IT投資家の20分ルール「オフィスから車で20分以内の企業にしか投資しない。」
グーグルは従業員が出社したくなるような快適なオフィスを設計し、とびっきりスマートな社員を一つの場所に押し込むことで、イノベーションを起こし続けていますが、近年、発展している都市に共通していることは、人口や企業の「密度」であり、インターネットが普及して、どこでも仕事ができるようなったという概念とは裏腹に、企業はどんどん一つの都市、場所に集中し始めている傾向にあります。
↑インターネットがあれば地方でも仕事はできる。でも近年、人口はどんどん都市に集まる傾向にある。(Pic by Flickr)
例えば、ベンチャー・キャピタル業界では、「20分ルール」という言葉がよく使われ、オフィスから車で20分以内に所在していない企業は投資対象としないことも多く、彼らの仕事は出資だけにとどまらず、若い起業家たちを監督し、育成までしていくことから、地理的に近いことが成功するための一つの条件でもあります。
2013年にソフトバンクが米国スプリント社を買収しましたが、本社がカンザス州という、IT界からはかけ離れた場所にあるため、孫正義さんが「シリコンバレーに移ってこい」と常に呼びかけているように、サンフランシスコに移ってくることを出資の条件とするベンチャー・キャピタルも多いようです。
↑才能のあるクリエイティブな人が「一ヶ所」に集まることが成功の条件。(Pic by Flickr)
しかし、グーグルやアップル、そしてフェイスブックなど、ハイテク企業がオフィスを構えている地理の分布マップを見てみると不思議なことに気づきます。
産業革命当時のイギリスでは、消費者のほとんどがロンドンにいたため、ロンドンのメーカーは輸送コストの面で有利だったように、輸送コストがかからなかった時代は、消費者の近くに製造拠点を置くことがメリットになりましたが、なぜグーグルのような輸送コストが一切かからない企業が、オフィス賃料や人件費の高い都市に拠点を構える必要があるのでしょうか。
↑シリコンバレーにあるグーグルが明日チベットに移ったところでユーザーは誰ひとり気づかないだろう。(Pic by Flickr)
この不思議な疑問に関して、カリフォルニア大学バークレー校のエンリコ・モレッティ教授は、著書「年収は住むところで決まる」の中で、オンラインでの婚活を例に出して説明しています。
例えば、あなたが交際相手を探しているとして、独身者の出会い系サイトが二つあったとします。
両サイトともサービスや値段は同じで、登録している会員数だけが違い、一方は男性10人と女性10人、もう一方は男性100人と女性100人だった場合、あなたはどちらを選ぶでしょうか?
男女の比率は同じですが、お互いの趣味や思考などを考えると、理想の男性/女性に会える確率は登録者100人のサイトの方が圧倒的に高く、これは企業が必要な人材を探すときも同じで、都市に拠点を置いた方がその人のスキルや経験を考慮して、より多くの人の中から理想の人材を見つけることができます。
↑10:10と100:100「出会える比率は同じでも、理想の人に出会える確率は大違い」(Pic by Flickr)
イノベーションの定義は「競争」ではなく、「共創」にあります。
共創とは「あなたは何をやって」、「私はこれをやる」という考え方ではなく、「私たちが何をやるか」という考え方を重視し、またアイデア自体も、あなたがどんなアイデアを持っているかということではなく、共創を通じてどんな新しいアイデアが出てくるかを大切にするため、優秀な人が一ヶ所に集まる物理的な「場所」が、今まで以上に大切になってきます。
物理的な場所を共有しなくても良いというインターネットは、労働の可能性を大きく広げましたが、実際、時代が求めているものは全くの逆の概念のようです。