編集部より:ビッグイシュー基金と住宅政策提案・検討委員会が実施した調査「『若者の住宅問題』-住宅政策提案書[調査編]-」を通して、低所得かつ独身の若者の多くは、親と同居することで貧困から逃れようとしている実態が明らかになりました。

調査レポートより、NPO法人もやいの理事である稲葉剛さんの文章を転載いたします。


ホームレス化しない「絆原理主義の国」の若者たち

私が理事を務めるNPO法人もやいに、生活に困窮した若者たちが頻繁に相談に来るようになったのは、2003年以降のことである。近年は、全相談者の約3割を30代以下の若年層が占めており、年間二百数十人に及ぶ若者たちが私たちの事務所を訪問していることになる。
こうした若者たちの多くは、ネットカフェ、ファストフード店、脱法ハウス、友人宅など不安定な居所に寝泊まりをしており、路上生活にまでは至っていないものの、広い意味でのホームレス状態に置かれている。私は彼ら彼女らの生活状況を聞き取る中で、現代の大都市における貧困の特徴を捉える概念として、「ハウジングプア」(住まいの貧困)という切り口が有効であると考えるに至り、2009年以降、このキーワードを軸にした社会運動を展開している。

同時に、私たち民間の相談機関に助けを求めに来る若者に共通している特徴として、もう一つ言えることがある。それは彼ら彼女らが親や兄弟姉妹の支援を受けられない状態にあるということだ。

特に10代や20代前半でホームレス状態になり、私たちのようなNPOに支援を求めに来る若者は、ほとんどと言っていいほど、家族との関係が断絶しているか、天涯孤独の状態にある。その多くは、児童養護施設の出身者など、子ども時代に社会的養護の仕組みの中で育った若者たちだ。2008~2010年にビッグイシュー基金が実施した「若者ホームレス」(広い意味のホームレス状態にある20~30代の若者)の調査でも、50人中6人が養護施設、3人が親戚宅で育てられたと語っている。その背景には、親世代の貧困や親族からの虐待・暴力、家庭内の不和といった問題があるだろう。


日本国内の「若者ホームレス」は2008~2009年の世界同時不況で一時的に増加したものの、その後、ホームレス状態に至る若年層は減少していると推察される。ネットカフェや脱法ハウスなど、不安定な居所で寝泊まりをする貧困層の全体像を把握する調査が実施されていないため、路上以外の場所で「住まいの貧困」に直面している若者たちがどのくらいいるかは不明だが、欧米の「若者ホームレス」問題と比較すると、規模の上では日本の「若者ホームレス」問題はまだそれほど顕在化していないと言える。

だが、それは日本の「若者ホームレス」問題を楽観視してよいという意味ではない。考慮しなければならないのは、家族との関係が悪化、もしくは断絶してしまい、親族からの援助を受けられない若者、つまり、これまで私たちのようなNPOに支援を求めに来ていた若者たちは、同世代の中でもマイノリティだということだ。

では、相対的貧困率が16.1%(2012年)にも及ぶほど貧困が拡大している社会状況の中、生活に困窮しているマジョリティの若者たちはどのように暮らしているのだろうか。その実態は、これまでNPOの相談現場では見えてきていなかった。

その答えを教えてくれるのが今回のアンケート結果であると私は考える。
年収200万円以下の未婚の若者の約6割が親族の持ち家に暮らしているという事実は、彼ら彼女らが低所得ゆえに親から独立した住まいを確保できない状態にあることを示している。現時点では親からの支援を受けられている若者たちは、親もとにとどまることでホームレス化のリスクを回避しているのだろう。


ただ、彼ら彼女らがいつまで親との関係を保っていられるのかは、誰にもわからない。また、援助をしている親の寿命がいつ尽きるのかも、誰にもわからない。

いつ来るのかわからない「その時」を座して待つのが賢明な策であるとは、私には到底思えない。最悪のシナリオは、将来、親族による人的支援と親の持ち家という住まいを同時に失った貧困層が一気にホームレス化していくという事態である。


昨年、生活保護法が63年ぶりに抜本改正され、扶養義務者への圧力が強化された。近年、社会保障費削減の流れの中で、「家族による支えあい」を制度の中に組み込んでいこうという動きが強まりつつある。私はこうした政治の動きを「絆原理主義」と呼んで批判してきた。

公的な支援が必要とされる領域において、「公助」を「支えあい」で代替させようとするのは、生存権保障の後退であり、国による責任逃れに他ならないからである。今回のアンケート結果は、むしろ「家族による支えあい」に依存し過ぎた日本社会の歪みを映し出しているように私には思える。

これ以上、「支えあい」を強調するのは、危険すぎる道である。家族による支えが「ホームレス化」のリスクを回避してくれている間に、打つべき手はたくさんあるはずだ。

(稲葉 剛)


『若者の住宅問題』-住宅政策提案書[調査編]-より)







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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。