2015-01-19-月
■[ガンダム][富野][トミノ][Gレコ][感想]Gのレコンギスタ第16話「ベルリの戦争」姫と王子のズレと差別
監督=富野由悠季/脚本=富野由悠季
キャラ作画監督=柴田淳・松川哲也
メカ作画監督=城前龍治
粗筋は公式サイトにすごく詳細に書いてあるので。そちらを。
http://www.g-reco.net/story.html
やはり、このサブタイトルを見るに、∀ガンダムの「ソシエの戦争」を連想しがちですね。
ロランの初めての部下が戦死して、ソシエが戦争の怖さを思い知る。
ソシエ自身もそういう戦争の怖さには気づいていなかった。
でも、ロランは
ロラン 「機械人形ってパイロットとか人が見えないから戦えるって言いますけど」
ソシエ 「えっ?」
ロラン 「僕、今日はあの機械人形にはどういう人が乗っているんだろうって想像しちゃったんですよね」
ソシエ 「それでも戦えるんだ。すごいんだね、ロランは」
ロラン 「違いますよ。こいつ、ホワイトドールがすごいんですよ」
と、分かっている。分かりながら、戦えるのがロラン・セアック。これ、ファーストガンダムのアムロが「相手がザクなら人間じゃないんだ」と対になるセリフだよな。ロランはアムロ・レイ(ファースト第2話の段階)よりも人間的な部分での洞察力は深いのかもしれない?
∀ガンダムには超能力者としてのニュータイプは出てこないけど、戦争をせんですむ人類としてのニュータイプはロランやディアナとして出てるんだな。
そう言う風に人の存在を分かりながらも戦えるのは、ホワイトドールがすごいから。「人を殺したくないロランの気持ちを分かって、殺し過ぎない兵器」というすごさだ。
ターンエーガンダムの「ソシエの戦争」と、ガンダム Gのレコンギスタの「ベルリの戦争」は似ている。
・妹や弟が強引に戦闘に出撃する
・「ガンダム」の伝説が語られる
・女王や姫が目的を探し始める
とかが似ている。
- 今回のキーワード「ズレ」
今回のGレコのキーワードは「ズレ」ですね。
もちろん、一番特徴的なのは「キレたベルリの戦闘行為」なんですが。他の登場人物も、全体的な雰囲気もどこかずれているように見えた。
「ソシエの戦争」も「(宇宙人が攻めてきて親が亡くなった)ずれた世界に自分なりの折り合いをつけるためにソシエが暴走する」と言う話だったので。そう考えるとベルリが急に暴走したのも似たようにずれから平静を取り戻そうとした動機だったんじゃないかと思える。
- ズレているベルリ
主題歌で歌っているように「間違わないように、後悔しないように真っ直ぐ生きていたいけど〜」。スマートに失敗しないように生きていきたいって言う脱ゆとり世代のベルリなんですが、「生きていたい“けど”」とずらされてしまって困るのが今回。
アイーダが姉でベルリが王子、という設定が今回明らかにされたわけですが富野ファンとしては夏ごろにすでに富野監督がインタビューでネタバレしまくっていたのを読んでいたので視聴者は知っているわけですが。なので、視聴者の私から見ると驚きでもなんでもなく「2クール目の節目だし後半に向けてブーストするために設定開示なんだな」くらいの気持ちなんですが。
アニメの中のキャラクターであるベルリは「十数年間生きてきた自分」とか「アイーダさんのために戦ってきた自分」がいきなり壊されて、レイハントン家の支援者のオジさんたちに王子扱いされてしまうので。非常におかしくなる。
彼にとっての世界がずれてしまう。ただ、ここで「ソシエの戦争」と同じなんですが「世界がズレた」という所で立ち止まらないで、「ズレた世界を正そうとして戦いに行く」能動性がある。まあ、その結果としてさらにおかしくなるのがベルリの悲しい所なんだが。ソシエは妹でお嬢様なので宇宙から来た美少年転校生のロランに助けてもらえるんだが。男の子には厳しい富野アニメなのでベルリは一人で戦いに行く。
・「勝手に出撃するベルリ」と周囲のズレ
「ガランデンまでがここに来たのなら、直接行って事情を聞くしかないじゃありませんか!」
と、言ってベルリは出撃する。
それで、周囲はベルリが勝手に出撃したと見なす。微妙におかしい。
アイーダがトワサンガまで来たのも「直接行って事情を聞く」ためなんだが。アイーダは姫なので姫が「月の裏側に行きましょう!」って言うとみんながアシストしてくれて月の裏側まで来れた。でもベルリは王子になったのに人が付いてきてくれない。(戦闘が終わった後に来てはくれたけど)
この姫と王子の扱いのズレも興味深い。突貫娘のアイーダ姫様だが、なんだかんだ言って突貫しつつも艦隊のチームの中で助けてもらったり奥にやられていたのがアイーダだが。ベルリはすごく強い騎士でもあるので、そのベルリが暴走すると誰もついてこれないし制止もできない。そういう点で王子は姫よりも孤独なのかもしれない…。
で、ベルリの中ではたぶん「直接行って事情を聞く」のは姉のアイーダもやっていたことだし周りの皆もアシストしていたしそれが正しいと思っているのだろう。正しいことをしているのに、なんでベルリが一人で出た時は誰も助けてくれないんだ!って言うのも苛立ちになる。
トワサンガまで直接来れることになったのはアイーダの思い付きでもあるしそれを利用したクリムなりアメリア軍なりキャピタル・アーミィなりの利益と一致したからなんだろうけど。今回のベルリがガランデンまで行こうとしたのは、メガファウナの他のメンバーと共同することにはならなかったので、利益が一致していないのかもしれない。
あるいは、ベルリがまだ王子として認められていないからなのかもしれないし、ベルリが王子として上に立って人を使う振る舞いが出来なくて自分で動こうとする騎士として行動したから周りとずれて「勝手に出撃した」と言われるのかもしれない。
さらに邪推すると姫は姫と言うだけでシンボルに成れて周りの助力を得られるけど、王子は自らの力で成果を出さないと人心が掌握できないという考えがあるのかもしれない。
クリム・ニックも兵士をまとめるために「ミック・ジャックが未来の女王だ」と言っていたし、富野作品のブレンパワードでもジョナサン・グレーンが「銀河旅行をする時に必要なのは女王です。キングではリクレイマーや軍人という大衆はついてきませんよ」と言ってバロン・マクシミリアンに「さすが私が見込んだ騎士……ナイトである」と言われたからな。
F91のベラ・ロナやターンAガンダムのディアナ様など、国の象徴のアイドルとしての女性というものへの劇的な考え方が富野監督の発想モチーフの一つとしてあるようだ。
シャア・アズナブルは王子ではあったが、結局は象徴として立つ自分を道化として卑下して戦士として果てることを望んだからなあ。
王子と姫と言われるとガンダム的にはシャアとセイラ以外にはガンダムWとかガンダムユニコーンを連想する人が多いと思うんだが、富野作品ではかなりそう言うモチーフが多い。
海のトリトン、ひびき洸、ラ・セーヌの星、神勝平、破嵐万丈、シャアやザビ家、カララ・アジバ、アーサー・ランク、ダンバインの諸国の姫、リーンの翼のリンレイ、ダバ・マイロード、ロナ家、シャクティ、ドゥガチ家、オルファンのクィンシィと比瑪、ディアナとキエル、キングゲイナーとクィーンシンシア、シャルレ・フェリーベとアスハム・ブーン、迫水王とリュクス・サコミズなど、貴種、王子や姫をモチーフにしたメインキャラクターが非常に多い。
だが、この列記したキャラクターを見ると、やはり姫は騎士に守られているんだが、王子は国の業や罪を背負って苦闘したり死んだり失踪するケースが多く思える。(神北恵子やダンバインのお姫様はボロボロだったけども)
その王子と姫の扱いの差が描かれているように思える。社会的なジェンダー意識と言うより、富野監督の個人的な人間観や作劇の癖と言う気がするんだが。
女性は、根本的に戦士たり得ないのは、性の機能が全的に守りにあるからだ。
(機動戦士ガンダムの企画書)
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「ガンダムの現場から」
また、周りに助けられる姫よりも、王子が周りを置いてけぼりにするほどの速さと強さで苦闘して業を背負うことで、周囲とは違う人間としての王子の強さを描いているのかもしれない。(ただ、女性は弱いものとして描いているだけでなくて、Vガンダムの姫や女性たち、オルファンに対峙した比瑪、建国宣言のキエルなど、戦士ではないが政治的な意志の強烈な中心人物になる、と言う展開は過去の富野作品でもある。女戦士は主人公になることは少ないが、たくさん出ている)
ちなみに、レイハントンの両親のモデルはグレース・ケリー(モナコ公妃)らしい。
富野監督は講演会で
僕は高貴な人に会った事が無いんです。だから、僕は本当はグレース・ケリー女王陛下のような方からお呼びがかかるようになりたいんです!
と、叫んだ。
富野由悠季梅田講演会「アニメを通して得た人生観」で「私の個人主義」へ。 - 玖足手帖-アニメ&創作-
グレース・ケリーみたいな金髪女性が好きらしい。
・敵とベルリのズレ
で、出撃したベルリですが。
「こんな景色の所が故郷だなんて・・・」
「コイツに親のDNAが仕込んであったからって、そういうことを飲み込もうと努力しているときに!何でガランデンが来るんだよ!マスクはドレット艦隊をたたくのが任務じゃないのか!?」
と、イライラする。ガランデンはベルリの事なんかお構いなしなのが当たり前だがベルリが勝手に「マスクとドレット艦隊は敵対する」と思っていて、それと違う現実が出るとキレる。敵に対して「自分の気持ちを整理しようとしている時に来るな!」と理不尽に怒るのは個人的な感情としてはよくある怒りだ。現実と自覚や感情がズレていると怒りになるし、戦いになる。
だが、今回は敵は攻めてきてなくてベルリが勝手に攻め込んでいる。ベルリは自分の混乱をごまかして戦闘に没頭しようとしたのだろうか。
ガランデンを見たベルリのセリフも奇妙だ。
「そうか!クンパ大佐の直属の船なら、来たっておかしくないのか!」
「おかしくない?おかしくないというより、変でしょ…!?」
富野台詞だなあ…。ベルリも自分の中での認知が一致していないのか?
「クンパ大佐の直属の船なら、来たっておかしくない」→「アメリア軍がトワサンガに入港しているので、対するキャピタル・アーミィもトワサンガに来てもおかしくない。それで来るとしたらその中でもクンパ大佐の直属のガランデンが来るはずだろう」
「だが、改めて港を見て考え直してみるとドレット艦隊はアメリアのサラマンドラを味方にしようとしているのだから、アメリアと敵対していたガランデンがトワサンガのMSに護衛されて穏便に入港するのは変でしょ?」
と、富野台詞を整理するとこれくらい思考が転換している。
なので、ベルリは自分が変な状況を確かめようとして行動していると思っている。これは6話で海賊軍に居ながらアメリア軍を内偵しようとしてデレンセンを殺害してしまった時とあまり変わっていない。ベルリは自分で見て証拠を探すことが正しいと思っているようだ。だが、正しいと思ってやっていることが事態を悪化させている。
結局、今回やったことも客観的に見ればガランデンの護衛をしているガヴァン隊に対して、YGが不審飛行機として異常接近したので迎撃されただけだし。むしろベルリの方が悪い。
悪いのに、ベルリは「感電して殺されそうになったんです!」と自己正当化する。
また、ベルリはガヴァンから一方的に「応答が無いということはその機体、地球人が操縦しているんだな!」と言われ、すごい顔で「ここで生まれたって地球人ってか!」とキレたんだが、その認識のずれもポイント。また、ガヴァンからの音声は入っているのだが、ベルリは応答していないのだが、してなかったのか、出来なかったのか?どうも、ベルリはトワサンガのザックスとの回線が開けなくて、一方的に警告するガヴァンの声を聞かされていただけのように見える。この通信のギャップもGレコらしさだなあ。
・不殺の理想と現実のズレ
石井マークさんのラジオによると、ベルリはデレンセン大尉を殺めたあと、戦う時はMSの手足をねらって殺さないように気を付けているらしい。
だが前回、ベルリは「これは牽制なんだから誰も死ぬな!」といって長距離射撃をして人を殺した。
で、今回もベルリの操るG-セルフはサーベルを振り回し、ライフルを撃ちまくってザックスを黙らせた。が、一機は頭と上半身を吹き飛ばされた。その爆発でパイロットは大けがをしたかもしれない。実際宇宙でビームやミサイルを撃ちあっているんだから、種ガンダムじゃあるまいし撃破しても殺さないという都合のいいことは言えないでしょ。
実際、ベルリが1機目のザックスを撃破する時に物凄い眼光でにらみつけてビームライフルを撃って上半身を吹き飛ばした。頭を吹き飛ばされたザックスのパイロットが生きているかどうかは描かれていない。ベルリもそれを気にする余裕はなかったようだ。
だから殺したかもしれないんだが、ベルリは「殺しはしない!」と叫ぶ。しかし、宇宙なんだから敵にはその言葉は届くことはなくガヴァンに「大昔にガンダムとか言う…」と怖れを抱かせるだけだった。
そして「殺しはしない!」と言っているが、その後に、
「殺しはしない…!けど今度僕らの邪魔をしたら…!容赦はしない!僕には姉さんだっているんだから!今度は!」とすごい気迫で叫んでいて、つまり次は殺すってことだろう。
それくらいベルリはキレている。だが、キレられてもザックスに乗る兵士はベルリの気持ちや事情は分からないし、そもそも入港の邪魔をしたのはベルリだ。
キレすぎて、ベルリは「人を殺したくない」という理想と、「実際に戦ってしまって殺してしまっている」現実にずれが起こっているようだ。
また、「ソシエの戦争」でのロラン・セアックは「戦っている相手のMSの中の人はどんな人だろうと考えてしまうけど戦える」だったが、ベルリは逆に「相手が何者だろうと自分のうっ憤をぶつけて自分の気持ちを一方的に叫びながら戦う」と言う態度だったので。そして、多分それはガヴァンたちには聞こえてない。残酷だなあ。
で、戦った後にベルリはアイーダに向かって「でも、傷つけただけです。パイロットに何かあったなんてこと、それはしてませんよ」と、言い訳がましく言った。これもズレだ。
で、アイーダもそこは追及せずに「それはわかっています。よくやってくれました」と反射的に褒める。だがメガファウナに戻った後にどうやらベルリをG-セルフに乗せないように考えたらしく、アイーダとベルリは口論になる。アイーダはベルリに「あの戦いは必要だったんですか?」と言うし、ノレドも「ベルが勝手にガランデンに行こうとしなければ!」と責めて、ベルリは格好良く戦いたいという理想を持っているのに女性たちに責められて現実とズレを感じて、さらにいらだつ。
・感覚と思惟のズレ
Gのレコンギスタ第4話「カットシー乱舞」お子たち向けに包まれた深いディスコミュニケーション - 玖足手帖-アニメ&創作-
第4話の感想でも書いたんだが。
「好きで武器を持っているんじゃない!」
と、非戦を叫びながらも自動迎撃システムなのか?ビームサーベルを払ってカットシーが反射的に撃ったロケット弾を弾く。
主人公ですら、戦場でハイになると言ってることとやってることが一致しない!自分自身ですらディスコミュニケーションをしているし、場やマシーンに飲まれることもあるんだ!という非情。圧倒的なマシーンでの不殺なんかありえないし、自分も他人も戦場での命は綱渡り。
そんな破壊行為をやってしまった事に、ベルリは震える。Zガンダムでヒルダ・ビダンを殺害した時のジェリドのように。
、ベルリは生理的にやっちゃったザラッとした感覚に震えて上着を脱いでしまうが、自分に対して「相手を攻撃した」のではなく「相手が引き返してくれた」という言い訳の記憶を自分に対して上書きしてしまう。生理的にはやった感覚を感じているが、理性で自分に嘘をつく。自分自身でもディスコミュニケーションが起こる。
今回もベルリは「自分は敵の機体を傷つけただけで敵の命は奪っていません」と、アイーダに言いながら自分にも言い聞かせているんだが。
不安そうに顔や手首をさすったり、髪の毛をいじったり、生理的な不安感を訴えているような行動をする。
ベルリが「誤解なくわかることができる」ニュータイプだとしたら感覚的には「やっちゃった感」や「殺した手ごたえ」を感じているのだが、口に出して「殺してません」と言うことで理性で感覚を誤魔化しているのかも。6話でデレンセンを殺めた後にもベルリは「教官殿がそんな機体で来るからでしょ」と叫んだりしていて、感覚を否認しようとする行動の癖があるようだ。
それはベルリが優等生だからなのかもしれないんだが。感覚的にも非常に正しい直感を持っているんだが、それを頭の思惟で自分に都合よく解釈しようとしている。だが、体はそれとズレていて、皮膚感覚としては気持ち悪い。
気持ち悪い皮膚感覚をごまかすように、ベルリはシャワーを浴びた後、またパイロットスーツに身を包む。敵対状況ではないのに、一人だけパイロットスーツに着替える。そうしなければ落ち着かないのだろう。
さらに「『宇宙では生き延びることだけを意識しろ』これはキャピタル・ガードの鉄の掟です!」と叫んで鉄の掟に従っていると自分を思い込ませて罪悪感や混乱、感覚のずれから自分を安定させようとする。
ベルリは王子に成ったのだから、突撃してもみんなに承認してついてきてもらったり、戦果を上げてほめたたえて欲しかったのかもしれない。アイーダが姉で失恋したというショックを誤魔化すために、ずれた心の均衡を直すために「姉のために雄々しく戦う王子」になるために突撃したのかもしれない。
だが、その突撃は単に入港警備を邪魔しただけでラライヤには「まずいですよ。こんな攻撃力をトワサンガの軍隊に見せ付けるなんて」と言われ、アイーダやノレドにも褒めてもらえない。そういう王子の甘えは許されないのだ。
戦ったのに褒めてもらえないしガンダムを降ろされるのはアムロに似ているなあ。認められないのはイライラする。
戦った後にアイーダ、ノレド、それとレジスタンスの面々に不満をぶつけたベルリは無造作にパイロットスーツを着て、ヘルメットのバイザーを開閉する。
明らかに着用がずれている。メットとスーツのアタッチメントを付けていないし。
Zガンダムのカミーユ・ビダンも不安定になるとこういうことをやっていたのだが。ベルリは安定を取り戻せるのだろうか?破綻してしまうのか?
ノレド・ナグは機動戦士Zガンダム新劇場版のファ・ユイリィのようにベルリを抱擁してやれるのか?
あと、最近出ていないウィルミット・ゼナム長官は養母としてどうするのか?
今回、明らかにベルリはスペースコロニーを蔑視していた。
キャピタル・タワーのナットにも小規模なスペースコロニーがあって人が暮らしているのだから、ベルリは宇宙に人が住んでいるのは知っている時代だと思う。月の裏側のコロニーであるにしろ、宇宙に人が住んでいるというのはナットと同じだと思うのだが。
しかし、ベルリはシラノ-5に対して「あんな物を生まれ故郷にしろっていうのか…?」と思う。やっぱりキャピタル・テリトリィで育ったという自覚があるのでベルリは自分が「あんな物」で生まれたのは嫌なのだろうか。また、そうするとキャピタル・タワーのふもとで育ってキャピタル・ガードを目指しながら、ベルリはナットで暮らす人たちを内心で蔑視していたのかもしれない。そういう地球で生まれ育ったものの持つ余裕と選民意識が主人公のベルリの無意識にはあったのかもしれない。だから、クンタラのマスクがベルリに対して激しい劣等感を持つんだろうな。
しかし、私は「ベルリは脱ゆとり世代で緩い右翼傾向のある近年の若者」に見えるって前回の感想で書いたが。ベルリはキャピタルテリトリィの首都防衛に志願する右翼青年だったし宇宙から人が来る時かされたら瞬時に敵だと思っていたのだが、自分が宇宙人だと聞かされると腹立つ。自分に中国朝鮮人の血が流れていると知ったネトウヨのようなものか?まあ、日本人は古代から渡来人を太平洋の広くから集めていた民族なので純血ではないんだが。そう言う日本人像については富野監督はリーンの翼や朴璐美さんと出会うブレンパワードや∀ガンダム以前の「アベニールをさがして」で書いていたんだが。
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で、Gのレコンギスタで富野監督が「クンタラを通じて差別の恐ろしさを描きたい」と述べた時に、僕は「なんでわざわざそんな面倒くさいことをやるのか?宇宙エレベーターだけにテーマを絞れなかったのか?」って思ったんだんだが。
どうも、ベルリがスペースコロニーに対する蔑視発言をするのを見ると、宇宙エレベーターがテーマなんだが、そこで行き交う人や住む場所によるヒエラルキーの差別意識が主人公の内面にも有って、しかも差別する意識と差別される立場が主人公に両方あって葛藤をもたらす・・・と言う効果を上げるために差別階級を設定したんじゃなかろうか。富野監督は
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とかを読んでらっしゃったので。宇宙エレベーターもある意味ローマの道になぞらえているんだろうな。で、首都のキャピタルと野蛮なアメリアと寂れた宇宙コロニーと謎の貿易相手国の金星などの階層意識が地政学的に発生するってのを劇に組み込みたいんだろう。
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ガンダムファンって「ジークジオン!」が好きだったり、結構右翼の制服や演説や愛国心の格好よさに引かれる人も多いんですが。
そういう愛国心や郷土愛の裏腹に存在する排他意識の闇をベルリに背負わせているのだろうか?そして、愛国者だったベルリが出生は異国、しかも豊かなキャピタルに比べると貧相な国の王子だった…。嫌だなあ…。と言う気持ち。これは単に失恋したとか養子だったショックではなく、差別意識や異国への嫌悪感も含まれるだろう。
主人公が差別意識を持っているって言うのはかなり危険な作風なんだが。
種のキラ・ヤマトは差別されている側と言う意識でサイをボコボコにして、00の刹那もマイノリティ意識があって、AGEのフリットはメッチャ差別してるけど最後に改心する話だった。
ベルリ・ゼナムはアースノイドのエリートとしての自意識とスペースノイドの王子としての現実のズレが葛藤していて、かなり不安定なんだが。
ユダヤ人の血を引きながらユダヤ人を殺すアドルフに告ぐのアドルフ・ヒトラーみたいなんだが。
ガイア・ギアの地球で養殖されたシャアのクローンでスペースノイドに期待されているアフランシ・シャアというキャラクターも居たか…。
ベルリはどうなってしまうんだろうな…。そして、おそらく宇宙でも差別されているであろうクンタラのマスクとの闘いもあるはずだし。恐ろしい。
- ラライヤの不安定さ
そういう、スペースコロニーが地球から見ると貧弱な土地で、生理的にも差別意識が発生するというのがベルリにもあると思うと、リンゴがラライヤに向けたセリフの意味も重くなってくる。
「地球に住みたいってヤツらはいっぱいいるんだよ!だから地球に降りられたラライヤみたいなのは憎まれるから、守ってやらなくちゃならないんだ!」と、リンゴ・ロン・ジャマノッタ君は言うんだが。いつものガンダムのスペースノイドとアースノイドの確執っぽいんだが、それが根強い差別意識の描写だとすると心理的に重い。ラライヤはトワサンガの人間だが地球に降りられただけで同じ国の人間に憎まれるかもしれない愛国心が生む差別や憎しみ。
ラライヤ・アクパールは記憶が戻ったところで役割が終わったかもしれないが、またそう言う月の中での差別とか政権争いの狭間で苦しむのかもしれない…。次回、ネオドゥというガンダムに口だけ似ているMSに乗ってしまうのか…。戦いに身を投じてしまうのか。
っていうか、なんで少女のラライヤがサポートも雑な偵察任務で地球に落とされたのか?どういう少女なんだ?
- アイーダのズレ
今度はアイーダの話。
レイハントン家に仕えていたロルッカとミラジに対してアイーダは「わたしたちは、あなた方のこの仕掛けに乗せられて、とてもひどい現実と対決してきました」と言い放つんだが、アイーダってG-セルフが来る前からG-アルケインでバリバリ海賊していたよな。この姫様も何か無意識に自分を庇う言い方をしている。
「もちろん。わたしたちを育ててくれたスルガン家とゼナム家の気質を受け継いだということもあるでしょう」(言い訳)
うーん。アイーダは両親の写真を見て感動して、かなり素直に出生を受け入れているようにも見えるが、アイーダの言い方もちょっと変だ。
「けれどG-セルフを操れたおかげで!わたしは恋人を殺され、ベルリは…弟は人殺しの汚名をかぶることになったのです!」
いや、G-セルフを操れたおかげだけじゃないような…。でも、ロルッカとミラジはアイーダがG-セルフと出会う前の戦いは知らないので。隙あらば責任を事情を知らない人に押し付けるアイーダ。ベルリは自分をごまかすタイプだが、アイーダは他人に押し付けていく。うーん。この姉弟は…。どうなんだろうねえ。
アイーダがこんなに指すし元カレを殺した話を蒸し返されるのでベルリはちょっと傷ついたっぽいし。
「あなた方に、使命というもの…理想とする目的があるにしても、そのようなものは、わたしはわたし自身で見つけて、成し遂げます!時代は、年寄りがつくるものではないのです!」
アイーダはキメ顔でそう言った。
ロルッカとミラジは平伏して見せたが、アイーダは彼らの理想や目的に賛同しないと言っているようなものなので。ここもズレだ。
自分で理想や目的を見つけるって言うけど、アイーダは何がしたいんだ?恋人のカーヒルにくっついて海賊をやっていて、それがダメになってなんとなく月まで来たけど。改めて何か彼女自身のやりたいことを次回の「アイーダの決断」で発見できるのか?
で、ベルリが戦った後に戦場では「よくやってくれました」と褒めたのにメガファウナに戻ったら「あの戦いは必要だったんですか?」とさらに地雷を踏みに行っているし。アイーダの言動もどこかずれている。
弟の暴走を姉としてたしなめられるのか?恋人にはなれないとしてもお姉ちゃんの包容力は発揮できないのか?どうなんだ?
- レジスタンスのズレ振り
そもそも、レイハントンコードでG-セルフを操縦できるようにして、アイーダとベルリを探そうって言う行動自体がずれているよね。おかしい。
しかもアイーダとベルリをG-セルフが発見した後も特に通信をしたり教えたりということはなく、彼らが自力でトワサンガに来るまで放置していたし。アホなんじゃないのか?
ドレット軍のレコンギスタ作戦を止めたいと言うのがレジスタンスの意見だが、じゃあそれが何のためなのか、彼らに何の利益があるのか?
フォトン・バッテリーの技術を教えろ、というのがドレット家で、レイハントン家はそれに反対していたらしいのだが。レイハントン家は何故反対していたのか?レイハントン家が滅んだ後でもなぜレジスタンスはレイハントン家の方針を守っていたのか?
レジスタンスの彼らも微妙にずれているし何をしたいのか謎だが、今後を見たら明かされるのだろうか?
- マスクとマニィ、バララのズレ
これまではマスクに恋するマニィがバララに嫉妬する展開が多かったが。今回はバララが「マスクはあの女には甘いかい」と言い放って笑う。
このずれた感じが、バララに次回新マシーンを使わせることになるんだろうか?
また、マニィが船全体の作戦が分かってないで無線を使ってマスクに怒られた後、作戦を説明されるのだが。説明セリフを入れるためにマニィとマスクの立場にずれを作っていて、水が低きに流れるように説明台詞でその差を埋める段取りのつけ方は上手い。
そして、マスクは首尾よく月の技術や戦力だけを手に入れて地球で権力闘争に勝利できるのか?そんなに都合よく行くのか?
- クンパ大佐とのズレ
いつの間にかガランデンに乗って月まで来たクンパ大佐だが。
バララ「マスク大尉はクンパ大佐を信用しているのですか?」
マスク「信用しているからこそ、キャピタル・タワーを包囲しているドレッド艦隊を置いたまま、ここまで来たのだろ?」
さて、この二人とクンパ大佐との関係はここも微妙にずれていないか?
アパッチ軍港でサラマンドラとガランデンが並んで、クンパ大佐はトワサンガの首相と握手を交わす。サラマンドラとガランデンも殺し合いをした船だがトワサンガの港では並ぶ。機動戦士ガンダムのサイド6っぽいんだが。さて、この二つの違う陣営が並ぶことで生じる軋轢とは?また、クンパ大佐はザンクト・ポルトでドレット将軍と顔を合わせるのは避けたが今回、トワサンガの首相とはにこやかに握手した。この行動のずれもどういう意味があるのか気になる。
- クリムのズレた行動
ミック・ジャックはクリム・ニックに対して
「ャピタル・アーミィがやる前にドレット艦隊の主導権を奪うつもりなんでしょ?じゃ、地球に戻ってから政権をとるつもりなんだ?」と問うたし、クリムはそれに沈黙で答えて認めたようだ。クリム・ニック大尉は父が20年もアメリア合衆国を治めている大統領だが、下剋上をするつもりなのか?父の後釜を狙うつもりなのか?大統領の父とズレがあるのか?
クリム・ニックもベルリと同じく王子なんだがクリムはベルリのように人を殺すことにためらいはなく、自分の野望のために人を殺して利用する。
「王子は自分で武功を上げるもの」という意識がある。ベルリとクリムは王子としてそのような戦いに対する態度も違っていて、その異なる方針の王子が今後どうぶつかるのか?と言うのが気になる。
そして、クリムはクンパ大佐について「仕掛け人登場というやつ」と言ったのだが、クリムは何を以ってクンパ大佐にそう言う印象を持ったのか?ザンクト・ポルトでチラッと会っただけで基本的には敵対していたクリムとクンパ大佐だが。クリムも大統領のバカ息子に見えて、いろいろと考えているようだ。
好戦的な性格(公式サイト)で戦士のロックパイはサラマンドラとガランデンが同じ港に入ると戦争に戦争になるとあわてるんだが、指揮官のマッシュナー・ヒューム中佐がキスで黙らせる。
「ここに入港させたら、両方ともこちらのもんなんだよ。何でそういうことがわからんのだ?」とマッシュナー・ヒューム中佐。
ロックパイとマッシュナーの認識のずれも、マニィと同じくロックパイにサラマンドラとガランデンが同じ港に入るという説明セリフを吐かせるための物なんだが。
しかし、女性上司が男性の部下を黙らせるために公然とキスするって、かなりすげえな。
- まとめ
ベルリの出生の秘密が明らかになるというのは夏の放送前のインタビューのネタバレから分かっていたんですが。
単なる失恋とか衝撃だけでなく、理想と現実、感覚と認識、愛国心と差別意識、不殺と殺意、各陣営の政治的な思惑、などなど、色んな階層での「ズレ」を随所で強調することで「話の筋は分かっているけど感情としてはハラハラするし面白い」という、かなり演出の力を繰り出してきている16話だったと思います。
さて、あと10話、約2か月で終るんですが。どうなってしまうのか?
本当に富野監督のリアルタイムアニメは予測がつかない。地球から月や金星に行くというあらすじを知っていても、それをどういう目線で描くのかが全く分からんし、誰が死んでもおかしくない。ベルリは主人公だが、アイーダも主人公なのでベルリが死ぬかもしれない。そういう不穏さがあって、元気のGだけど、安心して見れないアニメだなあ。まあ、そういうハラハラドキドキが面白いんですが。
正義が勝つとも言い切れないしなあ。そもそも正義ってなんだよ?っていうのが富野アニメのお家芸なので。安心できない。
話、わかりたければ見るしかないでしょ!
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- CGと作画
話は全然変わりますが、今回、CG良かったですね!
特に冒頭の川の流れの水面とか、シラノ-5の港の宇宙との境目のバリアの光った表現がきれいでした。
そして、回転しているシラノ-5のリングの立体的な表現にもCGが使ってあった。
こういう背景に地味にCGで手を加えているのが良いなーと。
特にすごかったのは、
この蚊取り線香の煙がCGで揺らいでいるって言う使い方が芸が細かくていいなー。作画でやると煙がキャラと同レベルに主張しちゃうので(エアブラシとかでもできるのかもしれないけど)、ここにCGを使おうという判断はかっこいい。
芸コマで良いです。
で、また作画も作画でよくて、
ここら辺の「良い絵」は吉田健一さん(たぶん)の鉛筆のタッチを生かした感じで名作アニメっぽかった。
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(CGと作画でイデポン宮森発動篇の6話)