今村優莉
2015年1月19日18時03分
ショッピングモールやマンションが立ち並ぶ東京・品川。その海岸沿いにはかつて花街が栄えていた。往時の活気を取り戻そうとして志半ばで亡くなった芸者の息子がいま、お座敷で妖艶(ようえん)に舞い、「女形(おやま)芸者」としてその遺志を継ぐ。
栄太朗さん(28)。品川区南大井3丁目の置屋「まつ乃家」の女将(おかみ)を務める。20年にわたり全国の花柳界を取材しているフリーライター浅原須美さん(56)によると、現役の芸者としては日本で唯一の男性ではないかという。
素顔はバスケットボールが好きな細身の優男(やさおとこ)。普段は「あたくし」と自称するが、プライベートでは場が和むと「おれが……」と口をつく。
栄太朗さんの曽祖母と母が芸者だった。母まり子さんがまつ乃家の初代女将。人手が足りず、8歳の栄太朗さんに日本舞踊を教え、「白く塗って座らせておけばわからないから」とお座敷を手伝わせた。「座敷に5回出たら、スーパーファミコンを買ってあげる」が条件だった。「栄太朗」の芸名も母がつけた。芸者は男名前も多く、不自然ではなかった。
中学に上がり、バスケ部に入ると「なんで男の自分が」と思うようになった。だが、今度は部活を続ける条件が「お座敷を手伝うこと」に。土日にバスケの試合に行きたくて、平日は舞った。置屋の経営は厳しく、とても「やりたくない」と言い出せる雰囲気ではなかったという。極力しゃべらず女の子として振る舞ったが、客の中には男だと分かるとお酌を拒む人もいた。
17歳の時、まり子さんが子宮頸(けい)がんを発病。3年後、母の代わりを務めるようになり、23歳の時、母は47歳で逝った。
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朝日新聞社会部
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