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 介護の現場の一部で、「老健わたり」と呼ばれる高齢者がいる。自宅で暮らすのは難しく、特別養護老人ホーム(特養)にも入れない。仕方なく介護老人保健施設(老健)を渡り歩く人たちだ。

 東京23区内に住む女性(91)は2008年に背中を痛め、歩けなくなった。それから3カ所の老健を転々としてきた。

 ふりだしは病院の紹介で入った埼玉県の老健だった。「特養とちがい、終身いられる施設ではありません。医師が3カ月ごとに退所の判断をします」。入る前にそう言われた。

 車いすから立つ訓練などを受け、半年たったときに退所を求められた。だが、自宅には戻れなかった。

 当時の要介護度は2番目に高い「4」。すでに夫を亡くし、息子夫婦と同居していたが、昼間は2人とも仕事があり頼れなかった。

 特養はどこも多くの高齢者が入居待ちの状態だった。息子の妻が23区内の老健を探し回り、ようやく顔なじみの職員がいる老健に入れた。そこも1年半で出され、紹介を受けていまの老健に移った。

 それから約4年半たつ。この老健の相談員によると、足の炎症で入院したり食道のヘルニアになったりして、「出すに出せなかった」という。

 だが、ずっといられるわけではない。「様子をみて、今年半ばには移ってもらうことになると思う」と相談員はいう。

 老健は介護を受けることもできるし、医師や看護師がいてリハビリも受けられる。自分で払う費用は特養より少し高いが、有料老人ホームより安くすむ。ただ、けがや病気などを療養して回復させるのが目的なので、本来は長く入り続けることができない。

 しかし、自宅に帰れず、特養も入れずに老健に長くいる人は少なくない。