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黒の星眷使い ~世界最強の星眷使いの弟子~ 作者:左リュウ

第三章 五大陸魔法学園交流戦

第四十三話 お泊り

 現在、ソウジの目の前にはユーフィアという少女がいる。
 紛れもないエルフの大陸から来たお姫様であり、つい昨日ソウジが助けた少女でもある。

(どうしてこうなったんだ……?)

 ソウジ自身も現在の自分の状況に困惑していた。
 どうしてこうなったのか。
 どうして自分がユーフィアの護衛なんて立場につくことになったのか。

 話は、昨日に遡る。

 ☆

 喫茶店でパレードの際に襲撃してくるであろう『再誕リヴァース』に関する話し合いを終えたところで、ソウジたちはそのまま寮へは帰らずに『下位層アンダー』に向かうことになった。というのも、クラリッサが「ソウジ、今日はうちに泊まりなさい」と言い出したのだ。
 もちろん、最初に驚いたのはフェリスとルナである。

「ど、どどどどどどどどうしてですかクラリッサ!」

「そ、そうです。どうしてく、クラリッサさんの家にソウジさんがお泊りを……?」

「はぁ? そんなの決まってるでしょ。ソウジが先走って一人で勝手に動かないようにするためよ!」

 そう言って、クラリッサはびしっとソウジを指差す。当のソウジ本人は苦笑するしかない。

「まったく。人には一人で背負い込まずにとか、みんなを頼れって言ってるくせに、ソウジ本人は一人で抱え込もうとするんだから……あー! 腹立つ! とにかく、異議は認めないわよ! ソウジは今日、ぜぇ――――ったいにうちに泊まっていきなさい!」

 というクラリッサの言葉にソウジは肩をすくめるが、フェリスとルナは「確かに」というかのように頷いている。

「だから今日は徹底的に監視させてもらうわよ。気を抜くとすぐにどっか行っちゃいそうだから」

 正直に言えば、本当に強引にどこかに行こうと思えば転移魔法で一瞬で移動できる。だが今はそれをするつもりはない。今、勝手に動いたところで得るものは何もないし、それにソウジがいなくなった後のクラリッサたちのことを考えればできない。

「それに、どっちみち明日はうちの下の子たちと顔あわせるんだから、顔合わせは早めにしておいた方がいいでしょ」

「……みんな、元気な子だから」

 というわけで、みんなで『下位層アンダー』に行くことになった次第だ。レイドはせっかくだからということで今日は実家に戻るらしいのでソウジ、フェリス、ルナ、クラリッサ、チェルシー、オーガストの六人で『下位層アンダー』にあるクラリッサたちの実家である孤児院に泊まることになった。

「あの、わたしたちもお邪魔してもよろしかったのでしょうか?」

「わたしは別にかまわないけど……ていうかむしろ、フェリスやオーガスト、ルナはよかったの? うちってご存知の通り、『下位層アンダー』にあるからビンボーよ。大したもてなしは出来ないけど」

 と、クラリッサがどこか微かに怯えたような表情をして、おそるおそるといった様子でたずねる。

「あはは。わたしはただ、お友達の家にお泊りしに行くだけですから。そういうことはぜんぜん気にしてません。むしろ、ちょっとワクワクしてます。こういうことはあまりしたことがなかったので」

「わたしも、正直に言えばちょっと楽しみです……お友達の家にお泊りなんて、はじめてですから」

「フン。僕は元々、母が生きていた頃はよく『下位層ここ』に連れられてきたからな。そんなことはたいした問題じゃない」

 三人のそれぞれの好意的な反応を見てクラリッサはどこかほっとしたような表情を浮かべていた。きっと、家のことで何か言われたことがあるのだろう。半獣人ハーフであり、孤児院で暮らしているクラリッサとチェルシーはきっと、これまで様々な苦労をしてきたということが分かる。
 そして最後にクラリッサはソウジの方を見た。

「その……無理やり連れてきといてなんだけど、ソウジは……」

「俺が師匠と暮らしてたとこは周りはドラゴンでうじゃうじゃしてるような危険地帯だったしなぁ。そのど真ん中に師匠が建てた小屋で住んでたし。あと、よく野宿もさせられてたなぁ……あれを思えば屋根があれば俺にとっては豪邸だよ」

 と、多少おどけて言ってみせる。だが、ソウジにとってはあの小屋がどんな豪邸よりも素晴らしい『家』だ。あの小屋を不満に思ったことは一度もない。バウスフィールド家の屋敷なんかよりもよっぽど立派で素敵な家なのだ。

「……アンタ、いったいどんな環境で暮らしてきたのよ」

 なぜかクラリッサに呆れられた。
 確かにドラゴンなどという上級魔法生物がうようよという場所で野宿というのは考えられないだろう。
 そんな他愛もない(?)雑談をしながら六人は『下位層アンダー』へと降りて行った。『太陽街ソル』に比べると『下位層アンダー』はやはり薄暗い雰囲気がある。ゴミやガラクタも一気に増えたし、地面も『太陽街ソル』のような石畳ではなく土がむき出しだ。
 そのまま歩くことしばらくして、六人は古びた一つの大きな庭付きの建物を見つけた。その建物の入り口には『月影院』という名前が書かれてある手作りであろう木の看板が見える。

「ここよ。廃墟を改装して作られたの」

 それにしてはかなり綺麗だ。確かに、所々薄汚れてはいるものの、『下位層アンダー』の中では比較的綺麗な建物である。入り口を通って中に入ると、庭で遊んでいる子供たちが目にはいった。歳は六、七歳から九歳程度だろうか。子供たちは敷地内に足を踏み入れたクラリッサとチェルシーに気が付くと、ぱっと笑顔になってトコトコと駆け寄ってくる。

「あ、クラリッサおねーちゃんとチェルシーおねーちゃんだ!」

「帰ってきてくれたの!?」

「みんなー、おねーちゃんたちが帰ってきたよー!」

 一気にソウジたちの周りがにぎやかになり、たくさんの子供たちに囲まれてしまった。

「……みんな、ただいま」

「ほらほら、喜びなさいみんな。このわたしたちが帰ってきてあげたわよ!」

 と、クラリッサは言っているが一番うれしそうにしているように見えるのはクラリッサである。表面上はいつもの自信たっぷりのドヤ顔だが。

「ねーねー、こっちの人たちはー?」

「そいつらはわたしのギルドの仲間よ」

「……お友達。今日は、泊りに来てくれた」

「ほんとー!?」

「おきゃくさんだー!」

 またまた一気に騒ぎ出す子供たち。ソウジ、フェリス、ルナ、オーガストはというと子供たちの元気いっぱいのエネルギーに圧倒されていた。

「あらあら。一体、何の騒ぎ……あらまぁ、クラリッサにチェルシーじゃない」

 と、ソウジたちの様子を見に孤児院の中から出てきたのは一人のおっとりとした雰囲気を持った女性だった。かなり若い。二十代後半ぐらいにしか見えないぐらいの若い女性だ。

「久しぶり、院長。パレードの関係で休みになったから帰ってきたわ」

「……院長、お友達が来てるんだけど、泊めてもいい?」

「もちろんよぉ。ほらほらみんな、お客さんが困ってるからこっちにきなさい」

『やだー!』

「あらまぁ」

 院長は穏やかな笑顔を浮かべるだけで子供たちにまとわりつかれるソウジたちを楽しそうに眺めている。
 オーガストの方を見てみると、子供たちによじ登られており無下に振り払うわけにもいかないのか完全に樹木と化していた。

「ええい、勝手に僕に登るなぁ! 落ちてもしらんぞ!」

「おにーちゃん面白ーい!」

「面白くないっ!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ子供たちを見てクラリッサはため息をついた。

「まったく、うちの子たちは相変わらずね……」

 その後、クラリッサとチェルシーが何とか騒ぎを収束させて孤児院の方にお邪魔させてもらうことになった。ここに来るまでにすっかり時間が経ってしまい、外はもう暗くなりはじめていたので時間帯的にもそろそろ夕食を準備する頃合だ。

「急に押しかけて悪かったわね、院長」

「そんなことないわよ。元気そうで私も嬉しいわぁ」

 ころころと楽しそうに笑う院長。すぐそばではようやく解放されたと思ったオーガストが子供たちに追いかけ回されていた。院長は「あ、そうだ」とぽんと手をついてソウジとフェリス、ルナと追いかけられているオーガストに向かって微笑んだ。

「自己紹介がまだだったわねぇ。私はこの『月影院』の院長、ディアール・ウィディーネよぉ。よろしくねぇ」

「ソウジ・ボーウェンです。よろしくお願いします」

「フェリス・ソレイユです」

「ルナ・アリーデです」

「お、オーガスト・フィッシュバーンです! うわああああああああああああああああ!」

 オーガストは子供たちとの鬼ごっこをしながら自己紹介をするという離れ業をやってのけた。本人は必死だったが。

「ふふっ。よろしくねぇ。でもよかったわぁ。クラリッサとチェルシーにこんな素敵なお友達がいて。この子たちったら、学園生活のことはあんまり手紙に書いてくれないから心配だったのよぉ」

 ニコニコ笑顔でそんなことを言うディアール。だが内心はクラリッサとチェルシーのことがとても心配だということが窺える。

「ごめんなさいねぇ。お客さんなんてめったに来ないから、あの子たち張り切っちゃって……すぐに夕飯の支度するから、待っててねぇ」

「あ、手伝います」

「わたしもです」

「わたしもお手伝いさせてください」

 すかさず立ち上がったのはソウジとルナ、そしてフェリスである。

「あらあら。みんな、お手伝いしてくれるのねぇ。ありがとう」

「院長せんせー、もう食材ないよー」

「そうなの? あらやだ。大変ねぇ」

「って、大変ねーじゃないでしょうが」

「……院長、ぜんぜん変わってない」

「あらあら。そうかしら?」

 ころころと楽しそうに笑うディアールにため息をつくクラリッサ。どうやらディアールこのこのおっとりした感じはいつもこうらしい。

「あー、わたしが今から軽く何か買ってくるわ」

 と、クラリッサが立ち上がる。だがそれをソウジが手で制した。

「いや、食材ならいくつかあるぞ」

 そう言って、ソウジは『黒空間ブラックゾーン』を開いてそこからてきとうにドサドサと食材を出していく。何種類かのドラゴンの肉にミネラルアクアをはじめとした超高級食材の目白押しである。どれも『龍の大地』でとれるもので、すべてに魔法をかけて保存してある。

「こんなのでよければだけど」

「よければもなにもこっちとしては助かるし、むしろもらってもいいの? って聞きたいぐらいなんだけど……」

「学園に入ってからすっかり料理しなくなったからなぁ。このままだと使い道ないし、それにまた向こうに戻ってとりにいけばいいだけだから気にしなくていいよ。むしろどんどん使ってくれ」

 気が付くと、今度はソウジの周りに子供たちが集まっていた。皆がソウジが取り出した食材に目を輝かせている。

「すごい! おにーちゃん、今の魔法!?」

 小さな女の子(六、七歳ぐらいだろうか)がソウジの魔法に感動したように見ていた。

「ああ、そうだぞー」

「もっかい見せて!」

「かしこまりました。お姫様」

 そういうとソウジは再び『黒空間ブラックゾーン』を開き、今度は一輪の花を取り出した。キラキラとした輝きを放つ、『龍の大地』でのみとれる特殊な花だ。『光輪花』と呼ばれる、半永久的に光を放つ花である。魔力で明るさが調節できるもので、明かりがない時に非常に便利なのだ。

「はい、プレゼント」

「わぁっ。ありがとう、おにーちゃん!」

「どういたしまして」

 花をもらった女の子は嬉しそうにしている。その様子を見てソウジは少し嬉しかった。周囲からは疎まれ、嫌われるばかりのこの魔力で、魔法で、誰かを喜ばせることが出来た。その事実がとても嬉しかった。どこかまた救われるような思いがした。

「はぁ。悪いわね、ソウジ」

「いや、こっちもありがとな」

「? なにがよ」

「ん。まあ、色々とな。とりあえず、料理を手伝おうか」

 その後、ソウジ、フェリス、ルナ、クラリッサ、チェルシーはディアールに休んでもらって夕食を作った。ちなみにその間もオーガストは子供たちの遊び相手になっており(子供たちに遊び相手をさせられていた、が正しいかもしれないが)、夕食がはじまる頃にはすっかり疲れ切っていた。
 子供たちは豪華な夕食にとても大喜びをして、たくさん食べてからすぐにお風呂に入り、ぐっすりと眠ってしまった。ちなみにオーガストも引きずられるようにしてすぐに眠った。

「部屋だけはたくさんあるからね。どこでも好きなのを使ってね」

 そう言い残してディアールも子供たちの様子を見に行った。

「それじゃあ、フェリスとルナはこの部屋、ソウジはこっちの部屋でいいかしら」

「はい。わたしは構いません」

「わたしもです。フェリスさん、よろしくお願いしますです」

「ふふっ。こちらこそ。なんだかドキドキしますね。お友達と一緒に寝るのって」

「はいです」

 どうやらはじめてのお泊りにフェリスとルナは盛り上がっているらしい。
 クラリッサとチェルシーは二人で同じ部屋を使っていたらしく、その部屋に向かった。ソウジはフェリスとルナが同じ部屋に入るのを見届けると、自分もクラリッサに指定された部屋に向かう。
 ベッドに潜るとすぐに眠気が襲ってきた。どうやら自分で思っていた以上に疲れが溜まっていたらしい。瞼を閉じて、ソウジはすぐに眠りについた。
 しばらく眠っていると、不意に部屋のドアが開かれたような気がした。なんとなく目が覚める。外はまだまだ暗い。ドアの方に視線を向けると、そこにいたのは――――クラリッサだった。
 パジャマ姿のまま、枕をぎゅっと両手で抱えている。

「…………ソウジ。起きてる?」

「正確には、今起きた」

「う。ごめん……」

「いや、それはいいんだけど。どうしたんだ?」

 首を傾げていると、クラリッサは言いづらそうにもじもじとしていると、意を決したかのようにキッとソウジを見る。

「あ、アンタが勝手に抜け出さないか、監視しに来たのよ。だから、その……」

 ぎゅうっと枕をやや強く抱きしめるクラリッサ。その頬はやや赤く、緊張していることがうかがえる。

「…………いっしょに、寝てもいい?」

 突然の展開ではあるものの、『イヌネコ団』のお姫様からのお願いにソウジには断れるはずもなかった。

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