【クラブ経営と地方活性化】 岡田 武史さん
◆どでかいほらを吹こう
愛媛県今治市の「FC今治」のオーナーになった。Jリーグの下部に、日本フットボールリーグ(JFL)があり、その下部の地域リーグ(四国リーグ)所属。ノンプロのクラブだ。
日本代表がグループリーグ敗退に終わった昨年のサッカーW杯ブラジル大会後、日本サッカーのあるべき姿を議論していた中、知人のスペイン人指導者に言われた。スペインにはサッカーの「型」のようなものがある。それに沿ったトレーニングメソッド(練習方法)をつくり、皆がやると。
私は思った。日本人に合った「型」をつくり、実践できるトレーニングメソッド-岡田メソッドをつくりたい。育成年代からトップまで同じ哲学を持つクラブをつくりたい。クラブが本当に強くなり、選手が日本代表に多く選ばれれば、代表のサッカーも変わる。
Jクラブからもフロント入りの打診はあったが、既存のものをつぶすにはエネルギーがいるし、町の規模が大きいと一つになれる感覚がない。そこでFC今治が思い浮かんだ。早大のサッカー同好会の先輩がオーナー。話を持ち掛けたら、面白い、ただ、やるならオーナーとして、となった。
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今治市は人口約17万人の小さな町。少年団も小中高のサッカー部も、皆で一つのピラミッドをつくる。既に全高校を訪ねた。指導者の派遣や地域全体のリーグ戦など、さまざまなアイデアを出した。サッカー談議をしたい人が集まり夜な夜な語らうサロンを私の借家に設けるのも一つの案だ。
ピラミッドの頂点であるFC今治が強くて面白いサッカーをしていれば、全国、またアジアから子どもたち、指導者が集まる。子どもたちを地元の高齢者宅でホームステイさせてもらう。するとスポーツマンに食べさせる料理の教室ができる。国外から人を迎えるとなれば外国語会話教室も。各家庭をインターネットの連絡網でつなげば、高齢者の安否確認にも活用できる。気が付けば人口17万人の町が、コスモポリタン(国際人)でやたらと活気づいているイメージが湧いた。
今は市の運動公園を使っているが、2017年の愛媛国体に向け、新たな施設ができる。それとは別に、8年後に2万人超収容のサッカー専用スタジアムを造りたい。市役所にサッカー好きがいて、絵まで描いて候補地を挙げてくれた。
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データ分析会社と手を組む。練習、治療、チームの分析システムをスタジアムに統合し、ラボ(研究所)にする。また「スマートスタジアム」化も考えている。場内ではスマートフォンで駐車場や座席が案内され、飲食やグッズの注文もできる。ホテルやコンサート会場も併設。サッカーに限らない人の流れができる。
スポンサーは東京や中国の企業にもお願いしている。私の夢物語のような話に共感し、出資してもらう代わりに、一緒に新ビジネスを興す。岡田メソッドはパッケージ化して海外にも販売するつもりだが、例えば中国の企業は、中国での販売はウチを通して、と。そうした企業同士が新ビジネスをつくる可能性もある。
ほらを吹くならでかい方がいい。何でだろうと思うほど、人やお金が集まってくれている。皆、夢を見られず、どこか行き詰まりを感じる-そんな感覚が社会にあるのではないか。
監督はやらない。今やほとんどのクラブの監督は、私の監督時代のコーチや選手。モチベーションを保ちづらい。指導者としての自分の限界を感じてもいる。私の方が結果は残すかもしれないが…もう次世代だ。日本サッカーは変化すべきだ。それをサポートする。
【略歴】1956年、大阪市生まれ。早大から古河電工入りし日本代表に。代表監督として日本を98年フランス大会でW杯初出場に導く。Jリーグで監督歴任後、代表監督復帰し2010年W杯南アフリカ大会16強。12、13年に中国・杭州緑城監督。
※次回は宮本雄二さんの「提論」です
=2015/01/18付 西日本新聞朝刊=