2015-01-19
■池袋のセンベロ、田中長徳さんのGRワークショップ
センベロという言葉がある。
「千円でベロベロに酔っぱらう」という意味だそうだ。
それくらい安い大衆酒場のことを指す。たいていは立ち飲みだ。
安いのも魅力だが、日曜の昼間からでも飲めるというのはもっと魅力だ。
日曜なんて特にやることないものな。
早送りするみたいに時間を消化したい。
そういう時には酒を呑むに限る。
日曜だから普段あまりいかない街に行こうと思って池袋に出かけた。
ネットで適当にみつけたセンベロに入る。
ウーロンハイ360円。まずまずの安さだ。
さすがに千円でベロベロにはならなかったが、そこそこ呑んで、普通に家に帰って、気持ちよく眠れた。
夜中、目が覚めると書きかけの本の原稿の続きを書く。
とりあえず2時間で4万字書き上がった。だいたい15万字くらいで一冊だからまだ書き初めだ。まあでも一日で四万字書ければ上出来だろう。
書けるときは二日で本一冊くらい書けてしまう。
たとえば以前、企画の本を書いたときはまる二日寝ないで集中して書いた。
しかもVAIO C1の打ち辛いキーボードで。
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けど、それは若さもあったし、書くべき内容は五年間僕がずっと取り組んでいたものだったから、書きやすいテーマではあった。ただ頭の中にあったことを整理してキーボードに打ち出すだけだ。
それに比べると、考えながら書く原稿は遅い。おまけに酒も呑んでる。
それで四万字。まあ悪くないと思った。正直に言って。
平日は普通に仕事をしているので本の原稿は書かないことに決めている。
だから休日しか執筆に充てられない。
けど本の原稿を書くというのは、書き始めたらなんてことはないんだけど、書き始めるまでにウォームアップ時間が必要だ。
今五冊くらいの企画が進行していて、二冊はほとんど書き終わっていて、三冊目に取りかかったところだ。
これだけ書こうとすると似て非なる本ばかりになってしまいそうで恐ろしいが、幸いというか不幸にしてというべきか、同じことを書くのが得意ではないのでまるで違う本になっている。
どれもこれまでに書いたことがないタイプの本で、どちらかというとブログでは単発で実験的に書いたことがあるような内容が多い。んー、まあ最近の僕のブログの読者にとってはそういう本のほうが馴染みやすいだろう。
先日、とあるところで出会った妙齢の女性に「ブログをずっと読んでいて、今日会えるのを楽しみにしていたのに、予想外にタダの肉屋さんみたいでガッカリした」と言われた。
知るか。
と、思った。
それから数日して、また別の飲みの席で、初対面の男性から「ブログいつも読んでます」と言われた。
「あ、そう。ありがとうございます」
と返事するのが精一杯だった。
難しいね。
「ブログ読んでます」と言われたら、「ありがとうございます」と返すしかない。
それ以上、会話が続かないのだ。
だから僕はいわゆる「ファン」を名乗る人に会うのがニガテである。
たとえばブログの内容について聞かれるならまだいい。
「こないだブログにこんなこと書いてましたよね」とか。
けど、ただ「読んでます」って言われても、「ああそう」としか感想が湧かない。
そりゃ、公開しているものだから読んでいただくのは構わないし、できれば楽しんで欲しいと思ってる。
けど、それはそれ、これはこれであって、実生活でもブログと同じようなパーソナリティを期待されても困ってしまう。これはたいていの場合、朝起きたときの少しアンニュイな気分の僕であって、夜の酒場で盛り上がってるときのパーソナリティではないのだ。
「ブログ書くの、だいたい何分くらい掛かってるんですか?」
よく聞かれる質問だ。
「いつも朝書くから、30分から1時間くらいかな」
ブログを書くスピードは本を書くスピードに比べるとかなりのろい。
書く内容が決まってないし、だらだら書いてしまうからだ。
たまにブコメで「長い」と言われることが多いんだけど、君は本を読まないんかと。どんな教育をうけるとたかが1万字未満のコラムが長いと思うのかね。もう面倒くさいからタイトルを「長文日記」とかに変えようかな。
僕は400字詰め原稿用紙10枚という、文章量が身体に染み付いてる。
短く書くよりは文字数を稼ごうと考えてしまう哀しい貧乏ライター出身のサガである。
だである調で書くのは文字数を考えると不利だ。
だから通常、雑誌の記事はですます調で書くのである。
ライターの技術にはいろいろあると思うが、まずいの一番に必要な技術は、どれだけ乏しい情報を紹介する記事であっても、規定のページ数を満たすスキルだろう。行間を引き延ばす、というスキルである。
たとえば「Windows95が発売された」という記事を書くとする。ハッキリ言って発売された、では16文字で終わってしまう。これで1ページのコラムを書こうとすると、この16文字しかない情報をいかに肉付けして4000字の原稿に仕上げるか、というスキルが要求される。
文筆家として超尊敬している写真家の田中長徳さんなどはこのスキルが芸術的に上手い。
「GRデジタルワークショップ」シリーズでは、たかが一台のコンパクトカメラを題材にして、見事なエッセイを仕上げている。
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凄いのは、それぞれの項目が「露出補正」だとか「画面の縦横比」だとか「白黒撮影モード」だとか、コンパクトデジカメに搭載されているなんの変哲もない機能の紹介だけを行うエッセイになってるということだ。
そもそもリコーのGR Digital(現GR)シリーズは単焦点レンズだし、写真に詳しくない人が買っても何の面白みも解らない地味なカメラだ。
その地味なカメラの、さらに地味な撮影機能のひとつひとつについて、たとえば焦点距離なら「GRの焦点距離は28mm固定焦点です」くらいしか説明のしようがないネタについて、「28mmの焦点距離は、丁度人間の視界と等しい距離感となる。これはライカのエルマリート28mm/f2.8に相当するレンズである。かの巨匠、アンリ・カルティエ・ブレッソンがパリの街角で構えていたライカのレンズは50mmのズミルックスであったという。視神経を記録するという意味に於いてこの焦点距離が意味することは・・・云々」(適当に書いてるので原文とはあまり関係ありません)みたいな感じで、GRデジタルというカメラが写真史上のどの歴史に位置づけられているか、そしてこの焦点距離にはどのようなものであるかという解説を加える。
つまりスペック表ではタダの一行で表されるようなことひとつひとつに対して異常とも思えるフェティシズムで細部を描写し、歴史から俯瞰しつつ立体的にフィーチャーの輪郭を描き出すのだ。
このエッセイは本当に田中長徳という人物の才能を強烈に訴えるもので、この本を切っ掛けに田中長徳の本を何冊も読みあさったけれども、GRデジタルワークショップほどに発揮されている作品は少ない。Kindleでも読める、「カメラは知的な遊びなのだ」はけっこう発揮されてるかなあ。
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他にも沢山の人のカメラエッセイというのは存在するし、読みあさったのだけど、やはりGRデジタルワークショップほどに心が揺さぶられる本は少ない。
たかがカメラの解説書なのに、なぜだか魂を揺さぶられるような気がするのだ。
そもそもこんな本を書かせようと思った泄出版の編集者はよほどの切れ者だろうと思う。
普通、いわゆる「単体カメラ本」というのは、買ったカメラの取説を見てもよくわからない人向けに解りやすい図解で使い方を示したり、有名な写真家が競作したり、数々のオプション品をずらり並べたりというだけのものというのが作り方のセオリーだ。
その結果、そのカメラを買った人はもちろん、買うかどうか迷ってる人にも買った気分が楽しめるように売ってしまおうという便乗商売である。
しかしGRデジタルワークショップはそうしたカメラ本とは一線を画している。
パリでGRデジタルとライカとの撮り比べ、それが決してスペック勝負にならないように、「ライカは素晴らしいが、GRデジタルもなかなかどうしていい味が出てる」という落としどころに持っていく巧みさ。
GRデジタルなんてもう初代は何年も前の機械だし、今使えば画質は明らかに見劣りするが、この本だけは今読んでも面白いし、持っていたはずのGRデジタルをまた買いたくなる。GRを持っているにも関わらず。
ただ、さすがにこれを何度も書くのはキツかったらしく、ワークショップはvol.2、GXRワークショップと続いて、最新のGRワークショップは刊行されていない。出たら絶対に買うけど。
とここまで書いて、簡単に字数を測ると6000字。20分前に書き始めたから、そろそろオチにいかないとヤバい。
ま、そんなわけだから紙の本を書いてた人間の感覚からすると僕のブログはそれほど長くない。
むしろ普通だと思う。
ちょっと長めに書いて、あとは編集者が削るのが理想だ。少なくとも尺足らずでページが余るよりはずっといい。
家でピザでも食うか、という思って宅配ピザについてきたチキンやポテトフライを食べる前に炉ばた大将で炙ると、皮や衣から水気が飛んでパリパリになって美味かった。
こんなオチで申し訳ない。
今週も頑張ろう。
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