楠と百済観音

九州には巨木として崇められる「楠」の木が多く、樹齢も千年にもなるものもあり多くは街路樹や
公園に植樹され年中緑の葉をつける常緑樹として景観を楽しませてくれる。
また、その力強い巨木は神木、霊木としても神社や古刹の庭に繁茂しています。
葉はツヤがありほのかな香りがし、春先に白い小さな花をつけ、実は黒い紫色のような大豆くらいの
大きさを沢山つけて潰すと甘酸っぱい芳香をはなっている。
常緑樹といっても全く枯れることがないのではなく、他の落葉樹が葉を落とす冬には緑のままで
冬を過ごし、春にあたらしい芽から新緑が増えるころになると古い葉は紅変して大量に葉を落し
落葉した葉も独特の香りを放つようだ。
                 楠2

楠は「樟」とも書くように、その香料から防虫用としての「樟脳」の原料になっていて、材質も香を放ち
虫につよく腐りにくいために、建築材や船材に用いられたようだが、幹は太く八方に湾曲して枝を
伸ばすために、まっすぐな用材をとることがむづかしいため、いまでは建材としては杉や檜にその
地位を譲っている。
然し古くは仏像は南方の香木を用いたように我が国でも木製の仏像は九州の楠をもちいたようである。

仏神の用材として用いたのはその香木としての用だけでなく、樹齢も久しく巨木となり神霊の
依り代として古来より崇められてきたからに違いない。
それは出自が謎といわれつづけた法隆寺の「百済観音像」も七世紀ごろ九州の楠材を用いて造仏された
ものといわれています。
観音像は現世利益をかなえてくれる菩薩として広く「観音信仰」が古来より受け入れられていたようで
あり、木彫りの小さなものから数メートルのものまで盛んに造立されたようであった。
観音菩薩はとくに異国往来の水難や旅の往来の災難の救済に効験が強かったとされ、大陸や朝鮮半島との
交易の港や河川の多い西九州では盛んに造仏されたようである。
「百済観音」は、上記に加えて、九州の楠材により作られていることから法隆寺に安置される以前の履歴と
して九州の地より移されたものであるとの指摘も多く、謎の解明がまたれるところである。
またその採り物が瓢であり、サイズが八頭身であることから北斗七星の造形であるともいわれる。
北斗は北極星を中心として規則正しく運行することから天帝の乗物とも見立てられています。
このことも異国往来の利益、交通の霊験とも合致するところでもある。更には「百済観音像」を横から
みると、緩やかにS字形に調えられた形状は、北斗七星そのものに見えるから不思議でもある。
香木としての楠は海水などに強く、観音のご利益を造形する適材として用いられたこと、そして
謎の「百済観音」と九州の楠の木のつながりは私たちに想像力をかきたてるものがある。加えていうならば
左右に多く枝を広げる神木のカタチは、そのまま千手観音そのものに見えてくるから不思議である。

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Author:   jyoumonjn    山田 クニオ in SAGA     地域文化&あれこれ
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