今まで欲しいものを持ってきてくれてありがとうございました。
私はもう中学2年になりました。
ですがこれからもよろしくお願いします。
(アナウンス)「間もなく2番線に上り電車が参ります」。
(灰島立)9時1月号の企画会議。
10時発行部数会議。
13時羽田発の14時半新千歳着。
札幌で現地カメラマンとの打ち合わせ。
17時からホテルにチェックイン…。
(アナウンス)「間もなくドアが閉まります。
ドアに挟まれないようご注意下さい」。
(電車の警笛)いや〜まさかこんな…。
いや絶好調でしたからねひとつき前は。
ダメだ時間ねえ!朝飯いらない!
(灰島紗江)野菜ジュースだけでも。
いいいいいい!おい樹。
写真撮ってきてやろうか?九州新幹線。
好きだろ電車。
(灰島樹)うん…。
あ〜そうだ。
ねえねえねえ。
すごいぜ。
今日の出張でついに地球3周分だって俺のマイル。
へぇ〜。
3周ってすごくない?やっべえ!時間ねえや!とにかくこう…予定表に隙間作りたくないんですよ。
移動取材移動取材移動取材移動取材。
でたまに東京戻って編集会議構成打ち合わせ。
いや上がるじゃないですか忙しい方がテンション。
いやもうね徹底調査ですよ。
ちょっとしたほこり汚れ。
あとベッドや部屋の正確な寸法まで。
ええ。
そう覆面ホテルチェックというやつです。
あっフロント?あの〜カードキー置いて外に出てきてしまい…。
いやフロントの対応もね秒単位で計測したり。
人気企画であの〜僕の企画なんですけども。
これでうちの雑誌部数伸ばしてますんで。
これね…これはもう手は抜けませんね。
ええ。
神津。
福岡の採点表の残りこっち送れ!
(神津)あ〜はい!
(鈴木)副編。
熊本と長崎の分。
ありがとう。
お願いします。
(神津)送りました。
ああ。
おい何だ?これ。
お前採点甘えよ!「うちに広告出してます」とか言うつもりじゃねえだろうな。
いえ…。
いいよこっちでやり直す。
(神津)あれ癖ですか?副編。
スイッチよ。
スイッチ?
(沢渡)スイッチ。
そう。
あの〜入るんですバチッとこう…カッと。
締め切りがやばいほど発動するらしいよ。
調子がいい時なんか光って見えるらしいから…。
おい手止まってるぞ!
(2人)はい!
(編集長)灰島。
決まったぞ念願のヨーロッパ特集。
えっ?そうっすか。
すごい!おいヨーロッパヨーロッパ!お帰り。
やっと通ったよヨーロッパ特集。
ようやく上も俺の貢献度を理解してきたな。
まったく…ざまあみろだ。
来月まるまる家空ける事になるわ。
ああ…。
あ〜眠っ。
あぁ〜!あれ?どっか行くの?はぁ?えっ?準備できたよ〜!伊豆。
先月約束してなかったっけ?樹と。
海の見える電車乗ろうって。
ああ…。
分かった。
いい。
樹。
やっぱママと行こう。
図書館代わってもらえるか相談してみるから。
ちょっちょっ…ちょっと待てよ。
俺行くよ。
いいよ眠いんでしょ。
いいよ俺が連れていくよ。
だって俺の約束だぞ。
なあ樹。
いいよママと行くから。
遠慮するなよ。
(電車の警笛)うわ〜!バ〜カダメだよこれじゃ。
雑だったんだろ?このホテルの忘れ物対応が。
なら厳しく攻めろもっと。
いや待て。
いいいい。
こっちで直すから。
うん。
こんにちは。
(2人)こんにちは。
やだ〜似てる。
(電車の警笛)トンネルか…。
お前ほんと好きだな乗り物。
うん。
うん?「ある日二人のさぎ師がお城に来て言いました。
私たちははたおりしょくにんです。
せかいいちすばらしい布をおることができます」。
「王さまは目をこすりました。
だけどなにも見えません」。
何だよ?これ。
ですから…。
つまりあれか。
引き抜きか!どこへ行く?まあその〜何というか…。
お前どうすんだヨーロッパ特集!お前だろやりたがってたの!灰島。
お前次期編集長だぞ。
すいません。
俺ももう40なんで。
(編集長)俺なんか50だよ!いや〜考えたんだ俺なりに。
えっ?つまりその〜いつまでも会社の枠そういうのに縛られてちゃいけないなって。
もっとこう自由に制約のない仕事をさ…。
ごめん分かんない。
何の話?だから…辞めようと思う会社。
よ〜く考えた上でね。
へぇ〜。
うん。
分かった。
あっそう…。
そっか。
よし!じゃあまあねこれからいろいろと…。
待って。
私もいい?何だよ?あなた薬のんでる?薬のんでるよね?この前かばんからちらっと出てるのが見えたんだけど。
あれ…ほらこの間風邪ひいてさ。
じゃあ見せて。
ちょっ…何?勝手に見んなよ!何の薬?ねえ。
行ったろこの間伊豆。
電車が長いトンネルに入ったんだ。
(電車の警笛)トイレ。
急に体じゅうが雑巾みたいに絞られるように苦しくなって。
それから…朝の地下鉄。
(客室乗務員)間もなく出発致します。
次に飛行機。
(客室乗務員)ドアを閉めさせて頂きます。
お客様。
お客様!どんどんダメになって…。
五つ星よりさらにハイグレードのパラスという格付けのホテルがありましてそれがこのリストにあります…。
狭い所や暗い所も…。
(医師)恐らくパニック症でしょう。
えっ?
(医師)一般的にはパニック障害と言われていますがある日急に発作が起きて死ぬんじゃないかと思うほど怖くなる。
そして一度発作が出てしまうとまた起きるかもしれないと不安になり再び苦しくなる。
パニック症の特徴ですね。
パニック障害?私がですか?ええ。
そんな…いやいやそんな繊細じゃありませんよ私は。
いや大げさに騒ぐ事じゃないんだよ。
仮に病気だとしてもほら俺基本的にタフだから。
会社にはちゃんと言ったの?どう言うんだよ?「乗り物に乗れないからヨーロッパには行けません」って?じゃあ私には?えっ?何で私にまで隠してたの?相談してもしょうがないと思った?それはむしろ心配かけたくなかったから。
心配?えっ…これってそういう問題?だって仕事辞めるほどでしょ。
だからそれは悪かったよ。
とにかくさちょっと休んで薬をのんで電車には乗らないようにするし。
治るの?それで。
当たり前だろ。
最後にここを折ってこれを差し込むと何でしょう?
(子供たち)チューリップ!すご〜い!「自宅でできる簡単作業」。
袋詰め?「余った時間を有意義に!ご近所にポスティング」。
何だこれ…。
ただいま。
あっ…お帰り。
はい。
カウンセリング?治すんでしょ。
はいこんにちは。
沢渡です。
灰島です。
どうぞどうぞ。
それは大変でしたね〜。
正直まだ信じられないんですよ病気だなんて。
自分で言うのもなんですがそこそこタフな人間だと思うんです。
だって地球3周分ですよ。
ああマイルね。
ええ。
それがいきなり地下鉄すらダメになるなんてそんなの信じられませんもん。
信じられませんよね〜。
ええ。
でもね灰島さんこの病気ねご自分でタフだと思ってる方でもかかってしまうもんでしてね。
はぁ…。
いまや100人に1人はパニック症を抱えていてその予備軍はその何倍もいるって言われてるくらいなんですよ。
それって何百万人もいるって事じゃないですか。
そうそう。
だから…ご自分は頑丈だお強いって思ってらっしゃる方の中にもね実はこうもろい側面を持ってらっしゃる方がねいるかもしれませんでしょ。
そういう方のほうがこう…かえって人一倍頑張って無理してお強く見せてらっしゃるかもしれない。
私は無理などしてませんが。
ああ…無理はしていない。
ええ。
ちなみにご病気の事を会社にご相談なさらなかったのは何で?それは…だって当然でしょう。
だって絶対陰で言われるんですよ。
「あいつついに壊れたよ」とか。
「壊れたよ」?ええ。
そんなの言わせてたまるかっていうね。
だってまず間違いなくポジションを外されますよ。
で暇な部署に回されるんです。
うん。
灰島さんね…。
ほんとは後悔なさってます?会社お辞めになった事。
何言うんですか。
そんな訳ないでしょ。
「王さまはかがみの前でぐるりとまわってみせ『どうだにあうだろ』。
けらいたちは口をそろえて『とてもおにあいです』とほめたたえました」。
どうだった?時間の無駄。
ダラダラ話聞くだけで。
そう…。
あ〜損した損した!じゃやめれば?なあ。
なあ。
はい?何で俺が仕事辞めていいと思ったの?聞いてんだろ。
止めても聞かないでしょう。
あなたが相談する時は相談じゃないから。
イエスって言ってほしい時だけだから。
そんな事ないよ。
それはないよ。
病気の事も言わなかったのに?それは…。
ええかっこしいだもんね。
はっ?弱みを見せたくなかっただけでしょ。
そんな事ないよ。
君と樹のためだぞ!陰で何か言われたくないだろ君らだって。
私たちのため?そうだよ。
守ってやってんだよ君らを。
ちっちゃ。
はっ?ほんとにちっちゃいねあなたって。
何でそんな事まで言われなきゃなんないんだよ!何なんだよまったく!ねえパパどうしておうちにいるの?いつもはいなかったのに。
あのね樹。
パパね病気なの。
大丈夫死んだりはしない。
でもそのせいで電車に乗ったりできないの。
何で?何でだろう?ママにもよく分からないんだ。
(店長)は〜い失礼します。
相変わらずお忙しいんでしょうね。
(店長)でも羨ましいですよ日本中旅して回れるなんて。
急用思い出しました。
クソ…!だってただのタオルですよ。
仕事も辞めたっていうのにむしろどんどんひどくなっていく。
どういう事ですか?う〜ん…。
何ていうのかな〜。
スイッチがあるんですよね灰島さんの頭の中に。
えっ?ほら仕事の時にパチッて入れるっておっしゃってたでしょうスイッチ。
あえてパニックのスイッチを入れる事で自分の限界以上の仕事ができてたんですよね。
あ〜ダメだしゃべりにくい。
まあところがこれが不思議なもんでしてね仕事に熱中している時はスイッチが入っても苦しくないんですよね。
そのスイッチがふとした拍子に自分でも思いも寄らないタイミングで入るようになってしまった。
パニックのスイッチが勝手にオンになってで胸がドキドキして息が苦しくなる。
そしてそのスイッチをオフにするのが難しい。
こういう状態なんですよ。
スイッチって…。
大丈夫ですよ。
たとえスイッチがオンになっても不安にだんだん慣れていく事はできますから。
まずは…リラックス。
リラックスしていきましょう。
ダメだ!何かないの?えっ?やる事。
いいよ休んでなよ。
いいから何か。
何かって…。
おはようございます。
あっどうも。
サトイモやパプリカは水を多めに。
でパセリやチンゲンサイは葉っぱに土がはねないように優しくかけて。
えっ?それからトマトはあんまりあげないほうが甘みが増すから。
水やるかやらないかだけじゃダメなの?やるよ。
最近食べてるミニトマト知ってた?これだって。
いや…。
ここのだから。
え〜とサトイモとパプリカは水少なめ。
あれ?多めだっけ?樹。
家にばっかりいないでパパとサッカーでもするか?樹。
いい。
おい樹!運動しないと大きくなれないぞ!うん?「王さまは自分がおろかものだと思うとだんだんおそろしくなってきました。
王さまが王さまでなくなるなんてとてもがまんできません」。
「けらいたちは口をそろえて『とてもおにあいです』とほめたたえました。
いよいよパレードがはじまりました。
町はパレードをひとめ見ようと人でいっぱいです。
王さまはおおぜいの人の中をどうどうとこうしんして行きます。
もちろん王さまのふくが見えないなんて言う人はだれもいません。
その時でした。
ひとりの子どもが言ったのです。
『王さまははだかんぼだ』」。
(男の子)はだかんぼだ!
(笑い声)「するとそこにいたみんなが『王さまははだかだ。
はだかの王さまだ』とさけびだしました」。
(子供たちの笑い声)樹。
樹!うん?片づけようよ使ってないやつ。
あとで。
触んないでよ!片づけもできないんじゃろくな大人になんないぞもう!
(泣き声)樹!何?何やってんのよ?しつけだよ。
ちゃんと片づけろって言う時はちゃんと言わなきゃダメなんだよ。
いきなり叱ったって逆効果なんだよ。
樹のためにやってんだぞ。
父親の仕事全うしてるだけだろ!こんな時だけ振りかざさないでよ父親とか家族とか!全部言い訳じゃない!「俺は絶対間違ってない」って。
私たちの気持ちなんてどうでもいいんでしょう!はぁ〜!孤立です。
もう孤立…。
孤立?あんな家じゃリラックスのしようもない。
どん底ですよどん底。
う〜ん…この病気にかかられた方はよくご自分を独りぼっちだと思われるみたいでしてね。
周りに人がいてもかえって孤独に感じてしまう。
戸惑ってるだけなんじゃないですか?奥さんも息子さんも。
急にお父さんがうちにいるようになってどう接していいか分からない。
分からないって家族ですよ。
そうですよ。
でもそんなもんですよ父親なんて。
先生やった事ないでしょう父親。
ありますよ。
いや…ないわ。
(笑い声)水終わった。
あ〜ありがとう。
はい。
樹が上手で助かるわママ。
よくなるの?パパ。
多分ね。
ねえ僕どうすればいいの?普通にしてようか今までどおり。
行ってきま〜す。
やっぱ仕事探すわ俺。
えっ?家にいても邪魔なだけだろ。
カウンセラーさんは何て言ってるの?う〜ん…。
関係ないよそんなの。
いいかげん家計だってさ…。
治す事考えなよ今は。
お金なんてなんとかなるから。
それより…樹と一緒にいなよ。
はっ?今だけだよ。
大きくなるのなんてあっという間なんだからきっと。
今一緒にいないのはもったいないと思う。
あと暇なんだったらこれ…お願い。
こんにちは。
あ〜来た新人さん。
灰島です。
あ〜灰島さん。
ちょっと急いで洗い物してくれる?はい。
モロヘイヤ…。
モロヘイヤって何だっけ?12345…。
早くしろよ。
スイッチ入るな…。
スイッチ入るな…。
スイッチ入るな…!すいません…通して下さい。
お客様!なあ早く終わったのか?今日学校。
うんそう。
ねえパパって病気なの?えっ?乗れないの?電車。
いや乗れなくはないんだよ。
ただちょっと嫌な感じだなぁっていうだけで。
怖いの?そうじゃ…そうじゃないよ。
だって今までパパほらたくさん新幹線も飛行機も乗ってきたんだから。
よし!乗ろう。
乗ろうパパと電車。
えっ?
(アナウンス)「この電車は各駅停車守崎海岸行きです」。
「ココロも深呼吸!ココロも深呼吸!」。
「ココロも深呼吸!」。
いる?これ。
(樹)あげる。
ありがとう。
おいしい?うん…おいしいおいしい。
おいしい。
それは何味でしょう?ダメ!クイズクイズ!え〜とね…メロンか。
ブ〜。
ブ〜?何だ?これ。
食べた事ないの?いやあるよ。
パパほら大抵の事は…。
(アナウンス)「間もなくみなみしろだいみなみしろだいです」。
降りる?えっ…。
いや…もう少し。
え〜と…じゃあ青リンゴだ。
ブ〜!
(樹)パパ。
乗れた。
えっ?あっ…いやいやいや。
海!パパ海!樹!ほら!よ〜し!なあどうしてパパが電車に乗れないのかって話だけどさ。
うん。
実はパパにはスイッチがあるんだ。
ロボットって訳じゃないぞ。
うん。
そのスイッチが入っちゃうとさ乗れなくなっちゃうんだ電車に。
でもそのスイッチがいつ入るのかそれがパパには分からないんだ。
へぇ〜。
でもここまで来れたよ。
そうなんだよ。
それが不思議なんだよなぁ。
(樹)何でだろ?あっマスカット味が良かったんじゃない?そうかもな。
そうだよ。
絶対そう!分かった。
帰りの分もあげるよマスカット味。
ありがとう。
あ〜あ明日もこんなふうに遊びたいな。
いや学校だろ。
…っていうかそうだ。
なあ何で今日早く終わったの?学校。
えっ…まさかお前サボった?お前いじめられてるとか。
違う。
じゃ何?言ってみパパに。
樹言ってみ。
早退した。
給食が嫌だったから。
みそ汁が一番大嫌い。
なのに先生が食べろ食べろって。
ゲロ吐きそうなんだ。
何?いやそっか。
そうだよな。
いや分かるよ樹。
パパもあったわ嫌いな食べ物。
ほんと?うんほんとほんと。
ニンジンにピーマンにシイタケにワカメに納豆に…。
僕より多いよ!そっか…給食がな。
うん。
分かった。
じゃあ学校に電話して先生に謝ろう。
でうまいもん食おう。
うん!うわ〜!あれ何?あれ?あれはねほらヒラメ。
じゃあこれ。
これはねカワハギかな?すげえ!樹。
ママにはないしょだぞ。
えっ?こんなぜいたくしたの知ったらママ怒っちゃうだろ。
男の約束。
2人だけの秘密。
うん!灰島さん。
あなた来月のシフト増やしたんだって?えっ?あっええ。
それってあれでしょ。
ローンでしょ。
相当残ってんの?まあ…だいぶ。
大変ねぇ。
いや〜あの…普通は一駅からゆっくりやっていくものなのに。
えっ…乗れちゃった?はい。
あっまあ地下鉄ではないんですけど。
はぁ〜そっか…。
お守りみたいなもんか。
えっ?あっ…マスカット味がですか?うんそれもそうだけど…。
息子さんと一緒に乗りたいっていう気持ちが一番のお守りになってスイッチが入りそうになってもひどい症状にはならなかったっていう事。
息子さんがいてくれてよかった。
はい。
でもあなたそんないきなり〜。
いいですか?これで大丈夫って訳じゃありませんからね。
はい!今までで一番いいお返事。
急性腸炎。
念のためいろいろ検査するからしばらく入院だって。
増やしてたのか?仕事。
言えよ。
別にあなたのためじゃないし。
生きていかなきゃいけないから。
樹のためよ。
でもそれで体壊したら世話ないだろ。
何だよ2人そろってこんな…。
どうすんだよ?樹。
生ゴミは月曜と木曜だから。
分かってる。
朝ごはんはしっかり食べさせてね樹に。
プランターの水やりも忘れないで。
洗濯洗剤どの棚に入ってるか分かる?俺が仕事探しとけばよかったんだな…。
(ため息)あなたってほんとに…。
何だよ?
(紗江の泣き声)おい。
(紗江の泣き声)ほら大丈夫だ。
俺がなんとかするから…。
紗江。
なあ泣くな紗江。
なあ紗江。
紗江。
(紗江の泣き声)おはようございます。
おはようございま〜す。
サトイモパプリカは水多め。
よしと!え〜とパセリチンゲンサイは葉に水がはねないように…。
あれ?まずいな。
行ってきま〜す。
あっ…おい樹。
樹!ねえ…もらっちゃったんじゃないの?旦那の病気。
そんな事ないです。
あるって言うわよ。
なかった?「電車乗るのやだわ〜」とか。
ほら。
でも実際入院なんてしてる場合じゃないんですよ。
私がなんとかしないと。
あんたもずいぶんあれね。
見えっ張りっていうか強情っ張りっていうか。
えっ?つらい時はつらいでいいじゃない。
ほら食べて食べて。
甘いから。
9時図書館。
15時お弁当屋さん。
わぁ〜よく描けてる。
これどこの海?う〜ん…。
えっとねないしょ。
えっ?あとパパの服のたたみ方が超変でさ。
超こうやってぴち〜って折り紙みたいにさ。
おかしいよね。
よし!できた!トロリーバス!プップ〜!ケーブルカー!ゴ〜!ロープウエー!ス〜ス〜!到着!なあ行ってみたい?えっ?立山黒部アルペンルート行ってみたいか?うん…。
じゃあ行くか?パパと。
でほら一緒に雷鳥探そうぜ。
どうなんだよ?うん?それ前も言ってた。
えっ?前も言ってた幼稚園の時。
えっ?行こうって言ってた。
でも結局行ってない。
ごめん。
今度は本気だから。
絶対本気!でもいいの?うん?乗り物いっぱいだよ。
トロリーバスとかケーブルカーとかロープウエーとか。
うん…。
トンネルもたくさんあるよ。
特急電車にトロリーバス。
ケーブルカー。
ロープウエー。
えっ?1泊2日。
何泊でも同じだよ。
えっ…旅行?そんなのカウンセラーさんだって賛成しないでしょう。
驚いてた。
けど説得した。
「お気を付けて」だって。
え〜?いや約束してたんだ俺樹ともう3年も前に。
ほら君も言ったじゃん。
今一緒にいないとあっという間に大きくなるって。
前にさ一度帰りが遅かった事あるだろ?樹と2人で。
うん。
あの時さ海まで行ってさ…すし食って帰ってきたんだ。
はっ?あっごめん。
すし食ってきた。
はっ?あっ痛っ。
イタタタ…。
でかい声出すからもう。
誰が出させてんのよ。
何それ?おいしかった話でもする気?いやいやいや…その時に俺初めて知ったんだけど知ってた?樹がみそ汁嫌いだったって事。
残してるなぁとは思ってたけど。
嫌いなんだって。
それで給食だよ。
みそ汁が嫌でさ脱走したんだって学校。
えっ?びっくりだろ。
いや〜あいつにはあいつなりの苦労があったんだなぁ。
今まで見ようともしてなかった。
だからさもっとそばにいてさとことんつきあってみたいんだ。
そういう事だろ?君の言う一緒にいるって。
何度もあったの?脱走。
いや初めてだったみたい。
何見てたんだろ私…。
ずっと一緒にいたのに。
旅行には反対。
治った訳じゃないんだし。
でも最後に決めるのはあなたと樹だから。
絶対に無理だけはしないで。
ねっ。
うん。
見ろほら。
徹底的に調べたからな。
よし絶対見つけようぜ雷鳥。
うん。
いいか?こっからスタートしてこっち側のここもほら…。
大丈夫。
大丈夫…。
樹。
実はトロリーバスは電車の仲間なんだぞ。
日本でここにしかないんだよね。
そうそう。
(樹)わぁ〜すご〜い!ほら樹写真。
樹。
え〜いいよ〜。
ダメだよ。
ママに送るんだから。
ほら笑って。
撮って差し上げましょうか?あっありがとうございます。
こんにちは。
(2人)こんにちは。
お父さんお休み取ってくれたんだ。
よかったね。
違います。
今無職なんです。
こら!あっ…すいません。
いやいやあの…そう。
まあねいろいろあるわよね。
実は私も休んでた時期があるんですよ。
5年前。
30年近く勤めた会社をある日何の当てもなく辞めてしまいました。
で半年ほど無職に。
そうですか。
それから一緒に旅行に出るようになったのよね。
ジョギング始めたり。
そしたらこの人まで走ると言いだしまして。
ほんとは何となくだったんですけどね走り始めたら面白くなっちゃって。
そうなんですか。
おっぼくあっちで虹が見えるかもしれないぞ。
ほんと?行こう!ここ?ほら!わぁ〜虹だ!見えるでしょ?
(樹)見える!きれい!ほんとは何となくなんかじゃなかったんですけどね。
えっ?ジョギング。
あの人走りだしたらそのままもう帰ってこなくなっちゃうんじゃないかっていてもたってもいられなくなっちゃって…。
だからまあ見張りですね。
パパ。
(ブザー)これ単線に見えるだろ。
うん。
でも実はな真ん中辺りで下りとすれ違うんだよ。
うん。
全長…800…。
マスカット味。
あと3分ね。
ありがとう。
うん。
わぁ〜!パパ!下すごい!高い!すご〜い!わぁ〜!
(樹)広〜い!えっ…多分この辺のはずだよな。
雷鳥は天然記念物だよ。
そうだよ。
簡単に見つからないよ。
見つかるって。
だってほらこんなに調べたんだから。
よし!もっと奥行こう。
ねえパパ。
アイス食べたい。
えっ?こっちか?
(鳥の鳴き声)よし樹!あっちの方まで…。
樹。
樹!樹!樹!樹!樹!樹!樹!パパ!樹…。
うわっ!イテッ!アイテッ…!シ〜!えっ?いた。
いた!雷鳥いた!雷鳥いた!いた!あっ…!いた?どこ?あっち!どこ?あっち!こっちか?いたんだよほんとに。
ほんとだよ!ほんとか?うん。
あっち!意外と普通だったよ雷鳥。
そっか。
残念だったね。
樹が見れたらそれでいいんだよ。
でもパパあんなに調べてたのに。
いいんだって別に。
痛っ!あ〜あ。
あっ届いた?届いた。
どの写真も同じ顔で笑ってるから笑っちゃったよ。
紗江。
はい?ごめん。
俺のせいだよな君が病気になったの。
ごめん。
何よ今更こんなタイミングで…。
それともうひとつ今更なんだけどさ…。
実は聞いてたんだ俺おはなし会。
「はだかの王さま」。
言ってよ来たなら来たって。
嫌がると思って。
嫌がるよそりゃ。
あれって俺の事だろ?俺の事だよ。
分かっちゃいても認める勇気がなくてさ。
でもあれって王様だけのせいじゃないから。
周りがダメにしたの。
諦めて見て見ぬふりしてどうせ何も変わらないって。
そうやって病気になるまでほっといたの。
正直言うと私が仕事を増やしたのはあなたと一緒にいると自分まで苦しくなりそうだったからなの。
それなのに自分が倒れちゃって。
ほんと悔しいっていうか情けないっていうか…。
だからお互いさまでした。
あっ…うん。
ありがとう写真。
気を付けて帰ってきて。
ああ。
君も大事に。
はい。
軟らかいねお前。
運動会でみんなでやるんだ。
見に来る?もちろん。
よし!樹。
うん?パパな病気になって少し分かった事があるよ。
何?ほんとはパパ小さい人間だったんだなって。
僕よりは大きいよ。
うん。
いや何ていうか弱いって事。
弱いんだパパは。
…って言われてもな。
ありがとな。
えっ?パパがここまで来られたのは樹のおかげだから。
樹はパパのお守りなんだぞ〜。
じゃあ大事にしなきゃね。
罰が当たるよお守りだから。
うん?分かった分かった。
樹はどうなんだ?うん?大事か?パパの事。
うん?おら!何だよお前答えろよ。
分かんない!何だよ。
でもしょうがないからこれからも一緒にいてあげるよ。
よし!よっ!おっ!ほらパパだってまだまだ!コチョコチョコチョコチョ!あ〜こらこらこら!こら樹!おい転ぶなよ!
(樹)パパ!空が青くて白くて赤い!
(樹)うわぁ〜!なあ今朝見つけたんだ。
何?へぇ〜。
何だよ?気付くんだこういうの。
気付くよ。
水やってんの俺だぞ!はいはい。
書いてみないかって。
えっ?旅行記。
2人旅の事まとめたんだよ原稿に。
それを知り合いの編集者に見せたらさ父と息子のやり取りが新鮮だとかなんとかって。
適当に書いただけなんだけどね。
それって雷鳥探してケガしたって話?話したのか樹のヤツ…。
いい気な顔しちゃって。
何だよ?まあすぐには変わらないよね人は。
大丈夫だよ。
ゆっくりいきましょうって言われてるから先生にも。
都合のいい時だけ。
俺さこうなってよかったかもしれない。
よくはないよ。
よくはないけどよかった事もあるよ。
こうやって一緒に歩いたり。
またそんな…。
ありがとう。
いろいろつきあってくれて。
家族だもんつきあうよそりゃ。
でも最後に自分を大事にしてあげられるのは自分だからね。
無理はしない。
あなたもね。
ああ。
乗ってかないか?ずっと乗ってないんじゃないの?地下鉄。
(アナウンス)「間もなく1番線に下り電車が参ります。
黄色い線の内側まで下がってお待ち下さい」。
言ってよ途中でダメになったら。
うん。
そしたら一緒に降りましょう。
ああ。
その時はまた歩こうか。
(アナウンス)「足元にお気を付けてご乗車下さい。
間もなくドアが閉まります」。
(発車ベル)2014/12/25(木) 22:00〜23:15
NHK総合1・神戸
特集ドラマ 途中下車[解][字]
順風満帆に生きてきた男が、突然パニック症に。再起をかけて、人生を見つめ直す男とその家族の姿を描くヒューマンドラマ。出演:北村一輝・原田知世・野際陽子ほか
詳細情報
番組内容
旅行雑誌の敏腕編集者として、仕事にまい進する灰島(北村一輝)。自らの企画が次々とヒットし、販売部数も右肩上がり。そんな彼がある日、電車の中で、息荒く冷や汗を流し強い不安に襲われる「パニック症」の発作を起こす。やがて仕事も行き詰まり、妻の紗江(原田知世)や息子・樹(松田知己)と衝突が絶えず、パニック症もひどくなっていく。孤立を深める灰島。すがるようにカウンセラー(野際陽子)に相談に行くが…。
出演者
【出演】北村一輝,原田知世,松田知己,野際陽子,木内みどり,六角精児,野間口徹,村松利史
原作・脚本
【原作】北村森,【脚本】喜安浩平
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
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