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「やり方次第で数千人規模でもできるはず」BufferのCEOが明かす脅威のリモート開発術

2015/01/19公開

 

GitHubをベースとしたプログラミングが普及し、さまざまなコラボレーションツールも発達した今、米シリコンバレーを含むサンフランシスコ・ベイエリアを中心に、特定のオフィスにエンジニアが集まらないリモート開発を実践する企業が増えている。

その裏側には、エンジニア獲得競争の激化によって近辺で優秀な人材を採用するのが難しくなっているという物理的な理由があるというが、それ以外に、社員の自由な働き方を尊重して「出勤無用」な組織運営を実施している場合も多い。

[参考記事]
>> GitHub経営陣が明かす、プログラマーのクリエイティビティを最大限に引き出す方法
>> 海外プログラマーとのリモート開発で成長するGinzamarkets

日本でも同様にリモート開発を実践するスタートアップが増えつつあるが、常に課題として挙がってくるのがチームマネジメントの難しさである。少人数でリモート開発をするならまだしも、開発チームの人数が増えてくると、主に意思疎通の面で組織運営が難しくなるからだ。

また、2013年に米Yahoo!のCEOマリッサ・メイヤーが「集団で働く方がクリエイティブになれる」と在宅勤務を禁止したり、Google会長のエリック・シュミットも著書『How Google Works』で同じ空間で仕事をする方が創造的になると語るなど、リモートワークの負の面を指摘する声も出ている。

そんな中、TwitterやFacebookなどSNSへの投稿を一元管理するアプリサービス『Buffer』は、イギリスで開発を始めた2010年から一貫してリモートでの開発を実践。現在はサンフランシスコに拠点を置いているが、エンジニアやカスタマーサポート要員は世界11カ国・22都市に点在しており、彼らの力によって全世界1700万以上のユーザーに利用されるまでに成長している(※ユーザー数は2014年9月時点)。

彼らはなぜリモート開発にこだわり、そしてどのようにリモートワークの負の面を払拭しているのか。来日したBufferのCEOジョエル・ガスコイン氏に話を聞いたところ、仕組みと同等かそれ以上に大切なのは「哲学と採用の手法だ」と明かしてくれた。

世界中に仲間がいれば、ユーザーサポートが手厚くなる

Bufferの投稿管理ページ

―― 今回の来日(※取材は2015年1月9日に行われた)は何目的で?

Bufferは今、29名いる仲間それぞれが世界中でリモートワークしている。だから、僕らはさまざまな国のワークスタイルに興味があってね。日本人の働き方についても知りたくって来てみたんだ。

―― それにしても、11カ国・22都市に社員がいるというのはすごいですね。

社員29名の所在地は、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、スペインといった欧米以外に、チリや南アフリカのケープタウン、オーストラリアのシドニーなど。台湾や中国の北京のようなアジア圏にも仲間がいるよ。

そのうち、エンジニアは10数名、その他にカスタマーサポートやユーザーリサーチを行っている仲間も10名程度いるよ。でも、エンジニアにもカスタマーサポートをやってもらうことがあるし、それぞれの役割は限定していないんだ。

Bufferのユニークなところは、役職もないしマネジャーもいないこと。全員が「Buffrを創り、育てる仲間」なんだよ。

―― なぜ、完全リモートのチームでサービス運営をしているのですか?

一つは世界中にいるBufferユーザーを丁寧にサポートするため。もう一つは、誰もが働く場所を自由に選べる方が良いと信じているからさ。

もともとBufferは僕と共同創業者のレオ(Leo Widrich)が作ったもので、最初は2人の住んでいたイギリスでやっていたんだけど、その後僕が6カ月くらい香港に移住したのもあってリモートでサービス運営をすることになったんだ。

そうこうしているうちに、幸いにもユーザーが増え始めて、今度は投資を募る目的でサンフランシスコへ移り住むことにしたんだ。その一連の経験の中で、例えば香港のユーザーから来た問い合わせに、US時間で対応するのはユーザーオリエンテッドじゃないと感じるようになっていった。

毎日、世界中のユーザーから問い合わせのメールが来ているのに、返事はすべてアメリカの勤務時間内で行うなんて、本来はナンセンスだよね? 僕がユーザーだったら、問い合わせをしたら1時間以内に返事が来るくらいのスピード感がほしいと思うだろう。

だから、できるだけ世界各地に仲間がいた方が、効率的だと考えたんだ。

Bufferを支えるオンラインツールと徹底した情報公開

Bufferが現在のような完全リモート開発になるまでには、さまざまな試行錯誤があった

―― もう一つの理由である「誰もが働く場所を自由に選べる」点について、 理想論としては理解できるものの、Yahoo!のマリッサ・メイヤーやGoogleのエリック・シュミットは「チームが同じ空間で仕事をする方がクリエイティブだ」と言っています。

その指摘は理解しているし、例えばチームでブレストを行うようなシチュエーションでは1つの場所に集まった方が良いかもしれない。

でも、オフィスワークを好まない人だって世の中にはいるよね? 僕らは、仕事でも私生活でもPositive&Happiness&Gratitude(感謝)を大切にしたいと考えている。仲間になってくれた1人1人を家族のように考えているから、働く場所を自分で決めたいという人には最大限の自由を提供したいんだ。

ちなみに、この「社員は家族」という考え方は、社員の家族に対しても同じように適用される。一例を挙げると、Bufferでは社員の業務用デバイスとしてKindleを無料で提供しているんだけど、社員だけでなく彼ら・彼女らの家族にも提供していたりするんだ。

―― リモートワークの課題とされるチームマネジメントについては、どうやって行っているんですか?

さっきも話したように、Bufferにはマネジャーがいないから、1人1人の自主性に任せている。誰かが誰かをマネジメントするという発想がないんだ。

もちろん、ただ「任せる」だけではチームとして機能しないのは分かっているから、情報の透明性はすごく大事にしている。業務上のタスクだけでなく、会社の売上から1人1人の給料とその計算式、持ち株比率まで、あらゆる情報をネット上で公開しているんだ。

情報を開示すればするほど、仲間たちが自分で判断して仕事をこなせるようになるはずだという哲学があるからね。

この辺のことについては、友人のGenがブログに詳しく書いてくれていたはずだよ(※プログラミング学習サイト『ドットインストール』CEOの田口元氏のこと。ブログエントリは以下)。

>> Bufferの「超透明経営」がやばい(IDEA*IDEA)

また、リモートワークを円滑にしてくれるオンラインツールを積極的に活用するようにしているね。グループチャットの『HipChat』やビデオチャットの『Sqwiggle』、ToDo管理サービスの『iDoneThis』など、僕らがよく使っているツールは会社のブログで紹介しているよ。

>> 8 Helpful Online Tools To Keep Your Company On Track(buffer social)

タスクフォース制の導入がターニングポイントに

ビデオチャット『Sqwiggle』を使ってチームミーティングを行っている時の様子(左上がジョエル氏)

あとは、5カ月に1回くらいの頻度で、全社員がリモートで働くメンバーの住む地域に集まってミートアップ(日本でいうところの開発合宿)を行ったりもしている。渡航費は会社持ちでね。

オンライン・オフラインの双方で、密にコミュニケーションを取れるように工夫しているんだ。

―― でも、本当に誰も管理しなくても社員はキチンと働いてくれるのですか? 日本では、いまだ多くの企業が「上意下達」でチームを動かし、社員を管理していますが……。

マネジャーがメンバーを管理するやり方は、日本だけでなく世界中の企業でいまだにスタンダードだと思うよ(笑)。それにBufferでも、トップダウンでやることを決めていた時期があったのは事実だ。

今の僕らのやり方で事業を作っていくには、さっき挙げたようなやり方以外にも、社員が自主的に働くことを推奨する工夫がいくつか必要だった。Bufferの場合、ターニングポイントになったのは「タスクフォース制」の導入だったね。

―― 具体的に教えてください。

開発業務を例に話すと、BufferではiOSやAndroidなどとOSごとに担当を分けてチームを編成しているんだけど、「解決したい課題がある」と感じたら誰でも(解決に向けた)タスクフォースを立ち上げられるようにしたんだ。

合わせて、全社員が最低5つのタスクフォースにコミットするようにルール化した。そこでの成果は、毎月の給料の5%に影響するような仕組みになっている。

この仕組みにしてからは、社員が自主的に課題を探し、進んで解決に取り組んでくれるようになったよ。全社員が、大小問わずすべての課題の意思決定者になったんだ。

採用前に40~50日程度の“ブートキャンプ”を行う理由

創業当時は、チーム構築でいくつか失敗も経験したと明かす

―― 社員が自立的に動くチームを作るには、仕組みを整える以外にも、採用の時点で採用候補者の資質を確認する作業がすごく大切ですよね?

まったくもってその通りだ。Bufferでも以前、社員の半分くらいが思ったようにワークしてくれなかった時期があったからね(苦笑)。人の資質を見極めるのは、それだけ難しいってことを学んだよ。

そういう失敗を経て、僕らは今、とても長い時間をかけて仲間を採用するようになったんだ。

―― 現在はどんな採用プロセスなのかを教えてください。

最初にチェックするのは、応募してくれた人がBufferを使っているかどうか(笑)。SNSのアカウントを見ればすぐに分かるからね。その後に、eメールでたくさん質問をして、Bufferが大切にしているバリューに合う人かどうかを確認している。面接を行う前に、だいたい3~4回はメールでやりとりをするね。

その後、オンライン面接も3~4回くらいやるのが通例。面接では、なぜBufferで働きたいと思ったのかを聞いたり、プログラミング能力などのテクニカルインタビューを行っている。

そして、「この人はスキル、志向ともにBufferに合いそうだ」と感じたら、僕らが“ブートキャンプ”と呼ぶ独自の採用テストを行うことにしている。

―― ブートキャンプとは?

だいたい40~50日くらいかけて行うプログラムで、例えば新規サービスを企画してもらうようなタスクを設定して実際に作ってもらうんだ。タスクは人によって異なるけど、2週間に1回程度進ちょくをフィードバックしてもらいながら、コミュニケーションを取るようにしている。

―― まだ採用していない人に対して、そこまで行うのはすごいですね。

確かにここまでやる会社は珍しいかもしれないね。でも、70%くらいの人がブートキャンプを完遂してくれるよ。僕らもすごく大変だけど、今では欠かせないプロセスになっている。

ブートキャンプでのやりとりや、出てくる成果を通じて、応募者の仕事に取り組む姿勢やクリエイティビティが分かるんだ。

オランダのBuurtzorgがチーム運営の参考に

マネジャー不在のチームをうまく機能させるために、CEOが果たすべき役割を語るジョエル氏

―― Bufferのようなリモートワークで運営可能な組織の規模はどのくらいだと思いますか? 現在の社員数は29名とのことですが、人数が増えれば増えるほど、このスタイルを維持するのが難しくなるように思いますが。

うーん、どうだろうね。今日話したような哲学を貫き、採用手法を工夫し続けることができれば、社員が何人になっても機能すると信じているよ。仲間が8000人くらいになっても可能かもしれない。

―― 8000人ですか? なぜ?

オランダの在宅ケア組織でBuurtzorgという財団があるんだけど、そこは1チーム最大12人のナースのセルフマネジメントチームの集合体として成り立っていて、今では8000人近くの人たちがジョインしているらしいんだ。

専門性が高い地域看護師たちが集まっていて、もちろんマネジャーのような存在はいない。セルフマネジメントチームが自分たちで話し合いながらやることを決め、採用や財務的なことなどすべてに裁量と責任を持っている(参考記事は以下)。

>> 在宅ケアのルネサンス――Buurtzorg(医学書院)

こういう事例が世の中にある以上は、僕らもできるだけスタイルを貫きたいと思っているよ。

―― こういった自立した人たちによるコミュニティ的組織を作っていく上で、CEOの仕事は何になるんですか?

仲間たちがアドバイスを求めている時に、必要な答えを提示することかな。少なくとも、BufferのCEOは仲間に指示を与え、決断する人ではない。社員にとって最良の相談役にならなければならないんだ。

そしてもう一つ、誰よりも「質問する人」にならなければと思っている。

例えば何かしらの課題があって、チームの誰かがAという解決策を提示した時、「なぜAなの?」、「Bという解決策はない?」と質問することが大切なんだ。違った視点から問いかけることで、新しいイノベーションの可能性が生まれるかもしれないからね。

だから、僕はもっともっといろんな知識を身に付けなければならないんだよ(笑)。

―― なるほど。貴重なお話をありがとうございました。

取材・文/伊藤健吾、川野優希(ともに編集部)
撮影/竹井俊晴   通訳/栗原千明


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