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庶民の声が隠されるのが、いまの中国の現状
○元旦(木曜日)
中国は旧正月(今年は2月19日)を祝うので、年末年始は31日まで普通に働き、1日だけが休みで、また2日から平常に戻る。とはいえ、やはり新年なので、街はのんびり正月モードである。
そんな正月気分を粉砕するような事故が上海で起こった。大晦日の午後11時35分、新年のカウントダウンを祝うために黄浦江沿いの上海一の名所「外灘」(バンド)に集まった若者たちが、将棋倒しになって倒れたのだ。朝寝坊した私のところには、中国の友人知人から、この事故について記した大量の「微信」(中国版LINE)が入っていた。
そこでテレビをつけて昼の「上海東方衛視」(上海テレビ)のニュースを見たら、トップニュースは、前日晩に習近平主席が国民向けに述べた「2015年新年のメッセージ」だった。これについては先週のこのコラムでお伝えした通りだ。
続いて、上海で起こった事故について、「死者35人、負傷者43人」としたうえで、「党中央総書記、国家主席、中央軍事委員会主席であるところの習近平が、適切な処置を取るよう、緊急指示を出した」とアナウンサーが語った。
その後、韓正・上海市党委書記(市トップ)と楊雄・上海市長(市ナンバー2)を始め、市の幹部が深夜に勢揃いして緊急対策会議を開いたというニュースを伝えた。映像では、韓正党委書記と楊雄市長が蒼白な表情をしている。
さらに、被害者たちが収容された病院の幹部がインタビューに答え、「運ばれた時には息絶えていてどうしようもなかった」といった弁明をしていた。
だが、被害者の遺族たちの声や、その場に居合わせた若者たちの証言、この事故を受けての一般市民の声などは一切ない。かつ番組としての事故原因の分析もない。
このように、国家主席の指示→市幹部の指示→病院の弁明という順序でニュースが進んでいき、一番下の庶民の声が隠されるのが、いまの中国の現状なのだ。上海のテレビ局に「報道の自由」はなく、ただ中南海から指示された内容を流すだけなのである。民主国家とは国情が違うとはいえ、一ジャーナリストとして、こうした状況には驚きを禁じ得ない。これでは犠牲者の遺族が浮かばれないとも思う。
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