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【コラム】

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 「もう二十年、私も心の成人式を迎えなくては」。神戸市東灘区の主婦、山本広美さんは先日、そんな思いで、「あしなが育英会」が震災遺児らを支えるために運営する「神戸レインボーハウス」に足を運んだ。犠牲者を偲(しの)ぶ会に出席するためだ▼阪神大震災は山本さんの家を全壊させ、四十七歳だった母・啓子さんの命を奪った。母と家を瞬時に失い、二十一歳だった山本さんは「もう終わった」と思ったそうだ▼十六年前に結婚し、二人の子を育てる母親になると、お母さんとのたくさんの思い出が逆に山本さんを苦しめたという。子育てに悩む時、助けてくれるはずの母がいない「穴」を余計に大きく感じるからだ。悲しすぎるから、追悼式には出席したことがなかった▼しかし、東日本大震災が山本さんを変えたという。「私みたいに悲しむ子ができてしまった。私にも何か伝えられることがあるんじゃないか」。そう思い、東北の被災地にも行った▼レインボーハウスの偲ぶ会に初めて出席した山本さんは母の遺影に向かい、こう語り掛けた。「震災で空いてしまった私の心の大きな穴。この穴は決してどんな事があっても塞(ふさ)がる事はない。でも、この大きな大きな穴を大切にしながら、これからも私らしく、私なりにママの娘である誇りを持ち続け生きていきたい」▼それが、山本さんの「心の成人式」の誓いだった。

 

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