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そして僕は、ケータイ屋さんを辞めた。

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最初はそんなつもりはなかったのに、気付けば三部作の超大作になってしまった「元ケータイ屋さん」シリーズ。
今回は遂に「僕がケータイ屋さんを辞めた理由」です。
あくまでも中の人が、そう思った、そう感じた、というお話です。

僕のケータイ屋さん歴

具体的な社名、店舗名は伏せますが(過去記事でわかってしまう気もします…
 2008年 – 一次代理店所属、郊外量販店にて販売担当
 2009年 – 某事業者所属、都内量販旗艦店にて販売担当、後に売場責任者
 2010年 – 某事業者所属、都内量販旗艦店数店舗のラウンダー営業。新規事業だったので畑を耕すような仕事でした。
 2011年 – 一次代理店所属、都内量販旗艦店にて販売担当、後に売場責任者
 2012年〜2014年退職まで – 二次代理店所属、都内併売店勤務&キャリアショップ勤務
 ※この頃は肩書きこそありませんでしたが、店舗責任者同等の業務なども行っていました。

転職歴が一年毎という事はあまり気にしないでください
新しいモノ好きなので、新規サービスの立ち上げメンバーの誘いを受けると断れない浮気性だったのです。
そういう性分だからこそ、1Q〜半年毎に新製品が続々登場する携帯電話や、もっと言えば黒物家電が大好きで、まだだま拙いですが、こういったBlogを執筆するに至っている、ということで。
また、携帯電話に関わるという意味では上記以前にもコンテンツ開発などを行っていましたので、10年以上は携帯電話業界に携わっています。

本当の値段がわからなくなった

『携帯電話は機種変更より新規の方が安くなるから、番号ごと変えよう!』
なんて時代も昔はありまして、この理由・仕組みについて今回は触れませんが、それが問題視された結果生まれたのが『本体代金の分割払い』でした。
しかし、今、ケータイ屋さんに行くとどうでしょう。
『分割金なし!一括0円です!』『解約金は当店負担、更に本体も無料!』みたいなの、しょっちゅう見かけませんか?
むしろこれが普通だ、というくらいになっています。
昨春、こうした本体代の割引やキャッシュバックなどが激化し、市場競争が適切ではないという指摘が相次ぎ一瞬沈静化したものの、昨夏には当時の夏モデルが早速本体一括0円、更にはキャッシュバックなど、ほぼ元通りとなっていました。

さて、僕が売っているこの携帯電話たちは、本当はいくらなんでしょうか?
『適切なキャッシュバック』なんていう、界隈では流行語のように使われるに至った言葉もありましたが、適切な価格とはいくらだったのでしょうか?

それはお客様も同じだった

あるときから、携帯電話を買い回っているお客様以外からも
『このスマホ、一括0円でキャッシュバック付くんでしょ?』
と聞かれる事が増えました。
また、先に述べた昨春の異常な“バラ撒き”はマスコミのいい餌にもなり、残念な事に僕が勤めていた系列のお店は取材の対象になり報じられてしまった事もあり、その直後はお店の電話が「テレビで見たんですけど!」から始まる、当たり前に最新スマートフォンが無料、更には高額キャッシュバックまでもらえて当然!みたいな内容で鳴り止むことがありませんでした。

お客様の多くは、いつからか『本体はタダが普通』になってしまったのです。
2006年から始まった分割販売方式を“新販売方式”と今でも呼称する事がありますが、既にそこから10年ちょっと、全く新しさはないですし、僕がケータイ屋さんになった頃、丁度各社が“新販売方式”に移行したタイミングで同じような苦労を味わい、なんとかなんとかお客様に仕組みをご理解頂き、やっと根付いた『本当の価格・価値』はモノの数年で崩れてしまったのです。

今日安く買ったのに、なんで毎月がこんなに高いんだ!!

そういう声も、徐々に増えていきました。
スマートフォンの黎明期、または普及期の頃でしょうか。
『本体も安い』『更にキャッシュバックも付く』『契約から二年間、大幅な月額料への割引きが付く』
という、まるでファストフードチェーンの謳い文句のような“安さ”を売りにした施策が各事業者、そして販売店で走っていました。
その結果ユニバーサルサービス料だけで2年間インターネット使い放題のスマートフォン、通称“3円ケータイ”なんてモノが生まれるなどしてしまったわけです。
単純にイニシャルコストだけでなく、ランニングコストまで安価にしてしまったら、携帯電話機だけでなく「サービスの価値」も崩れていきます。

その頃、某社の研修に参加した際、僕は講師に一つ質問をしました。今でもハッキリ覚えています。
『このバラ撒きによるARPUの大幅低下は最終的に収益は見込めるのでしょうか?』
この質問に対する講師の解答は
『他社から乗り換えたお客様が2年後、更に機種変更をして頂く事でARPUの回収は可能です』
というものでした。

が、実際、それから二年経った市場はどうだったのか。
ここまでに説明した通りです、二年間甘い汁をたっぷり吸い尽くしたユーザーは決してバカではありませんでした。
賢いのです。だから、またMNPをして、イニシャルもランニングも安く、安く持とうとしたのです。

ここで、少しだけ大きな機転がありました。
在庫処分になる携帯電話はイニシャルコストを節約できる代わりに、ランニングコストは割高になるような仕組みになりました。
もちろん、追加で料金を頂戴するのではありません。
携帯電話を購入した際に付随される『二年間の割引』を先に本体に充当し安価にし、月額料への割引きを大幅に縮小する方法を取る会社が増えてきたのです。

…しかし、甘い話に慣れてしまった多くのお客様はそれでは納得がいきません。
『友人はこの間、この機種を買って毎月たったのいくらで使っているんだ!!』
なんて契約前のお客様からの苦言を頂戴する事が増えてきたのです。

そして始まる新プラン

昨夏、携帯電話各社から一斉に発表になった『電話かけ放題』を主軸とする新プラン。
ここも多くのお客様から反感、苦言ばかりを頂戴しました。
新プラン最高!!!というのは、本当にごく一部でした。

僕自身は電話をする機会が多い上、家族もスマートフォンの“月間通信量は”ライトユーザーであり、自宅に固定回線も引いている為大きな恩恵を受けられると判断しプランを変更、新プランにはユーザーとしては感謝をしていますし、もちろんお客様にも時間をかけ、それこそ本連載1本目に書いた通り「コンサルタント」だと思い仕事をしていましたから、お客様にご納得頂く事ができ、新プランに対して真っ向から批判をするお客様が、最終的に「新プランで良かった」と言って満足そうに出て行くのを何度も見ています。

しかし、このプランが始まった以降も主要3社のうち、2社は旧来の料金プランを残しています。
残していない某社が、実はさっき書いた「将来的なARPUで…」と宣っていた会社なんですね。
そりゃ、決算報告でボロボロな結果にもなります。信じたユーザーに裏切られた、という見方をすれば可哀相にも思えてきますが、生活必需品となったインフラを売る商売なのですから同情はありません、自業自得だったなと。
実質的な値上げという判断もできますが、何より現場でこの複雑怪奇なプランをしっかりとご案内できるスタッフ教育が出来ていない事が一番の問題だと僕は考えていますけど。
“市場で一人負け”などとも評されているわけですが、もちろん、旧来プランを残し続ける他社もそのうち、何処かで今現状の新プランに統一する日がくるかもしれませんし、それをキッカケにユーザーの考えが大きく変わる日もやってくるかもしれません。

肥大化する格安SIM市場、そしてSIMフリー化へ

これ、MVNOの各社はうまかった、すげぇうまかった、ホントにすげぇや!って思います。
もちろん、普通の販売店にいた僕からすれば悔しい気持ちもありましたが。
先の新プランの価格設定に納得のいかないユーザーをどんどん取り込みますし、最低維持費が安く持てる会社のそこそこ最新スマホを販売店で買ってもらい、極端な言い方をすれば格安SIMカードを挿すだけで不便なく使えてしまうんですもん。

また、こうした格安SIMカードや過激過ぎた携帯電話の投げ売りに対する国の解答は「SIMフリーの義務化」でした。
もっと以前から議論討論されてきた話ですが、タイミングとしては昨春の市場動向が大きなトリガーになったのは事実です。
スマートフォン自体も随分と性能進化も鈍化、動作についても不満がないという成熟の時期を迎えており、またスマートフォン自体の“自由度”から、使い慣れ親しんだスマートフォンを安易に買い換える事なく、自分に見合った事業者・サービスを利用したいというユーザーはどんどん増えてきています。

…となると、今現状、本体販売と回線契約がセットの僕らの仕事って、そう遠くない未来にどうにかなってしまうのかな?などと考えたりもしました。
※もちろん、リテラシーの高いユーザーが全員ではないため、すぐに変わる事はないでしょう、と願っていますが。

いじめられる販売店

僕たちは、弱者です。
何故って代理店だから、販売店だから。
事業者があって、そこと契約を締結して初めて代理店として携帯電話販売を行えます。
好き勝手にドコモのケータイを回線とセットで売ったり、auのケータイを回線とセットで売ったりはできません。
代理店として認められたからこそ、僕たちはお客様と接し、お客様の大切な情報をお預かりして事業者へ送り渡す事で初めて携帯電話を販売する事ができます。

だからこそ、事業者の言いなりなのです。

もちろん、弱者である僕たちも「これだけ売ったよ!!」と見込まれる以上の実績を出せばフィーは増えます。
しかし、今販売店が置かれている状況は「次のクオーター、この店を閉めずにやっていけるのか」というレベルのギリギリです。フィーを増やして!!などと言える余裕もなどもう全くないのです。

いじめられるとは?淘汰とは?

今、結構過激な事を書きましたね。
でも事実なんです、淘汰の時代がやってきました。

とある事業者は言います。
「併売店は全部の事業者が狭い中にぎゅーぎゅーに並んでいる。販売員も全部のキャリアの知識を知っているから、高い機種変更を売るより、ウチのユーザーを他社に流してしまった方が売れるから害だ」

別の事業者はこう言います。
「併売店が無茶な価格をするから全体的な市場価格が崩れるから悪だ」

もちろん、店舗にやってくる各社の営業さんはそんな事を言いません。
むしろ親身にお店の不満、要望を聞き、もっと売れる環境を作るために協力をしてくれます。
しかし、もっともっと上の方の、きっと雲の上の方の人たちは、そんな事はお構いなしです。
『実績の出なくなったお店には支援をしません』と、どんどんバッサリ下の方のお店を、最終的には代理店を、どんどん切っていくのです。
もちろん、こういう店舗や屋号への順位制評価制度は昔からありますし、それに応じた人件費支援が変わるとか、デモ機が入る入らない、キャンペーンの実施数が変わるというのは仕方のないことだと思います。
ただ「そもそも支援しない」ような仕組みに最近は変わってきたのです。

もちろん、僕ら中の人たちも甘えていたんだとは思います。
冒頭で触れた「本体一括0円」や「高額キャッシュバック」などなど、何もしないでもお客様が入ってくる事に、そして記録的な販売実績を出す事に酔っていました。
気付くのが遅かったんです、相当に酔っていたのです。

生き残る為に必死になる、そして販売の軸がわからなくなる

そんな中、もう業界全体ですり減らしてしまった電話機本体の価値、サービスの価値を今更必死に訴求する事、そしてお客様に分かって頂く事、そういう事に限界がきたのでしょう。
もう使い古された「メール機能付きフォトパネル」など、そうした商材を売る事ばかりに熱が入っていきます。
事業者も意地悪ですね、こうした商材を売るといつもより大きなフィーをくれるんですから。
だから売らないといけない、しかしこれだけで売れることはまずありません。
キャリアショップなら料金の支払い、故障受付、色々な来店理由がありますからついでにこうした商材を売るチャンスは販売店に比べると多いのかもしれませんが。

なので、ちょっと前よりも確実に高いと感じられるようになってしまった電話機と料金を必死に説明し、やっと1台、お客様に信用して頂き、お客様も気持ちよく新しい1台を迎え入れる気持ちになり手続きを進めます。
しかしこうした商材は「全員が欲しくなるモノ」ではありません。
ここが腕の見せ所だ!という方もいらっしゃるとは思います。しかし、これだけ複雑化した機種、サービスを散々お客様にご案内しやっと納得して信じて頂けた後に、またはその中に、こうしたノイズが入ってくるって、それはどうなんだろう?と。
そして案内をしなかった、最終的に実績が出なかった、そういう状況が数日続けば販売店を統括するエリアマネージャーに詰められるのです。
もちろん、これを売る事が淘汰の時代に生き残る術なのはわかっています。クモの糸、藁に縋る、そういう気持ちでここに取り組まなければ明日がないのです。

しかし、こんなにも価値が見えなくなった携帯電話の価格の先に、何故強引な付加価値提案と称して色々他を売らねばならないのでしょうか?
どんどん僕の中では、何を売るのかが、どうしたら満足頂けるのかがわからなくなりました。

奨励金、ネットワークインセンティブ、要するにフィー

エグいですね、更には年々厳しくなっていた部分が更に減らされました。
また、新プラン獲得でなければ支払いませんなどと言い出す事業者もありました。
新プランから旧プランへ戻す事が可能な事業者は、お客様による直近での変更に対しての支払いを行わないとも。
また、微々たる販売店の利益ですが、下手なアフィリエイトよりも1台の販売(1件の契約獲得)よりも入ってくる額は少ないのです。
だからこそ、販売店は独自に“頭金”という店頭支払金を設定したわけですが、実際にはネットワークオプションなどと呼ばれる付加サービスにお客様にご加入頂く事で発生する奨励金でここを相殺値引き(多少のプラス)で利益率をあげてきたのに、この頭金という仕組みも「本体総額の一部を頭金とする」のではなく「本体総額とは別に店舗毎に設定し販売が可能」な宙ぶらりんの金額設定であり、多くの指摘や、オプションへの加入を強制する店舗の続出などにより行政指導が入るようにもなりました。
また、オプションで得られる奨励金も以前に比べ継続利用率をしっかり見られるようになり、短期間でお客様が解除したのなら奨励金は入ってこない仕組みがどんどん厳格化され、そこにかけた時間も労力も水の泡になります。
極端な言い方かもしれませんが、その時間と労力があれば次のお客様へご案内するチャンスもあったでしょうに、それがなくなってしまうわけです。

そもそも、こういう仕組み自体最初から破綻していたんでしょう。
今になって販売の歯車が一気に崩れた、と言ってもいいのではないでしょうか。

追い打ち、それは給料

売れません。
人件費だって削減されます。だから給料が減ります。
もうこれは当たり前の展開ですよね。
もちろん、これがあってもなくなても僕はここまでに述べた様々な理由から辞める事を決めていたでしょう。
いや、実際に決めていました。実際に退職した昨年秋から一年前の時点でも滅茶苦茶だった市場感などに疑念は感じていて、一度退職の意志を会社に伝えていました。
結局、色々とあってお流れにそのときはなったんですけどね。

そして僕は、ケータイ屋さんではなくなった

辞めました。遂に、辞めてしまいました。
そもそもなんで僕はケータイ屋さんになったんだろう、そういう話を色々な人と話していますが格好付けた言い方をするとき
『きっとこれからはモバイルの時代が来る、だから会社にいてできないモバイルの開発をする為に、もっとエンドユーザーに近い場所で市場を知りたかった』
という話をしてきました。もちろん、これは間違いではありません。実際にお客様の目線を知る事で、今までに個人受託として色々な開発をする際に役立ってきました。
しかし、根本として
『新しい携帯を何にするか悩んでいる時間のワクワク感。遂に手にしたときの喜び、あれをもっと色々な人に味わって欲しい、その感動をもっと大きなものにしたい』
と、自分の持てる知識など総動員して、そんな事ができればさぞ楽しいだろうと思ったのが本当にキッカケでした。
ですから、今の“本当の価値がわからなくなった市場”には凄い違和感を覚えています。
現場の最前線で売っているはずなのに、自分の販売に自信が持てなくなりました。もちろん、今も売場に立てばお客様にとって一番のコンサルタントとして接し、最適な機種もプランも導けるでしょう。
ただ、20年続くこの販売システムが続く限り、またきっと、ある日、自信を無くす、光が見えないような、泥沼の中にいる気分に浸る日が来てしまうと考えています。

時々『ケータイ乞食が悪い』という話を耳にすることがあります。
ただ、その乞食を産み出すのは『施策』であり、それを考えるのは『販売店』『代理店』、そして『事業者』です。
直近のスマートフォンブームもこうした歪んだ販売が無理矢理に競争を激化させた結果だと思います。
もちろん、世界市場はうんぬん、キャリアは土管屋に…などなど、色々な事実や視点ありますが『ケータイ乞食』を真っ向から否定することなど、火を付ける場にいた僕にはできません。
相当火を付けました、市場にガソリンをぶちまけ、火を付けた、いや、TNT火薬でドカンと爆発させる程度に、そうした販売手法の最前線で、それこそ3円ケータイも、高額キャッシュバックも、複数台購入のテクニックも、定期的に回線を動かして稼ぐ方法だの、そういう事を指南するような立場になっていた時期もありました。
ですから、大きな事は言えません。
僕がケータイ屋さんを辞めたのは、自業自得なのかもしれません。

ただ、決してそれだけでなく、これだけ生活必需品となった携帯電話というものがいつまでも歪んだ販売システムの中で、正当な価値をも失い流通するのは如何なものか、そう言い残して本稿を〆させて頂きます。

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