こんにちは、ビッグイシュー・オンライン編集部のイケダです。前々からちゃんとお話を伺いたかった、NPO法人Future Dream Achievement(以下、「FDA」)の成澤さん。ついに念願かなってじっくりお話を聞かせていただくことができました。楽しいインタビューとなったのでお楽しみください。
成澤さんプロフィール:
1985年佐賀県生まれ。網膜色素変性症という視覚を徐々に失う難病を抱えながらも、埼玉県立大学保健医療福祉学部を7年間かけて卒業。大学在学中に2年間の引きこもりと決定的な挫折を経験する。
就学の傍らインターン生としてベンチャー企業に勤務。世界一明るい視覚障がい者として、2009年に独立。障がい者雇用に関する、コンサルティングやイベント企画で全国を飛び回る。2011年12月1日よりNPO法人FDAの事務局長に就任。就労困難者に就労に至るまでのトレーニング環境を提供している。
2013年4月にウィルス性髄膜炎とてんかんを患うが、1ヶ月半後見事に奇跡の復活を遂げる。新たな病気を使命ととらえ、今日も一人でも多くの就労困難者を救うために奔走している。
「履歴書の過去にこだわらない採用」から始まった
イケダ:「NPO法人FDA」の生みの親ともいえる「株式会社アイエスエフネット」はそもそも何をやっている会社なんですか?ぶっちゃけ、よくわかってないんです。
成澤:ありがとうございます。株式会社アイエスエフネットは、2000年の創業以来、ITインフラ関係のエンジニア派遣を中心に事業展開してきました。現在はアイエスエフネットグループ全体で3,100人強(2014年10月1日現在)の従業員がいる企業です。
アイエスエフネットグループのミッションは、事業活動を通じた「社会問題の解決」。一人でも多くの方に雇用を提供するため、設立以来2000名以上のエンジニアを育成、輩出してきました。
真のダイバーシティを目指し、一般的に就労が困難とされる障がいのある方や時間に制約がある方(育児・介護者など)の採用も実施。また、育児・ケガ・病気・定年等の理由で退職することのない「終身雇用」を実現できる企業を目指し、公益財団法人日本生産性本部主催「第6回ワーク・ライフ・バランス大賞」大賞受賞をはじめ雇用に関するアワードも多数受賞。
成澤:われわれのミッションのひとつが「就労困難者の雇用創出」です。2014年6月時点で、アイエスエフネットでは約400人の障がいのある方(障がい者手帳または受給者証所持者)が働いています。社員の中には障がい者手帳を取得していない方もいますので、実数はそれ以上です。
イケダ:障がい者雇用においてはまさにトップランナー企業ですね。
成澤:ここまで成長したのも、われわれの会社の特徴である「まずリスクを取りましょう」という姿勢があったからなんだと思います。先にリスクをとって厳しいことをやるから、お客様や家族の人が信頼してくれる、というプロセスです。 どんなかたちかといえば、たとえば、うちのグループでは履歴書にこだわらない採用をするんです。
イケダ:履歴書にこだわらない! 普通じゃないですね。
成澤:僕なんかは履歴書も見えないので(笑)
イケダ:こだわらないどころではないですね。文字通り見えない、と…(笑)
成澤:FDA理事長でありアイエスエフネットグループ代表の渡邉はもともと外資系のIT企業出身で、ITのインフラの可能性を感じていました。が、外資系の会社ということで、ばさばさと人を切っていく現状も見ていました。
彼は稲盛和夫さんの盛和塾にも通っていたんです。そこで「インフラという安定的なビジネスで、働く環境をしっかり考えて、そこに哲学を埋め込んでいこう」という、この三つをかけあわせて2000年にアイエスエフネットを立ち上げました。
2000年に、10坪で浅草橋で会社をつくりました。ところが、人が集まらなかったんです(笑)そこで、やり方を変えて「無知識・未経験大歓迎」というかたちで募集をかけました。 そのときから、「履歴書にこだわらない」採用をすることを始めたんです。現在から未来に向かって、「頑張ろう」とコミットしようと思っている就職活動中の人を、過去〜現在の変えられない事実で判断するのはおかしい、ということです。そのように履歴書の中の「過去」にこだわらずに採用していくと、5年間で1,000人の会社規模になりました。
イケダ:すごいペースで成長してますね!
成澤:うちのグループ全体で年間400人くらいの新卒採用を目標にしているんですよ。 イケダ:400人!下手な大企業より多いですね。
成澤:未上場の企業だとトップクラスじゃないですか。障がい者でいうと全国で毎月40人の採用を目指していますね。
イケダ:毎月ですか!凄まじい会社ですね、本当に。
人を採用してから、業務を考えるというリスクの取り方
成澤:アイエスエフネットグループは考え方がちょっと普通の会社と違っていて、業務があって人を採用するのが普通じゃないですか。うちのグループは逆で、人を採用してから業務を考えます。
業務ありきで採用をすると、業務がなくなった時にはその人のクビを切らないといけなくなるじゃないですか。アイエスエフネットグループは、2000年創業の創業から一度もリストラしていません。これからもやりません。やるときは会社をたたむときでしょう。
イケダ:人を採用してから業務を考える、というのは面白いですね。
成澤:履歴書にこだわらない採用するといいましたが、このやり方だと様々な過去や経歴を持つ人達が集まるわけです(笑)
イケダ:色々な意味で就労に困難を抱えた人たちも集まってくると…彼らに対して、どうやって仕事を提供しているんでしょうか。
成澤:それは、人を採用して、一生懸命見るわけですよ、この人が何できるかということを。
僕の名刺の名前部分は筆で書かれているんですけど、これもアイエスエフネットグループが採用した重度の知的障がい者の方が書いています。
イケダ:ほんとだ、味のある字体ですね。
成澤:うちのグループではまず、親とのリレーションをありえないくらい取っています。その方の場合は、親御さんから話を聞いてみたら「習字が得意」ということがわかったので、習字を活かせる仕事をつくり出しました。
彼が働いている「アイエスエフネットハーモニー」という会社は年間400~450人くらいの見学者がいますが、見学者の名札を、すべて彼が書いています。それを見て泣いてしまう見学者の方もいるんです。「これだよね、仕事というのは」、という感じで。そこから共感して、仕事のサイクルが生まれていくわけです。
イケダ:「共感させて仕事を生む」。うまいですね。
成澤:「同情」じゃなくて「共感」なので、景気が悪くなっても仕事がなくなりにくく、安定感がありますね。
この名刺は、まさにこうして話題が生まれ、われわれの活動が広がっていくツールにもなっています。その意味でも、彼はすばらしい仕事をしてくれていますね。
「お母ちゃんの願い」から生まれる事業
成澤:資格を持ってないフリーター・ニートとか、ブランクのある引きこもりとか、時間に制約のある人とか、世の中にはそういう方がたくさんいらっしゃいます。働きたいけれど、彼らはなかなか採用されない。そんな方々が「ここは過去の経歴にこだわらないらしいぞ」と集まってきて、うちのグループで一生懸命働いているわけです。
彼らと一緒に働くことは楽しいですし、彼らの吸収力、活躍度合いが経営戦略として活きて、今があります。
またその過程で、彼らがここに来るまでの「理不尽さを知ってしまった」んですよね。社会起業家って、「社会起業家」になろうと思ってなった人はいないじゃないですか。自分たちが歩んできた道を後ろから追っかけてきたメディアがそう呼んでいるだけで。
イケダ:まさに。「社会起業家になりたい」というのは妙な言葉です。
成澤:たとえば、「150社くらい落とされました」という障がい者の方がいて。9:00~17:00、週5日働けないとなると、やっぱり書類選考で通らないわけですよ。こういうおかしな問題を「雇用」というフィールドで解決しようということで、20大雇用を掲げた雇用創造をやっています。
僕らの事業は誰が作っているか?というと、マーケットではなく「お母ちゃんの願い」から作られています。お母ちゃんたちの、「私が死んだとき、うちの子がちゃんと生活できるようになっていてほしい」という願いですね。
うちのグループでは、2016年までに、当グループで働く障がいを持つ方の平均賃金を25万円にしようとしています。今は能力によって約14〜30万円くらいです。
われわれは、お母ちゃんをはじめとした親御さんの不安を聞いて、そこで事業をつくっています。そのとき「願いを全力で実現するので、代わりにあなたたちも手伝ってくださいね」、というかたちにしています。
イケダ:なるほど!仲間にしてしまうんですね。
成澤:うちのグループはもともとB2BのIT事業をやっていましたが、さらに広げてB2Cの「衣・食・住」事業も始めました。それも、「うちの子が働いている姿が見てみたい」というお母さんの声があったからです。
たとえば、障がいを持っていても一人暮らしをしてほしいという声があったので、神奈川県川崎市、愛知県豊橋市、東京都江東区は南砂にグループホームをつくり、さらに拡大をはかっているところです。できるだけお母さんの声があるところに事業をつくっていきたいなと考えています。
自分の会社で産業を生み出し、消費する「自産自消」
成澤:衣食住まで広げれば、もっと色々な働き方がありえるんじゃないか、と思うんですよ。 たとえば、仙台で松島町とアライアンスを組みながら農家の皆さんと農業生産法人も運営しています。そこでは障がいのある人や、元引きこもりの人が農業をしていて、社内の人間がそれを買うことができます。健康に良いというのもありますし、障がいを持つ人の雇用にも、地域活性化や農業をする高齢者の支援にもつながります。
うちのグループはすでに3,100名以上の従業員がいるので、そこがひとつのマーケットなんですね。自分たちのグループで産業を創って、消費していこうということで、「自産自消」といっています(笑)
「どうやったらうちのグループの社員が買ってくれるか?」を考えながら、農業の他にもレストラン、カフェ、お弁当屋、携帯ショップ、貸し会議室、貸しタオル屋などなど、色々バリエーションをつくっています。面白いところでは、表参道で創作料理のレストラン「l'artisan(ラ ルティザン)」を経営しています。
イケダ:表参道で!えらいオシャレな場所ですね。地代高そうな。
成澤:はい、昨年の12月からです。骨董通り沿いで。障がいのある人が働く最も家賃が高いレストランだと思いますよ(笑)「表参道で障がいのある人が働いてもいいじゃないか」ということでやっています。2階はセミナーやプチウェディングもできるようになっています。これまでに有名人の方もいらっしゃっていますよ。
「衣・食・住」の事業の何が良いかって言うと、関わる人が全員客になってもらえる、ということです。もっと言うと、僕らのグループを通じてお金を使ってほしい。人って、お金を払った瞬間に、急に意見をいうと思っているんですよ。
イケダ:おぉ、おもしろい観点です。
成澤:我々のような事業の規模や内容だと、あまり意見を言ってくれる人がいなくなってくるんですよね。寄付などの投げ込式の募金だと、そういうことが起こりにくいと思うんですよ。そういう意味でもお金をどんどん介在させていきたいな、と。
「あそこに行けば雇用してくれるらしい」:ISFnetが取り組む「20大雇用」
成澤:はじめは「5大採用」ということで、障がい者、フリーター・ニート、引きこもり、ワーキングプア、シニアの方を対象に雇用を創っていきました(参考:アイエスエフネットグループ5大採用達成宣言!)。
そんなかたちで事業を展開していたら、「あそこに行くと雇用してくれるらしい」ということで、DV被害者、犯罪歴のある方、若年性認知症などなどの方々も訪れるようになりました。そういった方々を含めて10大雇用へと枠が広がり、今は「20大雇用」と呼んでいます。この該当者が約1200名、社内にいると見積もっています。
- ニート・フリーター
- FDM(注:アイエスエフネットグループでは障がいのある方を「未来の夢を実現するメンバー」として、FDM(Future Dream Member)と呼称している)
- ワーキングプア(働く時間に制約のある方)
- 引きこもり
- シニア
- ボーダーライン(軽度な障がいで障がい者手帳を不所持の方)
- DV被害者
- 難民
- ホームレス
- 小児がん経験者
- ユニークフェイス(見た目がユニークな方)
- 感染症
- 麻薬・アルコール等中毒経験者
- 性同一性障害
- 養護施設等出身の方
- 犯罪歴のある方
- 三大疾病
- 若年性認知症
- 内臓疾患
- その他就労困難な方(失語症)
成澤:うちのグループらしいな、と思ったのは、何年か前に全社朝礼で「無事に性転換手術をしました」と朝礼の大勢のグループ社員を前にして発表した方がいるんです。この会社で数年働いて、気持ちが決まって、性転換できて、それをみんなの前で言うことができたというのは、僕らの会社っぽいなぁ、と。
イケダ:多様性を認め合う素敵な職場ですねぇ。
成澤:「20大雇用」に関していうと、犯罪歴のある人だということが「後から」わかったという人もいます。
会社が「犯罪歴のある方も雇用します」といったところ、カミングアウトしてくれました。親御さんは「絶対会社には言うな」と言ったそうですが、その方はカミングアウトしてくれました。統計的にみた場合、働いている人の数%は何らかの犯罪歴がある方が含まれているはずなんだそうですよ。過去にこだわらず、人間性で採用を行なっているとこういう事もあります。正直に話せる環境は大切ですね。
イケダ:バレるんじゃないか、と罪悪感を抱えながら働くのはよくないですもんね。
NPO法人「FDA」の役割
イケダ:FDAとアイエスエフネットの関係についても教えてください。FDAはどういった役割を担っているのでしょうか?
成澤:まず、FDAが窓口として一般的に就労が困難とされる方(以下、「就労困難者」)を受け入れます。ここでは、基本的にありとあらゆる方を受け入れます。ビジネスマナー研修のような就労支援もやりますが、どちらかというと、我々の取り組みのことを知ってもらおうとしています。
就労支援においては、本人たちもそうですが、親御さんの教育がポイントだと思っています。FDAにおいては、就労困難者の家庭環境としては、「ひとり親世帯である」「家族に他の就労困難者がいる」「親が高学歴である」、この3つのジャンルに当てはまる方がだいたい80〜90%です。
イケダ:興味深い統計ですね。 成澤:ひとり親だとご両親がおられるご家庭の働き方を見たことがない、当事者家族だと、生活保護の連鎖を受けていたり、きょうだいも引きこもっている、といった状況だったりします。
相談者のなかで親が高学歴というケースでは、子どもたちは「人生ちゃんと上がってきて、途中で人生コケたらまずい」というプレッシャーを受けて育っています。そんなこんなで、親御さんの教育にも取り組む必要があるんですね。
イケダ:具体的にはどのような形で就労支援を行うのでしょうか?
成澤:簡単にいうと月謝制の塾みたいなものをやっているとイメージしていただければと思います。まず、資料請求をしていただきます。青山の事業所では引きこもりがメインでしたので、95%はお母さんが単独で相談に来ていました。病院などどこにいってもダメでした、という方です。川崎の事業所がメインになってからは、自治体の支援員の方やケースワーカーの方からの相談が増えましたね。
ふたつ目のステップでオープンキャンパスのように、実際に来て体験をしてもらいます。体験をしてOKとなったら、1〜3段階のステップを踏みます。1段階目は1日2〜3時間くらい。通勤、体力づくりのトレーニングを行うイメージです。周りの人とコミュニケーションを取れるようにし、環境に慣れていただきます。2段階目は1日4〜6時間くらい、能率は優先せず、無理をしないで決まった時間いっぱい就業出来るようになることを目指します。3段階目はいよいよ最終段階。1日7〜8時間滞在して、本格的に就労に向けたトレーニングをしていきましょう、というかたちです。
それらをどうやって提供していくかというと、1/3が座学、1/3がブレストなどのグループワーク、1/3がお客様からお仕事をいただく実際の就労に近いものです。障がい者手帳を持っていたり医師の診断があれば、障害者総合支援法によって「就労移行支援」のトレーニングを、無料もしくは少ない自己負担額で受けることができます。そういうものが全く付かない方は58,000円という月謝で支援を受けることができますが、ほとんどの方は支援をうけられ無料もしくは少額負担で済んでいますね。
イケダ:なるほど。
成澤:もうひとつ特徴的なのは色々な企業さんから仕事をいただいてきています。寄付や会員はもちろん集めていますが、百万円の寄付を一回してもらうより、10年間で10万円の仕事を出し続けてもらおうと考えています。
僕らがどんな事業で収益を得ているかというと、企業のなかで外注、委託が行なわれているもの、残業によってまかなわれているものをFDAに任せていただけないか、ということをしています。
イケダ:アウトソーシングの請負をしているわけですね。FDAの場合は通常のアウトソーシングと違い、請け負うのは就労困難者の方々であると。
成澤:我々に仕事をアウトソースする意義としては、コスト削減、社会貢献、障がい者雇用の練習になりますよ、と言っています。
例えば、ITでいうとSNSに定期的な書き込みをしてほしい、アンケートを集計してほしい、管理でいうと紙媒体のスキャニングやPDF化、IT以外でいうとコールセンターのような仕事、検品、封入、そういった孫の手的な仕事をしています。
ビジネス書作家の和田裕美さんがFDAの名誉顧問になってくださっていますが、彼女もわれわれに仕事を出してくださっています。献本の仕事、音声のテキスト化などをお任せいただいています。
イケダ:すばらしい!
成澤:うちなら10人くらいメンバーがいたとすれば、半分くらいは障がい者手帳を持っています。そこから雇用が産まれる可能性があります。
われわれに仕事を流してくれている時点で、ある意味、7〜8割は障がい者雇用がうまくいっているんですよ。まずはFDAの社内で仕事をしてもらって、慣れてきたら客先で仕事をしてもらい、社内にいい意味での「ざわめき」を作って、そこから雇用をつくっていこうという狙いです。
中小企業や障がい者雇用のスタートアップにも適しています。たとえば名刺のデータ入力って、アルバイトやご家族が手伝っていたりしますよね。経営者の方には、あなたでなくてもいいことは外に出しましょう、そういうちょっとした色々な仕事を僕らに振ってください、と伝えたいですね。
僕らは障がい者の方々に仕事を切り出して振っていくプロです。僕はすべての仕事を障がい者の方々向けに分解できる自信がありますよ(笑)
というわけで、FDAがやっていることとしては、ひとつは月謝制の塾みたいな職業訓練、もうひとつは企業さんから仕事をいただいて障がい者をはじめとする就労困難者の方に提供する、という事業です。
イケダ:ありがとうございます、ようやく全体像が理解できました(笑)
「比べる相手がいない」「スタッフが当事者」である就労支援
成澤:FDAにおける年間の相談件数は150〜200件くらいだと思います。トレーニングを受けている方は常時70〜80人、一般就労した方が10名ちょっと。15年くらいひきこもっていた方が、FDAを卒業してアイエスエフネットグループで正社員になったりもしています。
われわれの特徴として「比べる相手がいないこと」をテーマにしています。一般的に、就労支援はモデルの作り方が管理側の都合になっている気がします。管理的な発想でモデルをつくってしまうと、横並びのプログラムになり「誰々より就職が早かった、あの人の方がうまかった」、と支援を受ける人が劣等感を感じてしまいがちです。
イケダ:競争が生まれてしまうわけですね。
成澤:FDAには、うつ病、適応障害、高次脳機能障害、不安症、元ホームレス、性別違和(性同一性症)…常時そういう人たちがいるわけです。彼らはそれぞれ事情が違うので、比べようがないわけです。
FDAを利用する多くの方が、これまでの社会の中でつまづいて、ここが最後の砦だと思ってきている人たちです。これまで、トレーニングをドロップアウトした人はごくわずかです。従来の支援機関が「無理」と言った方々も含めて、です。
比較させないような工夫に加えて、うちはそもそも、多くのスタッフ自身が就労困難者です。重度のうつ病の人、アスペルガーの人、ボーダーラインの人たちがいて、スタッフとして立派に働いている。そういう姿を見て「こういう働き方ならできるかも」と近づいていくことができます。各分野の人が現役のスタッフをやっており、支えられる側から支える側に回る仕組みがあります。
FDAである程度溜めて、障がい者手帳があるかどうか、働く時間の長さ、ビジネスのレベル、ITの興味関心、働く場所の配慮などの5つくらいの指標をつくって、適正がある場合はアイエスエフネットグループ企業の一つ「アイエスエフネットケア」という会社に就職できる道筋があります。
このパスのいいところって、FDAから一般就労に出るだけではなく、いつでも戻ることができるんです。株式会社が大変だったら、NPOまで戻ってきて、再トレーニングしましょうということができます。
イケダ:すごい!辛くなってしまっても大丈夫なんですね。よく考えられてますねぇ。仕事の発注に関心がある人は多そうですが、サイト上ではそんなに宣伝してないですよね。
成澤:ウェブサイトでアウトソーシングをマッチング、みたいなことはこれからやっていこうと考えています。けれど、できればトップの方が出てくる会社と付き合いたいなというのもあるんですよ。
トップの方に、まずは現場を見ていただいて、「この人たちに仕事を出してみたい」と思っていただける人とのつながりを大切にしたいと思っています。FDAは色々な人がいるので、それをご理解いただける人とお仕事をしています。すでにお付き合いがある範囲ですと、経営者自身、身内に困難を抱えた方がいらっしゃるという場合や、講演を聴いて共感した、そういう方からの依頼が多いですね。
「青春時代を取り戻す仕事」
成澤:僕は元々経営コンサルから独立して今の仕事をやっていますが、われわれの仕事は何かなぁ、と考えるんですね。「就労困難者」という言葉を使わないとすると、われわれは「青春時代を取り戻す仕事」をしているんです。
イケダ:なるほど、詩的でいい表現ですね。
成澤:就労に困難を抱えている方々というのは、まだ組織の面白さを知らない人たちが多いんです。だから、人と一緒に生きることの面白さを伝えていこうと思っています。 僕個人の最大のミッションは、極端にいうとFDAとかアイエスエフネットとかにはこだわってなくて、「誰かの相手になる仕事」をすることなんです。
僕は今、光しか見えないんですよ。イケダさんの輪郭も表情も見えません。
でも、目が見えなくなって困ったことは特にないんですよ。仕事とか生活とかで。何に困ったか?というと、自分の顔とか手が見えなくなったことなんです。自分の存在、役割、自分はこの世にいるのか、自分の強みはなんだろう、そういうことが揺らいだんです。
イケダ:アイデンティティが揺らいだ、と。興味深いです。
成澤:でも一方で、これって僕以外でも、みんなそうじゃないかと思ったんです。学生や就労困難者の方は「自分って役に立つかな?」と思っている人が多いと思うんですよね。 僕は18歳までガリ勉だったんです。自分で自分を証明するために偏差値を取りにいったんです。19歳からビジネスを始めて、はじめて自分の辞書に「相手」というものが産まれました。そこですごく面白くなったんです。
そのあと目が見えなくなって、僕はあと3〜5年で光も失うという肌感覚があります。で、「なんでそんなに楽しく、笑顔で働けるんですか?」とよく聞かれるわけですよ。部下も全員就労困難者ですし。二重苦、三重苦どころじゃないです(笑)
成澤:それに対する、僕の答えは「あなたが僕のことを笑顔といってくれたときがスタート」なんです。僕の話を聞いてリアクションしてくれて、はじめて自分がいると思っています。自分で自分を肯定したり、自分で相手と関わるためには大抵、相手がいるから自分がいる、ということに気づいたので、相手のためになることをやりたい、と。
アイエスエフネットグループには約1,200名の元就労困難者がいるとみていますが、ある意味で彼らは「相手がいなかった」人たちだと思うんです。人生のなかで、うちのグループに来るまでなかなか「あなたが必要だよ」といってもらえなかったんです。僕はそういう境遇の人たちの「相手」になれたらなぁ、と思っています。
FDAに、重度のうつ病の子で、月に一度自殺未遂をするような子がいます。でも、全然大丈夫なんですよ。その子は自殺しようとしているとき、絶対に僕に連絡くれるんです。僕も、その子には毎日寝る前に電話をして、入退院するときは付いていきますし、家族にも頭を下げて、連絡先を常に携帯してもらっています。絶対死なせない自信があります。働いていることが勇気にもつながると思っています。
仕事で誰かと話すときはビジネスライクなことをいいますが、社内ではカタカナを使わず、怒鳴るか愛情表現しかしません。「責任取るから好きにやっていいよ」「大事だよ」、もっというと「愛してる」とか普通に言いますよ、社内で。
イケダ:「愛してる」って社員に言うんですか(笑)
成澤:全然言いますよ!まずは言葉を投げかけないと。30年引きこもっている人と手紙を往復していますが「必ず大丈夫だ」、というのは絶対に伝えています。「必ず大丈夫だよ」、と何の根拠もなく(笑)
実は、僕は去年、髄膜脳炎でぶっ倒れて重篤になったんです。4日目に目を覚まして体中の管を抜いて「仕事に行かせろ!」と叫んだんですが(笑)、幸い植物状態ならずに済んで。 その日は、姉の命日だったんです。まだお前は死んではいけない、ということなんでしょうね。で、不思議とそういうのは重なるもので、職場復帰して最初に会った人は髄膜脳炎なんです。
イケダ:へぇ!シンクロニシティですねぇ。
成澤:講演や授業でそんな話もさせていただいていますが、おかげさまで共感してもらっていて、インターンにもたくさん来ていただいています。
最近はNPOのレベルが上がってきて、あまり一般企業と差がなくなっているんでしょうね。そこで、実感のある働き方をしたいと思っている学生がFDAの門戸を叩く。有名企業の内定をすでにもらっている人もFDAにインターンに来たりします。就労に困難を抱えた方が「自分って何ができるんだろう」って悩んでいる姿を目の当たりにして、色々学生の腹に落ちるようなんです。
イケダ:FDAで働けたら面白いでしょうねぇ。僕も学生時代、働いてみたかったです。
成澤:僕はひとりじゃ仕事できないんですね。しゃべることと責任を取ることしかできません。いつも2〜3人のアシスタントがいて、学生か就労困難者が、目となり手となり仕事をしてくれています。
僕は感情表現が自由にできるタイプなので、感謝したり愛情を表現するだけじゃなくて、怒鳴り散らしたりもします。相手がどんな顔で聞いているかわからないので、気がついたら相手が泣いていたということもあります(笑)
イケダ:あ、顔が見えないとやりすぎることがあるんですね…(笑)
成澤:申し訳ないとは思いますが…(笑)元引きこもりと学生に支えられています (笑)
一時間あったら、誰かの人生を変えることができる
成澤:アイエスエフネットでは、自分でなくてもいい仕事を社内向けに切り出すんです。これを「ドリームポイント」と呼んでいます。
例えば、名刺のデータ入力という仕事を、よその派遣会社にお願いすると10万円くらいだとします。この仕事を切り出して社内に回すと、10万円分のポイントが僕の営業成績になるんです。
イケダ:なるほど、切り出した側が!すごい仕組みですね。一般の会社でも応用ができそうですね。
成澤:仕事はどんどん切り出していけばいいんです。僕がやらなければいけない単価の高い仕事をやらせてくれる、というスタイルです。 社内でよく言うのが、「僕は一時間あったら自暴自棄になっている人の人生を変えることができるから、時間を奪わないでくれる?」と(笑)。 イケダ:それは重い(笑)
成澤:一度ネットワークビジネスの方が営業に来られたとき、1時間話を聞かされて憤慨しそうになってしまいました。普通だったら一時間15万円だから金返せ!というところでしょうけれど。(笑)
イケダ:普通時給換算ですよね、そこは(笑) そうじゃなくて、時間を返せと。
成澤:僕らの事業は恩返しじゃなくて、恩送りをする事業だと思っています。次の人たちのために仕事をつくろうと思ってやっています。だからこそ、置かれた環境も、持っている障がいも、バラエティに富んだ人たちを積極的に巻き込んでいます。
まずは成澤さんの講演に参加しよう
というわけで、超素敵な起業家です。半端ないエネルギーの方なので、一度、生でお話を聴いてみることをおすすめします。年間で相当な回数、講演をこなしているとのことなのでどこかでチャンスがあるはずです。なお、こちらのサイトから講演依頼も出すことができます。
以前、成澤さんの講演を伺った際に「僕は生き焦ってるんです!」と力説していたんですよね。あれ以来、僕も「生き焦る」ようになりました。とても良い表現だと思います。彼の生き方からは大いに影響を受けること間違いなし。革命起こしたくなりますよ。
【NPO法人 FDA】 特定非営利活動法人 Future Dream Achievement最新情報をお届けします
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊しました。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。