2015-01-18 なぜ格差は広がっているのにアベノミクスが指示されるのか
■なぜ格差は広がっているのにアベノミクスが支持されるのか ピケティ「21世紀の資本」

自由主義は、自由競争を徹底すれば、機会の平等が得られるという思想である。誰にでも均等に成功のチャンスはある。格差は結果でしかなく、敗者は再び成功に向かってチャレンジすればよい。その象徴が、アメリカンドリームだ。現在の経済学は、単なる科学ではなく、このような思想をもとにしている。
ピケティの「21世紀の資本」(ISBN:4622078767)はここに楔を打ち込んだ。過去の資本を分析した結果、資本主義は原理的に固定した格差を生み出す。金持ちはより金持ちに、貧乏人は貧乏人のままで、それが資本主義の原理であると。それは、ピケティが資本主義の第一法則と呼ぶもので単純に表せた。資本の平均年間収益率r>経済成長率g
さらにピケティは、なぜ現在の経済学がこのような間違いを犯したか、説明する。それは戦争である。世界大戦で、金持ちの資産は解体した。そのために戦後は、一からのスタートし経済が急成長した。このために自由競争の機会が生まれ、機会の平等が広がった。これが資本主義の当たり前だと勘違いした。
しかしいま、先進国の経済は成熟し、低成長時代に入った。もう戦後のような特殊な状況にない。そこでは本来の資本主義の第一法則によって、金持ちはより金持ちに、貧乏人は貧乏人のままという格差の固定が進んでいる。特に自由競争を進めるアメリカにおいて激しい。
では、日本ではどうか。まさにピケティの法則が当てはまる。特に日本は特に世界大戦で、経済が解体した国だ。本当に1からの出発、戦後の奇跡を言われた経済成長。戦後に日本を作った団塊の世代は、まさに自由主義の機会の平等を享受して、がんばることで、富をえることができた。ピケティが指摘する、戦後の中流層の出現である。
その後、日本は低成長期を迎える。しかし団塊の世代は日本の権力をもち、成功体験を忘れられない。経済成長にこそ復活の鍵がある。それとともに、崩れゆく終身雇用、年功序列の中で、既得権益によって、雇用を守っている。とばっちりを受けているのは、あとの世代である。低賃金の非正規雇用、さらには団塊世代の年金を負担する。自分たちがもらえるか、わからないのに。
このように考えると、自由主義を進めるアベノミクスの経済成長戦略は逆方向だ。本来は、先の民主党政権の社会福祉制度の充実、富の分配が正しいと思われる。しかし状況は、複雑のように思う。とうのは、必ずしもいまの日本経済は、親世代/子世代の対立構図にない。
戦後、親が築いた中流の富は必ずしも親のものではなく、家族のものだ。親世代の富が守られることで、子世代へも流れている。たとえばフリーター、ニートなど、比較的自由な子供の生活は親の援助に支えられている。子供として、親の富を享受している。
それによって、子供は自らの家族を養うほどの富を得られない。責任感も養われず、結婚しない、少子化という弊害はあるかもしれないが。しかしさらに少子化は、親の富が分配されずに子に引き継がれる利点がある。
このような傾向は、個人の自立を重視せず、家族を重視する日本特有のものだろうか。社会制度による富の分配は、平等の思想であり、個人を基本とする。個人を重視しない日本では、親の雇用を守る=家族の富を守る方があっているのかもしれない。その意味で、いまはまだ企業重視のアベノミクスの方が日本にあっているのかもしれない。
■21世紀の資本 トマ・ピケティ(著), 山形浩生(翻訳), 守岡桜(翻訳), 森本正史(翻訳)
http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20141011/1413008960
http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20141009/1412861233
ピケティFAQ
http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20141226/1419563185
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