田坂教授は、著書『知性を磨く 「スーパージェネラリスト」の時代』(光文社新書)の中で、これからの時代には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という「7つのレベルの思考」を垂直統合した「スーパージェネラリスト」が求められると言われています。
この第12回では、第五の「戦術」のレベルの思考を、いかに深めていくべきかについて、伺いたいのですが?
田坂:そうですね。前回の「戦略」のレベルの知性をいかに磨くかに次いで、今回は、「戦術」のレベルの知性をいかに磨くか、ですね。
そもそも、「戦略」というものは、ただ、「戦略」を論じただけでは意味がありません。現実の「組織」や「市場」や「社会」の変革に取り組む、リーダーやマネジャー、経営者や起業家、政治家や社会起業家は、その変革の「戦略」を立てたならば、それを直ちに、「戦術」のレベルに具体化していき、さらには、現実的な「行動計画」にしていかなければなりません。
たしかに、ビジネススクールで様々な「戦略」を分析し、その理論化をしている学者ならば、「戦略」だけを論じていても仕事になりますが、経営者や起業家などは、それを「戦術」に具体化し、「行動計画」として実行しなければ、仕事になりませんね……。
田坂:そうですね。今日は、冒頭から、なかなか鋭い指摘をされますね……(笑)。
たしかに、こうした連載を読まれるビジネスパーソンは、「戦略を、どう論じるか」ではなく、「戦略を、どう実践するか」が否応なく問われます。
実は、その「実践」という意味では、私自身、若い時代に、忸怩たる思いをした経験があります。
ええ? それは、どのような経験でしょうか?
田坂:恥を忍んで話しますが、昔、アメリカのシンクタンクで働いていた頃のことです。
そのシンクタンクに着任直後、日本の市場でのマーケティング戦略について、米国人のマーケティング・ディレクターと議論をしていたときです。
私が語る日本市場でのマーケティング戦略に対して、そのディレクターが感心しながらメモを取り続けるので、私も、少し得意気味になって、その戦略を滔々と語ったのです。
すると、そのディレクターが、私の戦略提案が終わった後に、何と言ったか?
実は、その一言が、その後の私の「スーパージェネラリスト」としての修業の覚悟を定めてくれたのです。
何と言われたのですか?
田坂:そのディレクターは、私の戦略提案に対して、「なるほど、それはなかなか面白い戦略だ」という賛辞を述べてくれた後、私の目をじっと見て、こう言ったのです。
「What's next action?」
すなわち、「では、その戦略を実行するための、最初のアクションは何か?」ということを、静かな雰囲気ながら、真剣な眼差しで訊いてきたのです。