長らく続いたデフレからの脱却とともに、円高から円安へ、原油高から原油安へと、経済環境ではパラダイム転換が起こりつつある。さらに企業経営へと目を向ければ、「IoT(Internet of Things=モノのインターネット)」をキーワードに、「第4次産業革命」の波が押し寄せている。
こうした大転換期には、過去の慣習や成功体験に捉われず、事業や企業文化を大胆に変革することが求められる。とはいえ、実際の変革には痛みを伴うことも少なくない。リーダーの覚悟や、現場の当事者意識が重要になる。事業構造改革、グローバル化の進展、新技術開発など、様々な分野で会社の変革を促し、成果を挙げてきた経営者たちが“講師”となって、経営論を語る。
(2013年3月4日号より)
写真フィルム市場の急減に直面した富士フイルムホールディングス。だが、事業構造の大転換を進めた結果、より強い会社に生まれ変わった。改革をリードした古森重隆CEO(最高経営責任者)が骨太の経営論を語る。
ピーク時に写真フィルムを含む写真市場で営業利益の7割を稼ぎ出していた富士フイルムホールディングス。だが、デジタル化の進展でフィルム市場は急減、本業消滅の危機に直面した。
その中で古森重隆CEO(最高経営責任者)に率いられた富士フイルムは事業構造の大転換に着手し、別の会社に生まれ変わった。2012年1月にチャプターイレブン(米連邦倒産法第11条)の適用を申請した米イーストマン・コダックとは対照的だ。
今から古森CEOの改革の軌跡を見ていく。危機時におけるリーダーの役割が改めて分かるのではないだろうか。
今でも鮮明に覚えている光景があります。終戦直後の1945年8月、私が暮らしていた旧満州国・奉天市(現瀋陽市)で満州人の暴動が起きました。投石や略奪を繰り返す群衆――。そのまま、家の前にやってきました。
どうなってしまうのだろう。子供ながらに不安に思って見ていると、父は知人の軍人とともに軍刀を抜き、暴徒と対峙、追い払いました。当時、私は6歳でした。それでも、身を挺して家族を守った父の姿が脳裏に焼きついています*1。