(亀山薫)なんだよ話って。
(鹿手袋啓介)俺を恨みに思う気持ちはわからなくはない。
あ?逆の立場なら俺だってそうならないとは限らない。
そうならない…?自覚はないの?何?ないだろうなやっぱり。
なんだよ?自覚ってなんだよ?あんた夜な夜な俺んとこに来てる。
は?首を絞めにね。
(鹿手袋のうめき声)大丈夫か?大丈夫じゃない。
ここだよ。
イカレちまったんじゃねえのか?頭の心配より命の心配してくれ。
話になんねえなまったく。
自覚がないだろうがあんたの仕業だ。
生霊だよ。
生霊!?源氏読んだ事あるか?え?夕顔と葵の上が生霊になった六条御息所に殺されたろ。
来るんじゃなかったよ。
美和子も取り憑かれてる。
何?あんたの亡霊に。
今度は亡霊かよ。
心の隅に居座り続けるあんたを追い払えずにいる。
確かに2人の歴史は長い。
すぐさまそれを忘れ去る事は不可能だろうが思ってた以上にあんたの存在が大きかった事に今戸惑ってる。
美和子がか?美和子に…結婚を申し込んだ。
え?それで?ん?おい。
何やってんだあいつ。
ん?んんっ?女だ。
うん。
裸だぞ。
うん。
どうする?どうするって…ほっとけねえだろ。
あ?あれ?あ?どこ行っちゃった?どこ行っちゃった?まさか…。
おいいねぇよおい。
あ?なんだよ?何やってんだよ。
えー…おいちゃんと撮れてる。
だからなんだよ?向こうでも1枚撮ってきた。
もちろん女を写すつもりでカメラを構えたんだが…。
写ってんのはご覧のとおり景色だけだ。
ほんとだ。
あんたはちゃんとこうして写ったから女が写らないのはカメラのせいじゃないと思う。
たまたまそん時だけ調子が悪かったんじゃねえのか?そうかもしれないが…。
え?幽霊かよ?ハハハ…馬鹿じゃねえのか。
さっきからどうかしてるよ。
生霊だの亡霊だのってさ。
まさか落っこちたんじゃねえだろうなおい。
使える使える。
ん?うおー…。
どうした?
(角田六郎)お互い引きが強いって事だな。
いつだったか課長も死体つり上げましたもんね。
得がたい才能かもしらん。
刑事としては自慢していいぞ。
そうっすかねぇ。
(杉下右京)本格的な捜索はこれからですか?ええ10時から。
大々的に池をさらってみるそうですよ。
ま昨夜もできる範囲でさらってみたんですけどねなにぶん夜でしたし…。
頭蓋骨以外に目ぼしい発見はなかったわけですね?ええ。
そろそろ行きましょうか。
車が混んでるといけませんから早めに出ましょう。
行かないんですか?行きますよ。
ああ右京さんも行きます?いけませんか?いけなくないですよ。
幽霊?ええ。
見た事とかあります?残念ながらまだお目にかかった事はありませんねぇ。
ですよね。
まそういう非科学的な事は右京さんの守備範囲じゃありませんよね。
そういう君はどうですか?見た事あるんですか?…ありませんよ。
あるわけないでしょ。
だいいち信じてませんよそんなもん。
忘れてください。
ああの木の辺りなんすけどね。
なんかあったのか?なんか見つかった!引き上げるぞー!おー!こっちお願いします。
はいこっち上げます。
はいできました!じゃ上げようか。
せーの!置くぞ。
よし。
(瀬戸内米蔵)時々出るそうだ。
(小野田公顕)出る…?そん中から抜け出てくるんだとよ。
お化けですか。
ほんとにいるならぜひ一度見てみたいもんですね。
よせよせ卒倒するのがオチだぞ。
勇ましい事言う奴ほどその場になってだらしがねえもんだよ。
ご覧になったんですか?幽霊か?しょっちゅうだよ。
ガキの頃なんか夜中に一緒にチャンバラして遊んだもんだ。
やっぱりお寺は出ますか。
寺ってのはな昼間はこうして静かだが夜になると賑やかなもんだぜ。
(雀蓮)失礼致します。
どうぞご案内致します。
雀蓮さんとかいったね?はい。
しっかり修行してるかい?はい。
庵主さんにいじめられてねえか?は?そん時はな俺に言いつけな。
場合によっちゃ逮捕しちまうから。
なぁ小野田君。
他ならぬ瀬戸内米蔵の要請とあらば。
ハハハハハ。
(瀬戸内)いや結構でした。
結構なお点前でした。
(蓮妙)お粗末様でございました。
いいだろう?この人のお茶は絶品だ。
そうお思いになるならもっとお寄りくださいな。
最近はすっかりお見限りで寂しゅうございましたよ。
ハハハ飲み屋の女将じゃあるまいしなんて言い草だ。
しかもまあしばらくお見かけしないうちにまた一段と人相が悪くおなりになられて。
ハッまそりゃ仕方がねえな。
こちとらとっくにシャバの人間だ。
この人なんかもっとひでぇもんだぜ。
魑魅魍魎がうごめく世界に生息してるとこうなるっていう標本みたいなもんだな。
瀬戸内さんとはご兄弟弟子とお聞きしましたけど。
ええそうなんですよ。
うちの親父がなこの人の髪おろしてやったんだ。
ほう。
雀蓮さん続いてるなぁ。
もうどのぐらいになる?
(蓮妙)2年半ほどになりますかしら。
(瀬戸内)そんなになるのかい。
私いじめたり致しませんから。
お?地獄耳だな。
ハハハ。
瀬戸内さんの声が大きすぎるんじゃないですかね。
ええ。
しかしあんたが弟子を取るってのは驚いたなぁ。
うちの親父もそうだったがねなまなかじゃあ出家の願いは聞き入れねぇ。
そうだろ?仏縁でしょうかしらねぇ。
ほう仏縁ねぇ…。
(監察医)右大腿骨40.9センチ。
緑褐色に変色。
骨の表面は比較的平滑にて生前の損傷は見られない。
骨盤の形状は尋常で骨盤空は広く浅いろうと状である。
(監察医の咳払い)失敬。
(伊丹憲一)特命係の…。
(3人)亀山〜。
うっとうしいんだよお前らは。
相変わらず笑わせてくれるなお前は。
何?
(三浦信輔)しゃれこうべつり上げるとは傑作だよ。
本庁です。
男ですかねぇ。
それとも…。
どうやら女性のようですねぇ。
女?ええ。
違いますか?おっしゃるとおり。
(伊丹)女か。
女…。
どうかしましたか?あっいえ…べつに。
他に何かわかった事は?我々同様黄色人種である事は間違いない。
ええおっしゃるとおり。
(三浦)黄色人種ね。
恐らく…年は30前だと思いますよ。
(芹沢慶二)30前の黄色人種の女性ですか…。
多分ね。
今のところわかるのはそのぐらいですかね。
あんたなら死因だってわかるんじゃないか?いくら僕でもそれは無理ですよ。
フン。
本当に30前の女ですかね?くどい!あすいません。
(角田)麻袋に詰められて捨てられたってわけか。
ええ。
だけどなんでしゃれこうべだけ?恐らく袋を池に沈めるために重石として入れておいた石が袋の底を破ったのだと思います。
そこから白骨化してバラバラになった骨のうち頭蓋骨が転がり出て池の端まで流れ着いたのでしょう。
それをこいつがつり上げたってわけか。
(米沢守)ごめんください。
ああお待ちしてました。
どうも。
なんだ?いやご報告に。
どうしました?顔色がすぐれませんね。
詳しくわかりました?まああの状態ですからねぇ得られる情報にも限りがありますよ。
まず名前ですが…。
名前?身元がわかったのか?いやーわかりませんが骨だの白骨遺体だの呼ぶのは味気ない。
ですから便宜上名前をつけてみました。
その名も「レディX」。
レディX?
(米沢)きちんとこの目で遺骨を確認した上で命名しました。
いかがでしょうか?特に異論はありませんよ。
続けてください。
恐れ入ります。
えーまずレディXはですね死後3年ほど経過してます。
死亡時の推定年齢は25歳から30歳までの間。
身長はおよそ156センチで血液型はO型です。
着衣その他装飾品のたぐいは何も発見されていないので恐らく全裸のままで袋詰めされたと思われます。
全裸か…。
(米沢)いかがわしい想像はしないように。
してませんよ。
ね?いいや俺は少しした。
死因は当然わかりませんね?ええわかりませんがレディXは科警研に送られたのでひょっとしたら今後何か出てくるかもしれませんね。
いずれにせよ遺留品が何もないんじゃ身元の特定は難しそうだな。
しかしもうすぐレディXの顔が拝めますよ。
カービングつまり復顔法ですか。
(米沢)ええ胸がときめきますね。
(宮部たまき)殺人事件なの?さあどうでしょう。
死因がまだはっきりしませんからねぇ。
死体遺棄事件である事は間違いないと思いますが。
変なものつり上げちゃいましたね。
えっあ…。
右京さん?はい。
見ちゃったかもしれないんですよ俺。
見ちゃった?何を?幽霊。
いやそもそもね頭蓋骨をつり上げたきっかけが裸の女だったんですよ。
なるほど。
つまり駆けつけた時には忽然と姿を消していたわけですか。
ええ。
写真にも写らなかったなんて変ね。
でしょ?きっと幽霊よ。
白骨遺体の女性とか…。
そうっすかねやっぱり…。
いやいやいやいや!いやそんな馬鹿な事ないっすよね。
幽霊なんてね。
羨ましいでしょ?え?亀山君が見たとなるといささか嫉妬を覚えますねぇ。
嫉妬?右京さんねこういうの大好きなんです。
え…いや大好きって…。
英国に留学中幽霊が出没するという場所を随分訪ねたんですが結局一度もお目にかかれませんでした。
私は見ましたよ。
シェイクスピアホテルですか?ええ。
ほんとに見ました?見ましたよ。
ストラトフォードのシェイクスピアホテル。
本館のね206号室に元女主人の幽霊が出るんです。
有名なんですよ。
私はしっかり見ましたけど右京さんは…。
僕は幽霊を見る能力が欠如しているのでしょうかねぇ。
きっとそうかな。
万能だなんて思ったら大間違い。
へっ幽霊か。
(奥寺美和子)薫ちゃん。
はぁ…お前かよ。
びっくりさせんなよ!ごめん。
…なんだよ?いや…彼が変な言いがかりつけたみたいで。
え?ああ…。
ヘヘヘまったくよぉ生霊呼ばわりだぜ生霊。
夜な夜な首絞めに行ってるんだってさこの俺が。
申し訳ない。
いいのか?あんなんで。
言うに事欠いて源氏物語持ち出すようなトンチンカンな奴でさ。
結婚…申し込まれたんだ。
ああ聞いたよ。
そう。
なんて返事したんだ?それは聞かなかったの?聞きそびれた。
「いいよ」って返事したんだけど。
受けたのか?だから…受けるつもりで「いいよ」って言ったんだけど…。
ん?なんだよ?条件があって。
条件?私の中から薫ちゃんを追い出してくれって。
思い出も何もかもきれいさっぱり消し去ってくれって。
無茶だよね。
無理難題ってもんだよ。
ごめんね薫ちゃん…。
あと1週間…。
(角田)お前が見たのはこの女か?さあ?なにしろ遠かったっすからねぇ顔までは…。
もしこの顔ならお前が見たのは幽霊だったって事だな。
なっ。
その可能性はありますね。
おはよう。
あっおはようございます。
おはようございます。
おはようございます!暇なの?はぁ?あっいえいえとんでもない。
失礼します!君が彼女をつり上げたんだって?はぁ?いやまあつり上げたのは頭蓋骨ですけど…。
その頭蓋骨から作った顔だから同じ事じゃないの?あっ…。
美人だね。
それが何か?美人は記憶に残るでしょ?いやついこの間そっくりな女性を見かけたもんだから。
えっ!?まあ他人の空似でしょうけど。
普通はね。
普通じゃないんですか?ほぉ…。
馬鹿げてますよ。
幽霊の出る尼寺?だそうですねぇ。
そこにそっくりな尼さんがいたからって…。
まいいじゃありませんか。
この目で確かめてみるのも悪くない。
インテリでしょ?右京さんも小野田さんも俺らから見りゃあ立派なインテリですよ。
そういう人たちがなんでまた幽霊みたいな非科学的なもんに興奮しますかね?非科学的…つまり科学にあらず。
そうです。
お言葉ですが科学が森羅万象を説明できると考える方がよっぽど馬鹿げてると思いますよ。
発達したとはいえ科学はまだまだ不完全です。
あのね仮にその尼さんがレディXにそっくりだったとしましょうか。
ねっ。
考えられる理由は2つです。
まず1つ目はそれは単なる他人の空似。
いいですか?これが一番可能性が高い。
それから2つ目双子ですよ。
なるほど…双子ですか。
常識人はそう考えるんです。
幽霊なわけないでしょう。
(アナウンサー)「一昨日浮間水辺公園で発見された女性の白骨遺体の続報です」「警察は今朝最新の複顔法システムによって再現した遺体の顔写真を一般に公開しました」「この女性は死後3年が経過しているとみられ死亡当時の年齢は25〜30歳」
(アナウンサー)「身長は155センチ前後血液型はO型との事です」「この顔写真にお心当たりのある方はどんな些細な事でも結構ですので警察署へご連絡ください」ごめんください!
(アナウンサー)「警視庁は死体遺棄ならびに殺人事件の可能性も高いとみて…」
(扉の開く音)はい…。
あっ…あっすいません。
あの我々こういう者なんですけども。
なんでしょうか?これですけどね。
なるほどこれですか。
(蓮妙)でも幽霊が抜け出したりはしませんよ。
出ない?不思議な掛け軸があると聞いて矢も楯もたまらずやって来たんですがねぇ…。
瀬戸内さんにからかわれたんですよ。
ほんとあの人は悪戯がお好きですから。
そうですか…出ませんか。
代わりと言ってはなんですがせっかくお越しいただいたんですからお茶でも振る舞いましょう。
まだお時間はよろしいかしら?あっもう時間は全然。
庵主さんのお茶は絶品だとお聞きしてますんで是非。
ねっ。
恐縮です。
では準備を致しますから少々お待ちください。
雀蓮雀蓮!
(雀蓮)お茶ですか?ええ準備してちょうだい。
はい。
幽霊ですかね?いや幽霊でない事は証明されました。
あらなんでですか?僕に見えるという事はつまり幽霊ではあり得ないという結論になりますから。
あぁなるほど…。
僕の能力の欠如がこんなふうに役立つとは思ってもみませんでした。
おっおぉ…。
(歯科医師)お待たせしました。
触らないでください。
あっすいません。
治療痕なんですが一致しています。
(三浦)間違いなく一致したんですね?えぇ間違いないと思います。
(伊丹)飯島佐和子か…。
(雀蓮)失礼致します。
先ほどは失礼致しました。
雀蓮と申します。
こちらこそ亀山と申します。
杉下です。
ご案内致しますのでこちらへ…。
ここのお寺は庵主さんとあなただけですか?えぇ。
2人っきりだと寂しいですね。
広いお寺ですし…。
ですから庵主様はお客様をとても喜ばれるんです。
ご自慢のお茶を振る舞いたくて仕方ないんですよ。
ですからここへ足を踏み入れたお客様は庵主様のお茶を召し上がっていただくのが決まりです。
召し上がらないうちはお帰しできません。
なるほど…。
あぁちなみにどうして出家なさったんですか?まだお若いのに。
よく訊かれますけど明快にお答えできないというのが正直なところです。
自分の意志で出家したようにみえて実は全て縁起によるものですから…。
縁起?はい。
わかりやすく申しますと人殺しをしたいと思っても縁がなければできませんし逆にしたくないと思っても縁があればしてしまいます。
人間ってそういうものなんです。
あっ警察の方だからこういう例えの方がわかりやすいかと思いまして…。
要するに我々は目に見えない大きな力に支配されている。
そういう事でしょうかね?出家の理由もその時がきたからとしか言いようがない。
おわかりいただけましたか?あぁはいなんとなく…。
あっでも今の例えはあまりよろしくないかと…。
失礼致しました。
しかし出家なさるという事についてご家族の反対はなかったんですか?両親は元々おりません。
赤ん坊の頃に母に捨てられたと聞いています。
俗に言う捨て子ですね。
そうなんですか…。
じゃあご姉弟なんかもいらっしゃらない。
弟が1人おります。
と言っても同い年ですけど。
同い年…えっ双子ですか?はい。
弟さんは今どちらに?遠くにいます。
異国を放浪してるんです。
(芦沢)あっ先輩!飯島佐和子の身元がわかりました。
わかったか。
はい。
どうもご馳走様でした。
またいつでもお越しください。
庵主さんによろしく。
では失礼致します。
あぁ1つだけ…!はい?気にならないんですか?何がでしょうか?一昨日発見された白骨遺体ですよ。
はぁ?我々がここを訪ねた時あなたはテレビをご覧になっていたんじゃありませんか?玄関を入った時かすかにニュースの音が聞こえていました。
白骨遺体の複顔像が一般公開されたというニュースです。
ごめんください。
亀山君が呼びかけるとドアの開く音がしてニュースの音が大きくなりドアの閉まる音がするとニュースの音もまた元に戻りました。
そしてまもなくあなたが現れましたからニュースはあなたのいらっしゃった部屋からだったと思われます。
あなたはニュースをご覧になっていた違いますか?えぇでもそれが何か?ニュースの内容から察するに画面には復顔像が映っていたはずです。
驚きませんでしたか?ご自分にそっくりの復顔像をご覧になって…。
驚きました。
なるほど驚きましたか…。
我々も驚きましたね。
えぇそりゃあもう…だって…。
まさしく瓜二つでしたからね。
えぇ…。
不思議そうに見とれている我々をあなたは怪訝に思われたでしょう。
はい…。
しかしその直後亀山君が警察手帳を見せました。
我々こういう者なんですけども。
その時点であなたには我々が驚いたわけがわかったはずです。
警察の人間があなたを見て驚くとしたら複顔像とあなたがあまりにもよく似ているから。
そう思いませんかね?直前のニュースと直後の警察がダイレクトに繋がってもおかしくない状況ですよ。
何がおっしゃりたいんですか?そんな状況にも関わらずニュースの件につまり白骨遺体の件にあなたはまったく触れようとなさらなかった。
普通ひと言ぐらい触れませんかね?そりゃあ気になりますからね。
ニュースの直後に警察が現れれば…。
その件に触れた方がよろしかったでしょうか?いい悪いの問題ではなく自然に触れるべき状況だったのではないかと申し上げているんです。
でもそちらもその件に触れませんでしたから…。
えぇだからこそ余計気になりませんか?あなたのお顔を拝見して絶句した刑事がその後一切その話題を持ち出さなかった。
気になってあなたの方からその話題に触れてくるのではないかと思っていたのですがねぇ…。
そうおっしゃられても…私には関わりのない事件ですから。
そうですか。
しかし自然に触れるべき話題に触れなかったのは非常に不自然です。
いささか違和感を覚えます。
考えすぎですよ。
えぇ考えすぎが僕の悪い癖。
いくら似てたって他人の空似でしょ。
そうでしょうかね?右京さん一押しの幽霊説が否定された今他人の空似以外ないじゃないですか…。
(車のドアが閉まる音)あっ…。
(伊丹)参った!降参!!お手上げ!どうやったらいちいち先回りできるんだよ!?何?さてはお前こいつらと通じてんな?情報流してんじゃないだろうな?流しませんよ!冗談じゃないっすよ!情報というのはなんですか?尼寺へ行って来たんでしょ?そこの。
違います?えぇ美味しいお茶をいただいてきましたが…。
とぼけないでくださいよ警部殿。
お前らもここに用事か?何を!?とぼけやがってこの野郎。
ん?お前らも白骨遺体の身元がわかったから来たんだろうが!わかったのか身元。
まだとぼける。
尼さんでしょそこの。
名前は飯島佐和子。
平成14年の9月に出家して戸籍名は飯島雀蓮に変えてますけど。
雀蓮!?一体どこから情報取ってくるんですか?雀蓮って…そんな馬鹿な…。
えっ死んでるって事?白骨になったらたいがい死んでんじゃありませんかね?特命係の亀さん。
いやだって…。
ほんとに雀蓮さん?はい。
俗名飯島佐和子さん。
そうです。
生きてますね。
お陰様で…。
(伊丹)人違いか?しかしよく似てたな。
そっくりだよ!そりゃ似てますよ。
本人ですもん。
馬鹿!本人は骨になっちまってんだろうが!あぁそうか…。
じゃ他人の空似?いや他人じゃねぇだろう。
はっきり飯島雀蓮だって言ってんだから。
そうか…。
いやだって飯島雀蓮骨になっちゃってますよ。
なっ生きてたろ?
(伊丹)どういう事だよ亀!わかんねぇよ俺だって!どういう事ですかね?また君に非常識だと笑われる事を覚悟で言えば…。
笑いませんよ。
なんか思いついてるんなら言ってくださいよ。
ひょっとして弟さんではありませんかね?
(3人)はぁ?お…弟?えぇ。
双子の弟さんですよ。
あの雀蓮さんが?ええ。
あのねあの確認しときますけれども弟ってのは「男」ですからね。
わかってます。
ここは「尼寺」ですからね。
わかってますよ。
もちろん男のままではここには入れないでしょうからね。
女装しているって言うんですか?歯は完全に一致したわけですよね?ええレントゲン写真も治療痕も…。
とするならば白骨遺体は九分九厘飯島佐和子さんと考えていいでしょう。
ところが死んでいるはずの飯島佐和子さんがここでピンピンしていた。
つまり飯島佐和子さんの名前を騙ってるという事にならざるを得ませんね。
飯島佐和子さんが出家して戸籍名を変えたのは芹沢さん平成14年の9月でしたね?はいそうですけど。
白骨遺体は死後3年が経過していますから飯島佐和子さんご本人が出家して改名したとは考えられません。
出家して改名したのはここにいる飯島佐和子さんこと雀蓮さんという事になります。
赤の他人が飯島佐和子さんの戸籍をいじる事は相当難しいと思いませんか?そりゃ簡単に他人の戸籍なんかいじれませんよ。
しかし肉親ならばどうでしょう?赤の他人よりはかなりハードルが低くなる。
といっても簡単ではないでしょうがそれがもしそっくりの姉弟だったとしたら…。
あぁ要するに弟が姉の名前を騙ってるって事ですか?女の格好して…。
双子とはいえ男と女ですから二卵性です。
顔はまったく似ていないかもしれない。
しかし非常に似ている可能性も十分ありますよ。
いや…いやだからって…。
やはり常識人はこういう考えはしませんかね?しかし最も合理的に解釈するとそういう結論になってしまうのですがねぇ。
まあ尼寺にいるからといって簡単に女と決めつけてしまうのはどうかと思いますよ。
いや決めつけますよ普通。
なあ?
(3人)うん…。
やかましくなってきたわね。
はい。
(瀬戸内の笑い声)君は実に愉快な発想をする男だな。
恐れ入ります。
しかし残念ながら俺は雀蓮の事は何にも知らねえ。
そうですか。
庵主さんとはご昵懇だそうですから何かご存知かと思ってお邪魔したんですが。
いやいや…。
あの雀蓮さんは孤児だったみたいなんですけど。
ほぉ初耳だなぁ。
赤ん坊の頃に母親に捨てられたって言ってました。
そう。
母親に捨てられた…ねぇ。
さぞかしつらかったろう。
捨てられた子もつらかろうが腹痛めた我が子を捨てた母親はもっとつらかろう。
そうは思わねえかい?そうですわね。
想像はつきます。
けれど私はお腹を痛めた事がございませんからそのつらさのほどはわかりません。
嘘は…いけねぇな。
(蓮妙)はい?仮にも出家の身だろ?あんたの腹にはその証がはっきりとあった。
遠い昔の事だが…俺はこの目で見た。
意地悪な方。
何もおっしゃらなかったのに…。
詮索しちゃいけねぇと思って知らん顔してたんだ。
それにしてもあの最中だというのに意外と殿方って冷静なんですのね。
仏縁…と言ったな。
うちの親父もそうだったがねなまなかじゃあ出家の願いは聞き入れねぇ。
そうだろう?仏縁でしょうかしらねぇ。
仏縁という事は仏が導いて雀蓮があんたの前に現れたという事だな。
お助けください庵主様!どうしたのです?お客様の前ではしたない。
(足音)
(3人)あっ!!なんだ君たちか。
あっどうも。
(瀬戸内)伊丹君に三浦君にあぁ芹沢君とか言ったな?ご無沙汰してます。
なんの騒ぎだ!?いやまあその…。
まあちょうどいい。
俺もあんたに訊きたい事があるんだ。
あんたには双子の弟がいるそうだな?はい。
いや俺の知り合いがなこいつもちょっと変わり者なんだがあんたがその弟の方じゃねぇかって言うんだよ。
いや早い話あんたが男じゃねえかってな。
まあぶっちゃけた話ざっくばらんに答えてもらえねぇかい。
雀蓮は女ですよ。
いや確かに。
どっから見ても女に違いねぇや。
あれで男だったら化け物だよな。
私は…化け物なんかじゃない!もう一度言ってみろ私は女だ文句あるか!?雀蓮!私は化け物なんかじゃない!おやめなさい雀蓮!あと1週間…。
ん?待っていただけませんか?待ったらどうなる?全てお話し致します。
わかった。
いいな?はい…。
(内村警視長)1週間ねぇ。
(伊丹)はい。
この件は自分に預からせろと。
フン瀬戸内の狸親父め。
何様のつもりだ。
(中園警視正)でその雀蓮とかいう尼さんは本当に弟の方なのか?確証はまだありませんが。
ひん剥いてでも調べろ!いやしかしもしも弟が姉の名前を騙って女になりすましてるとすれば尋常じゃないな。
えぇ。
なにしろ姉の方は白骨遺体ですから。
当然殺しの線も疑ってかかるべきかと…。
(鐘)
(読経)なんで私の服着るの?貸してくれない?あんた女の子じゃないでしょ!みんな笑ってるよ。
恥ずかしいでしょ。
ついて来ないで!あんた嫌なの!どうして?男のくせに女の真似するから!そういうのオカマって言うのよ。
園長先生が言ってたわ。
待ってよお姉ちゃん…。
何かご用ですか?どうもせっかちでいけません。
1週間が待ちきれずに来てしまいました。
まだお務めが終わっておりませんのでお帰りください。
俊太郎さん…ですよね?飯島佐和子さんの弟の…。
せめてそれだけお答えいただけませんかね?どうしてですか?実はあなたが弟さんではないかと最初に疑ったのは僕なものですからね。
周りはみんな半信半疑であなた以上に僕まで疑いの目で見られている始末です。
どうもそれが…居心地悪くて仕方ありません。
弟さんですよね?1週間などと意地悪おっしゃらずお答えいただけませんか?えぇ…そうですけど。
やはりそうでしたか。
もうよろしいですね。
いや確かに弟さんという事になるとちょっとよろしくありません。
はぁ?名前を騙ってお姉さんになりすましてるだけならまだしもあなたお姉さんの戸籍をいじってますよね?出家したあと名前を変えてらっしゃる。
公正証書原本不実記載。
立派な犯罪です。
詳しくお話伺いたいんでご同行願えませんか?まるで騙し討ちですね。
騙したという事ならばお互い様でしょう。
なんですかあなた方?あぁちょっと…。
雀蓮さんを少しお借りします。
借りるってどこへ?ちょっと…!どうしてここに?小賢しい真似をして引っ張り出して申し訳ありませんでしたね。
警察へ行くんじゃないんですか?こうでもしないとあなたとちゃんとおしゃべりできそうになかったものですから。
ご無礼はお許しください。
うちの捜査一課がねほらあの間の抜けた3人組あいつらあなたを殺人で立件しようとしてますよ。
私が姉を殺したと思ってるんですか?お姉さんの白骨遺体が発見されてあなたがお姉さんになりすましているとなれば殺人を疑うのも無理はありません。
殺したと思います?いいえ。
どうして?恐らくあと1週間経てば時効ですから殺人事件は3年では時効になりませんが死体遺棄の時効はちょうど3年。
つまり3年経てば全て話せる。
庵主さんのおっしゃったあと1週間というのはそういう意味だったのではありませんかねぇ?あなたはお姉さんの遺体を捨てたのでしょう。
そしてその罪は十分自覚してらっしゃる。
だからあと1週間なのではありませんか?あなたが遺体を捨てたと仮定してあれこれ考えました。
殺して捨てたというのならわかります。
しかし殺しもしていないのにどうして捨てたのか。
しかもその後なぜ出家なさったのか?いずれにしてもあなたにはお姉さんの死に関して相当の罪の意識がおありなのでしょう。
それは間違いありませんね。
一体何があったんですかねぇ?話してもらえませんか?一緒に死のうと思ったんです。
心中…。
なるほど…。
しかしあなたは死にきれずお姉さんだけが逝ってしまった。
そういう事ですか。
お姉ちゃん!
(飯島佐和子)死にたいの。
たぶん苦しいのは一瞬だけだと思う。
よそうよお姉ちゃんそんな事!
(雀蓮)その時姉は絶望してました。
身も世もないほど落ち込んでて結婚が駄目になっちゃったんですよ。
私が原因で…。
あなたが?私がこんなんだから…。
べつに隠してたわけじゃないんですよ。
向こうが勝手に私たちの事を双子の姉妹だと思ってて…。
お姉さんの彼氏に打ち明けたわけですか。
彼は理解してくれましたけど親御さんが…。
世間の常識ではやっぱり異様な生き物なんでしょうかね。
私たちトランスジェンダーは…。
子供の頃よく姉に叱られました。
「あんた男なんだから男らしくしなさい」って…。
それがとっても不思議だった。
どうしてお姉ちゃんと同じ事しちゃいけないんだろって。
みんなして「それは違うのそうじゃないの」。
「そうしたらいけないのよ」って…。
でもその不思議さがいつしか苦痛に変わった。
間違いなく私は女なのに…なぜか体は男。
みんな私を男として見る男として扱う。
男の子の服を着せられるのは私にとって拷問でした。
まるで内側に棘のついた鎧を着せられてるみたいで…責め苛まれてるみたい…。
棘で心をズタズタにされてるみたいだった…。
そんな私の拠り所はお姉ちゃんだけだった…。
子供の頃私を叱ってた姉でしたけど色々わかってくると私を理解して味方になってくれた。
駄目よあんたその色似合わない。
ほらこっちにしなさい。
でもお姉ちゃんしてたじゃない。
してみて似合わなかったから言ってんの。
お姉ちゃん似合わなくても私似合うかもしれないでしょ?ほらじっとしてて…。
塗ってあげる。
うん…こっちの方が美人。
そのお姉さんがあなたについて来てくれって言ったんですか?「一緒に死のう」って…。
おかしな話でしょ?でも私ずっとお姉ちゃんのあとを追いかけてきたから…。
どこまでもついて行こうって思って…。
お姉ちゃん逝っちゃったら私独りになっちゃう…。
私…誰もいなくなっちゃうじゃない。
待ってよお姉ちゃん。
(雀蓮)お姉ちゃんいつもそうなんですよ。
1人でどんどん先行っちゃう。
私は置いてけぼり…。
さすがに今度ばかりは追いかけられませんでしたか。
苦しんでるお姉ちゃん見たら恐ろしくなって…。
そうでしょうね。
いざとなると尻込みして当然です。
お話はよくわかりました。
…と言いたいところですが恐らく九分九厘正直に話してくださったと思います。
しかし残りの一厘そこが最も重要だと思うのですがあなたは嘘をついてらっしゃいませんか?嘘?この期に及んで…。
あなたのおっしゃったとおりならば亡くなったお姉さんをきちんと弔って出家なさったらいいじゃありませんか。
わざわざここに捨ててしまう事はない。
それにお姉さんだけを逝かせてしまった罪の意識があなたに出家を決意させたのだとしたらもっと早く出家なさってもおかしくないのではありませんか。
あなたが出家なさったのはお姉さんの死後約半年経ってからですね。
だから半年苦しみました。
苦しんで苦しんで…もう他にすがるところがなかった!そうかもしれませんがねぇ…。
全て話しました。
私嘘なんかついてません!逮捕するならしてください!お姉ちゃんの遺体を捨てました。
お姉ちゃんの戸籍も使いました!でも悪用はしてない!!えぇ悪用しようと思ったわけではないでしょう。
ただちょっと借りたかっただけ。
名実共にあなたの姿にふさわしい名前で生きてみたかった。
ただそれだけの事でしょう。
外見を完璧に整えたとしてもあなたはあくまでも飯島俊太郎です。
戸籍はもちろんパスポートも保険証も全て男の名前…。
名前を呼ばれるたび好奇の目にさらされる。
随分嫌な思いもなさってきたでしょうね?わかったような事言わないで!しかし戸籍を拝借するためにはお姉さんを正式な手続きで埋葬するわけにはいかない。
だからあなたは…遺体を捨てざるを得なかった。
ええそうよ。
それが何?一度でいいから気兼ねなく女でいたかった。
いけない?だってお姉ちゃんなんだって貸してくれたもの。
靴だって洋服だってお化粧の道具だってなんだって…。
出家なさるまでの半年間気兼ねなく女として生きてみたわけですね。
できれば一生…そうしていたいと思ったけど…。
やはり罪の意識に苛まれましたか?弔わず…池に捨てちゃいましたからね。
実は僕はもう少し意地の悪い推理をしてみました。
えっ?おっしゃるように確かにお姉さんは死のうとなさったのでしょう。
しかしあなたが本気で止めればお姉さんは死ななかったかもしれない。
失恋の痛手が死を決意させる事はあります。
しかし一時の気の迷いである事も少なくありません。
お姉さんは迷ってらっしゃいませんでしたか?あなたはしっかり止めましたか?もっと言えば本当にあなたに「一緒に死のう」とおっしゃったのか?逆にあなたの方から「一緒に死んであげる」そうおっしゃったんじゃありませんかねぇ?お姉ちゃん逝くなら…私も一緒に逝く!あんたが普通の女の子だったらね。
あんた女の子だけど女の子じゃないもん。
男だけど男じゃないよ。
私もう…もう疲れたよ。
一緒に逝こう…。
だっていっつもそうしてきたじゃない。
ねっ…。
一緒に逝こう…。
お姉ちゃん!
(うめき声)お姉ちゃん…。
お姉ちゃん!嫌ーっ!!お姉ちゃーん!!お姉さんがいなくなれば名前はもとよりお姉さんのもの全てがあなたの手に入る。
だからお姉さんを止めるのではなくむしろ背中を押した。
もういいですよ!はい?そんなのただの想像でしょう!それとも彼女がお姉さんを殺したって言いたいんですか?自殺幇助かなんかでとっ捕まえたいって事ですか!?僕は真相が知りたいだけです。
それに捕まえる気ならばとっくに捕まえてますよ。
少なくとも公正証書原本不実記載についてならばすぐにも証拠は挙がりますからねぇ。
こんなところで非公式に話をする必要はありません。
止めてたら…。
えぇ。
お姉ちゃん死ななかったかもしれない…。
止めても死んでたかもしれないでしょう!かもしれません…。
けど…わかりません。
私止めなかったから…。
止めるどころか…。
わかりましたからもういいですよ!私…人殺しですかね?さあその答えはあなたがご自身でもう出されているんじゃありませんか?だから出家をなさった。
お姉ちゃんが夢枕に立って言うんです。
私の事は気にしなくていいから…私の分もしっかり生きて。
お姉ちゃん…。
申し訳なくて…つらくてたまらなくて…。
だからだから私…。
どうでしょう?この際お姉さんの遺骨を引き取ってご供養なさいませんか?もちろんあと1週間経ってからでも構いません。
しかし1週間経っても時効にはならないんですよ。
なりませんね。
死体遺棄の方は3年で時効ですけど公正証書原本不実記載そっちの方の時効は5年なんで。
遺体を捨てる方が大それた事のように感じますが実は戸籍を勝手にいじる方が罪はずっと重いんですよ。
そうですか…。
まぁあなたにお任せします。
とりあえず話はすみました。
雀蓮さんをお送りしましょう。
えぇ…。
(瀬戸内)そうじゃねぇかと思ってたんだ。
お願いします!
(瀬戸内)仏弟子のあんたがさぁ救いを求めてきた雀蓮を慈悲の心で迎え入れてやるってなぁうなずけるよ。
わかりました。
しかし出家の願いまで聞き入れて面倒みてやってたってなぁどうにも合点がいかなかったんだ。
で雀蓮はこの事を知ってるのかい?打ち明けたからってなんになりますか?あの子はもう出家の身。
世俗の縁を断ち切っているんです。
母も子もありませんよ。
まあ…理屈で言えばねそういう事だがさぁ。
男ができてさぁ私生児だった双子の赤ん坊が邪魔になったって言うかなぁ…。
あん時粋がってねぇで…しっかり詮索しときゃよかった。
意地悪な方。
何もおっしゃらなかったのに…。
詮索しちゃいけねぇと思って知らん顔してたんだ。
若気の至りってやつだな。
なんで…私を…ちゃんと産んでくれなかったの?わかってる。
誰のせいでもない。
けど…私のせいでもないよね?でうまく着地できそうかい?今日にもお姉さんの遺骨を引き取ってご供養なさると思いますよ。
えぇ…。
そうか…そうかい。
(携帯電話)はいもしもし。
「あっ俺」「これから会えないかな?」えっ?どういう趣向だこれは?
(美和子)そうだよ。
彼が来るなんて聞いてない。
薫ちゃん。
結婚したけりゃしろよ。
ただし美和子を丸ごと愛せるならな。
俺との思い出も美和子の一部だ。
仮に美和子に俺の亡霊がくっついてるならそれもひっくるめて美和子だ。
何もかも全部ひっくるめて愛せるなら結婚しろ。
言いたい事はそれだけか?あぁ。
わざわざ呼び出しといてそれだけか?そうだ。
余計なお世話だ。
わかってる。
あぁあと1つだけ。
なんだ?薫ちゃん!いつかのお返しだ。
じゃあな。
大丈夫?ごめんね。
確か戸籍の性別変更って可能になったのよね?法律は成立しましたが適応条件は厳しいようですよ。
それによって救われるのはごく一部の人だけです。
そうですね…。
いらっしゃい。
こんばんは。
あぁ喉渇いた。
ビールください。
はい少々お待ちください。
すみましたか?えっ?何がですか?すみませんよまだ…。
あっすいません。
はいどうぞ。
お2人はより戻したりしないんっすか?はい?しないんっすか?まあ余計なお世話でしょうけどね。
おはようございます。
おっおはよう。
早いっすね課長。
おはようございます。
おはようございます。
了解!豊島区の銀行に刃物を持った男がたてこもってる。
わかりました。
薬物中毒の可能性もある。
ほんとかよおい!
(女性の悲鳴)
(床に叩きつけられる音)
(山際昌子)はぁ…もう一度よく考えたんだけど…。
やっぱり中止にしようよ。
トップ張るだけの実力まだ十分にあるじゃない。
自ら身を引くなんてもったいないわ。
(荊城紫雨)でもチケットの売れ行き徐々に落ちてますし。
買い占めてあげる。
私が全部。
それで…タダでばらまくんですか?そんな見せかけの人気なんて私…。
私舞台の上のあなたを見ていたいの。
ずーっと。
(昌子)引退はまだ早い。
だからあなたが考えた新しい事業にお金は出せない。
それが私の結論よ。
紫雨…どうしても我を通すならあなたを潰すわよ。
刃向かう相手に私が容赦しない事知ってるでしょう?「アンジェリーク!」「アンジェリーク…」
(紫雨)「目を開けてくれ…」「運命よ…なんと残酷なんだ!」「一体僕が何をしたというんだ!?」
(紫雨)「どれだけ僕から奪えば気が済むのだ…」「ならば…この僕の魂も…奪っていくがよい!」「愛のメロディー」「麗しのメモリー」「誓おう2人の愛を」「永久に」
(観客)紫雨さーん!
(観客)紫雨さんありがとう!
(歓声と拍手)
(杉下右京)美しくて艶やかですねぇ。
あなたが帝都歌劇団を見続けているのが理解出来ました。
(宮部たまき)もちろん女性には熱狂的な人気がありますけど男性も観ると好きになっちゃう方多いんですよ。
そうでしょうね。
特にこの荊城紫雨魅力的ですねぇ。
この舞台で辞めてしまうなんて残念ですね。
(操作音)
(淀わたる)あら紫雨じゃない?
(紫雨)あ…わたる先輩。
おはようございます。
ご無沙汰してます。
あなたも山際さんのとこへ?…はい。
なんで紫雨がいるの?これから契約するんでしょ?私と。
(矢橋)私も詳しい事は…。
(チャイム)
(ドアの開く音)相変わらず不用心ね。
(わたる)山際さん入るわよ!
(わたる)山際さ〜ん?山際さん…!?社長…!
(パトカーのサイレン)
(わたる)山際さんに11時に来るように言われてたんです。
この春から一緒に始めるタレントスクールの契約書にサインしてほしいからって。
だから私矢橋専務と待ち合わせして。
(伊丹憲一)玄関ドア開いてたんですね?はい。
鍵はかかってなかったです。
マンションの出入り口はオートロックですし監視カメラもあるので山際社長は部屋の戸締まりには普段からルーズで。
鍵を開けっ放しの事が多かった?ええ…。
(伊丹)あなたは?私も山際さんに11時に部屋に来るように言われました。
あなたも何か契約の事で?いいえ。
ここ数か月お会いしていなかったんですが昨日突然電話がありまして。
(芹沢慶二)心臓疾患?
(医者)ええ…。
(芹沢)ホトケのかかりつけの先生だそうです。
(医者)山際昌子さんは心臓に爆弾を抱えてましてね。
風呂上がりに扇風機に当たるのはやめるようにと再三言っておいたんだが。
山際さんはバスを使ったあと扇風機で涼む習慣があったっていう事ですか?そうなんです。
暑がりな人でねぇ。
(米沢守)先生の見立てどおり死因は急性心不全でしょうな。
(米沢)扇風機は涼をとるには最適ですが強い風を当てて体熱をとる働きが度を越すと死を招く危険な凶器となりますからな。
米沢さん!あっ杉下警部。
どうも。
昨日の女性実業家の変死ですが扇風機の風による心臓麻痺だったとか。
ええ。
今朝執刀された司法解剖の結果やはり急性心不全でした。
うたた寝をしている体に扇風機の強く冷たい風が当たり体温が急速に低下して循環障害が発生。
心拍数や呼吸数が異常に少なくなり…。
心停止に至った…。
どうぞ。
確か1970年代から80年代にかけて扇風機による死亡事故が多かったように記憶しています。
ええ。
捜査一課の方々は司法解剖の結果を聞いて事故死と断定。
捜査が打ち切られる事になりました。
これは何でしょう?
(米沢)被害者が着ていたバスローブから採取された花粉です。
花粉ですか?ええ。
薔薇の花粉だとわかりました。
薔薇の花は山際さんが亡くなった日に届けられたようですねぇ。
(米沢)ええ。
花瓶を運ぶ際に花粉が付着したんじゃないでしょうか?花瓶を運ぶにしてもバスローブに着替えてからというのは不自然じゃありませんか?確かに。
という事は風に乗って付着したのでしょうかねぇ。
なるほど。
扇風機は山際さんに向けられていたんですよねぇ?ええ。
ちょっと死んでいただけますか。
えぇ?あ…ああ…はいはいはい。
えーとですね…このような形で亡くなってました。
だとすると薔薇の花粉が扇風機の風に乗ってバスローブに付着したという事は有り得ませんよね?確かに。
サーキュレーターですね。
サーキュレーターは部屋の空気を循環させて冷暖房の効率を良くするためのものです。
暖房時には通常このように天井に向けられているものです。
そうですなぁ。
もしこのサーキュレーターがこのようにソファに向けられていたならば薔薇の花を直撃して花粉がこの地点まで飛んでくる事が考えられますね。
確かに…。
サーキュレーターは扇風機と比べると風向きが拡散しにくいですから心臓病を患っている人には扇風機よりも危険な代物という事になります。
心臓疾患の山際社長がサーキュレーターをご自分に向けるような危険な真似をするとは思えません。
ですから…。
もういいですよ。
あ…はい。
何者かがこの部屋に忍び込んで山際社長が寝入っている間に気づかれないようにサーキュレーターを山際社長に向けた…。
可能性はありますよね?はあ…。
しかし現場検証の時にサーキュレーターは先ほども見たように天井のほうを向けられて止まってました。
タイマーを最長時間にセットしておいて朝方になってからサーキュレーターをこのように…天井に向けて戻しておいた。
おお〜!ああ…。
警察が到着した時この部屋には第一発見者である3人の方々がいました。
山際さんが社長を務める会社の矢橋専務。
新しく始めるタレントスクールの共同事業者元帝都歌劇団スター淀わたる。
そして帝都歌劇団を退団したばかりの荊城紫雨。
この3人のうちの誰かならば他の2人の目をかすめサーキュレーターの向きを元に戻す事は可能ですね。
一昨日の夜サーキュレーターは山際社長に向けられていた。
ゆえに薔薇の花粉は山際社長のバスローブに付着していた。
そして死体発見時サーキュレーターの向きを元に戻した何者かがいた。
という事はこれは事故死ではなくやはり他殺…?そう思いますよ。
止めてください。
はい。
ちょっとよろしいですか。
はい…。
午前0時28分…。
(ドアの開く音)どうも警部殿。
お待ちしてました。
あとは我々に任せていただきますよ。
もちろんそのつもりですよ。
こいつか…。
犯人は警察が到着する前にサーキュレーターの向きを元に戻せる人物…という事になりますね。
まあそうなりますね。
(芹沢)うんうんうんうん…。
黒いコート…?
(伊丹)この人物が事件当日社長の部屋に行った可能性があるんですよ。
はあ…。
確か似たようなコートを着てらっしゃいましたよね?私を疑ってるんですか?あいえ…関係者聴取ってやつです。
矢橋専務あなた山際昌子さんにスカウトされてこの会社に入られたとか…?ええ。
あっという間に専務まで上り詰めた…。
しかし最近は対立する事が多かったそうですね?経営の方針についてです。
うちも上場を考えるべきだと話し合っていただけです。
社長の裁量を仰がずに勝手に進めていた取引をとがめられたとか…。
(矢橋)社長ちょっと待ってください!
(昌子)あなたにはもう何も話す事はないわ。
わたるのスクールが始まったらあなたには消えてもらう。
社長の許可を頂かなかったのは申し訳ないと思っています。
しかし長い目で見れば会社の利益になるんです!損得の問題じゃないのよ。
勝手にやった事が問題なの。
(矢橋の声)確かにそんなような事はありましたけど殺すなんて…!事件があった夜何をされてましたか?
(富岡史恵)あの…何か?警視庁の杉下と申します。
この度は社長が亡くなられていろいろ大変でしょうねぇ。
ええ…。
1つよろしいでしょうか?今回重要な契約をご自宅でされる予定だったそうですがよくある事だったのでしょうか?ええ。
社長は自宅でも仕事をされてましたから。
資料をお持ちしたり伺う事も多かったです。
あなたも?ええ。
社員皆そうでした。
ああそうですか。
ちなみにおとといの夜ですが社長のご自宅へは行かれましたか?行ってませんけど。
他の社員の方は?誰も行ってないと思います。
ああそうですか。
あの…何か調べてらっしゃるんですか?あいえいえそういうわけではありませんが。
あの…。
はい。
あれ何ですか?これ。
こちらは帝都歌劇団に入団するためのいわば予備校のパンフレットです。
ああ…。
興味おありですか?僕の知り合いが。
あ…もしよろしかったらどうぞ。
よろしいんですか?ええ。
ああ…。
ありがとうございます。
失礼します。
はい。
ああ…!もう1つだけよろしいですか?はい。
山際社長と帝都歌劇団とはどのような関係だったのでしょう?社長は帝都歌劇団の熱烈なファンでした。
なるほど。
では淀わたるさんと荊城紫雨さんとは?そのお二人のスポンサーになっていました。
なるほど。
元々は荊城紫雨さんのスクールを開く予定だったんですが淀わたるさんのスクールに変更されたんです。
なぜ変更を?さあ…詳しい事情まで私は…。
ああすみません。
立ち入った事をお訊きしまして。
これありがとうございます。
失礼します。
アリバイが?夜中の12時過ぎから明け方まで矢橋は六本木のクラブにいました。
複数の証人がいます。
くそっ…。
しかし他に興味深い事が…。
何だ?お帰りください!私のアリバイは成立したんでしょう?あなた淀わたるさんと交際してるそうですね?彼女にコート貸しませんでした?え…?淀わたるさんといえばかつて帝都歌劇団で男役のトップだった。
男に化けるのは朝飯前っすよね?淀さんも社長と揉めていたと聞いてます。
だから何なんですか?いい加減に帰ってください!迷惑です!わかりました。
今日のところはこれで失礼します。
どうも。
(ノック)はい!あっ…!?荊城紫雨さんですね?はい…。
警視庁特命係の杉下と申します。
ちょうどよかった。
少しお話を伺いたいのですが。
(紫雨)どうぞ。
恐縮です。
あの日なぜ山際さんに呼ばれたかですか?はい。
前の日突然電話がかかってきて…。
(昌子)「ねぇ久しぶりに会いたいわ」「明日11時部屋に来てよ」面白いもの見せてあげる。
あの人は淀さんと組んでこの教室の目と鼻の先にここより数倍も規模が大きいタレントスクールを開く事にした。
その正式契約を私に見せつけようとわざと私を呼びつけたんです。
という事はこの3か月の間あなたと山際さんには葛藤が続いていたわけですね?だから私が山際さんを殺したとでも?いえいえとんでもない。
職務上どうしても通らなければならないところでして…。
一昨日の夜なんですがどこで何をなさってました?部屋で1人でテレビを観ていました。
ちょうどブロードウェーのミュージカルの放送がありましたから。
ああそうですか…。
そうですか。
私と矢橋専務がお付き合いしていたのがそんなに責められる事かしら?山際さんとは最近揉めてたらしいっすね?ええ…。
私にスクールの話があったのは3か月ほど前なんだけどいざ調印って時に山際さん契約書の条文を自分に有利になるように書き換えたのね。
だから私腹が立っていったん契約をキャンセルしたの。
お付き合いされてるあなたと矢橋さん…2人とも社長とトラブルがあった。
でも結局最初の条件で契約するって話になったのよ。
だから私と山際さんとの間にトラブルは存在しなかった。
しかし矢橋さんと社長のトラブルは決定的になったんですよね?いい加減にしてくださいよ!淀さん事件当夜深夜12時頃何してましたか?家で寝てたわ。
誰か証明してくれる人はいますか?いないわ。
そうですか…。
(ノック)1つよろしいですか?何です…!?すぐ済みます。
淀わたるさんあなた方が山際昌子さんのご遺体を発見した時の様子をお聞きしたいのですが。
死体を発見した時…?ええ。
あなた方はどのような行動をとられましたか?私と矢橋さんはベランダに出て…私は110番…矢橋さんはかかりつけのお医者様に電話をしました。
その時荊城紫雨さんはどこに?
(わたるの声)部屋の中に。
具体的にはどの辺りに?
(わたるの声)そう…サイドボードの近くだったかしら…。
なるほど。
大変参考になりました。
どうもありがとう。
ちょ…ちょっと…。
いやいやちょっと…。
(チャイム)すみません。
(江島まゆみ)はい。
あの…こちらにお住まいになっていらっしゃるのは荊城紫雨さんですよね?あなたは?あ失礼。
ああいやだ警察の人なの。
あはい。
もう追っかけかと思っちゃった。
ええ荊城紫雨さんのお部屋なんです。
私3日前に越してきたんですけどね有名人がお隣なんてびっくりだわ〜。
早速サイン頂いちゃったの。
あそうですか。
じゃどうも。
どうも。
あの…。
はい何か?サインを頂いたとおっしゃいましたね?ええ…。
それはいつの事でしょう?いや越してきた夜だから…。
3日前?ええそうなんです。
もうとっても気さくな方で…。
あの…荊城紫雨さんですよね?ええ…。
ああ〜!お会い出来て光栄です!ファンなんです!あ…サインしてください!あの…これに。
いいですか?いいですよ。
(まゆみ)これがそのサインなんですけどね。
ああ本当ですねぇ。
サインを頂いたのは何時頃でしょう?えっと…テレビでミュージカルをやる前にコンビニに行ったんだから…12時ぐらいね。
12時ぐらい…。
それが何か?あいえいえ。
どうもありがとうございました。
どういたしまして。
フフフ…さあ行くよ。
(犬の鳴き声)
(事務局長)荊城紫雨と淀わたるですか?ええ。
お二人はどのような関係だったのでしょう?
(事務局長)ああ…。
(生徒たち)先生お疲れ様でした!
(事務局長)お疲れ様。
え〜わたるが紫雨の4年先輩で上級生のわたるがよく面倒を見てました。
お二人が近づく何かきっかけのようなものがあったのでしょうか?ええ。
紫雨が初舞台を踏んだ時舞台を続けるかどうか悩んだ時がありましてね。
その時わたるが何かと相談に乗ったみたいで…。
今の荊城紫雨があるのは淀わたるのお陰と言えるかもしれません。
なるほど…。
しかしせっかく初舞台を踏んだのに辞めようか悩むとは何かあったのでしょうかね?ええ…まあちょっと…。
ちょっと何でしょう?いや…何でもありません。
うちじゃ舞台裏の話はしないんですよ。
裏でどんな苦労があろうとお客様には絶対にそれを見せない。
だからこそ夢を与えられるんです。
おっしゃるとおりですねぇ。
それじゃ。
なぜご自分のアリバイを証明しようとなさらないのですか?1人でいたっていうのはアリバイにならないんでしょう?犯行時刻の頃マンションのお隣の方からサインを求められていますよね?立派に証明出来ると思いますが。
どなたかをかばってらっしゃるのでしょうかねぇ。
誰をかばうっていうんです?淀わたるさんとはずいぶん親しくされているそうですね?まさか…先輩が犯人だって言いたいんですか?いえいえ…そうは申しませんが被疑者の1人である事は間違いありません。
7年前紫雨さんは舞台を辞めようとなさったとか。
何か悩みがあっての事とは思いますがお聞かせ願えないでしょうか?私たちは舞台裏の話はしません。
だからこそ…。
夢を与えられる。
(角田六郎)おい暇…じゃなさそうだね。
いやぁもう男役ってのはかっこいいねぇ〜!これ…俺なんかもう自信なくしちゃうよ。
ね…何やってんの?7年前の荊城紫雨の初舞台。
初舞台がどうかした?この年のどの公演もスタッフは固定されています。
(角田)それで?荊城紫雨の初舞台以降1人消えてしまったスタッフがいます。
それは事件と何か関係が?まだわかりません。
(佐々木健二の母)お芝居の仕事を辞めてから他の仕事もしてたみたいなんですけどどうも続かなかったようで…。
そのうち家に引きこもるようになってしまって3か月ほど前に…。
バカですよ自殺するなんて。
親からもらった命を粗末にして…。
あすいません…。
いえ…。
今思えばお芝居の仕事をしてる時が一番楽しそうでした。
なぜお辞めになったのでしょう?さあ…それはあまり話してはくれませんでしたから。
あちょっと失礼。
私…息子の名前が載ってるものを全部取ってあるんですよ。
親バカだと思われるかもしれませんけど息子が生きていたっていう証明ですから。
ここに名前が。
ええ。
こんなに華やかな世界に生きてたんですね…。
この前うちにお見えになった方も本当におきれいな方で…。
どなたがいらっしゃったのですか?荊城紫雨さんっていう方です。
いつの事でしょう?
(ノック)おやあなたは確か…。
あの時の刑事さん…。
今日はなぜこちらに?社長の葬儀の案内を持って来たんです。
ああ…。
あっ紫雨さんはいらっしゃいませんでしたよ。
そうですか…。
あ刑事さんは事件の事でこちらに?ええ。
サーキュレーターを使って殺されたって本当ですか?あ…その可能性が高いんです。
サーキュレーターと山際社長のご遺体の間には花瓶が置かれてましてね。
その花粉が着てらっしゃったバスローブから見つかってるんです。
社長は薔薇がお好きでしたからね。
そうですか…。
あすみません。
余計なおしゃべりをしてしまいました。
刑事さん…必ず犯人を捕まえてくださいね。
はい。
必ず。
葬儀の案内だけ置いてきますので失礼します。
失礼。
これ大変役に立ちました。
よかった。
帝都歌劇団への理解を深めていただいて。
毎年多くの新人が入って残るのはわずか。
厳しい世界なんですねぇ。
ええ。
だから帝都って同じ入学年次の同期の繋がりがとても強いんですよ。
新人公演は同期全員が集まる最初で最後の舞台だから独特の面白さがあるんです。
同期全員ですか。
あっちょっと待ってください。
帝都歌劇団は入団の年度ごとにシンボルマークがあるんですよ。
う〜ん…。
(たまき)え〜と十二期だったら月に赤いクロス。
え〜例えば十五期だったら翼に青い雪。
ちょっとよろしいですか?ええ。
入団した団員さんのイメージで決めるらしいです。
う〜ん…。
あっこれ…。
はい?どうしました?あ…いえいえ。
(セリが上昇する音)あ…もうお見えでしたか。
これは失礼。
スタッフの方にお願いして動かしてもらいました。
これがセリという装置なんですね。
ええ。
舞台下から俳優が出てくるための装置です。
あそうですか。
今日は何のご用でしょう?こちらでぜひあなたにお訊きしたい事がありましてね。
何でしょうか?7年前にこの装置を操作されていた佐々木さんという方覚えてらっしゃいますよね?佐々木さん…?さあ…。
お忘れですか?3か月ほど前におうちにも行かれたはずですが。
あなたがお見えになって佐々木さんと会っていかれたとお母様もおっしゃってましたよ。
人違いじゃないですか?私は佐々木さんの家には行ってません。
そうですか。
行ってませんか…。
ええ。
では佐々木さんがお亡くなりになった事もご存じない?亡くなった…!?自殺だったそうです。
それもちょうど3か月ほど前に。
そこで思いがけず妙なものに出会いましてね。
佐々木さんのお母様にお願いしてコピーしてまいりました。
あなたの初舞台のチラシです。
この舞台が荊城紫雨さんの第一歩となった事はファンの方ならば皆さんご存じです。
ところがもう一部あったんです。
同じ劇場同じ日程同じ演目のチラシです。
ところがこちらのほうは主演が潮風うららさんとなっています。
あなたは助演です。
つまり何らかの事情があって主役が代わったわけです。
チラシが印刷される段になって主役が交代するというのは何か突発的なアクシデントがあったに違いありません。
そこでチラシを見てみるともう1人消えている人物がいます。
装置担当者だった佐々木さんです。
僕はこう考えました。
主役が交代するようなアクシデントとは装置担当者が辞めなければならないような事故が起きたのではないかと。
例えば潮風うららさんのケガの原因が佐々木さんにあったと考えればどうでしょう?2人は舞台から姿を消し代わりにあなたが抜擢された。
いかがでしょう?お答えいただけないのならばやはりご本人にお訊きするしかないのでしょうかねぇ。
何をおっしゃってるんですか?ちょうどいらっしゃいました。
(紫雨)史恵…!?どうして?こちらの刑事さんに呼ばれて…。
富岡史恵さん…。
潮風うららさんとはあなたの事ですね?あなたのなさっている月に紫の星のペンダント。
それは帝都歌劇団第五十八期生のペンダントですね。
紫雨さんあなたも同じ物をお持ちのはずです。
初舞台では主役を張るほどだったあなたがなぜ今別の仕事に就いてらっしゃるのでしょう?やはり7年前の事故が原因ですか?ご存じなんですね?はい。
忘れもしない…。
忘れようとしても忘れられない…。
初日の2日前の通し稽古の時…。
「僕は…革命のためならどんなに汚い事だってする!」「嘘だ。
嘘だと言ってくれ!ジャン!」
(史恵の悲鳴)
(奈落に落ちる音)うらら!
(紫雨)うららー!上げられたままになっていたはずのセリが下げられていたために起きた事故。
将来を嘱望されていた潮風うららさんは再起不能となり退団へと追い込まれた。
紫雨さんあなたがかばっていたのは潮風うららさん…。
すなわち富岡史恵さんですね?何の根拠があってそんな事…。
それは史恵さんが…山際社長殺しの犯人だからです。
(史恵)何をおっしゃってるんですか?僕はこう考えています。
7年前潮風うららさんが奈落に落ちたのは事故ではなく山際社長による作為的なものだったのではないかと。
それは刑事さんの想像でしょう?想像だけで犯人にされちゃうんですか?残念ながらあなたはもうすでにご自分が犯人である事を告白なさっているんですよ。
サーキュレーターを使って殺されたって本当ですか?あなたはなぜ山際社長殺しにサーキュレーターが使われた事をご存じだったのでしょう?警察もまだ発表していないような情報を。
社長は薔薇がお好きでしたからね。
あなたはなぜ花粉が薔薇の花の花粉だとご存じだったのでしょう?刑事さん。
史恵はヤマギワプランニングの社員です。
これまでもあの部屋に入った事があったんです。
ねぇ?そうでしょう?史恵。
薔薇の花が届けられたのは山際社長の亡くなる数時間前なんですよ。
あなたに最初にお会いした時僕にこうおっしゃいました。
おとといの夜は社長のご自宅へは行かれましたか?行ってませんけど。
違います。
史恵は何の関係もない!では他にどなたがいるというのでしょう?私です。
山際さんを事故死に見せかけようと計画し実行したのは私なんです。
紫雨…もういいよ。
ありがとうかばってくれて。
あなたから7年前の真相を聞いた時私は山際昌子を殺そうと決めたの。
なるほど。
7年前の事故の真相が山際社長によるものだと知ったのは紫雨さんあなたのほうでしたか。
そうです。
山際さんがもらした一言でわかりました。
そうまでして私に逆らうのね?わかったわ。
うららみたいにしてやるから…。
それで?佐々木さんに会って確かめました。
間違いないのね?あの事故山際さんがあんたに指示をした…?
(佐々木健二)どうしても断れなかったんです。
セリを下げたままにしたらどんな事になるかぐらいあんたにだってわかってたはずでしょう!?だから僕だって…!僕だって落ちないでくれって思ってました。
(佐々木の声)なのに…。
(史恵の悲鳴)
(奈落に落ちる音)うらら!
(頬を叩く音)人殺し!あんたは潮風うららを殺したのよ!そんな…。
史恵…。
そしてあの事件が起きた。
(史恵の声)舞台では果たせなかった一世一代の男装の麗人のお芝居だったわ。
サーキュレーターの向きを寝入っている山際社長に向け事故死を装った。
(スイッチを入れる音)山際社長の死体を発見したあなたはサーキュレーターが直接彼女に向けられている事に気づいた。
その時誰がそうしたのかすぐに思い当たりました。
退団して夢破れた私を…紫雨は慰め励まし続けてくれたんです。
(紫雨)帝都を目指す子たちのための教室を開きたいの。
でも私経理や実務が全然ダメだから…史恵手伝ってね。
私が…?お願い。
2人で協力してスター候補生を帝都歌劇団に入団させようよ。
うん。
私は彼女に事故を仕掛けられ夢を葬られた…。
私も事故を仕掛けて山際昌子を…。
フッ…。
1つわからない事があります。
7年前なぜ山際社長はあなたを事故に遭わせようとしたのでしょう?私をトップにするためです。
入団当初から山際昌子は私の熱烈なファンでした。
山際さんはどうしても私をトップにしたかった。
それで有望な史恵を潰そうとしたんです。
でも…男役の資質は私よりずっと史恵のほうがあった。
杉下さん私と史恵は共犯者です。
あの女を殺したのは史恵と私です。
だって佐々木さんから聞いた事を私が史恵に話しさえしなければ…。
いいえ…。
話を聞いた時私も山際昌子に殺意を抱いた。
史恵をかばっただけじゃなくて私も一緒に殺したんです。
紫雨…。
犯行は史恵さんの単独。
とっさに証拠隠滅を図ったのは紫雨さん。
見事なコンビネーションでしたね。
(紫雨)あと1センチ足を高く!あと1度高い声を…!
(紫雨)そういうもののために私たちは…同い年の女の子たちがきっと満喫しているであろう幸せを全部捨てるんです。
みんな死に物狂いで努力します。
そんな中で史恵という才能は生まれたんです。
奇跡のような輝きを持って…。
私たちにしかわからない気持ちかもしれません…。
史恵は殺されたようなものです。
もし私が史恵の立場だったとしても…同じ事をしたと思います。
紫雨…もういいの。
もういいの…。
(嗚咽)憎悪というものは時として努力や才能をも葬ってしまいます。
将来の夢を手に入れたはずのお二人が…。
とても残念です。
(紫雨と史恵の嗚咽)2014/12/29(月) 15:00〜17:30
ABCテレビ1
相棒 season3 #19 & 相棒 season7 #14[再][字]
相棒 season3 #19「異形の寺」
相棒 season7 #14「男装の麗人」
詳細情報
◇出演者1
【相棒 season3 #19「異形の寺」】
水谷豊、寺脇康文、鈴木砂羽、益戸育江、岸部一徳、高橋由美子、高橋恵子、西村雅彦、津川雅彦、川原和久、大谷亮介
◇出演者2
【相棒 season7 #14「男装の麗人」】
水谷豊、奥山佳恵、さとうやすえ、益戸育江、川原和久、山中崇史、山西惇、六角精児、小宮久美子、大家由祐子
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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