経団連はきのう、今春闘に臨む指針を発表した。

 「賃金の引き上げを前向きに検討することが強く期待される」「ベースアップ(ベア)は賃金を引き上げる場合の選択肢の一つ」とし、賃上げを認めていく姿勢を示したことは評価できる。

 日本銀行の大胆な金融緩和で、物価は上昇基調にある。賃金が物価ほど上がらず、特に昨春の消費増税後、消費はしぼんでいる現状を踏まえると、賃上げは日本経済全体の課題と言えるからだ。

 安倍政権も賃上げには前向きだ。政府、労働界、経済界の代表による「政労使会議」は昨年暮れ、「賃金の引き上げに向けた最大限の努力」を経済界に促した。政府が昨年に続いて春闘に注文をつけるのは、賃上げが景気の行方を左右すると見ているからだろう。

 現在の経済環境を見れば、業種によって差はあるものの、賃上げには追い風も吹いている。人手不足で労働側は賃上げを求めやすいし、円安で大手製造業では業績好調の企業が多いから、経営側にもある程度、要求にこたえる余裕がある。

 また、適切な賃上げで社員の貢献に報いることは、長期的には企業の成長につながる。90年代後半以降、利益確保のために賃金カットやリストラが広がったことで、経済全体の不振が深まったことは記憶に新しい。経営者には目先の利益だけに縛られない判断がほしい。

 一方の交渉当事者である労働組合の中央組織である連合は、ベアを「2%以上」とし、昨年の「1%以上」を上回る方針を示している。

 しかし、今や雇用者に占める労働組合員の割合は17・5%、総数は985万人に過ぎない。2千万人を超える非正社員を視野に入れなければ、春闘の存在意義が問われる。

 非正社員について連合が「待遇底上げ」を掲げるのに対し、経団連は「非正規労働者の賃金は労働市場の需給関係の影響を強く受ける」として、正面から取り組むことを避けるかのような姿勢だ。

 賃上げを中小企業や非正社員に波及させる後押しも、大企業の役割だ。政労使会議でも、経団連の指針でも、この点はあいまいな書きぶりにとどまっている。各社は踏み込んだ取り組みを工夫してほしい。

 大企業正社員の賃上げが中小企業や非正社員に広がり、働く人全体の賃金上昇が物価上昇を追い越す。今春闘は労使ともそんな姿を目指してもらいたい。