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黒の星眷使い ~世界最強の星眷使いの弟子~ 作者:左リュウ

第二章 巫女の目覚め

第三十話 スカウト

 コンラッドは風紀委員会のメンバーに魔法で回復させてもらって、ようやく立ち上がった。
 そしてぐしゃぐしゃぐしゃっと髪をかき回して悔しそうな顔をして叫ぶ。

「ぐあ――――! 負けちまったぁ――――! ちくしょ――――!」

「ほら言わんこっちゃない」

 デリックは呆れたように喚くコンラッドを見てため息をつく。だがすぐにその視線をソウジに移した。

「でも、なんだかオレも一戦交えたくなってきちまったな。どうだい? この後、すぐにでも」

「……あの、俺、男なんですけど」

「そういう意味じゃねーよ!?」

 もちろん、今のは冗談なのだがそれを冗談と受け取っていなかった者がデリックとあともう一人。

「なんだかオレも一戦交えたくなってきちまったな♂ どうだい? この後、すぐにでも♂ ……ぐふふ。これは素晴らしいですねぇ……」

「っておいエマ! 何勝手に人の発言を意味深なもんに変えてるんだ!」

「いやいやデリックぅ。今のはワタシ的に変換よゆーだったんだけど?」

 エマ、と呼ばれた女子生徒はコンラッドを回復魔法で回復させていた者だった。
 眼鏡をかけた黒髪の女子生徒だ。ソウジたちがその女子生徒のことをまだ知らないのでデリックはご丁寧に説明しようとする。

「あー、この腐っているのはエマ・ブリュウ。オレと同じ二年だ」

「エマ・ブリュウですっ! 回復魔法が得意で、生徒会の回復要員だよっ。ちなみに大好物は男の子の体ね」

「いらん情報を与えてるんじゃねぇよ……」

 どうやら日頃からエマには困っているのかデリックは肩を落として憂鬱そうなため息をついた。

「しっかし驚いたねぇ。まさかコンラッドさんのあの一撃を真正面からたたき返すなんて」

「ああ。正直、オレもあんなのは真似できねぇな。ていうか絶対に無理」

 デリックが肩をすくめながら言う。他の風紀委員の生徒たちも口々にさきほどのソウジとコンラッドの戦いの感想を話し合ったり、分析をするなどして話し込んでいた。誰もがソウジの持つ高い魔力量に感心しているようだ。そんな中、アイザックが一歩前に出てソウジを見る。

「……ソウジ・ボーウェン」

「? はい。なんでしょうか」

「お前、風紀委員会ウチに入るつもりはないか?」

『っ!?』

 アイザックのその発言に、その場にいたソウジを除く全員が驚愕した。一年生の段階で風紀委員にスカウトされるということはそれだけ実力があるということである。本来ならば生徒会・風紀委員会のスカウトは夏のランキング戦が終わった頃に行われる。

「いや、遠慮しときます」

「そうか」

「って二人とも軽っ!?」

 ソウジのあっけない返答も、アイザックはすんなりと流してしまう。
 当然、その場にいたデリックたちは開いた口が塞がらない状態なのだが。

「ソウジくんよ、もうちょっと考えてくれてもよかったんじゃない?」

「考えるまでもないですよ。だって、俺はもうギルドに所属していますし」

「まあ、そりゃそうなんだけどさ……」

 実力を認められて他のギルドから生徒会・風紀委員会にスカウトされて移籍する話は珍しくない。だからこそデリックは驚いている。風紀委員会に入るという事は実質、エリートコースに乗っているといっても過言ではない。卒業後の進路も通常の生徒に比べてかなり幅広くなる。

「こんなにもアッサリと断られたんだ。諦めろデリック」

「ってアイザックが誘ったんだろうが……それに、お前もやけにアッサリしてたよな?」

「断られることはなんとなく分かってたからな」

 アイザックはそう言い残すと、「警備の時間だ」と言い残して背中を向けて地下室から出て行った。他の風紀委員の生徒たちも続くようにして地下室から出ていく。

「そんじゃ、オレたちも行きますか。コンラッドさんは確か交代要員でしたよね。つーわけで待機お願いします」

「へいへい。あ、そうだソウジ・ボーウェン。次こそはリベンジしてやるからな!」

「はい。楽しみにしています」

「ぐぬぬ……その余裕をいつか崩してやる……」

「じゃあ、またね『イヌネコ団』のみんなー。今度はそこの二人の男の子の体もじっくりと……」

「おいエマ、その辺にしとけ。あ、女の子たちはこんどまたオレとじっくりお茶でも……」

『お前もその辺にしとけ』

 最後はデリックがエマ、コンラッドの二人からツッコミを入れられてずるずると引きずられて退場した。『イヌネコ団』の面々はそれに続くようにして風紀委員会のギルドホームから外に出る。
 帰り道を歩きながら、ソウジを除く全員が肩の力をぬいて息を吐き出した。

「あー、びっくりしたぁ……いきなりソウジをスカウトするんだもん」

「わたしもです……ソウジくん、風紀委員会に入るのかと」

「そうそう。オレもビビったぜ」

「まあ、普通は風紀委員会の方に行くからな」

「そうか?」

 ソウジはさきほど自分がどれだけ重大なスカウトを受けたことを自覚していないかのような口ぶりである。事実、七人の中でもっとも足取りが軽かった。

「…………」

「……ルナ、どうしたの?」

「ふぇっ? ど、どうしてですか?」

「……さっきからぼーっとしてる。びょうき? なにかなやみごと?」

「ち、違います。なんでもありません」

 実をいうと、悩みということではないが何かはあった。
 さきほどのソウジとコンラッドの戦いのさなか、突如として感じたあの胸の熱くなる感覚が頭から離れない。今はなんともないのだが、あの感覚はなんだったのだろうとずっと考えていたのだ。
 生まれついてから魔力を持たず、更に魔法を使うことが出来ないルナは幼いころから魔力の欠片さえ見せたことが無かった。だから魔法というものがどういうものなのか分からなかったし、また魔力も魔法も持たないので体にそういった『異変』が起こったことがなかった。
 だから今、ルナはとても驚いていた。あの胸が熱くなる感覚は体調不良でもなんでもない。体はそんなに強い方でもないのでこれまでも何度も体調を崩したことはあるがそういった類のものではないのは分かる。
 正直言って、不安だった。
 これまでに経験したことのない何かが自分の中で起きたことが、ルナはとてつもなく不安になったのだ。

 そしてソウジも、コンラッドと戦っていた時に感じた異変が頭の中から離れなかった。
 突如として『アトフスキー・ブレイヴ』が謎の輝きを発した上に胸の中が熱くなった。
 あれはいったいなんだったのか。それはソウジにすら分からないことだった。
 そしてもう一つ分からないことは、『アトフスキー・ブレイヴ』の放っていた輝きはまるで何かと呼応しているかのようだったということだ。だがそれが何かまでは、ソウジは分からなかった。
 この星眷を眷現させてから長い付き合いになるが、こんなにも分からないことだらけなのは初めてだな、とソウジは思った。

 ☆

 必死の勉強会のおかげでレイドがなんとか小テストを乗り切った頃。夏のランキング戦に備えて今度は特訓がはじまった。ランキングの維持、または向上はランキング戦に参加する生徒たちの共通の目標である。それはつまり他の生徒たちも春のランキング戦に比べてパワーアップしてくるということだ。
 とはいえ、今のところこの『イヌネコ団』においてもっともパワーアップが必要となっているのは、レイドなのだが。

「おりゃあああああああああっ!」

 『イヌネコ団』のギルドホームの周辺には魔法の訓練に最適なスペースがいくらでもある。そこでレイドの特訓がはじまっていた。実戦形式のもので、ソウジを相手にレイドが一人で立ち向かっている。レイドは強化魔法で全身を強化して身体能力を高めつつ、ソウジに接近しようと試みている。だが、ソウジの放つ魔法攻撃がそう簡単には近寄らせてくれない。
 レイドはそれを必死に見切りつつ、辺りを動き回って回避している。

「おいレイド、逃げてばかりじゃ勝てないぞ?」

「そ、そりゃ分かってるんだけどよぉ、ぜんぜん近づけないんだってぇの!」

「これでも一応、加減してるんだけど……」

「なぬっ!?」

 驚いていると、ソウジの魔法攻撃が襲い掛かってきた。なんとかかわすが、回避コースを予測されていたのか既に回避先に攻撃が放たれていた。完全に避けることは出来ず、それを直撃してしまう。ぼんっという小さな爆発が起きてレイドはそのまま仰向けに地面に倒れこみ、そのまま呼吸を乱して強化魔法も解除してしまった。

「はぁ、はぁ……あー、くそ。全然近づけねぇや」

「そりゃ、レイドは強化魔法しか使ってこないからなぁ……こっちはテキトーに砲台になっているだけでいいし。牽制に別の魔法攻撃も織り込んでいった方がいいぞ? それこそ『ボール』系統の魔法とかも使えるとかなり便利だ」

「うっ……そ、それはそうなんだけどよぉ……でもオレ、遠距離攻撃系の魔法って苦手なんだよなぁ。強いのを撃とうとすると安定しなくて暴発するし、かといって無理やり安定させると威力がショボくなるし」

「いいんだよ、ショボくても。撃てれば牽制になるし、遠距離攻撃があれば攻撃のバリエーションが広がる。それにもう少し攻撃のバリエーションを広げないといつまで経っても相手に近づけないぞ? たしか、春のランキング戦の時も特攻して無理やり倒したんだろ。そんな戦い方してたら、個人戦で勝ち残れないぞ」

「うぐぅっ。が、頑張るぜ……」

 ソウジの的確な分析にしょぼんと肩を落とすレイド。足を引っ張りたくはないが、現状で一番足を引っ張っているのは自分と自覚しているだけに色々と辛いものがある。
 それにソウジにも特訓に付き合ってもらって悪いと思っているのだ。自分のためにわざわざ時間を取らせているんのだから。ソウジ自身は大して気にしていないどころか快く手伝ってくれるのだが、レイドとしては辛いものがあるのだ。
 そうして何日か特訓に明け暮れる日々は続いた。レイドは自分がギルドの足を引っ張りたくないという思い出ひたすら頑張った。徐々にソウジの攻撃も(手加減しているとはいえ)最小限の動きでかわせるようになってきて、動きからも無駄が消えてきた。

「これなら、夏のランキング戦もどうにかなりそうね」

 というのは、昼休みの食堂でもぐもぐとサンドウィッチを食べるクラリッサの言葉である。

「おう……バッチリだぜぃ……あーねみぃ」

「フン。毎日毎日あんな夜遅くまで無茶するからだ、バカめ」

「とかなんとか言って、オーガストも最後まで付き合ってくれたよな。毎日」

「う、うるさいっ! ただ僕は暇だったから付き合ってやっただけだ!」

「おう……ありがとなぁ、オーガスト……」

「フンっ」

 ぷいっとそっぽを向くオーガスト。この辺の素直じゃないパターンはこの『イヌネコ団』では見慣れた光景である。ギルドマスターからしてそうなのだから。

「あとソウジ、みんなも……本当に、ありがとうな」

「レイドが頑張ったんだろ。俺たちはただちょっと力を貸してやっただけだ」

「わたしたちがあれだけ特訓に付き合ってあげたんだから、相応の結果を出してもらわないと困るわよ!」

「……ぐっとらっく」

「レイドくんなら大丈夫ですよ」

 それぞれからのエールを受けてレイドは感謝の気持ちでいっぱいになった。戦力的に一番弱いのは変わりない。だが少しでもみんなの役に立たなければ、という思いがレイドの中で更に高まった。

「よーっし! まだランキング戦まで時間はあるし、もっともっと強くなってやるぜ!」

「その調子だ、レイド」

 ソウジは気合を新たに入れなおしたレイドを見て微笑みつつ、ふと近くを通りかかったルナの方に視線を移した。以前の風紀委員と決闘をした日からルナの様子がおかしいのだ。どこかぼーっとしている。
 今だって食堂が忙しいお昼時だというのに心ここに非ずといった様子だ。気になったソウジはトレイを戻すついでにルナに近づいてみる。

「ルナ」

「ソウジさん?」

「本当に大丈夫なのか? なんかここ最近、様子が変だけど」

「大丈夫です……ちょっと、考え事をしてて……」

 明らかに大丈夫じゃない。ソウジがそう考えていたことはルナも分かっていたようで、つい視線をそらしてしまう。だけど、同時にふとルナは思った。あの時、ルナの胸が急に熱くなったのはソウジの持つ星眷『アトフスキー・ブレイヴ』が出てからだ。それに『アトフスキー・ブレイヴ』の輝きに呼応すかのようにして胸の中の熱さも増していった。もしかしたら、この胸の熱さをソウジなら何か知っているかもしれない。

「あの、ソウジさん。実はちょっと、相談にのってほしいことだがあるんです」

「相談? 俺に?」

「できれば二人きりでお話したいのですが……今日の放課後、お時間はありますか?」

「俺は大丈夫だけど……。逆に、俺だけでいいのか?」

「はい。できれば……」

 この不安を出来るだけあのギルドのメンバーに知られたくなかった。心配はかけたくない。ソウジにだって本当は知らせたくなかった。心配をかけてしまうから。事実、目の前にいるソウジはとても心配そうな表情でルナのことを見ている。だから一人で考えてた。あのギルドにいる人たちはみんな優しいから、きっとルナのことを真剣に心配してくれる。ただでさえ、自分のような魔力も持たず魔法の使えない自分を置いてもらっているのだ。これ以上、迷惑はかけられない……。

「わかった。じゃあ、放課後になったら迎えに行くよ。他の人に知られたくないっていうなら、気分転換も兼ねて街に出て話そうか?」

「はい。お願いします」

 ソウジはルナと約束をとりつけると、そのまままた仕事に戻った。あの時の謎の感覚について何か分かるかもしれない。そう思うとルナの胸は少し軽くなった。


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