以前読んだ本で、おもしろいなと思ったこと。
- 作者: リチャード・ランガム,依田卓巳
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2010/03/26
- メディア: 単行本
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食べる人類誌―火の発見からファーストフードの蔓延まで (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: フェリペフェルナンデス=アルメスト,Felipe Fernandez-Armesto,小田切勝子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/06/10
- メディア: 文庫
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現代社会の「ヒトの肥満」を考える際、人類進化上のおもしろい仮説が二つあります。それは、「節約遺伝子仮説」と「料理仮説」というものです。
節約遺伝子仮説(thrifty gene hypothesis)は、私たちが狩猟採取民であった時代、食料が乏しい環境を生き抜くために、飢餓に適応した遺伝子(節約遺伝子または倹約遺伝子)を有する祖先が優先的に生き延びることができましたが、飽食の時代になると、体内に効率的にエネルギーを貯めこむ性質は、肥満や糖尿病になるリスクを高めているのではないかというものです。
それ対して料理仮説(cooking hypothesis)は別の考えを示します。人類は、進化の過程で火を用いた“料理”を活用したことによって、料理をしなかった祖先と比べて、食料不足に悩まされることが少なかったのではないかというものです。
現代、ヒトが太りやすいのは、節約遺伝子のような厳しい季節変動に適応したというよりも、生食と比べて極めて消化吸収率のいい調理された料理を食べるようになった要因が大きいためではないかという考えです。
料理仮説を支持するデータとして、大型類人猿も、調理した食べものを食べると肥満になるという研究成果があります。さらに、類人猿に限らず、犬や猫などの哺乳類、ニシキヘビなどの爬虫類、さらに昆虫まで、ありとあらゆる動物は、調理して消化吸収を高めたものを食べると必ずといっていいほど太ります。
ヒトは、生きものの中で唯一調理された料理を手に入れることによって、短時間でより高カロリーの食事を摂取できるようになり、それによって巨大なエネルギーを消費する“脳”、そして文化的な営みをする“時間”を獲得することになったのかもしれません。
生食と比べて、やわらかくて、食べやすくて、私たちを肥やしてくれる料理。「ヒトと料理の好ましい関係はどのようなものなのか」を考えつつも、炊きたてのごはんを目の前に出されたら、その魅力にはいつも打ち負かされます。