〈前編〉必要性から生まれたオフグリッドライフ
菜衣子 みどり荘って、古いマンションをリノベーションしてんだよね?リノベーションは自分たちでやったの?
大矢 そう、みんなDIY。最初は、ペンキを塗る前に下地塗らなきゃいけないとかいう知識もなかったから直に塗っちゃってさ、5度塗りくらいしたよね。だから、超染みこんでるはず。
小柴 あれは、反省点だよね(笑)
大矢 ライブラリーの本棚も、近所で解体されていた日本家屋に、みんなで走って取りに行った木材つかって作ったり。半年間かけて、相当頑張ったよ。楽しかったけどね。
――今話題のポートランドから船で運んできた家具も多く、どこを見てもめちゃくちゃオシャレ。こんな空間がDIYでできてしまうなんて、インテリアデザイナーも商売上がったりですよ、きっと。コワーキングスペースに集うメンバーの職種も様々で、 デザイナー、イラストレーター、建築家、音楽プロデューサーなど、多種多様。人も場所もとてもクリエイティブです。
――ソーラーシステムは、みどり荘2階にあるシェアスペースのベランダにありました。200Wの太陽光パネルが4枚ならび、最大出力は800W。元々小高い丘の中腹に建物があり、パネルを遮るものはなにもありません。神奈川県の藤野で、自立分散型自然エネルギーに取り組み、全国各地で「ミニ太陽光発電システム」組立てワークショップを開催する藤野電力の技術協力によりスムーズに運用されていて、発電された電力は、大きなメインデスクに供給されています。
そもそも電気が足りない!
――みどり荘はそもそも、各階の電気容量が60Aとオフィスとしては低いほうで、ちょっと油断するとブレーカーが落ちてしまうという問題がありました。しかし、容量を上げるには建物自体の工事が必要で、数十万の費用がかかります。運営費では、その予算を捻出するのがむずかしい。この「リアルな問題」を解決する手段として、ソーラーシステムを導入し、電力を補うことにしました。
大矢 ブレーカーが落ちて、PCがダウンしちゃうのがコワーキングスペースとして致命的だから、非常用に無停電電源装置を入れたりしていたんだけど、とにかく落ちる。だから、入居者のプログラマーが、今使われている東京電力の電力利用量を視覚化するシステムを作ってくれたんだよね。ブレーカーに直接配線を組んで、リアルタイムに数値化し、ウェブから確認できるっていう。
菜衣子&ジョニー おー!すごーい!!
大矢 彼らは遊びで作ってたけどね。あまりにもブレーカーが落ちるから(笑)一時期は、常にブラウザに表示させてて「あっやばい!おれ3Fが行くから2Fよろしく!」とかやってたよ。表示はデジタルでかっこいいけど、やることは、リモコンでエアコン消すだけ。ピッピッって。すげー地味(笑)。
小柴 みんな無駄に温度上げたりしてるんだもん。なんで暖房が30℃設定なの?みたいな。
大矢 一時期、超厳しかったもんね。暖房チェック。
菜衣子 オカンだ!「あんた達使いすぎよ!」って。
小柴 そうそう。なんかあれも楽しかったよね。最初は、この建物を完全にオフグリッドにして、何があってもここのオフィスだけは機能する仕組みを作りたいって言ってたの。震災の後でもあったし。いろんな人に会いに行って相談したけど、設備投資に600万円くらいかかるって分かって。それはちょっとリアルじゃないねって白紙になったんだよね。でも、電力不足の問題は解決していないから、一部をソーラーにしようって言って、クラウドファンディングを始めたの。
――必要だから作る。困っているから生み出す。みどり荘は、問題を解決するために、オフグリッドライフをデザインしました。苦労したからこそ、電気のありがたみもわかり、利用量に関して、入居者の関心がむくようになる。今では、ブレーカーが落ちることはほぼ無いそうです。
――デザインは問題解決だ、なんてよく言いますが、必要性から生まれたオフグリッドライフというのは、生活に根ざしていて、とても自然です。環境にいいことをしているんだというような変な気概はなく、ごくごく自然にソーラー電気を使っています。今の時代、クリエイティブな人は、自分のまわりで小回りの効く仕組みを作れちゃうんですよね。
(つづく)