考え直してほしい「2分の1成人式」――家族の多様化、被虐待児のケアに逆行する学校行事が大流行
内田良 | 名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授
■新しい学校行事「2分の1成人式」
いま小学校で、新たな学校行事「2分の1成人式」が大流行している。10歳(4年生)の節目を祝うイベントで、10年くらい前から学校行事に取り入れられ始めている。
20歳を祝う「成人の日」は、先週の12日(月)に過ぎたばかりだ。「2分の1成人式」はこれからが旬で、先週あたりから「2分の1成人式」関連のニュースが次つぎと報じられている(例:NHK「おはよう日本」)。おなじみの「みんなのうた」(NHK)で、「はんぶんおとな」という曲を耳にした人もいるかもしれない。
自治体ぐるみで、式を積極的に推奨しているところも多くある。愛知県は大々的に取り組みを進めていて、「2分の1成人式モデル実践活動」を展開し、親と子の絆メッセージ集「親子でよかった。」の発行、さらにはメッセージソングの作成までおこなっている。
Benesseの記事「9割が満足! 親子で感涙する『2分の1成人式』とは!?」にもあるように、全国的に、式の評判は上々である。学年だよりや、保護者のブログには、「会場全体が感動の涙に包まれた」という報告が綴られている。まさにそれゆえの、大流行であろう。
■イベントの「中身」を問う
保護者の「9割が満足」というこのイベント、10歳の節目を祝福すること自体は、斬新なアイディアで興味深い。だが、問われるのはそのイベントの「中身」である。
2分の1成人式の代表的な「中身」には、次のようなものがある(各学校が以下の項目すべてを実施しているわけではない)。
○将来の夢を語る(就きたい職業)
○合唱をする
○「2分の1成人証書」をもらう
○親に感謝の手紙をわたす。親からも手紙をもらう。
○自分の生い立ちを振り返る(写真、名前の由来)
これらの中身のなかで、私が学校の先生方に再検討していただきたいと思うのは、最後の2点である。このエントリーでは、親に感謝の手紙をわたすことについて、検討を深めたい(生い立ちの振り返りに関する問題点は、「家族の多様化」と絡めて別稿で論じたい)。
■考え直してほしいこと――感謝の強制
「お母さん ありがとう お母さん大好です。」――これは、広島県の4年生女児が2分の1成人式のときに、母親にわたした「感謝の手紙」である(ブログ 気ままに備忘録 and TIPS)。この女児は翌年、母親からの暴行により、その生涯を閉ざされた。日常的に虐待を受けていたとみられている(niconico news)。
女児がどういう心境で「ありがとう」と書いたのか、それは誰にもわからない。ただ一つ言えることは、2分の1成人式では、しばしば親への感謝が強制されるということである。そして何よりも深刻なのは、「親は感謝されるほどに、子どもに尽くしているはず」という幻想が、式全体さらには学校教育全体を覆っているということである。
■私たち大人のあり方が問われている
昨今、家庭内における児童虐待の問題がこれほどクローズアップされているにもかかわらず、まるでそのような事態などありえないかのように、「感謝の手紙」が強制される。家庭で心身ともに深く傷つき、学校でも家族が美化されるとなれば、子どもはいったいどこに逃げればよいというのだろうか。
虐待を受けている子どもが、学校では健気に、何事もないかのように振る舞うことは、よく知られている。とても元気な優等生が、じつは家庭内では毎日のように親からの暴力で苦しんでいるというのは、けっして珍しい話ではない。虐待は、それほどに見えにくい。
私たち大人は、子どもの痛みをいつでも受け入れられる準備をしておかなければならない。私たちが家族をただ素朴に美化し、子どもにそれを強制するとき、家庭で傷を負った子どもは、きっと私たちから離れていくことだろう。
10歳まで生き延びてきた子どもたち(児童虐待防止の領域では「サバイバー」と呼ぶ)を、次の20歳の成人式につないでいくために、私たち大人は、自身の家族観、そして教育における家族観を、問い直していく必要がある。