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黒の星眷使い ~世界最強の星眷使いの弟子~ 作者:左リュウ

第三章 五大陸魔法学園交流戦

第四十四話 クラリッサとお楽しみ?

 イヌ柄のパジャマを着たクラリッサは恥ずかしそうにぎゅうっと枕を抱えている。

「べ、別にいいけど……」

 突然の申し出に正直言って混乱していたものの、ここで断れるはずもなく、ソウジは戸惑いながらもクラリッサの申し出を了承した。そのクラリッサはというと、恥ずかしそうにしながらもちょこちょことソウジのベッドの中に潜り込む。ソウジはついクラリッサから背中を向けてしまう。さすがにここで向かい合う勇気は無かった。

「……いきなりどうしたんだ?」

「い、言ったでしょ。監視だって」

「で、本音は?」

「ううぅ。チェルシーが子供たちと一緒に寝にいっちゃったのよぉ……」

「…………いや、まて。それがどうしてここに来る理由になるんだ?」

「だ、だって、フェリスとルナの部屋はもうベッドの空きスペースが無いし……かといってオーガストのアホのところはやだし。だからここに来たのよ。どうせソウジのことを監視しなくちゃならないし」

 どうやら監視という名目は一応は理由の中に入っていたらしい。

「監視って……信用無いなぁ」

「信用はしてるわよ。でも、一人で背負い込みそうなんだもの。それにアンタ、ここ最近わたしたちに何か隠してるでしょ」

 正直、ギクッと思った。思い当たることがあったからだ。
 ルナのあの力のこと。巫女のこと。そして、それを探るために『再誕リヴァース』の連中と戦おうとしていること。そして――――ソフィアの力が弱まっていること。それを元に戻すために『星遺物』が必要なこと。隠していることはいっぱいある。特に最近だとルナが『巫女』と呼ばれたことが気がかりだ。
 クラリッサは『巫女』のことは分からなくても、ソウジが何かを心配し、考えていること、隠していることを見抜いていたのだ。

「まあ、何を隠しているのかは聞かないわ。隠し事の一つや二つ、誰にでもあるし。でも、たまにはわたしたちのことも頼ってよね。一人で抱え込むことないってわたしに言ったのはソウジなんだから」

(……まいったなぁ)

 背中から聞こえてくる、ギルドマスターの声にソウジは思わず心の中で呟いた。
 まさかここまで見抜かれているなんて思わなかった。そしてそのことで心配をかけていることも。

「? なに黙ってるのよ」

「いや、クラリッサのギルドのメンバーでよかったなぁって思ってるだけだよ」

「ふふん。今さらそんなこと思っても遅いわよ」

 背中を向けているものの、クラリッサが今いつもの自信たっぷりのドヤ顔をしているということは分かった。耳もピコピコ動いているかもしれない。

「ていうかさ。なんでチェルシーが子供たちの方に行ったからってクラリッサは移動してるんだ?」

「ふぇっ?」

 クラリッサが明らかに動揺しているのが分かった。それがなんだか面白くて、おかしくてソウジはクスッと笑ってしまう。

「そ、それは……あ、アレよ! えーっと、えーっと、」

「もしかして、一人で寝れないとか?」

 何気なくいった一言だったのだが、どうやらいきなり地雷を踏み当ててしまったらしい。
 ソウジの背後でクラリッサが黙り込んだ。思わず振り向いてみると、かぁーっと顔を真っ赤にして泣きそうな目をしたクラリッサがそこにいた。

「え、もしかしてマジで一人で……」

「ね、寝れないわよ! 悪い!?」

「いや、意外だなと……寮ではどうしてるんだ?」

 基本的に寮では生徒は全員、個室が与えられている。
 この王都と学園の無駄に広い土地を活かして作った学生寮な為に当然、寮そのものの規模も大きい。
 だが個室ということは毎晩、一人で寝なければならないということだ。

「……うさぎさんのぬいぐるみがあるから。それを抱いて寝てるわ。でも、あの子は寮に置いてきちゃってるし……」

「ちなみにそのうさぎさんの名前は?」

「マーガレットよ。……ってなに言わせてるのよばかぁ!」

 もしかするとぬいぐるみに名前をつけてたりするのかなー? ぐらいの気持ちで言ってみたのだが、まさか本当にぬいぐるみに名前をつけているとは思わなかった。クラリッサはつい口走ってしまっていたようで、さっきから顔を真っ赤にしながらソウジの胸元を軽くその小さな手でぽかぽかとたたく。ちなみに全然ダメージはない。

「ううううううう~! ばかばかばかばかばかばかばかばかばかソウジのばかぁ! 何言わせるのよぉ!」

「いや、言ったのそっちだし……」

「関係ないわよそんなの! そーいうことをたずねるのがもうばかって言ってるのよ!」

 どうやらクラリッサにとって絶対に知られたくなかった秘密らしい。恥ずかしさをごまかすようにしてまだぽかぽかとソウジをたたいている。

「別に恥ずかしがることなんかじゃないんじゃないか。かわいいと思うけど」

「か、かわっ……そ、そーいう問題じゃないのっ! あーもう。わたしが今まで積み上げてきたギルドマスターとしての威厳が……」

「威……厳……?」

「ちょっと何よその疑問形は!」

 今度はぷんすかと怒るクラリッサ。彼女の反応はいちいち見ていて面白い。とても感情が豊かで見ているだけで自然と笑顔になれる。

「まあ、今はかわいいパジャマ姿だからどっちにしろ威厳はないと思うな」

「かわいくないもん。威厳あるもん」

 むすっと唇をとがらせて反論するもやっぱりただのかわいらしい女の子にしか見えない。
 確かにクラリッサには威厳がないがリーダーとしては優れているとソウジは思っている。少なくともソウジは、クラリッサがギルドマスターで本当に良かったと心の底から思っている。
 確かにクラリッサは子供っぽいところがある。だけど周りの事をよく見ているし、現にソウジが隠し事や悩みを抱えていることを見抜いていた。オーガストと入れた時も、流石に戸惑ったものの認めるべきところは認めるという公正さを持ち合わせていたし、ギルドに入れた際はきちんと彼を仲間として扱っていた。仲間をバカにされたら許さないと言わんばかりに怒ってくれるし、学園が襲撃された時だって危険を顧みずルナの安否を確かめるために食堂に向かった。
 威厳の無いかわいいリーダーさんは、ソウジにとっての最高のギルドマスターだ。
 だがそんなギルドマスターの顔に影が落ちる。

「……怖いのよ」

 ポツリ、とクラリッサはその言葉を漏らした。

「……暗い所に一人でいるのは、怖いの。色々と思い出しちゃうから」

 クラリッサの言葉に、ソウジは今日のことを思い出した。クラリッサとチェルシーは耳を隠すために帽子を被ってずっと周りの目を気にしていたし、自分が半獣人ハーフであるということに対してやはり何かしら思うところがあるようだ。『色々』というのは、やはり半獣人ハーフであったことが関係しているのだろうか。

「……そっか」

 クラリッサの体が微かに震えていることにソウジは気が付いた。さっきまでやたらと騒いでいたのはもちろん、本心というのもあるかもしれないがこの体の震えをごまかすためだったのかもしれない。

「そ、その。迷惑だってことは分かってるわ……でも……やっぱりこわいの。だから……いっしょにねてくれると、うれしいな……」

 普段と違うクラリッサに逆に戸惑ってしまう。ここまで弱気なクラリッサも珍しい。
 きゅっとその小さな胸の前で小さな手を握りしめ、潤んだ瞳で上目づかいで見つめられては断れない。

「俺は良いけど……逆にクラリッサはいいのか?」

「……何が?」

「いや、ほら、俺だって一応、男だし……」

 掛け値なしにクラリッサは美少女である。確かに同年代の女の子に比べると身長も小さいが、それも彼女の魅力を引き立てる一つの要素にまでなっている。そんな美少女相手にこんなシチュエーション。ソウジは別に大丈夫なのだが、クラリッサとしては不安にならないのだろうかと心配になる。

「わたしは大丈夫よ。だって、ソウジだもん」

 それはどういう意味だろうか。という深追いはやめておく。
 とりあえずはやく寝ようと思い目を閉じると、不意に首筋にぞくぞくっと甘い感覚がはしった。見てみれば、クラリッサがソウジの首元をすんすんと嗅いでいる。

「ん。チェルシーの言った通り、ソウジってなんか良いにおいがするわね。あの子が気に入るのも分かるわ」

「そ、そうか?」

「そうよ。なんだか安心できるにおいがするわ」

 あまりにも密着してくるのでソウジとしては安心どころではない。ソウジからすればあまりにも無防備だし、パジャマの隙間からチラリとピンク色の布が見えるし、健康的な鎖骨も視界の中にバッチリ収まってしまった。更にふにん、という二つの慎ましやかで柔らかい感触が。

「……おやすみ、ソウジ」

 クラリッサはそのまま安心したように眠ってしまった。今の行動は安心を確認するためのものだったのだろうか。とりあえず、ソウジはクラリッサが眠ったのを見届けると眠りについた。

 ☆

 次の日。
 朝起きたあと、クラリッサは昨日の事を思い出したのか顔を真っ赤にしてすぐに自分の部屋に戻ってしまった。ソウジとしてはやや気まずそうに頭をかくしかない。
 すぐに身支度をしてから居間に向かう。
 そこには、子供たちにしがみつかれ、さながらカブトムシが群がっている樹木と化していたオーガストが突っ立っていた。

「おはよう、オーガスト」

「…………………………ああ。おはよう」

「なんか眠そうだけど、どうかしたのか?」

「どうもこうもない。途中からこいつらが僕の寝ていたベッドに潜り込んできたんだ。そこからはとても寝れたもんじゃなかった……おかげで寝不足だ」

「そりゃご愁傷様」

 そのまま樹木オーガストの前をスタスタと通り過ぎる。

「こら、アンタたち静かにしなさい。ご飯の用意手伝って」

 どうやらソウジより一足はやく身支度を済ませていたらしいクラリッサはエプロン姿で朝食の準備に励んでいた。朝から元気な子供たちに四苦八苦しているようだ。そんなクラリッサに対してソウジは気楽に片手をあげて挨拶をする。

「おはよう、クラリッサ」

「お、おはよ……」

 クラリッサの方はというと頬を染めながらソウジの方を見る。どうやら昨日のことを思い出しているらしい。そのままトマトのように顔を真っ赤にすると、ぷいっと視線をそらしてそのままぱたぱたと台所の方に消えていった。

「……ソウジ」

「チェルシー?」

「……クラリッサと、何かあった?」

 いつの間にかソウジの傍にいたチェルシーは、どうやらクラリッサの異変に気が付いていたらしい。そしてそれがソウジにも関わりがあることも。

「別に何もないといえば何もないけど」

「……そう」

 流石にここで「昨日、一緒に寝ました」なんて言えないので何とか上手くごまかせたことでほっと安堵する。それに嘘は言ってない。昨日は確かに何もなかった。

「……ところでソウジ」

「なんだ」

「……昨日はクラリッサとお楽しみだった?」

 …………これは、なんと答えたらいいのか分からない言葉である。

「チェルシぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 と、すぐさまソウジとチェルシーのもとに顔を真っ赤にしたクラリッサが飛んできた。

「アンタ……もしかして昨日、わざと子供たちの方に行ったわね?」

「……よかれと思って」

「よかれと思って、じゃないわよ! もしかしてわたしがソウジのところに行くように仕向けたのね!?」

「……よかれと思って」

「それも嘘でしょうが!」

「……クラリッサ、最近ソウジのことよく見てたから。なにかお話があるのかと思ってた」

「あれはコイツが何か隠してるから、それが何か気になってただけよ!」

「……そうなの?」

「そうよ!」

「……らぶらぶちゅっちゅしたいんじゃなかったの? 残念」

「ら、らぶらぶって……!」

 どうやらそれ以上はクラリッサの処理できる限界値をオーバーしたらしい。
 ぼんっという音と共に顔を更に赤くしたクラリッサはソウジをチラッと見たあとまたぱたぱたと台所の方へと消えていった。
 ソウジがため息をついていると、背後からただならぬ気配が。

「……へぇ。昨日、クラリッサと一緒に寝たんですか」

「……ソウジさん。随分とお楽しみだったみたいですね」

 フェリスとルナが、ただならぬ気配を纏ってソウジの背後に立っていた。
 なぜだか分からないがダラダラと冷や汗が止まらない。
 決してやましいことはしていないのにも関わらずだ。

「あ、ソウジくーん。お客さんよー」

 と、ここで救いの女神ことディアールが現れてくれた。この場所にいるのにもかかわらず自分を訪ねてくるような『お客さん』にソウジは心当たりがなかったが、これ幸いとその場を抜け出した。
 ドアを開けると、ソウジを訪ねてきた『お客さん』の姿がすぐに目に飛び込んできた。
 長く、尖った特徴的な耳。
 その『お客さん』はエルフだった。
 もちろん、ソウジはそのエルフを見たこともないし知りもしない。予想もしなかった『お客さん』に面喰っていると、そのエルフは自己紹介をはじめた。

「はじめまして。ソウジ・ボーウェンさん。わたしはユーフィア様の侍女をしております、フィーネと申します」

「は、はぁ。どうも……えっと、それで。俺に何の用ですか?」

 ユーフィアという名前はあのエルフのお姫様だということぐらいは流石に覚えている。
 だが彼女と会ったのは『黒騎士』の姿に変身した時だけだ。ソウジ・ボーウェンとしては接点が無い。そんなことを頭の中で考えながら、目の前の侍女を見る。フィーネはニコッと優雅な笑みを浮かべていた。

「はい。率直に申し上げますと、あなたにユーフィア様の護衛をしていただきたいのです」

「…………は?」


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