ご機嫌いかがですか?落語作家の小佐田定雄です。
「上方落語の会」。
この会はいつもすばらしいゲストをお招きしておりますが今日ゲストにお招きしましたのは今日の会の開口一番を務めましたこのお方でございます。
落語家の露の紫です。
先生そんなすばらしいやなんて。
いや私は嘘をつきません。
あらありがとうございます。
もう何年になりました?え〜っと…丸6年迎えましたね。
入門して。
という事はぼちぼち後輩もできてきて先輩としての心構えってどんなもんあります?もうたくさん入ってきてるんですけど追い抜かれんように頑張るのみです。
そうですか。
はい。
このあと9月にこの会で収録致しました笑福亭生寿さんの落語を聴いてもらうんですけどもこの生寿兄さんっていうのはどういう先輩ですかな?生寿兄さんは本当にすばらしいお兄さんで鳴り物も落語もお兄さんに聞けばもう間違いないという頼りがいのあるお兄さんです。
そうですか。
はい。
ではその頼りがいのある生寿さんの落語「道具屋」です。
(拍手)ありがとうございます。
ただ今より開演でございましてまずは出てまいりました笑福亭生寿からどうぞよろしくお願いを致しますが。
生きるに寿という字を書きまして生寿でございます。
私が今落語家になりまして7年半ほどのキャリアなんでございます。
8年目ですかね?ありがたいなと思てるんですが。
「お仕事何やられてるんですか?」と聞かれた時に「あっ私落語家なんです」というふうに言いますと大概の方が「あっ落語家さんなんですか!いやいいですね!」って「何がええねん」と思うんですが「いいですね」とかですね「初めて落語家さんの方とお会いしました」というふうなので喜んでもろたりですとかびっくりしてくれはったりするんですけども大概そのあとに続く言葉は決まっておりまして「食べていけるんですか?」。
ほっといてくれと思うんですけどもいろんな事がありながら落語家やらしてもらう訳です。
落語の方にもそないして生活をするためにあんな商売しようかいなこんな事やってみようかいないろいろ考える人間というのは出てくるもんですけども…。
「さあさあこっち上がんなはれ。
いやいや今日呼びにやったっちゅうのはほかでもない。
遊んでるちゅうて聞いたんでなわしの商売手伝う気はないか?」。
「はあオッサンの商売ちゅうたら夜店に出てる古道具屋でっか?」。
「あっそや」。
「ほなわたいそれさしてもらいますわ」。
「ああそうか。
…でいつから行てくれるな?あっ今から?それやったらちょうどええ。
実はわしゃ2〜3日前から風邪気味で頭が痛い。
お前さんが代わりに行ってくれるんやったら幸いや。
そこに風呂敷包み置いてあるやろ?それちょっとこっち持っといで。
これこれそんなノコギリ振り回すやつがあるかいな」。
「オッサンこのノコギリ切れますか?」。
「切れるか切れるやどや分からんけどもなそら火事場で拾うてきたやつや。
さびてたんでさび落として焦げた柄さらと替えといた。
そんなもんでも置いといたらにぎやかし。
どこぞのあほが買うて帰りよるやろ。
風呂敷広げてみい」。
「あっさよか。
え〜よっとしょっと…。
うわ〜ぎょうさん入ってまんな」。
「いろいろ入ってあるやろ。
言うとかんならんけどもなその花瓶どてっ腹に大きな穴開いたあるさかいな売る時は自分の方向けて売らないかんで。
電気スタンドひっくり返ってはるやろ。
いや前脚3本あったんやが1本折れて2本しかない。
立てへん。
刀パッと見たらほんまもんに見えるがそら芝居で使う偽物やな。
あっおひなさん触りな!首抜けるさかい」。
「まともなもんちょっともおまへんな」。
「そんなもんでも一生懸命売ってたら誰ぞが買うて帰ってくれはる。
…で今日は平野町や。
向こう行たら本屋の善さんちゅう人がいてるでわしから聞いてきたっちゅうたら場所あんじょう教えてくれる。
でなこれ持っていきなはれ。
元帳や。
中に値段が書いてある。
売れたらこれ見てそれより高う売りゃあとはお前さんの儲けやさかいなほな行っておいで」。
「あっさよか。
ほな行てきまっさ。
なるほどな。
よっこいしょっと。
あ〜親切なオッサンやで。
人が遊んでるちゅうたらこないして商売してくれはんねんな。
え〜なるほど。
今日は平野町か。
夜店が出るとなるとぎょうさん人がいてはるわ。
えらいもんやな。
あっしもたなこれえらい事した。
善さん尋ねていけっちゅわれたけどわい善さん知らんねやがな。
まあまあええわ。
誰ぞに尋ねたろ。
あのすんまへんちょっとお尋ねします」。
「はいはい何です?」。
「あの本屋の善さんてな人ご存じやおまへんか?」。
「ああ善さんでっか?善さんやったらね最前この辺ウロウロしてはりましたで。
え〜っと…。
あっもしもし向こうで人と立ち話してるあれが善さんですわ。
え?いやこっち向いてる人やなしにね向こう向いてる…。
どない言うたらええかね?え〜っと…。
あっそうそう!頭の後ろにこれぐらいのハゲがある。
ハゲのあんのが本屋の善さん」。
「あっさよか。
えらいすんまへんでした。
あのすんまへん」。
「おう何やな?」。
「本屋の善さんちいいますと?」。
「わしが本屋の善兵衛や」。
「あんたほんまに善さんでっか?」。
「うたぐり深いやっちゃな。
本人が言うてんねん間違いないわや」。
「あっさよか〜?ちょっと後ろ向いてもらえまへんか?」。
「けったいなやっちゃな。
こ…こうか?」。
「アッハッハッハッ!善さん」。
「どこ見て確かめとんねんお前!どっから来た?」。
「わたいね甚兵衛はんとこから寄らしてもらいましてん」。
「え?あんた甚兵衛はんの代わりかいな。
それやったらもうちょっとはよ来ないかんで。
あんまり遅いさかい今日は休みや思て地割りしてしもうたとこやがな。
いえな場所決めしたあとやちゅうねや」。
そんなん言わんとわたいどっか商売さしとくなはれ」。
「んな事急に言われてもな。
う〜ん…。
ああ便所の横が空いてるけどそこでもええか?」。
「どこでも構しまへん。
連れてっとくんなはれ」。
「ああそうか。
ほなこっちついといで。
皆さん方準備中えらいすんまへんな。
あの〜この人甚兵衛はんの代わりに来た人でね何にも知らんみたいなんであんじょう教えたっとくんなはれ。
えらいすんまへんな。
すんまへんな…。
もし。
もしもし。
え?あんた何をボ〜ッと立ってまんねんな。
商売しまんのやろ?早い事ござ広げて品物並べなはれ。
ええそうそう品物並べて。
あっ!この時にちょっとしたコツがおましてなあの値打ちのあるもんやら細かいもんは自分の膝の方へ並べまんねん。
うんそうそうそう。
どうでもええもんやら大きいもんは前へずら〜っと並べまんねん。
そういう具合にね。
ずら〜っとずら〜っと。
ずら〜っと…。
あんたその花瓶どてっ腹に大きな穴開いてますけどそれ売りまんの?売り物。
あっそう…。
えげつない商売やな。
まあまあ穴自分の方向けといてね。
それ電気スタンドひっくり返ってまっせ。
何?『前脚3本あったんが1本折れて2本しかない。
立てへん』。
もうそんなもん早い事しもうときなはれあんた!それも売りまんの!?ええ根性してまんねんな。
まあまあ後ろの塀にでも持たれかけさしといてねそんなもんでっしゃろ。
あんたほなしっかりやんなはれや」。
「あっさよか。
えらいどうもすんまへん。
おおきに。
頑張ります!どうも。
おおきに。
さいなら。
どうも」。
「うわ〜ぎょうさん夜店が並んどるな。
へえ〜。
あっどうも。
こんにちは。
お隣お宅下駄屋はんでっか?ハッハッハッハッ暇でんな」。
「ほっとけあほ!うち暇なんほっとけよ。
自分とこ一生懸命やり」。
「やりまんねんけどね。
しかし何やな?こんだけ人歩いてんのにちょっと見たろか買うたろかっちゅうやつは一人もおらんな。
そや!こういう時は呼び込み肝心やな。
呼び込みしたろ。
いらっしゃいいらっしゃい!道具屋でっせ道具屋!出来たての道具屋!ホカホカの道具屋!新しい道具屋!」。
「あんた古道具屋と違いまんのんか?」。
「分かってまんがなあんた。
人一生懸命商売してまんねん。
ちょっと黙ってなはれ」。
「おお道具屋」。
「あっお客さんでっか?まあお入り!まあお入り!」。
「『まあお入り』てこんな夜店だしどこに入んねん」。
「まあお掛け」。
「掛けるとこあれへんがな」。
「おしゃがみ」。
「おしゃがみっちゅうやつがあるかい。
そこにあるノコ見してくれるか?」。
「ノコ!はいノコね〜ノコ1丁!はいノコね!ノコノコ!さあノコ!ノコね!ノコ!ノコねノコ!へいノコ!うん…ノコ!」。
「いらっしゃい!何しまひょ?」。
「いやいやそこにあるノコを見せえっちゅうねん」。
「ノコねノコ1丁!はいノコ!ノコね!さあノコ!ノコね!はいノコ!ノコね!ノコノコ。
うん!ノコね!うんノコ1丁!はいどうもノコね!ノコノコ!うん。
う〜ん…。
いらっしゃい!何しまひょ?」。
「いやいやそこにあるノコを見せえっちゅうねん」。
「ノコ…ノコ。
ノコでっしゃっろ?ノコノコノコノコ…ノコにある?」。
「何をしょうもない事言うてんねんな。
いやそやない。
そこにあるノコギリを見せえっちゅうねん」。
「ノコギリでっかいな。
ノコギリやったらノコギリとちゃんとしまいまで言いなはれあんた。
ノコって半分しか言わんさかい分かれしまへんねん。
人間ギリ
(義理)は欠いたらいかん」。
「しょうもない事言うなお前。
こっち貸せ。
なるほど。
こらちょっと甘いな」。
「え?」。
「こら甘いな」。
「それ甘いんですか?いやそら知らなんだ。
こっち貸しとくなはれ。
甘いとは知らなんだ。
それやったら売れへんのやがな。
え…ブブブッ!あんたこれ甘い事ないちべたいでっせ!」。
「お前トーシローやな?」。
「いやわたい源五郎です」。
「誰が名前聞いてんねん。
いやそやないがな。
これはなあんまり焼きが入ってないっちゅうねん」。
「そんな事…そんな事おまない!焼きやったら十分入ってまっせ!何せオッサン『火事場で拾うてきた』ちゅうてました。
さびてたんでさび落として焦げた柄さらと替えといた。
そんなもんでも置いといたらにぎやかし。
どこぞのあほが買うて帰りよるやろちゅうてね。
あんた買うか?」。
「何でわしが買うねん。
要らんわ!」。
「あんたあほと違いますか?しょうもない事言うてるさかいションベンされまんねん」。
「えっ!?あの男ションベンしていきよった?ちょっとも気ぃ付きまへんでしたわ。
えらい事しよりましたんやな。
これまた早うしましてんな。
…でどこへ?」。
「いやいやそやおまへんがな。
我々商売不調でね買わんと冷やかして帰る事はションベンちいいまんねや」。
「冷やかしはションベンちいいまんの。
へえ〜。
ほな売れたらウンコ」。
「言いまっかいなあんた。
もう汚い事言わんとしっかりやんなはれ」。
「おい道具屋なんぞ珍なるもんはないか?珍なるもん」。
「え?な…何です?」。
「いえななんぞ珍なるもんはないかっちゅうねん。
珍なるもん珍なるもん…!」。
「ちょっと待っとくんなはれ。
そないパーパーパーパー言いなはんな。
何ですか?ちんなるもの?ちょっと待っとくなはれ。
見てみますさかいにね。
え〜っとちんなるもんちんなるもんちんなるもん。
おっ?ちんなるもん。
おっ?あのこれない事おまへんけどね」。
「あるか?」。
「ええあのささやかながら」。
「ほな一遍見してみい」。
「見してみい?見してみいってあんたどないして見まんの?」。
「まあ一遍手の上載してもらおか」。
「え〜!?あなたどうしても見たい?見たいの?あっさよか。
つらいなあ…。
ほな行きまひょか?横手の便所」。
「お前何を考えてねんな。
いやそやないがな。
わしが言うてんのはなんぞ珍しいもんはないか?珍なるもんちゅうてんねや」。
「なんぞ珍しいもんはないか?珍なるもんでっかいな。
それやったらそない言うとくなはれ。
あんたちんなるもんちんなるもん言いなるさかいわたいもうちょっとで手の上載せるとこやったわ。
ここにあるもんしかおまへん」。
「大したもんないけどなあ。
あっそこにある刀見してくれるか?」。
「あっ刀でっか?へえへえどうぞ」。
「こら銘はあるか?」。
「え?」。
「銘はあるか?」。
「姪はおまへんけど天下茶屋にオバハン一人」。
「誰が親戚尋ねてんねん」。
「いやそやないがな。
これ打った人の名前や」。
「あっそんなおまへん」。
「すると無銘やな?」。
「うんそうそう。
むめいが打ちました」。
「そんなもんが打ったりするかいな。
よっ。
よいしょ。
うん?よっ!こらちょっと固いな」。
「あっ抜けまへんやろ?」。
「さびてると見える。
いやこういうもんをズラッと抜くと名刀やったっちゅうのはようあるこっちゃ。
…にしてもこらちょっと固すぎるな。
ちょっともいごかん事これ。
うう…。
道具屋お前これそっち持って引っ張ってくれるか?」。
「いやわたいこれ抜けんように思いまんねんけどね」。
「ほないくぞ。
よっこいしょっと!」。
「こらしょっと!」。
「固いなあ!」。
「固うおまっしゃろ?」。
「何で抜けへんねん!」。
「木刀です!」。
「う〜…抜けるかあほ!お前木刀抜ける訳ないやないか」。
「そやさかい言うてまんがな抜けまへんちゅうて。
それをあんたが『抜く抜く』っち言いまっさかいわたいも木刀抜けたら中から何が出てくんのかいな…」。
「ようそんなあほな事…。
ほかになんぞ抜けるもんはないんか?」。
「おひなさんの首」。
「要らんわそんなもん!」。
「あんたおもろおまんな。
うち商売暇やけどあんた見てたら退屈せんでええわ。
明日から毎晩オッサンの代わりに来い」。
「何言うてまんねんな。
みんなわいが素人や思うてなめてけつかんねや。
今度来たら頭に『ションベンできまへんで』とかましといたろな。
ションベンできなんだら買うて帰らなしゃあないてなもんや」。
「道具屋そこにあるパッチ見してくれるか?」。
「あっパッチですか?へえへえ。
はいどうぞ」。
「ゴホン!言うときまっけどねションベンできまへんで」。
「は?」。
「ションベンできまへん」。
「このパッチションベンでけへんの?」。
「でけまへんでけまへん」。
「嘘…。
これ前穴開いてるけどな」。
「前穴開いててもしてもろたら困りまんねや。
あんたどうしてもするっちやったらプッ!わたいど突きまっせ」。
「何でやねんな。
どこぞの世界にパッチ買うて帰ってションベンしてど突かれないかんねんな。
ええ?気に入ったんやけどなもう要らんわ。
返すわ」。
「え!いやもし大将!ションベンとはションベンの意味が違いまんがな!大将!大将〜!あかん…。
帰ってしもた。
もうなんぼやっても売れへんしぼちぼち荷物まとめて帰ってもうたろかな」。
「道具屋」。
「よう来る店やな。
売れもせんのに次から次に客ばっかり。
何やこら!」。
「えらい柄の悪い店やな。
そこにある笛見してくれるか?」。
「笛?笛。
しょうもないほんま。
見たけりゃ見い!」。
「ボロクソやなほんまに…。
うわっ汚っ!何やもうこれホコリだらけやないかいな。
こんな笛てなもんはな一遍客が口つけてええ音色がすりゃ買うて帰ろうてなもんやがな。
それをこんなホコリだらけにするやつがあるか。
フッ!中も何か詰まってるんか?これほんまに。
何これ?ゴミ?ゴミが出てくる。
何をしてんなほんま。
ええ?こんなんな前もってきれいにしとかないかんのになんぼでも出てくるやないかいな。
これ何やねんな。
ええ?何をにこにこと笑うてんねんな。
こんなんはなお前がちゃんときれいにしとかないかん。
それ分かってんの?何で客のわしがこんな事せな…。
ん?そやないこれはお前がしとかないかんとわしは言うと…痛たたたたたた…!」。
「フッフッフッフッフッ!道具屋ほな帰るわ」。
「いや!もしもしもし!その笛置いてっとくんなはれ!」。
「え?これ抜けんようになった」。
「抜けんようになったってあんたわたいぼちぼち荷物まとめて帰ろうと思うてまんねんで!」。
「しゃあない。
安けりゃ買う。
なんぼや?」。
「ここ…買うてくれはりまんの?ちょっと待ってくんなはれ。
値段見てみますさかいにね。
え〜元帳元帳元帳…。
笛笛笛笛笛…。
50円安っ!え?今日一日働いてたったの50円か。
やってられへんなこんなん。
ええ?このオッサンまだ抜けんな。
どっちみち買うて帰りよるやろ。
ほな今日の売り上げまとめていてこましたろ!なあ?はあ〜今日ぐらい帰ってキュッと一杯飲みたいな。
何を食て飲もかいな。
あっスキヤキ長い事食てないな。
てっちりも捨て難い。
両方してしもたらええねんなこれ。
あっ妹が着物欲しいちゅうてたな。
あれも買うてやらないかんし。
あっ!オカン屋根雨漏りするちゅうてたな。
屋根だけ直すん邪魔くさいいっその事家建て替えよ」。
「お前何を言うてんねんな!この笛なんぼやねん!?」。
「アハッ大将すんまへん。
その笛300万!」。
「300万!?何言うてんな!こんなもんさらで買うたかてたかだか200円や300円!それを300万!人の足元見やがって!」。
「いやいや足元やない手元を見ております」。
(拍手)さて後半は桂文之助さんの登場でございます。
この落語会実はNHK新人演芸大賞の受賞者ばっかりを集めた回なんですよ。
2013年には紫さんも出はったんでんな。
そうなんです。
ありがたい事に出させて頂いたんですが大賞は取れませんでした。
あら残念でございます。
今年2014年はいかがでした?はい。
2014年は春風亭朝也兄さんが大賞を取られました。
紫さん頑張って下さい。
是非とも次回これ取ってまたこの会へ出演者として登場して頂きたいとそう思っております。
ありがとうございます。
頑張ります。
というところで1989年に前の名前桂雀松で大賞を取りました桂文之助さんの登場でございます。
出し物は「親子茶屋」です。
(拍手)一席聴いて頂こうというような事でございますが日本というのは四季の別がございましてまことに結構でございますね。
ただ本当に季節のよい時期心持ちのよい時期というのは大変に期間が短い訳でございますがただ今夏が暑い冬が寒いなんか言いましてもいわゆるその何と申しますか結構な冷暖房器具というのがございますんで。
そして季節季節四季折々いろいろお楽しみというのがある訳でございますね。
大変楽しみが多い。
ところがひと時代前はと申しますとお楽しみというのは大変少ない訳でございまして男の楽しみ三だら煩悩飲む打つ買うてな事を申しましてね飲むお酒。
打つ博打ね。
買う…何を買いに行くのかよく知らないんでございますが。
以前男性が「遊びに行こう」。
遊びに行くという所はもう決まっておりまして色町色里いわゆる廓なんという結構な所があったんだそうでございまして。
もうお金さえ持っていきゃ大変に楽しく遊ばしてくれたんだそうでございまして羨ましい限りでございますがね。
ただ昔から美人薄命と申しましてそういう美しい女性は長生きできないのかなと思っておりましたらそうでないそうです。
美人薄命薄命というのはどういう字を書くかと申しますと薄い命と書く。
薄い命。
どういう事かと申しますと幸薄い。
薄幸と申しますか幸せになれない。
ですから美人薄命という言葉は本当に美しい女性というのは生まれながらに体が弱かったりまた何でございますね美しいが故に歴史に翻弄されていわゆる幸せな人生が歩めないというのが美人薄命という言葉だそうでございます。
言われるとそうかなと思いますな。
そこへいきますと今日お集まりの女性のお客様方大変お幸せそうなお顔でございます。
もう喜ばしい限りなんでございますけれどもね。
そういう色町色里へ極道の若旦那なんというのが入り浸る訳でございましてこれまた噺の方によく出てまいります。
親父さんが一生懸命仕事をして身代をこしらえるとそこへ極道の若旦那が生まれるという。
必ずそうでもないんでしょうが今でもちょいちょいある事でございますな。
「子ども。
子ど…ああ定吉か。
うちのノラはどうしてます?」。
「あの最前まで大屋根いてましてんけど物干し下りていったような具合」。
「何がいな?」。
「うちのトラ」。
「誰が猫の事を聞いてます。
『うちの極道はどうしてます?』と聞いてますのじゃ」。
「極道ちいいますと?」。
「伜作治郎のこっちゃ」。
「はっ何や作んちょか」。
「作んちょと言うやつがあるかい」。
「あの若旦さんやったら奥の離れで本を読んではります」。
「私がそう言うてる。
お手間はとらしません。
ちょっとこれまでと呼んできましょう」。
「へえ。
また怒られよんねん若旦那。
よう怒られる若旦那やでほんまにな。
え〜あっ!いとおるいとおる。
ノラ!極道!ヘヘヘッ作んちょ!」。
「こら。
何が作んちょや」。
「親旦さん呼んではります。
お手間はとらしまへん。
ちょっとこれまで」。
「またかいな。
もうかなわんな。
今行くちゅうとけ!」。
「いやお手間はとらしません。
ちょっとこれまで」。
「今行くちゅうとけ!」。
「へえ。
あの行てまいりました」。
「何と言うてましたな?」。
「『今行くちゅうとけ!』」。
「そら何を言う。
たとえ伜がそう言うたにせえそちはここへ来たら手をついて『若旦さんただいまこれへお越しになります』となぜ丁寧に言わん?だんだんだんだん生意気になりくさってもうよろし。
そっち行ってなはれ。
そこへ来たんは誰じゃ?伜か?作治郎こっち入んなはれ。
おざぶあてなれ。
いや遠慮せえでもええ。
あてさそうと思て出した座布団遠慮は随分外でしくされ」。
「おはようさんで」。
「おはようさん?こなた頭でもおかしなったんと違うかえ?おはようさんというのは朝早うに会うた時にする挨拶じゃ。
今何時じゃと思うてなさる。
台所の具合ではぼつぼつ昼じゃ」。
「朝が早いさかいおはようさんと言うたような訳やございませんので。
お呼びになりましたんまた例のあのご意見かと思いましてあれいつもお昼ごはんのあとぐらいにおましたな。
それから比べると今日はちょっと朝が早いんでおはようさんと言うたような訳で。
まあしかしね日に一遍なけりゃならんのでおますさかい早い事始めて早い事済ました方がねお互いの気の片づけでおますさかい。
ぼちぼちお始めになったらどうでおます?よっよっよっ待ってました」。
「待ってました?こなた私が小言を言うのを待ってなさんのかえ?わしじゃとて日にち毎日同じような事ばっかり言いたいもんか言いとないもんか」。
「それはこっちも同じこってんで。
もう毎日毎日ね同じような事ばっかり聞きたいもんか聞きとうないもんか」。
「それをこなたが言わしなさる」。
「あんたおっしゃる」。
「こなたという人は…」。
「あんたという人は…」。
「掛け合いやそれでは」。
「お父っつぁんね『引き鳴らす甲斐こそなけれ群雀。
音聞き慣れて鳴子にぞ寄る』という古歌があんのをご存じで?」。
「知らん。
存じません。
私はそういう難しい事は一切知らん。
『世の中は詩を作るよりも田を作れ。
某よりも金貸しがよい』と言うわ」。
「これはごもっともで。
しかしこれはお百姓の仕事になぞらえて世渡りの難しさを説いた道歌とかいうもんやそうでおましてお百姓ちゅう仕事はえらい仕事ですな。
朝は朝星夜は夜星を頂いて一生懸命働いて秋になるとお米が実ります。
そこへね雀ちゅうやつがお米を食べに来よりまんねん。
一生懸命こしらえたお米食べられてたまるかいちゅう訳で田んぼに竹立てて綱張って鳴子ちゅうやつをぶら下げます。
端の方からこの綱を引くとガラガラと音がしてその音にびっくりして雀がこう逃げよりまんねやな。
ところがお百姓が一粒の米もやるまいちゅう訳で朝から晩まで鳴子を鳴らし続けに鳴らしてたらどないなるとおぼし召す?雀がこの鳴子の音に慣れてしまいますねやな。
ハッハ〜鳴子ちゅうのはああしてガラガラいうだけで別に怖い事も何ともないもんやなてなもんでまあ鳴子の音を聞きながら平気でお米を食べるようになりますわ。
中にズボラな奴鳴子の上止まって頭からピャッピャッとフンかけたりしよりまっせ。
バカにしきってますな。
お父っつぁんのお小言もこんなもんかいなと思うとります。
これだけの身代財産をお作りになったとこへ私という雀が来てまんねやな。
かわいいのがチュンチュンとね。
せえだいお金を使いますわ。
そこで折を見てお父っつあんが『伜作治郎!』ご意見あそばしたらああお父っつあんちゅうのは怖いもんやな。
怒られんようにせないかんなと私という雀が身にしみまんねんけどね。
今みたいに夜が明けたら『作治郎ガラガラガラ』。
日が暮れたら『伜ガミガミガミ』。
ガミガミガミガミ小言を言い続けにしてたら私というこの雀がお小言に慣れてしまいますねやな。
ハッハ〜ンお父っつぁんちゅうのはああしてガミガミ言うだけで別に怖い事も何ともないもんやなあ。
あらあの人の性分やな性格やなってなもんでお小言を聞きながら平気でお金を使うようになりますわ。
しまいにはいやこれはしまへんで。
ほんまにはせえへんけどまっものの例えがあんたの頭にフンでもかけようかな」。
「なんという…。
分かりました。
こなたがそんなふうに思ってなさんのやったら私ゃもう今日限り小言というものは一切言わまい」。
「こら助かった。
ではこれで失礼を…」。
「ちょっと待ちなれ。
ちょっと待ちなれ!その前に一つだけ聞いときたい事がある。
こなたが毎日毎日金持って遊びに行てなはる。
芸者とかいう女子とたった一人のこの親とどっちが大事?それだけ聞かしてもらおう。
それさえ聞いたらあとはもうふっつりと言わんでな」。
「お父っつぁんねあんたちっともうろくしはったんと違いますか?大丈夫かな?心配やな。
人が聞いたら笑いまっせ。
親が大事か芸者が大事か?そんなもん話にも何も…」。
「それをこなたに習おうか?しだらがしだらじゃによってこんな事聞かんならんね。
さあさあはっきり言うとくれ」。
「もう堪忍しとおくなはれ。
だれるがなそんなん。
親が大事か芸者が大事か頭からはかりにも天秤にも」。
「それをこなたに習やせんというのに。
こんなあほらしい事聞かんならんようにどなたがしなさった。
こなたじゃとて親が大事やろ?」。
「え?女子でっせ。
はっきり言うときます。
女子。
え〜聞こえてますか?女子!」。
「やかましいわい!はあ〜こら面白い!その訳聞こう」。
「申し上げまひょ。
お父っつあんね芸者やとか小山やとか仲居やとか水商売の女子は皆人をだまして金を取る。
悪いやっちゃと決めてはりまっしゃろ。
それがいけまへん。
今はいろいろ事情があってあんな商売してはりますけれども元はと言えば普通の家の普通の娘はん。
人情にも何も代わりおますかいな。
いやこの間もこんな事がおました。
わたいのなじみのこれにね『まあまあわしが毎日毎日金持って遊びに来てるよってに若旦那とかボンボンとかスポポンとか言うてくれるけれども明日にち勘当されて箸1膳持たん体になったら鼻も引っ掛けてくれよまいがな』ポ〜ンとかましたった。
そしたらね女子がわたいの方ジ〜ッと見てたかと思うと目からポロポロっと涙をこぼして『もし…若旦那』」。
「何という格好をする!気色の悪い。
親の前で」。
「『ひっきょうあんさんが何ご不自由なしにお遊びにお越しになりますよってに私がどのように思うとりましてもお見せする事ができません。
ご勘当願わんこってはございますがどうぞ勘当されておくれやす。
こんな稼業致しておりましてもあんさんのお一人ぐらい見事養い通してごらんに入れます』。
と言うたところで『芸者屋に若い男がゴロゴロしてるという訳にもいかへんやないかいな』。
『それがために商売に触んのやったらわて辞めてしまいます。
足洗います。
少々の蓄えもあれば着物やかんざし売ったかて半年や1年めったにご不自由おかけいたかしません』。
『使うもん使うてしもた。
売るもん売ってしもたらどないすんねん』。
『構しませんがな。
大阪ばっかりに日が照る訳やなし東京へでも行て一旗揚げようやおまへんか』。
『…と言うたところで旅費がない』。
『よろしいがな。
あんたがちょっと置き手拭いもんわたいが手慣れた三味線1丁持って街道筋人さんの軒下へ立って…』。
シャシャシャシャシャン。
え〜シャン。
・『縁でこそあれ』チンチン。
・『末かああああ〜』」。
「どっから声を出すのお前さん。
親不幸な声を出すのやない」。
「『陽気浮気に旅をしたかて東京へまでぐらい行けまっしゃろ』。
『向こう行ってどうしよ』。
『構しませんがな。
私の体一時葭町か柳橋へでも沈めておくれやす。
そのお金を元手にあんさんに商売をしてもらいます。
2年3年たつうちに商売の方の道もついてくる私の年季も明けるわ。
したら改めて夫婦共稼ぎ。
一生懸命働いて生涯仲良う暮らそやおませんか』とこういううれしい事を…。
はあああ…!」。
「泣かいでもええ。
泣く事あらへん」。
「そこいくとお父っつぁんあんさんですわ。
そら今ぎょうさんお金持ってはりまっせ。
けど不時の災難これは分かりまへんわな。
いやうちは気を付けててもよそからのもらい火こらかなわん。
夜中に寝てるさあ火事や。
そら逃げ。
命あっての物種と思うて飛び出す。
うちは丸焼け。
箸1膳持たん体になってそらま当座親類知った先ほっとかしまへんで。
うち来てお泊まりやす。
これ持って去んでお使いと言うてくれるがこら続かんね。
そのうちあっちへ行っては嫌がられこっちへ来ては嫌われしまいにおる所がないようになってしもうて『伜どうしよう』。
『お父っつぁんどないしまひょ』。
『構へんがな。
大阪ばっかりに日が照る訳やなし東京へでも行て一旗揚げようやないか』。
『言うたところで旅費がない』。
『ええがな。
お前がちょっと置き手拭いもんわしが三味線1丁持ってシャシャシャシャシャン』。
弾けますか?弾けますか?よう弾きなはらしまへんやろ。
シャシャシャシャシャンおろか火の番の太鼓一つ満足によう打たん不器用な人やあんさんは。
そんなど不器用な親持った伜の因果やと諦めてあんたを背中へ負いまひょか?あんたを背中へ負う孝行息子褒めてもらわないかん。
街道筋人さんの軒下へ立って『大阪の焼け出されでございます。
年寄り抱えて難渋致しております。
オンオンオン』と泣いて歩いたら慈善家の多い世の中1文2文のもらいだめなどして東京へまでぐらい行けたとしなれ。
『向こう行ってどうしよう』。
『構へんがな。
わしの体一時葭町か柳橋』。
買いますか?買いますか?買わしまへん。
葭町柳橋はおろか高津の黒焼屋へ持ってっても『こんな汚いもん一緒に燃やされへんがな臭いがつくがな持って帰って持って帰って』って断られてしまう。
そんな3文の値打ちもない。
老いぼれ親父と水のたれるようなきれいな芸者と頭からはかりにも天秤にも…」。
「じゃかましいわい!よう人さんが買うて下されぬこそ私買い手があったら売られてしまう。
こんな恐ろしいやつ片ときもうちに置いておく事はできん。
とっとと出ていくされ!」。
「出ていけまいでかこんなうち」。
「しばらくお待ちしばらくお待ちを!若旦さん何という事をおっしゃる謝んなれ謝んな…。
お腹立ちはごもっとも。
お腹立ちはごもっとも」。
「番頭どん聞いてとくなさった。
あろう事かあるまい事か親の頭にフンをかける。
親を高津の黒焼に…」。
「お年をお召しに…なりません若旦さん。
お心にもない事をおっしゃいます。
後ほど手前どもからとくとご意見をさせて頂きますんで今日のところは免じられまして私。
ええ。
それよりも先ほどお寺さんからお使いが参りまして島之内の万福寺さんでお座が勤まりますのやそうでこんな時のお気晴らしと申しますともったいのうございますがご気分直しにお説教でも聞いてきはったらいかがでございます?」。
「よう言うて下さった。
もうこうなったらあと頼みとするのは阿弥陀さんばかり。
ありがたいお説教でも聞いて後世を願うてくると致しましょ」。
「それがよろしゅうございます。
お数珠は持ってはりますか。
これ子ども親旦さんお出まし。
お履物そろえよ」。
「え〜い。
お履物これへそろえております。
お杖もこれへ出ております」。
「ああよう気が利いた。
今の粋を忘れまいぞ。
商人は気を走らす。
これが一番じゃ。
なあ。
番頭どん見習うて立派な商人になりますのじゃぞ」。
「へえ〜い」。
「必ずともうちの極道を見習うでないぞ」。
「へえ〜い。
親旦さんも若旦那が極道でご心配なこっておますな」。
「そら何を言う…。
褒めたら褒め損ないじゃ。
そしたら番頭どんひとつよろしゅうお頼申しましたぞ」。
「どうぞお早うお帰り」。
「はい」。
収まって表へ出ます。
こう申しておりますこの旦さんまことにもの堅い実直な真面目なお方のように聞こえるのでございますが実は裏返しますというと若旦那より2〜3枚うわての極道。
表へ出ると数珠は丸めて袂の底へポンほり込んでしまう。
ミナミへミナミへ。
万福寺さんも尻目に殺してミナミへやって参ります。
戎橋の北詰よいと東へ曲がりますというと宗右衛門町。
いつに変わらぬ陽気な事。
「はあいつ来てみてもこの里ばかりはにぎやかなこっちゃ。
なあ。
あるかないか分からん極楽とか地獄とかを当てにして後世を願うよりもこれがまことにこの世の極楽。
若い者が来たがるのも無理もない。
しかしわしが使う伜が使わしたんではうちの身代はたまったもんやない。
いっその事あんなやつ早い事死にやがったらええと思うのに達者なやつで風邪一つひきよらん。
たった一人の伜見送ろうと思たら大抵なこっちゃないわい」。
「はいごめんを」。
「まあ旦さんえらいお久しぶりで」。
「はい久しぶりに遊ばしてもらいに来ました。
いつもの部屋空いてるかいな?」。
「う〜んそれがどんなこってただいまちょっと塞がっておりますの。
表の間の方でご辛抱を…」。
「それがいつも言うてる年寄りの隠れ遊び。
表の間門通ってる人に顔を見られるで具合が悪い。
そこよりないのんかいな?そしたら空いたらじきに替えとくなされ」。
「心得ております。
どうぞお二階へ」。
トントントントンと2階へ上がります。
突出しが運ばれる。
仲居さん相手にチビチビやってますところへいつものきれいどころがト〜ンと繰り込んでまいります。
「旦さんおおきに」。
「旦さんおおきに」。
「旦さんおおきに」。
「旦さんおおきに」。
「ああ来たか来たか。
国松に幾松に唐松に荒神松。
ああ久しぶりに雀松も来たか。
ああこっちにこっち」。
「旦さんおおきに」。
「これまたかわいらしいのが飛んで出てきたやないかいな。
ええ?国松の妹て7つ!はあ〜大抵のこっちゃない。
こんな小さい時分から修業しなさる。
ええ?さだめしええ芸子衆ができるこっちゃ。
わしのそばへ座らしてやんなはれ。
おざぶあてさして…え?いや構いやせん子どものこっちゃ。
あてさしてやんなはれ。
ああかわいらしいな。
え?ええべべ着てるな」。
「姉ちゃんの染め直し」。
「そんな事言うたら姉ちゃんに叱られる。
なんぞ欲しいもんがあったら言いなれ。
おまんがええか?ようかんがええか?」。
「わたい甘い物嫌い」。
「しゃれやな。
ほんなら果物か水菓子う〜んおもちゃがええか?なんぞ欲しいもんがあったら言いなはれ」。
「ダイヤモンドの指輪」。
「そんな贅沢な事言うたらいかん。
面白い子じゃな。
え?いやいや小さいもんやなしにこのおっきい方でもらいましょうかな。
はいはい。
はいはばかりさん。
はい」。
「いや〜久しぶりに遠道歩いたんでなほっこりとくたびれてお酒がよう回る…。
何じゃい?何じゃ?え?もう三味線の調子合わしてんのかいなえらい勉強やな。
そしたら一ついつものやつやろか」。
「旦さんいつものやつ言いますと?」。
「そうそう。
あの『釣ろよ釣ろよ』というやつ」。
「はああの『狐つり』」。
「ああそうそう!『狐つり狐つり』」。
「姉ちゃん」。
「何やね?」。
「あの『狐つり』てどんな遊び?」。
「あんた知らんのかいな。
扇子で目隠しして『釣ろよ釣ろよ』ちゅうて鬼ごとのまねみたいな事するやつ」。
「嫌いやわそんなん。
古くさい遊び。
面白ないわ。
わてそない言て去なしてもらおうかしら」。
「そんな勝手な事ができるかいな。
いいえこの旦さんいつ来はってもこればっかりや。
これより知らはれへんの。
あほの一つ覚え。
いや構へんがな。
『釣ろよ釣ろよ』ちゅうてはしご段のとこまで引っ張っていって後ろからト〜ンと突いてやったらええねやわ」。
「そんな事したらころこんで落ちて目ぇ回す」。
「もう目ぇ回したら二度と来いでもええがな」。
むちゃくちゃ言われてます。
「扇子としごきと持ってきてくれるか?」。
「はい」。
「後ろで何してくれる。
おっと!そう毒性に締めたらいかん。
ああそんなもんでよかろう」。
「ほんなら旦さんご用意よろしおますな。
囃子方もよろしいな。
ほないきまっせ。
『やっつくやっつくやっつくな』」。
・「釣ろよ釣ろよ」・「信太の森の」・「狐どんをば釣ろよ」・「やっつくやっつくやっつくな」・「釣ろよ釣ろよ」・「信太の森の」・「親旦那をば釣ろよ」・「やっつくやっつくやっつくな」・「もっとこっちへおいなはれ」・「そっちへ行ったら落とされる」「旦さん知ってはんねやわほんまに」。
「あああほらしなってきたなほんまにもう。
ええ?今日だけはおとなしいしてたろうと思ってんけど昼過ぎになったら体が落ち着かへん。
番頭だましてまた出てきてしもた。
あいつも心配しとるやろうな。
え〜…。
しかしこうしてな色町へ入ってくると親の意見も何もポ〜ンとどこへやら飛んでいってしまうだけありがたい。
え〜っと今日はどちらで…」。
「おやおやおやおや古風な遊びしてるな。
『狐つり』ってやっちゃ。
へえ〜。
え?あれが客!?頭のハゲ具合からいくとうちの親父とえろう変わらんであれは。
粋な人やなこんな年になってもこんな粋な遊びしてんねや。
そこへいくとうちの親父は何たるやっちゃらほんまに。
金の番するためにこの世へ生まれてきやがったんかいな。
こういう人の爪の垢でも煎じて飲みやがったらええのにな。
え〜うん?あら?ここ一遍来た事があるような…。
あっそうか!田中と来た事があるのか。
ごめん。
こんにちは。
ごめん」。
「は〜い。
まあ若旦さんお久しぶり。
いつぞやおおきに」。
「いつぞや失礼しました。
あれから田中来ますか?えっ来えへん?あ〜あいつも忙しいんやろ。
そらそうと2階えらいにぎやかやな」。
「いつ来はってもあないして派手に遊んでくれはりますの」。
「どこの人?だいぶ年配やけどどっちの人?」。
「さあそれがないつ来はっても『年寄りの隠れ遊びや』言うておところも名前も言うてくれはらしませんの。
え?いえいえ!そら確かな方からのご紹介でおますよってに何でも船場の去る御大家の親旦さんという事は承っておりますのん」。
「へえ〜粋な人やな。
え?わしはこういう人にあやかりたい。
こういう…こういう年寄りになりたいねん。
憧れるな。
ちょっと一座さしてもらうように一緒に遊ばしてもらうようにちょっと頼んでえな」。
「いやあきまへん。
あかしまへんねんて。
いえ今も言うたとおり『年寄りの隠れ遊びや』言うて。
『表の間門通ってる人に顔を見られるさかい嫌や』言うてはるぐらいないしょにしてはりますのん。
とても一座やなんて…」。
「さあさあそこやがな。
そこ頼みようがあると言うのや。
今日これなんぼ使うてはるか知らんで。
なんぼ使うてはるか知らんけども今日の勘定皆と言うたら失礼になる。
半分だけ持たしてもらうという事でなんとか話にならんやろうか」。
「ちょっと待っとくなはれや。
いえあの人派手に極道してはりますけど至って勘定高いところのあるお方ですさかいなそのお会計の話したらひょっとしたらなんとかなるかも分かりまへんな」。
「そうか。
ほなえらいすまんけどちょっと話してみて」。
「さよか。
ほなちょっと待ってとくなれ。
ちょっとお二階の!ちょっとお二階の!」。
「何じゃい何じゃい?ちょっと待ったん待ったん待ったん待ったん。
何じゃい?調子が乗ってきたとこじゃないかいな。
どうしたっちゅう…」。
「旦さんちょっとお耳拝借。
お耳貸しとくなれ」。
「何じゃい何じゃい。
また芝居のむし…。
えっ違う?うん。
今下にどっかの若旦那が来てわしと一座…。
あほな事を言うのやない。
いつも言うてる年寄りの隠れ遊び…。
え?それも言うた。
うんそしたら?今日の勘定皆と言うたら失礼な半分だけか…。
そら皆持ってもろても失礼な事はないねんけどな。
え?あっそうか?ほなまあ上がってもらう事にしようか」。
「喜ばはりますわ。
それでな今ここへ上がって頂いて初対面のご挨拶や何かしてますとお座が白けますよってに。
若旦那子狐に仕立てて上へ上がってもらいます。
親狐と子狐せんどほたえたあとで目隠しを取ってご対面という…」。
「そらもうおまはんに任すよってにあんじょうしてんか」。
「さよかほなちょっと待ってとくなれ。
おまっとはん」。
「どやった?」。
「いえな始めのうちはもうな年寄りの隠れ遊びやとか何とか堅い事言うてはりましたんやけども最前のお勘定のお会計の話したら『そら皆持ってもろても失礼な事はない』と」。
「ハハハッその辺はうちの親父によう似てんねんそれは。
ああそうかいな。
え?わしが子狐?よっしゃよっしゃ。
ちょっと扇子としごきと持ってきてくれるか?何してくれる。
お〜っとそんなもんでよかろう」。
「ほな若旦さんご用意よろしおますな。
お二階もよろしいな。
あの子狐上げまっせ。
ひのふのみっつ」。
・「釣ろよ釣ろよ」・「信太の森の」・「子狐どんをば釣ろよ」・「やっつくやっつくやっつくな」・「釣ろよ釣ろよ」・「信太の森の」・「親旦那をば釣ろよ」・「やっつくやっつくやっつくな」・「やっつくやっつくやっつくな」・「やっつくやっつくやっつくな」・「やっつくやっつくやっつくな」・「やっつくやっつく」「ゴホゴホゴホッ…ちょっとちょっと待っとくんなさい。
いや〜年を取りとうないな。
ちょっとほたえただけで息が切れてどもならん。
しかしこんな年寄りの隠れ遊びが気に入った一座をしてやろうというありがたい事でな。
ひとつこれをご縁に以後はお心やす…。
こなた伜やないか!」。
「え?あっ!あんたお父っつぁんやお父っつぁんやお父っつぁんや!」。
「伜か。
う〜ん…必ず博打だけはせんように」。
(拍手)2014/12/26(金) 15:15〜16:00
NHK総合1・神戸
上方落語の会 ▽「道具屋」笑福亭生寿、「親子茶屋」桂文之助[字]
▽「道具屋」笑福亭生寿、「親子茶屋」桂文之助▽NHK上方落語の会(26年9月4日、11月6日)から▽ご案内:小佐田定雄(落語作家)露の紫(落語家)
詳細情報
番組内容
笑福亭生寿の「道具屋」と桂文之助の「親子茶屋」をお送りする。▽道具屋:無職の遊び人が、親戚のつてで初めて商売をすることに。おじの副業である古道具屋を始めるが集めた売り物はガラクタばかり。客とやり取りをするが全く売れなくて…。▽親子茶屋・父親が道楽息子に意見をしていると息子も負けずに言い返す。この父親、実は大変な道楽者、息子をしかった後、お茶屋で派手に遊ぶのだが…。▽ご案内:小佐田定雄、露の紫
出演者
【落語家】笑福亭生寿,桂文之助,【ゲスト】露の紫,【案内】小佐田定雄
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劇場/公演 – 落語・演芸
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