日銀は「落とし前」追加緩和か、量的・質的緩和に限界説も-サーベイ
(ブルームバーグ):原油価格の急落で日本銀行の2%物価目標の達成が一段と困難になっている。消費者物価上昇率が鈍化して0%に近づくタイミングで、2年という期限の断念と併せ、追加緩和に踏み切るとの見方がエコノミストに強い。長期金利が連日最低を更新し、量的・質的緩和の副作用が強まる中、その限界を指摘する声も出ている。
ブルームバーグ・ニュースが9日から14日にかけてエコノミスト33人を対象に行った調査で、20、21日の金融政策決定会合は全員が現状維持を予想した。原油価格の急落により2年での目標達成困難が明白になるタイミングで追加緩和が行われるとの見方が強く、その時期は3-4月が9人、6-7月が7人、10月が10人という予想になっている。
クレディ・アグリコル証券の尾形和彦チーフエコノミストは、「2年で2%」という目標達成期限との整合性の観点から、4月末あたりをめどに追加緩和が行われるとの期待が高まる可能性があると言う。
その上で、生鮮食品を除くコア消費者物価(CPI)前年比が0.5%割れとなる春先は追加緩和なしで乗り切ったとしても、「さすがに10月末の展望リポートのタイミングで『2年で2%』の期限切れが衆目の事実となるため、達成時期の1年先送りとともに、市場を納得させるため、『落とし前』の意味も含めて追加緩和に動く」とみる。
日銀は昨年10月31日の決定会合で、「消費税率引き上げ後の需要面での弱めの動きや原油価格の大幅な下落が、物価の下押し要因として働いている」とした上で、「短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクがある」として追加緩和に踏み切った。
コアCPIはマイナス転落も原油価格の指標であるWTI(ニューヨーク原油先物)は日本時間16日4時現在1バレル=46ドル台と、昨年10月末から足元にかけての下落幅は43%と、前回中間評価を行った7月中旬から10月末までの下落幅(20%)を大きく上回っている。
JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは「原油価格が当面現状並みで推移すると仮定すると、コアCPI前年比は本年央までにマイナスになる可能性は高い。日銀が主張し続けてきた『2年以内に2%物価実現』の公約は早晩見直す必要性が出てくる」と指摘する。
エコノミスト調査では、半数近い15人がコアCPIは年内にマイナスに陥る可能性があると回答した。HSBCホールディングスのデバリエ・いづみ日本担当エコノミスト(香港在勤)は「コアCPIのマイナス転落は日銀の追加緩和の引き金になる」と予想する。
デバリエ氏は「コアCPIの下落は原油価格下落が主因であり、その影響は一時的とは言え、人々のデフレ心理を永遠に取り除こうと躍起になっている日銀にとっては深刻な障害となる。信認という観点からも、メディアがコアCPIのマイナス転落を騒ぎ立てている状況を日銀が傍観するとは考えにくい」と語る。
量的・質的緩和に限界説もシティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは「今後、実際のインフレ率が前年比0%に近づけば、政策決定の論理を変更しない限り、日銀はインフレ期待への波及を防ぐため再度の金融緩和に踏み切る」と予想する。
明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミストも「黒田総裁は『物価目標至上主義』的な立場を崩しておらず、物価目標の達成が困難となれば追加緩和に踏み切らざるを得ない」とみる。
一方で、長期国債を大量に買い入れる現在の量的・質的金融緩和の枠組みは限界に近づいているとの見方も出ている。現物債市場で長期金利 の指標となる新発10年物国債の337回債利回りは16日、日本相互証券が公表した前日午後3時時点の引値より2ベーシスポイント(bp)低い0.225%で開始し、過去最低を付けた。
日銀は新しい手法を模索BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「追加緩和期待はあるが、実現可能性の観点から、追加緩和は相当難しい」と指摘。「インフレ率の低下が続く中、黒田総裁は苦しい対外説明を余儀なくされるが、エネルギーを除いたCPIがあまり低下していないことなどを強調し、市場からの追加緩和プレッシャーをかわす」とみる。
大和証券の野口麻衣子シニアエコノミストは「黒田総裁は『できることは何でもやる』姿勢を強調しているため、いずれ再度追加緩和が投入される可能性を完全に排除することはできないが、既に実務的に限界に近い緩和策が打ち出されていることから、追加緩和なしをメーンシナリオとしている」という。
東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは「日銀は景気が春以降加速すると見ているので、15年度のコアCPI見通し(政策委員の中央値)が1%台前半でも、年度後半には2%に行くと言い続けると同時に、食料及びエネルギーを除く総合、いわゆるコアコアCPIへの着目を促しながら、現状維持をしばらく続ける」とみる。
しかし加藤氏は、「15年度の2%達成はさすがに困難となったら、追加緩和策だろう。国債買い入れの増額は厳しいので、別の新たな資産を探していると思われる」としている。
日銀ウオッチャーを対象にしたアンケート調査の項目は、1)今会合の金融政策予想、2)追加緩和時期と手段や量的・質的金融緩和の縮小時期および「2年で2%物価目標」実現の可能性、3)日銀当座預金の超過準備に対する付利金利(現在0.1%)予想、4)コメント-。
1)日銀はいつ追加緩和に踏み切るか? ================================================================== 調査機関数 33 ------------------------------------------------------------------ 1月 0 0.0% 2月 0 0.0% 3月 1 3.0% 4月8日 1 3.0% 4月30日 7 21.2% 5月 0 0.0% 6月 1 3.0% 7月 6 18.2% 8月 0 0.0% 9月 0 0.0% 10月7日 3 9.1% 10月30日 7 21.2% 11月 0 0.0% 12月 0 0.0% 2016年1月以降 2 6.1% 追加緩和なし 5 15.2% ================================================================== 2)追加緩和の具体的な手段 ------------------------------------------------------------------ マネタリーベースの増加ペースの引き上げ 20 長期国債の買い入れペースの引き上げ 17 ETFの買い入れペースの引き上げ 20 J-REITの買い入れペースの引き上げ 16 付利の引き下げ 6 ================================================================== 3)日銀は生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI、消費増税の影響を 除く)前年比が2016年度の「見通し期間の中盤頃に2%程度に達する 可能性が高い」としてますが、この見通しは実現しますか。 ------------------------------------------------------------------ 調査機関数 32 ------------------------------------------------------------------ はい 1 いいえ 31 ================================================================== 4)日銀が2%の「物価安定の目標」が安定的に持続すると判断し、 量的・質的金融緩和の縮小を開始する時期はいつ? ------------------------------------------------------------------ 調査機関数 33 ------------------------------------------------------------------ 2015年上期 0 0.0% 2015年下期 0 0.0% 2016年上期 1 3.0% 2016年下期 1 3.0% 2017年上期 2 6.1% 2017年下期 5 15.2% 2018年以降 9 27.3% 見通せず 15 45.5% ================================================================== 5) ドバイ原油価格は8日現在1ドル=48.20ドルと日銀が追加緩和に踏み切った10月31日 から42%下落しています。原油価格が現状の水準で推移した場合、1月の中間評価で 示される2015年度と16年度のコアCPIの見通し(日銀政策委員会の中央値)は何%と 予測しますか。 ------------------------------------------------------------------ 2015年度 1.4% 2016年度 2.1% 15年度と16年度の実質GDP成長率の日銀の見通しについてもお答えください。 ------------------------------------------------------------------ 2015年度 1.6% 2016年度 1.4% ================================================================== 6) コアCPI前年比は今年、一時的であれマイナスに陥る可能性があるとお考えですか。 ------------------------------------------------------------------ 調査機関数 31 ------------------------------------------------------------------ はい 15 いいえ 16 ================================================================== 問1に対しての回答の詳細 ------------------------------------------------------------------ メリルリンチ証券、吉川雅幸 10月30日 バークレイズ証券、森田京平 追加緩和なし BNPパリバ証券、河野龍太郎 追加緩和なし キャピタルエコノミクス、Marcel Thieliant 4月30日 シティグループ証券、村嶋帰一 7月 クレディ・アグリコル証券、尾形和彦 10月30日 クレディ・スイス証券、白川浩道 4月8日 第一生命経済研究所、熊野英生 10月30日 大和総研、熊谷亮丸 4月30日 大和証券、野口麻衣子 追加緩和なし ゴールドマン・サックス証券、馬場直彦 7月 HSBCホールディングス、デバリエ・いづみ 4月30日 ジャパンマクロアドバイザーズ、大久保琢史 2016年1月以降 日本総合研究所、山田久 10月7日 JPモルガン証券、菅野雅明 7月 明治安田生命保険、小玉祐一 7月 三菱UFJモルガンスタンレー証券、六車治美 10月30日 三菱UFJモルガンスタンレー景気循環、景気循環研 嶋中雄二 4月30日 三菱UFJリサーチコンサルティング、小林真一郎 4月30日 みずほ総合研究所、高田創 4月30日 みずほ証券、上野泰也 10月30日 ニッセイ基礎研究所、矢嶋康次 7月 野村証券、松沢中 追加緩和なし 農林中金総合研究所、南武志 7月 岡三証券、鈴木誠 追加緩和なし 信州大学、真壁昭夫 3月 SMBCフレンド証券、岩下真理 10月7日 SMBC日興証券、森田長太郎 2016年1月以降 ソシエテジェネラル証券、会田卓司 10月7日 三井住友アセットマネジメント、武藤弘明 4月30日 東海東京証券、佐野一彦 6月 東短リサーチ、加藤出 10月30日 UBS証券、青木大樹 10月30日
関連ニュースと情報: 日銀:「貸出支援」と「成長強化」資金供給の1年延長を検討-関係者日銀:春闘で1%以上のベースアップが必要、物価2%実現へ-関係者日銀:15年度中の物価2%実現は不透明感増す、政策は維持-関係者{トップストーリー:TOP JK<GO>}
記事に関する記者への問い合わせ先: 東京 日高正裕 mhidaka@bloomberg.net;東京 Isaac Aquino aquino1@bloomberg.net 東京 James Mayger jmayger@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:東京 Brett Miller bmiller30@bloomberg.net James Mayger
更新日時: 2015/01/19 06:00 JST