これまではジャンプしたらすぐに魔法陣が消失していた。だが、今度は足場に使った魔法陣がコンラッドが去った後もその場に残り続けていた。その数は増えてゆき、あっという間にソウジの周囲を覆い尽くす。魔法陣の包囲網は徐々にそのソウジとの間隔を狭めていき、逃げ場を無くしていた。

(なるほど。受け流しをさせないっていうのはそういうことか)

「これでもう逃げらんねぇ! こいつでシメだ!」

 コンラッドはソウジにしっかりと狙いを定めると一気に魔力を放出。そしてその魔力を脚に纏い、更には回転しながらソウジに向かって最後の一撃を放ってきた。

「くらえ! 俺の最強必殺技、『ラビットルネードキック』!」

 コンラッドは回転しながらソウジに向かってキック攻撃を仕掛ける。ソウジはそれを真正面から受け止めた。ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリィィィィィィィッッッッッ!! と、まるでドリルをそのまま叩きつけられているかのようなその一撃は重く、更には魔力を回転させていることで貫通力を高めたその一撃は強烈だ。
 だがソウジも対抗して魔力を高めていく。黒い魔力と緑の魔力が激突しスパークする。だが徐々に黒い魔力がその勢いを強めていることにコンラッドも気づいていた。

(何か仕掛けてくる気か? だが関係ねェ。押し通す!)

 その魂胆はソウジにも読めていた。だからこそ、真正面からうち破る。
 やがて黒魔力がソウジの持つ『アトフスキー・ブレイヴ』に集約され、一本の黒い光を放つ刃を構成した。

 ドクン。

(ッ……!?)

 ソウジは不意に胸が熱くなったのを感じた。同時に、『アトフスキー・ブレイヴ』がいつもとは違う、不思議な輝きを放ちはじめていることに気がついた。

 ☆

 ソウジとコンラッドが激突している。ルナは魔法が使えないために魔法の事はよくは知らない。だが、目の前で繰り広げられている戦いが一般の生徒の手におえないものだと……実力者たちの戦いであることは容易に分かった。だがルナは不思議だった。ソウジがあの星眷を眷現させた瞬間から、自分の胸が熱くなっているような気がしたのだ。

(なんでしょう、これは……)

 不快というわけではない。むしろ、心地良い。あの黒い魔力が高ぶるたびに自分の心の中の熱も高ぶっているような気がするのだ。きゅっと自分の胸を片手で抑える。
 やがて、二人の戦いは佳境に入った。周囲を魔法陣の包囲網によって抑えたコンラッドの最後の一撃が放たれたのだ。

「くらえ! 俺の最強必殺技、『ラビットルネードキック』!」

 コンラッドの一撃に対してソウジは真正面から受けて立った。激突する二つの星眷。ソウジはその力を受け止めながら魔力を高めていく。黒い魔力の輝きが剣に纏う。
 その時。

(っ……!?)

 ドクン。

 ルナは胸がより一層、熱くなったのを感じた。ソウジが魔力を上げていくのに呼応してどんどん胸が熱くなっていく。そして、ルナの視線はなぜかソウジの持つ星眷、『アトフスキー・ブレイヴ』へと吸い込まれていった。『アトフスキー・ブレイヴ』は不思議な輝きを放っている。あれは魔力の輝きなのだろうか?
 ソウジに視線を移してみれば、ソウジも胸が熱くなっているかのような感覚を受けているようにも見えた。一瞬、迷いのようなものが生じはじめるがソウジは瞬時にそれを強い意志で捻じ伏せる。そしてそのまま、一気に光剣を振りぬいた。

「『黒刃斬ブラックストライク』!」

 ソウジの『黒刃斬ブラックストライク』とコンラッドの『ラビットルネードキック』。互いの技が激突し、火花を散らす。小細工一切なしのパワー勝負。コンラッドは望むところだと更に魔力を上げていく。それはソウジも同じこと。二人は徐々に魔力を上げて技の威力を向上させていく。

(ッ……。おいコイツ、いったいどこまで威力を上げて……!?)

 コンラッドはもう限界に達しようとしていた。だが、ソウジの方は更に魔力を高めていく。

 限界に達した者と更なる高みを披露する者。

 どちらが勝つかは明確で、それは目の前に結果として現れた。

 ソウジの放った『黒刃斬ブラックストライク』が、コンラッドの技を討ち破った。弾き飛ばされたコンラッドは空中でのコントロールを完全に失い、回転しながらゴシャッ! と壁に勢いよく激突した。

「がはっ……!」

 そのままコンラッドは壁から崩れ落ち、地面に倒れ伏した。どうやら気絶はしていないようだが、もう立てないらしい。仰向けになりながら、悔しそうに天井を眺めていた。もう星眷は解除されてしまい、空中に浮かんでいた魔法陣も消失している。

「勝者、ソウジ・ボーウェン!」

 その様子を見たデリックは、驚きの入り混じった声でソウジの勝利を高らかに宣言した。



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