日比嘉高研究室 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2015-01-18

[]東京大学「軍事研究解禁」ガイドライン改訂で政治的圧力はあったのか

東京大学は狙われた可能性がある

16日の産経新聞の報道が火を付けた東京大学の「軍事研究解禁」をめぐる騒動は、東大総長の声明文書と、『朝日新聞』への大学広報による否定コメントによって、とりあえず今回は一件落着ムードのように感じられるが、それはまったく違う。私は以下の文章で、次のことを主張する。


  1. 東京大学大学院理工科学系研究科の「科学研究ガイドライン」の改訂作業は、政治的な圧力または企図によって行われた可能性がある。
  2. 1.の嫌疑がある以上、同研究科は、この改訂作業について説明する責任がある。
  3. 文章の内容として問題が大きいのは、同研究科の改訂ガイドラインではなく、むしろその後の総長声明かもしれない。
  4. 大学の「軍事研究禁止」の原則は、いま軍事力を上げたい政治勢力と、経済的イノベーションを進めたい経済勢力から挟まれて完全にターゲットになっている。
  5. 科学技術の「デュアル・ユース」に関するリテラシーを上げないと、理系研究者も文系研究者もそれ以外も、4.の勢力に太刀打ちできない。単純に軍事研究=即・問答無用で反対、みたいな脊髄反射的論じ方だと、推進派にはもちろん科学研究の現場にも、そして世論にも声が届かない。

なお、この件については、科学技術社会論が専門の平川秀幸さん@hideyukihさんのツイートがたいへん参考になった。御礼申し上げます。一連のツイートがまとめられているので、ぜひご参照いただきたい。「2015.1.16 報道「東大が軍事研究解禁」関連ツイートまとめ 」http://togetter.com/li/770828?page=1

16日からの報道の流れ

時系列で整理すると、まず『産経新聞』が「東大が軍事研究解禁 軍民両用技術研究容認 政府方針に理解」という記事を1月16日(金)の朝に配信した。

東京大学(浜田純一総長)が禁じてきた軍事研究を解禁したことが15日、分かった。東大関係者が明らかにした。安倍晋三政権が大学の軍事研究の有効活用を目指す国家安全保障戦略を閣議決定していることを踏まえ、政府から毎年800億円規模の交付金を得ている東大が方針転換した。軍事研究を禁じている他大学への運営方針にも影響を与えそうだ。

http://www.sankei.com/politics/news/150116/plt1501160003-n1.html

この産経の記事は当該の東大情報理工学系研究科の文書http://www.i.u-tokyo.ac.jp/edu/others/guideline.shtmlを相当ねじ曲げて解釈している。これには『産経新聞』が2013年から打っていたキャンペーンが関係しているが、後述とする。

このあと、NHKも「東大大学院 軍事研究一定程度可能に」と追報する。11:54である。

ガイドラインは研究の行き過ぎに歯止めもかけていますが、この研究科では今後、一定の程度、軍事研究を行えることになります。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150116/t10014728731000.html

この時点では、NHKの取材に答えた東京大学は、「大学院の研究科がガイドラインを変更したのは事実だが、大学全体として軍事研究を解禁したわけではなく、かつての評議会の考え方を踏襲する方針に変更はない」と回答しており、大学本部?は「かつての評議会の考え方」、すなわち軍事研究を行わないという方向を踏襲すると答えていて、情報理工学系研究科の見解とは齟齬があるように見えた。

もう一つ大事なのは、下村文部科学大臣が閣議のあとの記者会見で、「東京大学が立場をより明確にするとの観点から、情報理工学系研究科のガイドラインを去年12月に改定したことは承知している。東京大学が自主的に判断されたことであり、文部科学省として尊重したい」と回答していることである。

どのような質問が出たのかわからないが、私が把握しているのはこの時は産経とNHKだけの報道で、どちらも東京大学は軍事研究を(一部)解禁したという方向だったから、文部科学大臣のこの回答は、「(一部)解禁」の大学判断を「文部科学省として尊重」すると答えたと受け止められる。

実はこの文部科学大臣の回答は不信なところがないわけではない。東京大学とは言え、問題になっているのは、一研究科の内部向け・学生向けガイドラインである。下村大臣はなぜ、これを「承知して」いたのか。

16時頃に配信されている『読売新聞』の記事でも、東大広報課は

「研究不正など研究を進める上で注意しなければならない点をわかりやすくするために指針を改定した。大学が軍事研究を解禁したわけではない」

http://www.yomiuri.co.jp/science/20150116-OYT1T50109.html

として、NHKに対する回答とほぼ同様の方向を示している。

風向きが変わったのは、21時半頃配信された『朝日新聞』の「東大「軍事研究認めない」 「解禁」の一部報道を否定」という記事である。東大が、上記の各報道について「報道内容が間違っている」と否定したというものだった。

東大によると、このガイドラインは同研究科の学生向けに2011年に作られた。改訂について、広報課は「誤解を招いたようだが、軍事研究禁止の方針はこれまでと変わらず、一部でも認めない」と説明した。「今後は個別の研究を確認し、軍事目的の研究と判断すれば研究を認めない」としている。

http://www.asahi.com/articles/ASH1J5QKRH1JUTIL02N.html

これを読んだ時点では、私はならまあよかったと思ったし、ネットの反応を見た限りではそう思った人たちも多かったようだ。ただ、ここへ浮上してきたのが東大総長の声明である。


濱田純一東京大学総長の「東京大学における軍事研究の禁止について」

濱田純一東京大学総長は、「東京大学における軍事研究の禁止について」という文書を、報道があったその日のうちに出した。これが何時頃発表されたのか私は知らないが、安冨歩さんのブログが「この文章を書いている最中に」朝日新聞の記事が出たと書いているので、少なくとも21:30以前には、この文書が出ていたことになる。大学の総長声明としては異例の早さであるように思える。

この文章、タイトルと出だしこそ

「東京大学における軍事研究の禁止について」

「学術における軍事研究の禁止は、政府見解にも示されているような第二次世界大戦の惨禍への反省を踏まえて、東京大学の評議会での総長発言を通じて引き継がれてきた、東京大学の教育研究のもっとも重要な基本原則の一つである。」

http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/news/notices/3564/

と、勇ましいが、そのあとグダグダになっていって、しまいには、あれ?結局これ軍事研究への参加を否定していないんじゃない?という地点にたどり着く、たいへんに味わい深くも恐ろしい文章である。(論理的にどう滅茶苦茶なのかは、安冨さんが丁寧に「解析」しているので、そちらもご参観をhttp://anmintei.blog.fc2.com/blog-entry-1045.html) 最後の段落はこうである。

このような状況を考慮すれば、東京大学における軍事研究の禁止の原則について一般的に論じるだけでなく、世界の知との自由闊達な交流こそがもっとも国民の安心と安全に寄与しうるという基本認識を前提とし、そのために研究成果の公開性が大学の学術の根幹をなすことを踏まえつつ、具体的な個々の場面での適切なデュアル・ユースのあり方を丁寧に議論し対応していくことが必要であると考える。

http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/news/notices/3564/

この、《「一般論」はやめて「具体的な個々の場面」に対応していきましょう》という論法は、現首相の解釈改憲のときの論法、そして今回の民主党党首選でも細野氏が集団的自衛権について示したコメントと、同型である。要するに、原則を論じるのを止めて、個別の事案に柔軟に=グダグダに対応しましょうという方針の、婉曲的な言い方である。原則が通じないときに、にもかかわらず何かを押し通したいときに、人はこういうことを言う。雲行きが、あやしい。


「デュアル・ユース」とは何か

この文章の読み方として私がもっとも参考になったのは、冒頭にも紹介した平川秀幸さん@hideyukihさんのツイートである。

一昨年から始まった革新的研究開発推進プログラム(imPACT)や一昨年末改正された研究強化法でも、それぞれ軍事技術は「国民の安全・安心に資する技術」「我が国及び国民の安全」というソフトな表現で軍民両用研究・軍学連携推進が謳われている。

https://twitter.com/hirakawah/status/556100099219005440

ちなみにデュアルユースの議論は、大別して、軍事転用可能性をはらんだ研究を、その可能性(リスク)を警戒しつつ非軍事的な発展を狙う規制的な話と、その可能性をチャンスとして積極的に追及する振興的な話の二種類があり、安倍政権のもとで後者が突出してきた感じ。

https://twitter.com/hirakawah/status/555890133031849986

平川さんの解説を私なりに調べ直してまとめると、こういう事である。

まず、濱田総長の文言にあった「国民の安心と安全に寄与」という言葉は、一般用語ではなく、背景がある。ここ数年の科学振興策と関連法改正の中で、「国民の安心と安全」は、「国防」の婉曲語として用いられてきた(ただし、「国防」のみではなく災害対策なども含む)。とりわけ、2013年12月に成立した改正研究開発力強化法の第二八条2に、「我が国及び国民の安全に係る研究開発等並びに〔…〕を推進することの重要性に鑑み、これらに必要な資源の配分を行うものとする」とあることが根幹にある。総長の文言には、この含みがあるとみるべきである。

そして「デュアル・ユース(用途の両義性)」。「デュアル・ユース」とは

研究開発成果やその産物、技術が人類の平和や健康、経済発展などの平和利用に寄与する一方、意図的、あるいは意図しない破壊的行為につながる可能性のある利用により、ヒトや環境に重篤な影響を与える「両義性」のこと。

(「ライフサイエンス研究の将来性ある発展のためのデュアルユース対策とそのガバナンス体制整備」科学技術振興機構 開発研究戦略センター)

http://www.jst.go.jp/crds/pdf/2012/SP/CRDS-FY2012-SP-02.pdf

だという。つまりある研究成果や開発技術が、平和的な利用にも寄与するが、破壊的行為にもつながりうる、という両面をもちうるということを指す言葉である。

平川さんが指摘しているのは、このデュアル・ユースをめぐる議論には、「用途の両義性」の危険性を押さえ込むための「規制」の動きと、「用途の両義性」をテコにして学術や経済、産業を活性化させよう「振興」の動きの両面があり、いま後者の勢いが増しているということである。

平川さんの指摘を読んで、あらためて東大情報理工学系研究科の改正ガイドラインを読むと、これが「規制」の側の文言として、「一応」(一応が重要、後述)できているということに気づく。なにしろこの文書は冒頭に、「この科学研究ガイドラインは、情報理工学系研究科に在籍するすべての学生が、研究を始める前、入学(転入)時に読み理解すべきものです」とある。基本は学生向けの文書なのだ。

すると『産経新聞』は、学生向けの研究科文書の改正をことさら取り上げて、意図的に「東大が軍事研究解禁」という方向に世論を誘導しようとしたのだろうか――。私も最初はそう考えた。だが、調べてみると、そうではない。

どうも、この研究科の文書の改正は、単なる一大学の研究科の学生向け文書という位置づけでは、『産経新聞』にとって――そしてそれとタイアップする政治勢力にとって、最初からなかった。この「改正」と、その報道は、政治的に狙われていた節がある。


軍事開発を解禁したい国会議員たち

改正研究開発力強化法に含まれる「国民の安心と安全」という語の含意を探ろうとして調べてみると、第185回国会 文部科学委員会(第7号(平成25年11月29日(金曜日))の議論が出て来た。同法の内容について議論をした委員会である。

柏倉祐司前衆議院議員(民主党)の質問に、大塚拓衆議院議員(自民党)が答えているところが、いろいろものすごく興味深くて、私はここで一番血圧が上がった(笑)。ぜひとも原文を読まれたい。

柏倉氏が「国や国民の安全に係る研究」について、具体的にはどういうことを想定しているかと聞いたのに対し、大塚氏が次のように答えている。

「国や国民の安全に係る研究と申しますのは、具体的には、安全で安心して暮らせる社会の形成、災害、貧困その他の人間の生存及び生活に対するさまざまな脅威の除去、国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障等に係る研究開発ということを想定いたしております。」

「無人情報収集機といったようなものがございます。これは極めて長時間にわたって滞空時間がある、こういう無人情報収集機」

「スーパー味覚・嗅覚センサーといったようなものも今開発がされているわけでございます。〔…〕バイオセンサーと申しますか、例えば、人間の舌とか鼻でにおいを感じるのと同じような形でのセンサーというものの開発」

「小型衛星が群を組んで監視をしていくようなシステムでございますとか、量子暗号のシステムでございますとか、あるいはバイオテロの物質の検知機のようなもの、こうしたものが国や国民の安全に係る研究あるいはハイリスク研究ということで資源配分がなされ、実現をした暁にはそれがスピンオフという形で民生用にも活用されていく、それによって社会、経済に非常に大きなインパクトがある」

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009618520131129007.htm

えーと、うん、軍事技術ですね。ですよね? もちろん「テロ対策」とか「自衛設備」とも呼ぼうと思えば呼べますが、軍事技術ですね。

この議論はさらに盛り上がっていく。柏倉氏は、この大塚氏の返答を受けて、次のように答える。

 今大塚先生おっしゃった、経済原理によらない、いわゆるリスクをとって、とにかくクリエーティビティーを駆使しておもしろいものをつくる、そういったところがインターネットであるとかGPSだとか、そういった開発につながっているということなんです。これは、DARPAという、アメリカの国防総省国防高等研究計画局というところで全部開発されているものだということを聞きました。

 日本でも、日本版DARPA、ImPACTというものを今後おつくりになる、これからつくられるということで、これは当然私も必要なことだと思います。スピンオフ、スピンオン、先ほど先生おっしゃった、やはりそういった双方向性の技術革新といいますかイノベーションがなくては、本当の意味での科学の底上げというのはできないんだと思います。

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009618520131129007.htm

先ほど、科学技術の「デュアル・ユース」の定義について確認した。それは科学研究の成果に、「用途の両義性」が現れてしまうということの危うさだった。ここで柏倉氏が述べていることは、似ているが非なるものである。彼の言う「双方向」というのは、軍事目的の研究開発が、民生用途へと「スピンオフ」するという構図である。

そしてこの議論で、私が一番驚いたのは、この次の展開だった。柏倉氏は、ここで一つの記事を参考資料として出している。「ことし〔2013年〕の四月二十七日、もう与党さんの部会では随分話題になった」記事だという。調べてみた。『産経新聞』の憲法改正キャンペーン記事で、題して「東大に巣くう軍事忌避」http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130427/plc13042711320007-n5.htmである。

詳細はリンク先を読んで欲しいが、この記事は東京大学の「軍事アレルギー」を問題視し、その矛先を、情報理工学系研究科の「科学研究ガイドライン」に向けている。今回事の発端となった、あの文書である。『産経新聞』は書く。「東大広報課によると、軍事研究の禁止を明文化したのは同科だけだが、「他の学部でも共通の理解だ」という。」

民主党の柏倉祐司前衆議院議員は、この記事を引っ張り出してきて、同年11月29日の文部科学委員会で取り上げたのである。そして彼は主張する。「先ほど指摘させていただいたスピンオン、スピンオフの関係を築いていく、そして、科学技術を底上げしていくという意味で、この日本の最高学府である東京大学が、イデオロギーの範疇で科学というものをたがをはめて、ある一方のイデオロギーに寄与する研究は一切しない、これは極めて私はバランスを欠いている研究姿勢だなと思います」。

そして政府参考人として文部科学省研究振興局長(当時)の吉田大輔氏を呼ぶ。

○柏倉委員 先ほど、資料では、東大広報課では、ほかの学部でも共通の理解だというふうにコメントしております。今の答弁では、一部の部局ではそういう理解があるということですが、では、そうでないところと、やはり平和利用に限った研究しかしないというところがあるということでよろしいんですか。

○吉田政府参考人 東京大学全学にかかわるものとしては、東京大学憲章というものがございます。そこの中では、「東京大学は、研究が人類の平和と福祉の発展に資するべきものであることを認識し、」というくだりがございますけれども、明確に軍事研究については行わないというような定めがあるわけではございません。

○柏倉委員 憲章では明確に定めがあるわけはないわけでありまして、あくまでもこれは内規ですから、そういった内規が実在するのであれば、いやしくも日本の最高学府、これはもう学問の頂にある東京大学ですから、ぜひこれは詳細な調査をしていただいて、これは我々の税金が入っているところでもあります。学問の独立、自由というのは、私も研究者でしたからこれは認めるところでございます。しかし今は、これはもうスピンオフ、スピンオンのこういった科学の流れ、双方向性の研究体制はやはり避けては通れない。これはやはり国力に資する大問題でございますので、ぜひそこは明らかにしていただきたいと思います。

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009618520131129007.htm

文部科学省の幹部が答弁に立って、東大には「明確に軍事研究については行わないというような定めがあるわけではございません」と回答している。

この議論は2013年の11月29日に国会で行われている。文部科学省が答弁に立って、東大の憲章や部局の内部文書について答弁しているのだから、当然、これに先立って大学には文部科学省から問い合わせ/下準備が来ているはずである。

なぜこれを民主党の議員が突っ込んでいるのかというのは、正直、私にはよく分からない。民主党がこの問題に熱心なのかどうか、私は知らない。自民党は、むろん熱心である。平川さんがツイートで紹介していた「自民党政務調査会 科学技術・イノベーション戦略調査会「わが国の研究開発力強化に関する提言(中間報告)」2013年5月14日の報告書」を見て欲しい。http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/kenkyu/1kai/siryo2-2.pdf


整理する

上記を整理すると、こうなる。

  • 2013年4月27日 『産経新聞』が「東大に巣くう軍事忌避」を掲載
  • 2013年5月14日 自民党政務調査会 「わが国の研究開発力強化に関する提言(中間報告)」
  • 2013年11月29日 第185回国会 文部科学委員会で議論
  • 2014年12月   東大理工科学系研究科「科学研究ガイドライン」を改訂
  • 2015年1月16日 『産経新聞』、「東大が軍事研究解禁 軍民両用技術研究容認 政府方針に理解」と報道

東大の理工科学系研究科は、完全に狙われていた。なぜなら、東京大学の中でこの研究科だけが唯一明示的に軍事目的の研究開発を禁止する内規を持っていたからだ。

私はこの記事を書きながら、東京大学大学院の理工科学系研究科には、やはりこの改訂の経緯について公開的に説明する義務がある、と考えるに至った。

もしかしたら、同研究科は「デュアル・ユース」という現代的な問題について、より時代に即した形に改めようとしただけなのかもしれない。私としてはそう信じたい気もする。だが、上記の経緯をみる限り、同研究科は外部の政治的な圧力に屈したと見られてもしかたがない。説明を、してほしい。

そして濱田東大総長の声明も、こうなるとなおさら頼りないものに見えてくる。タイトルと冒頭のかけ声はいい。だが、末尾にいくにしたがって、その言明はどんどんとあいまいな――軍事関連の研究を否定しているような受け入れているようなという意味で「両義的な」――ものになっている。

現在の文部科学省は、この問題について大学を守ってはくれない。それは冒頭の文部科学大臣の発言と、2013年の委員会の答弁を見ればわかる。むしろ文科省は、軍事技術開発から民生利用への「スピンオフ」的な振興策を後押しするだろう。

「デュアル・ユース」の問題は難しい。無人情報収集機はいらないが、バイオ・センサーや、量子暗号には可能性があるだろう。私はそれらの研究を続けてよいと思う。これらはまさに「用途の両義性」を持つ。だから、難しい。世界中の科学者達たちは、それゆえに必死で「デュアル・ユース」について議論している。

だが、その枠組みを外形的に捉えて、言葉尻巧みに、日本の大学の軍事研究を「解禁」しようとする人々がいる。

大学はいま、自分で自分の自律性を守るしかない。その覚悟は、あるか。

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