「花子とアン」ダイジェスト こぴっと一挙放送!「昭和編」 2014.12.29


・「これからはじまる」・「あなたの物語」・「ずっと長く道は続くよ」・「虹色の雨降り注げば」・「空は高鳴る」・「眩しい笑顔の奥に」・「悲しい音がする」・「寄りそって今があって」・「こんなにも愛おしい」
(花子)歩…。
大正15年9月1日の明け方花子の長男歩が息を引き取りました

時代は昭和に替わり花子は児童文学の翻訳に没頭していました
JOAKで番組を作っております黒沢と申します。
JOAKってあのラジオ局の?村岡花子先生。
是非我々のラジオ番組に出演して下さい。
てっ!ラ…ラジオに?はい。
今度「コドモの新聞」という番組が始まるのです。
子どもたちにニュースを分かりやすく伝える番組なんですが語り手がアナウンサーだけでは堅苦しい。
そこで誰かいないかと探していたんですよ。
あ…いいえ…でも…。
(蓮子)はなちゃんこの界隈ではお話のおばさんと呼ばれているのよね。
蓮様…。
先ほど子どもたちに本を読んでやってるところを拝見して確信しました。
村岡先生が引き受けて下さればきっと全国の子どもたちがあんなふうにラジオの前にくぎづけになると。
とにかく一度局に見学がてらいらして下さい。
いやいやあの…本当にお役に立てないと思います。
花子は出演を断るつもりでラジオ局にやって来ました
JOAK東京放送局であります。
回想JOAK東京放送局であります。
(一同)お疲れさまでした。
(漆原)今日も大変結構でした。
いかがでしたか?本番でよくあれだけ落ち着いていらっしゃれるものですね。
私はここで聞いているだけで足が震えました。
そうですか。
でもやってみます。
(漆原)はっ?私でよければやらせて下さい!では…引き受けて下さるんですね!?ありがとうございます!よろしくお願いします。
ではどうぞ。
はい。
そして花子の特訓が始まったのです
今度は通貨膨張策によって景気の再建を図るようになり…。
発音滑舌何もかもがなってません!まずは早口言葉。
はい3番。
はい。
久留米のくぐり戸はくぐ…久留米のくぐり戸は栗の木のくぐり戸くぐりつけりゃくぐりいいが…。
遅い!それでは時間内に原稿を読み終わりません。
武具馬具ぶぐばぐ三ぶぐばぐ。
武具が…武具馬具ぶぶぐ…武具が…武具馬具ぶぐばぐ三ぶぐばぐ。
合わせて武具馬具六ぶぐ…。
(有馬)遅い!
いよいよ花子のラジオ初出演の日がやって来ました
(英治)花子さん。
これ持っていきなよ。
ニュースの原稿を読もうとするんじゃなくて歩に新しいお話をするつもりでやってみたらどうかな。
しかし急に新しい原稿を渡された花子は戸惑います
(時計の音)お願いがあります。
何でしょうか?大変失礼ですがニュース原稿を書き換えさせて頂きました。
この原稿を読ませて頂けませんか?元の原稿のままだと子どもたちは途中で飽きてしまうと思うんです。
小さい子どもたちの我慢は5分ももちません。
分かりやすく易しい言葉にした方がより楽しんで聞いてもらえるのではないでしょうか。
ちょっといいですか?いいですか。
ニュース原稿というものは事前に逓信省の確認を取ります。
今更変更など…。
ムチャなお願いをしている事は分かっていますがもっと子どもたちにニュースを楽しんで聞いてもらいたいんです。
どうかお願いします。
分かりました。
すぐに逓信省の確認を取ります。
黒沢さん。
部長に相談もせずにいいのですか?今は少しの時間も惜しいので部長には後で報告します。
ありがとうございます!
いよいよ本番です
ただいまから「コドモの時間」の放送です。
お伝えしますは児童文学の本を多く書かれております村岡花子先生です。
ぜ…全国のお小さい方々ごきげんよう。
(ラジオ)「『コドモの新聞』のお時間です」。
京都の動物園でライオンが逃げ出したお話です。
今朝の8時ごろ京都市にある動物園で今年13になるライオンが園長さんの隙を見ていきなりおりの外へ飛び出しのそのそと面白がって動物園の中を歩き回りました。
今日の「コドモの新聞」のお時間はここまでです。
皆さんさようなら。
(ドアが開く音)
花子はラジオのおばさんとして第一歩を踏み出したのです。
それから1週間後の事でした
・ごきげんよう。
はなちゃん。
はい。
蓮様どうなさったの?てっ…もも!?ももちゃん。
(もも)ご無沙汰してます…お姉やん。
もも…。
ももちゃんは北海道の生活に耐えきれずに逃げてきたそうよ。
主人は去年亡くなって…。
北海道で偶然はなちゃんのラジオ放送を聞いたんですって。
お姉さんの声を聞いたら居ても立ってもいられなくなって嫁ぎ先のおうちを飛び出してきたそうよ。
どうして蓮様のとこに?私が書いた記事が雑誌に出て以来苦しい境遇に身を置く女性が何人も訪ねていらっしゃるの。
(英治)「女性も自らの人生を生きてよい」というあの記事ですか。
北海道からの船の中でももちゃんもうわさを聞いたらしくて。
ねっ?ももちゃん。
おらの暮らしとは全然違う…。
ももの上京の知らせを受け吉平とふじがやって来ました
(吉平)はな!電報もらってびっくりしたじゃん。
(ふじ)ももが北海道から戻ってきたって本当け?もも中にいるから早く入って。
(吉平)もも…。
もも…。
おかあ…。
会いたかったよ…。
もも…。
おかあ…。
もも…。
もも…。
(泣き声)
(かよ)絵描きさん。
今日は身内だけで貸し切りなんですけど…。
(旭)これで飲めるお酒下さい。
またやけ酒ですか?もも。
もう北海道には戻らなんでいいだよ。
ほうだよ。
逃げ出すほどつらかったとこなんか戻るこんないさ。
もも。
お姉やんと一緒に暮らそう。
英治さんは優しい人だからももは何にも気にしなんでいいだよ。
おら…もっとももの事分かってやらんきゃ…。
お姉やんには分からないと思う。
あんなにいい暮らしして立派な仕事して…旦那さんにも大切にしてもらって…。
幸せなお姉やんには私の気持ちなんて分かりっこない。
もも。
少し休んだら?私…一生懸命働くからここに置いて。
でもお姉やんが寂しがるよ。
ももと一緒に暮らしたいってお姉やん心から思ってるよ。
お姉やんはきっとそんな事思わないよ。
あんなに忙しそうだし。
お姉やんがあんなに仕事をするようになったのは坊やが亡くなってからだよ。
それからは日本中の子どもたちに物語を届けるんだっていつもたくさん仕事を抱えてる。
ラジオのおばさんもそんな気持ちで引き受けたんだと思う。
ももが花子の家に荷物を取りに行った時の事でした
ももさん。
お願いがあるんです。
この写真をラジオ局まで届けてもらえませんか?えっ?僕が行ければいいんですが急ぎの納品があって…。
はあ…。
花子に渡してほしいんです。
分かりました。
はあ…助かった…。
あっじゃあ今地図描きますから。
あの…ご相談があるんですが。
今度は何ですか?原稿を変更したいんです。
またですか…。
放送はもう間もなくです。
逓信省の承認を取る時間はもうありませんからそのままお読みになるしかありません。
そういう事ですので。
変更といってもひと言だけです。
最後の挨拶を「さようなら」ではなく「ごきげんよう。
さようなら」にしたいんです。
あなたは修和女学校のご出身だそうですね。
はい。
給費生だったそうですね。
ええ。
そうです。
(漆原)貧しい家の出であるあなたが殊更に「ごきげんよう」という言葉を使いたい気持ちは分かります。
しかし「ごきげんよう」が似合う人間と似合わない人間がいるんですよ。
そうでしょうか。
「ごきげんよう」はさまざまな祈りが込められた言葉だと思います。
(漆原)祈り?「どうかお健やかにお幸せにお暮らし下さい」という祈りです。
人生はうまくいく時ばかりではありません。
病気になる事もあるし何をやってもうまくいかない時もあります。
健康な子も病気の子も大人たちもどうか全ての人たちが明日も元気に無事に放送を聞けますようにという祈りを込めて番組を終わらせたいんです。
どうかお願いします。
挨拶の部分ですから変えても問題にはならないと思います。
いいえ。
一行一句変えてはなりません。
まあいいでしょう。
問題になったら降りてもらえばいい。
時間だ。
始めよう。
あ…村岡先生。
もも。
お姉やんこれお義兄さんから。
あ…ありがとう!じゃあ私は。
もも。
本当にありがとう。
「コドモの新聞」の時間です。
村岡花子先生です。
全国のお小さい方々ごきげんよう。
これから皆様方の新聞のお時間です。
最初のお話です。
「大阪でヒヒが逃げたお話です。
今朝の6時ごろの事です。
大阪市のある幼稚園で飼っていた大きなヒヒ…これはお猿の一種ですが普通のお猿よりも犬のように口がとがっています」。
今日の新聞のお時間はここまでです。
それでは皆さん。
ごきげんよう。
さようなら。
ごきげんよう…。
・「これからはじまる」・「あなたの物語」・「ずっと長く道は続くよ」・「虹色の雨降り注げば」・「空は高鳴る」・「眩しい笑顔の奥に」・「悲しい音がする」・「寄りそって今があって」・「こんなにも愛おしい」
花子は翻訳家として活躍する一方ラジオのおばさんとしての第一歩を踏み出しました
全国のお小さい方々ごきげんよう。
お姉やんと一緒に暮らそう。
おら…もっとももの事分かってやらんきゃ…。
(もも)お姉やんには分からないと思う。
「ごきげんよう」はさまざまな祈りが込められた言葉だと思います。
人生はうまくいく時ばかりではありません。
どうか全ての人たちが明日も元気に無事に放送を聞けますようにという祈りを込めて番組を終わらせたいんです。
花子は心を込めて言いました
ごきげんよう。
さようなら。
ごきげんよう…。
その言葉はもものかじかんだ心にしみこんでいきました。
ももが花子たちと暮らし始めて数日後の事でした
キャッ!・
(旭)ああちょっと…待って下さい!もも?
(もも)困ります!やめて下さい!ももに何するんですか!
(英治)花子さんどうしたの!?この人がももの事を…。
ももさんにお話がありまして…。
ももには指一本触れさせません。
いえ!決して怪しい者ではなくももさんに折り入って…。
いやいや!君十分怪しいよ!お義兄さんやめて下さい!その人かよ姉やんの店の常連さんなんです。
ももにご用件というのは?ももさんに絵のモデルになって頂きたいんです。
えっ?絵のモデル?どうしてももなんでしょう?ももさん。
あなたが好きだからです。
えっ…。
お願いします。
僕のモデルになって下さい!あっ…あっもも!あっ…。

(かよ)もも…そんなに慌ててどうしたでえ?はあ…。
もも…。
私初めて男の人に好きだって言われた…。
うちの人そういう事口にする人じゃなかったから…びっくりしてしまって…。
び…びっくりして飛び出しちゃったの?そうだったんだ。
はい。
そのまま動かないで。
太陽に輝く緑色。
これがももさんだ。
やっぱり変な絵になるんじゃないですか?変な絵にはしませんってば。
(笑い声)あの2人案外お似合いかもしれないな。
ええ。
(旭)心を込めて描かせて頂きました。
まあ…。
(英治)へえ…。
いいね。
ええ…ももらしさが出ていてとてもいいわ。
(旭)この絵が完成したら言おうと思っていた事があります。
僕と結婚して下さい。
…できません。
こんなすてきな絵描いてくれて本当にうれしいです。
でも…これは本当の私じゃありません。
ほんの少し前まで北海道でひどい暮らしをしてました。
2年前に夫を亡くして…いろいろあって東京に来ました。
知ってます。
え…?回想
(もも)食べる物も着る物もなくて…冬は本当につらかった。
雪ん中はだしで仕事したり…。
誰も助けてくれなくて…住むうちもなくて…馬小屋で寝てた。
(旭)そんなに過酷な生活の中でも生きようとする強さを持ち続けた。
僕はあなたのそんな強さに引かれたんです。
その気持ちを僕はこの絵に込めました。
これからは僕に…ももさんを守らせて下さい。

それから1年後の夏。
旭とももは結婚し村岡家の近所に家を借りました
旭は英治に印刷の技術を教わりながら青凜社で働いています
そんなある日の事。
珍しいお客さんが訪ねてきました
てっ…朝市どうしたでえ?はなしばらく。
朝市は教え子たちの書いたつづり方を本にするため印刷の依頼をしに来たのでした
今日はもう一つ報告があって来ただ。
何?おら…今度結婚するだ。
(花子もも)てっ!結婚?朝市おめでとう!相手はどんな人?甲府の人?ああ。
教員仲間の妹じゃん。
どんな女の人?気さくでよく笑う人だ。
本読むのが好きで…。
たまに怒るとおっかねえけんどな。
へえ〜!お姉やんみたい。
えっ?
(笑い声)顔は似てねえけんどな。
よかったね朝市…。
何ではなが泣くでえ?こんなちっくい時から知ってる朝市がお嫁さんもらうと思ったら…。
おら…はなとももちゃんにはこぴっと報告したかっただ。
本当におめでとう朝市。
はあ〜とうとうもらったか〜…。
そして9月の半ばの事でした
(産声)元気な女の子よ。
ごきげんよう。
ももと旭の赤ちゃんは歩と同じ9月13日に生まれたのでした
(もも)美里…。
赤ちゃんは美里と名付けられました
ごきげんよう。
美里ちゃん。
花子さんお帰り。
何かあったの?旭君が倒れたんだ。
えっ…。
病院で診てもらったら結核でした。
結核…。
お姉やん。
しばらくの間美里を預かってもらえませんか?もちろんいいわよ。
助かります。
もも…。
お姉やんに遠慮なんかしないで。
ありがとう…。
ももは美里を2人に預け旭の転地療養に付き添う事になりました
それから5年たちました
ももの献身的な看病のおかげで旭は元気になり英治の頼もしい片腕として働いています
旭君。
ご苦労さん。
お昼にしようか。
はい。
ももと旭の間にはもう一人女の子が生まれました
花子たちが長らく預かっていた美里はももと旭のたっての願いで村岡家の養女になりました。
そしてこれは愛犬のテル
前年日中戦争が勃発し国民の軍事体制への協力が求められていました。
ラジオ放送の内容も軍事に関するものが大半を占めるようになりました
(純平)富士子。
一番立派なのはお国のために戦っている兵隊さんたちじゃないか。
その影響は蓮子の家にも及んでいました
僕も早く入隊したい。
(蓮子)純平…。
お母様。
僕は軍人になりたいです。
純平!立派な心掛けです。
少年航空兵は15歳から募集があるそうです。
試験を受けさせて下さい。
駄目です。
どうしてですか?戦地がどういうところかも分かっていないでしょう。
僕はお国のために身をささげお母様たちをお守りしたいんです!純平君がそんな事を?蓮様。
龍一さんは何て?龍一さんにはとてもそんな事言えないわ。
どうして?彼は中国との戦争を終わらせるために昔の仲間たちと活動をしているの。
戦争の影は人々の暮らしの中に忍び寄っていました
そんなある日…
この犬はお国のためにお預かりします。
この犬は娘と楽しく遊ぶ事しかできません。
お国のためです。
愛犬テルは徴用されていきました。
花子も英治もテルが二度と帰ってこない事を知っていました
(美里)あれ?テルがいない。
テル!テル!お母ちゃま。
テルは?あのね美里…。
テル帰ってくるわよね?美里…。
テルはもう…。
帰ってくるわよ。
テルは…兵隊さんのために一生懸命働いてきっと帰ってくるわ。
美里がいい子にしてたら早く帰ってきてくれる?そうね。
美里たっくさんいい子にしてるわ。
花子は美里を悲しませたくない一心で嘘をついてしまいました
あんなに浮かない顔で「ごきげんよう」もないものです。
原稿さえ読み間違えなければいいんだ。
(ため息)
「コドモの新聞」の題材も人々の戦意を高揚させるようなものばかりでした
(ドアが開く音)
(黒沢)村岡先生。
動物のニュースがありました。
いいニュースですよ。
この軍用犬の中には皆さんのおうちで飼われていた犬もたくさんいます。
その中のあるおうちで飼われていた犬が隠れていた敵を見事に探し出し…。
はいありがとうございます。
このぐらいの速さで本番もよろしくお願いします。
はい。
正しい発音滑舌に注意!一字一句原稿は正確に!はい。
逓信省の目が厳しくなっていますからね。
原稿を正確に読む事はますます重要です。
はい。
(有馬)「さて続きましては村岡花子先生の『コドモの新聞』であります」。
「さて次は犬の兵隊さんに功労賞が贈られたというお話です」。
この軍用犬の中には皆さんのおうちで飼われていた犬もたくさんいます。
「その中のあるおうちで飼われていた犬…」。
テルは戦地で元気に兵隊さんのお役に立っています。
テル…?テル!テルだ!テルがニュースに出たよ!
美里を元気づけようと花子はニュースの原稿に書かれた軍用犬をテルという名前にして伝えてしまいました
これにて「コドモの時間」を終わります。
原稿にはない事をお話しされましたよね。
子ども向けのニュースであっても事実を曲げてはいけない。
それが放送というものです。
それに政府の放送への統制が一層厳しくなっている事は先生もご理解頂いていますよね。
逓信省の検閲を終えた原稿を変更したとなると…。
(漆原)何!?あ…漆原部長…。
検閲済みの原稿は変えてはならないと何十回も申し上げているのに!勝手に変えて逓信省に目をつけられたら番組に関わった全職員の首が飛ぶかもしれないんですよ!本当に申し訳ありませんでした。
以後気を付けます。
…ったく。
これだから女は。
(英治)今夜はテルテルって大はしゃぎだったからすぐ寝ちゃったよ。
今日の放送でお話しした軍用犬に名前は付いていなかったの。
ラジオを聞いてくれた子どもたちに申し訳ない事をしたわ。
でも…テルの事を想像してる時の美里は本当にいい笑顔をしてた。
(英治)花子さんは今日美里にすてきな贈り物をしたんだよ。
たとえ世の中がどんな状況になってもこの子たちの夢だけは守りたい。
・「これからはじまる」・「あなたの物語」・「ずっと長く道は続くよ」・「虹色の雨降り注げば」・「空は高鳴る」・「眩しい笑顔の奥に」・「悲しい音がする」・「寄りそって今があって」・「こんなにも愛おしい」
中国との戦争が続き国民は総力を挙げて軍事体制に協力する事を求められていました。
花子が語り手を務める「コドモの新聞」のニュースも軍事に関するものが大半を占めるようになりました
私この度長谷部汀先生をはじめとする諸先生方のご推薦を頂きましてペン部隊として大陸の戦場へ向かう事と致しました。
(花子)ペン部隊?宇田川満代先生万歳!
(一同)万歳!
戦争の足音は確実に近づいていたのです
そんなある日の夜の事です
(戸をたたく音)どちら様ですか?・
(吉太郎)はな。
俺だ。
兄やん…。
どうしたの?すまないこんな時間に…。
ちょっと話しておきたい事があってな。
上がって。
いや…すぐ帰るからここで。
はな…明日からしばらく蓮子さんのうちには近づくな。
どうして?何でもいい。
ここは俺の言うとおりにしておけ。
分かったな。
兄やん…。
蓮様…。
そして次の日の朝…
・はい宮本でございます。
蓮様?ごきげんよう花子です。
・まあはなちゃん。
ごきげんよう。
蓮様…お変わりない?・ええ。
龍一さんも?変わりないけれど…。
どうしたの?あっ…えっと…。
あっおいしいきんつばがあるからもしよろしければうちにいらっしゃらない?じゃあお言葉に甘えてお昼過ぎに伺わせて頂くわ。
お待ちしてます。
ごきげんよう。
・ごめんください。
宮本龍一さんはご在宅ですね?ええ…おりますけれど…。
失礼します。
宮本さん!あの…。

(富士子)お父様…。
離せ!
(浪子)龍一!吉太郎さん一体どういう事ですか?主人が何かしたとでも?説明して下さい!宮本龍一さん和平工作の一件で確かめたい事があります。
憲兵隊までご同行願います。
(浪子)和平工作…?調べはついています。
仲間と大陸へ渡る計画をしている事も。
(浪子)龍一…。
では申し訳ありませんが家の中を調べさせて頂きますがよろしいですね。
行け。
はっ。
あっな…何をするんです!あなたは何をやってるんだ!蓮子さんや子どもたちの事を考えたらどうだ?何よりもまず守るべき人たちがいるだろう!この国はどんどんおかしくなっていく。
それを止めずに妻や子どもを守れるか!連行せい!
(憲兵たち)はっ!龍一さん…。
そのころ花子は…
(英治)あれ?蓮子さん来なかったのか。
ええ…。
何かあったんじゃないかしら。
もも。
ちょっと美里をお願い。
やっぱり行ってくるわ。
花子さん!…お願いします。
ごめんください…。
蓮様!さっき吉太郎さんがいらしたわ。
兄やんが?龍一さんを連れていったわ。
はなちゃん…吉太郎さんに話したのね。
えっ…。
龍一さんの事何か話したんでしょう!はなちゃんの事信じてたのに!蓮様…。
(雷鳴)私は…私は何も…。
お帰り下さい。
(英治)花子さん。
蓮子さんから電話だ。
蓮様から?蓮様。
ごきげんよう。
お電話ありがとう。
はなちゃん…この間はごめんなさい。
龍一さんが連れていかれてあの日はすっかり取り乱していて。
はなちゃんが密告なんかする訳ないのに…。
いいのよ。
私こそ何にも力になれなくてごめんなさい…。
こんなに思ってくれる奥様がいるのに…。
(小声で)どうして龍一さんそんな危険な活動に加わってしまったのかしら?でも龍一さんは間違った事はしていないわ。
あの人は誰よりも子どもたちの将来の事を考えているわ。
だから今の国策に我慢できないのよ。
はなちゃんは本当はどう思っているの?えっ…。
ラジオのマイクの前で日本軍がどこを攻撃したとか占領したとかそんなニュースばかり読んで…。
ああいうニュースを毎日毎日聞かされたら純粋な子どもたちはたちまち感化されてしまうわ。
私だって戦争のニュースばかり伝えたくないわ。
でも…こういう時だからこそ子どもたちの心を少しでも明るくしたいの。
私の「ごきげんよう」の挨拶を待ってくれる子どもたちがいる限り私は語り手を続けるわ。
そんなのは偽善よ。
優しい言葉で語りかけて子どもたちを恐ろしいところへ導いているかもしれないのよ。
そんな…。
やっぱりもううちの家族とは関わらない方がいいわ。
私は蓮様が心配なの。
まっすぐで危なっかしくて…。
私を誰だと思っているの?華族の身分も何もかも捨てて駆け落ちした宮本蓮子よ。
私は時代の波に平伏したりしない。
世の中がどこへ向かおうと言いたい事を言う。
書きたい事を書くわ。
あなたのようにひきょうな生き方はしたくないの。
そう…。
分かったわ。
さようなら。
お元気で。

そしてこの年の9月ドイツ軍のポーランド侵攻を契機に連合軍がドイツに宣戦を布告。
第二次世界大戦が始まったのです
Hana.「ANNEofGREENGABLES」。
友情の記念…。
(美里)お母ちゃま何のお話してるの?スコット先生がねこの大切なご本を下さるとおっしゃってるの。
何ていうご本?「ANNEofGREENGABLES」。
そのまま訳すと「緑の切り妻屋根のアン」ね。
お母ちゃまの小さい頃を見ているようですねって。
お母ちゃま美里ぐらいの時英語が大っ嫌いだったの。
(もも)てっ!お姉やんが英語大っ嫌いだったなんて信じられない。
修和に入ったばかりの頃みんなが何をしゃべってるかちっとも分からなかったんだもの。
でも…スコット先生のお歌を聴いたら初めて英語が心に優しく響いてきたの。
回想
(英語での歌声)スコット先生…。

(歌声)お母ちゃま歌ってみて!えっ今?私も聴いてみたい!
(笑い声)
(拍手)Hana.ゴキゲンヨウ。
ごきげんよう。
日本が戦争へと向かう中日本とカナダをつなぐ大切な一冊が花子の手に託されたのです。
それはカナダのプリンス・エドワード島という小さな島を舞台にした物語でした。
そばかすだらけの痩せっぽちなニンジンのように赤い髪の少女アン・シャーリーが人々と心を通い合わせていく様子が生き生きと描かれていたのです
「『おおダイアナ』。
やっとの思いでアンは言った。
『ねえ私の事を少しばかり好きになれると思って?私の…』」。
bosomfriend。
親しい友…。
「私の親友になってくれて?」。
回想
(鐘の音と2人の笑い声)翻訳者安東花子。
歌人白蓮。
蓮様…。

スコット先生から託されたこの本を日本の少女たちに送り出す事ができる日を心から願う花子でした
そして2年の歳月が流れました
・はい村岡でございます。
今日は村岡先生にはお休みして頂く事になりましたのでお電話しました。
どうしてですか?・大変重要なニュースがありまして。
(チャイム)
(有馬)「臨時ニュースを申し上げます。
臨時ニュースを申し上げます。
帝国海軍はハワイ方面のアメリカ艦隊ならびに航空兵力に対し決死の大空襲を敢行しシンガポールその他をも大爆撃しました」。
(歓声)
(一同)万歳!万歳!
(旭)日本軍やりましたね!私やっぱりJOAKに行ってくるわ。
えっ…今日はいいって言われたんだろ?でもひょっとしたら「コドモの新聞」の放送をやるかもしれないから。
今日は休むようご連絡頂いたんですけどどうしてもこの番組の事が気になってしまって…。
これはこれは村岡先生。
本日はいらっしゃらなくて結構でしたのに。
内閣情報局の方でその時間帯に重要な放送をする事が決定しましたので「コドモの新聞」の放送は見合わせます。
国民の方々ラジオの前にお集まり下さい。
いよいよその時が来ました。
烏合の衆である敵はいかに大敵でありましても断じて恐るるところはありません!すばらしい放送でした。
感動しました!まだいたのかね。
ああ…こちらは子ども向けの番組を担当する村岡花子女史です。
国論統一のために今後一層ラジオ放送は重要になります。
放送を通じて子どもたちをよき少国民へと導く事を期待します。
あの…。
漆原部長。
今日限りで「コドモの新聞」を辞めさせて頂きます。
なぜですか?私の口から戦争のニュースを子どもたちに放送する事はできません。
村岡先生…。
たった今情報局情報課長からあんなにありがたいお言葉を賜ったばかりでしょうが!それで決心がつきました。
村岡先生…。
いいでしょう…。
お辞め下さって結構です。
あなたは所詮「ごきげんよう」のおばさんだ!・「これからはじまる」・「あなたの物語」・「ずっと長く道は続くよ」・「虹色の雨降り注げば」・「空は高鳴る」・「眩しい笑顔の奥に」・「悲しい音がする」・「寄りそって今があって」・「こんなにも愛おしい」
(スコット)BeforeIleaveJapan,Ihaveabooktogiveyou.
(花子)「ANNEofGREENGABLES」。
花子はとうとうあの本に出会いました
(有馬)臨時ニュースを申し上げます。
帝国陸海軍は本8日未明西太平洋においてアメリカイギリス軍と戦闘状態に入れり。
今日限りで「コドモの新聞」を辞めさせて頂きます。
(黒沢)なぜですか?私の口から戦争のニュースを子どもたちに放送する事はできません。
太平洋戦争の開戦を機に花子は9年間続けたラジオのおばさんを辞めました
はなさん私シンガポールへ行く事にしたわ。
えっ?貿易会社をしている父のつてで出発する事にしたの。
大丈夫なの?一人で南方に行くなんて。
実はゆうべ吉太郎さんにもご報告をしたの。
シンガポール?フィリピンよりは情勢が安定していますが危険です。
考え直して下さい。
父の会社も仕事を再開していますから大丈夫です。
しかしそこに行くまでの航路が安全とは言えません。
吉太郎さんは軍人として懸命にお働きです。
この戦時下私も無為に過ごしてはいられません。
あなたの決心は固いんですね。
はい。
ではくれぐれもお気を付けて。
無事に帰ってきて下さい。
ありがとうございます。
私の意志が固いと知って吉太郎さんも分かって下さったわ。
そう…。
そして花子の家では…
(ガラスが割れる音)・非国民!
(英治)待ちなさい!
(2人)非国民!
(美里)お母様怖い。
大丈夫よ。
大丈夫だからね。
花子が英語の仕事をしている事や外国人が出入りしていた事で近所から反感を買っていたのです
(ラジオ・有馬)「本日東条首相による国政運営革新に関する重要発表で述べられましたように政府は学徒をして直接戦争遂行に参与せしむる事に方針を決定。
これにより全国の学生の徴兵猶予は停止せられる事となりました」。
(蓮子)そんな…。
(純平)お母様!ようやく僕もお国のために戦えるんです!お母様たちを守るために戦えるんです!ごきげんよう!
(直子)おじぃやんおばぁやん来たよ!
花子は子どもたちを甲府へ疎開させたのです
ごきげんよう。
(ふじ)さあさ上がれし上がれし。
さあ2人ともその前に。
(2人)はい!今日からお世話になります。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします!よろしくお願えします。
甲府で美里たちと数日過ごした花子は離れ難くなる前に東京へ戻る事にしました
(吉平)はな。
米とみそも持ってけし。
てっ…こんなにもらったらおかあたちが困るじゃん。
うちは田舎だから何とでもなるだ。
ももやかよにも食べさしてやってくりょう。
美里。
直子ちゃん。
おじぃやんやおばぁやんそれから朝市先生の言う事をよ〜く聞いていい子にしてるのよ。
はい。
はい…。
東京に戻った花子でしたが…
花子さんどうしたの?ああ…ちょっと疲れてしまって…。
大丈夫?ええ。
ちょっと先に休ませてもらうわ…。
(英治)花子さん!?
(もも)お姉やん!?花子さん!
(英治)すごい熱じゃないか…。
花子はジフテリアという病気に感染してしまいました。
心臓まひや神経まひを起こし死に至る事もある病気です
2か月病気と闘った花子は随分回復しました
お昼ごはん出来たよ。
(空襲警報)空襲…?お姉やん逃げよう!待って辞書を持っていかないと。
私が取ってくるからお姉やんは先に防空壕に入って!
(空襲警報)お姉やん。
ありがとう。
(爆撃音)
(爆撃音)
(爆撃音)お姉やん。
ついに東京も戦場となってしまいました。
この日東京の人たちは戦争の恐怖を身をもって知ったのでした
はい。
どうしたの?ねえ英治さん。
もし明日死んでしまうとしたら英治さんは何をする?どうしたんだよ急に。
今日防空壕の中で爆弾が落ちる音を聞いていて思ったの。
明日も生きているとは限らない。
今日が最後の日になるかもしれないって。
そうだな。
今日が人生最後の日だとしたら僕は花子さんが翻訳した本を読みたいな。
明日死んでしまうかもしれないのに?うん。
ほかには何にもしないで一日中読んでいたい。
英治さん…。
君は?私は…。

平和になる時を待っているのではなく今これが私のすべき事なのだ。
その思いに突き動かされ花子は久しぶりの翻訳に胸を高鳴らせていました
「緑の…」。
「『もう迎えに来て下さらないのじゃないかと心配になってきたもんで…』」。
・もしもし。

(ふじ)はなけ。
あっおかあ。
どうしたの?美里ちゃんがいなくなっただよ。
てっ…美里が!?
(英治)花子さん!英治さん…。
美里がいなくなったって…。
ええ。
一人で甲府の家を出たみたいで…。
花子さん落ち着いて。
美里ちゃん!お父様!お母様!美里!よかった。
(英治)美里。
ただいま帰りました!お母様がどれほど心配したと思ってるの!もも…。
ごめんなさい…。
どうして黙って勝手に帰ってきたりしたんだ?お母様がご病気だって聞いてずっと心配だったの。
それに東京に爆弾が落とされたってみんなが話してるの聞いて私じっとしていられないほど心配になって…。
ごめんなさい。
美里…。
美里。
お母様からも大切なお話があります。
大切な話?あのね美里…。
もも叔母様は美里の本当のお母様なの。
えっ?本当の事だよ。
突然こんな話してごめんなさい。
本当は美里がもっと大人になってから話そうと思っていたわ。
でもそれではいけないと思い直したの。
戦争は今よりもっとひどくなるかもしれない。
空襲でいつ命を落とすかも分からない。
だから今のうちに美里にきちんと話をしようと思ったの。
美里。
よく聞いて。
お父様もお母様も美里を本当の子どもだと思っているわ。
美里を心から愛してる。
(英治)美里。
これからも僕らは家族だ。
学徒出陣で陸軍に入り訓練を受けていた純平が1年ぶりに蓮子のもとに帰ってきました
ただいま帰りました!まあ…純平!お帰りなさい!特別休暇がもらえましたので。
(純平)どうしたんですか?こんなごちそう!まるでおとぎの国から魔法使いがやって来たみたいでしょう?
(富士子)ただいま帰りました。
お帰りなさい。
お帰り富士子。
お兄様!どうしたの?何でもない。
ただの休暇だ。
まあすごいごちそう!さあごはんにしましょう。
お鍋なんて何年ぶりかしら。
もっとよく見たいわ。
(純平)ああ富士子。
お母様行ってまいります。
お元気で。
純平!武運長久を祈っています。
はい!心の声「曲がり角を曲がった先に何があるのかは分からないの。
でもそれはきっと…」。
(空襲警報)心の声「きっと一番よいものに違いないと思うの」。
(空襲警報)美里!美里!
(有馬)「東部軍管区司令部発表。
22時15分現在敵機の第1目標は相模湾より逐次帝都南西部地区に侵入するもようであります。
繰り返します」。
お父様は!?夜勤で遅くなるの。
(空襲警報と飛行機のエンジン音)ありがとう。
(爆撃音)お母様。
美里…大丈夫?逃げましょう。
美里!逃げましょう!
(爆撃音)
(悲鳴)大丈夫よ。
焼夷弾が雨のように降る町を逃げながら花子は祈りました。
生きた証しとしてこの本だけは訳したい。
花子の祈りは届くのでしょうか
・「これからはじまる」・「あなたの物語」・「ずっと長く道は続くよ」・「虹色の雨降り注げば」・「空は高鳴る」・「眩しい笑顔の奥に」・「悲しい音がする」・「寄りそって今があって」・「こんなにも愛おしい」心の声
(花子)「曲がり角を曲がった先に何があるのかは分からないの。
でもそれはきっと…。
きっと一番よいものに違いないと思うの」。
(空襲警報)
(爆撃音)
(爆撃音)
空襲の町を逃げながら花子は祈りました。
生きた証しとしてこの本だけは訳したい
(旭)あっ…直子!もも!
(直子)お父さん!
(もも)旭さん!
(英治)美里!花子さん!
(美里)お父様!英治さん。
みんな無事でよかった。
(もも)お姉やんの大切な部屋が…。
燃え広がらなくてよかったわ。
かよ…。
かよ!かよ姉やん!無事だったのね。
よかった…。
私の店…焼けてしまったの。
あの辺は全部燃えて何にも残ってない。
あなた!
(富士子)お父様。
よかった…。
無事だったか。
空襲がひどいと聞いて心配して戻ってきた。
お帰りなさい。
生と死が紙一重の中で花子は翻訳を続けました
「What’syourname?」。
(玉音放送)「朕は帝国政府をして米英支蘇四国に対し其の共同宣言を…」。
(泣き声)どういう事なの?日本は負けた。
そしてあの本の翻訳も終わりに近づいていました
「『神は天にあり世は全てよし』とアンはそっとささやいた」。
ついに「ANNEofGREENGABLES」の翻訳が完成しました
一方蓮子は出征した純平の帰りを今か今かと待ちわびていました
(戸をたたく音)は〜い。
ごきげんよう。
それは純平が戦死したという知らせでした
何かの間違いです。

一晩にして蓮子の黒髪は真っ白になりました。
純平の死を知った花子。
蓮子に会うのは7年前に決別して以来の事でした
(戸をたたく音)ごめんください。
蓮様。
蓮様…。
あなたが純平を戦地へ送ったのよ。
あなた…ラジオで日本中の子どもたちに語りかけてたじゃない。
「お国のために命をささげなさい」と。
純平を返してちょうだい!蓮様…。
お願い…。
純平を…。
蓮様…。
(泣き声)あなたのせいで…。
あなたのせいで純平が!返して…返してちょうだい!蓮様…。
蓮子よさないか!純平が死んだのは戦争のせいだ。
花子さん…今日はお帰り下さい。
(泣き声)ごめんください!ああ梶原さんお待ちしてました。
どうぞ。
いや〜元気そうで何よりだよ。
ええ。
あっこちら小鳩書房で児童文学の編集をしている小泉君だ。
ごきげんよう。
村岡花子です。
(小泉)早速ですが先生の翻訳されたものを弊社で出版させて頂けませんか?ちょっとお待ち下さい。
よいしょ。
お待たせしました。
こちらの作品はどうでしょうか?ああ…ストー夫人ですか。
ええ。
それから…。
こちらは翻訳し終わったばかりのものなんです。
花子が命懸けで守り翻訳した物語は出版されるのでしょうか
数日後
いかがでしたか?「アンクル・トムズ・ケビン」は是非出版させて頂きたいと思います。
でも…。
ルーシー・モード・モンゴメリという作家は日本では知名度もありませんし出しても厳しいだろうと社長の判断で…。
あれだけの空襲をくぐり抜けてきたんだ。
花子さんの思いを乗せてこのアンの物語が必ず日本中の少女たちの手に届く日が来るさ。
そうね。
私諦めないわ。
うん。
はい…。
ごきげんよう。
どうしたの?ああ…またラジオに出てくれないかって。
そう…。
もう戦争のニュースは読まなくていいんだ。
出てみれば?回想あなたが純平を戦地へ送ったのよ。
・大変じゃん。
吉平おじさんが倒れただ。
てっ…。
・心臓が弱っててかなり危ねえ状態だってお医者さんが。
(汽笛)ただいま!おとう!大丈夫?はな!もも!かよ!よく帰ってきたじゃん。
おとう起きてて平気なの?おお平気も平気。
このとおりピンピンしてらあ。
ハハッちょっこしクラッとなっただけじゃんけ。
な〜んだ…よかった。
心配して飛んできたのに。
(リン)本当に人騒がせじゃんね。
ああすまんすまん。
こんなぜいたくな食事本当に久しぶりさあ。
てっ!ラジオがある。
(吉平の笑い声)
(吉平)ほりゃあラジオくれえあるさ。
おかあが大好きな歌謡曲を聴かしてやらっかと思って。
(ふじ)本当はおとうが欲しくて買ってきただよ。
はながまたラジオに出るじゃねえかって。
(かよ)お姉やんまたラジオ局から頼まれてるだよ。
(吉平)てっ!ほりゃあ楽しみじゃんねえ。
へえ〜。
(吉平とふじの笑い声)
(吉平)いつ出るだ?何の話ょうするだ?
(戸をたたく音)
(吉平)ん?
(ふじ)は〜い。
どちらさんですか?てっ…。
あ…兄やん。
ああ〜。
こうやってみんなそろってうちぃ集まるの何十年ぶりずら?
(吉太郎)ここは昔のまんまだな。
自分は正しいって信じてやってきた。
だけど…全てが間違ってたような気がして…。
ほりゃあ違う。
慰めはいらんです。
国が負けたのに憲兵なんかしてたやつは生きてる資格もないって世間はみんな思ってます。
俺は上の学校にも行かしてやれなんだこんず〜っと悔やんできた。
ふんだけんどおまんは自分の人生を一っから自分の力で切り開えたじゃん。
必死で生きてさえいりゃあ人生に無駄なこんなんてこれっぽっちもねえだ。
おまんの選んだ道は間違うちゃいん。
世間が何と言おうとおまんは俺の誇りじゃん。
うん。
よ〜く帰ってきてくれたな。
(泣き声)
吉太郎は甲府に帰りブドウ酒造りを手伝う事になりました
お帰り。
ずっと待ってるだよ。
醍醐さん?突然押しかけまして…。
醍醐さんどうしてここに?もうこれ以上吉太郎さんを待っていられません!これ以上待ってたらよぼよぼのおばあちゃんになってしまいます。
私も吉太郎さんと一緒にブドウ酒を造ります!てっ?
(2人)て〜っ。
お義父様お義母様。
私お料理もお掃除もちっとも得意ではありませんがこれから必死に努力致します。
ですから…私をここに置いて下さい。
あの…醍醐さん。
私帰れと言われても帰りませんから。
おらこの人と一緒んなりてえ。
てっ!吉太郎がやっとこさ結婚するだと!?てっリンさん。
年が明けみんなの後押しもあり花子は5年ぶりにラジオに出演する事になりました
ご無沙汰しております。
ご無沙汰しております。
今日は気分がいいだ。
(アナウンサー)「本日は『ごきげんよう』でおなじみの村岡花子さんをお招きしました」。
全国の皆さんごきげんよう。
「カナダのすばらしい宣教師の先生方から…」。
「ごきげんよう」のおばさんの声懐かしいな。
またラジオに出るなんて「みみずの女王」も懲りないわね。
「『あなたのために図書室を増築しなければ』と冗談で言われた事もありました」。
翻訳という仕事に興味を持ったのも修和女学校で学んでいた時でした。
回想あなたやっぱり翻訳力だけは大したものだわ。
腹心の友が翻訳の道へと進む勇気をくれたのです。
私に最初に英語を教えてくれたのは父です。
俺のこんけ。
初めて故郷の甲府を出て東京へ向かう汽車の中で…。
回想朝はグッドモーニング。
グッドモーニング…。
昼はグッドアフタヌーン。
グッドアフタヌーン…。
そうじゃ。
あのおとうがいなかったら私は英語に出会う事も翻訳の道へと進む事もありませんでした。
はな…。
外国の言葉を知るという事はそれだけ多くの心の窓を持つという事です。
さあ心の窓を大きく開けて一歩を踏み出しましょう。
それぞれに戦争のむごさや家族を失う悲しみを経験しましたが勇気を出して歩いていけばその先にはきっと一番よいものが待っていると私は信じています。
あんた。
あ…。
花子の声を聞きながら吉平は息を引き取りました
・「これからはじまる」・「あなたの物語」・「ずっと長く道は続くよ」・「虹色の雨降り注げば」・「空は高鳴る」・「眩しい笑顔の奥に」・「悲しい音がする」・「寄りそって今があって」・「こんなにも愛おしい」
花子の大好きなおとうは亡くなりました
おとうにも読んでほしかったな…。
(英治)ちょっといいかな。
あ…どうぞ。
これ…花子さんに。
「ANNEofAVONLEA」。
モンゴメリの作品ね!そう。
「ANNEofGREENGABLES」の続編だよ。
てっ…。
本当は今すぐにでも読みたい気持ちだけど今はやめておくわ。
(英治)どうして?まだスコット先生との約束を果たせてないから。
この本が出版されるまで絶対に諦めない。
その日が来るまでこれは英治さんが預かっといて。
分かった。
かよ。
忙しそうね。
(かよ)いらっしゃいお姉やん。
仕事の帰り?出版社に翻訳の原稿を売り込みに行ってきたんだけど…。
また駄目だったの?
(子どもたち)逃げろ〜!
(警官)待て〜!また警察の浮浪児狩りか。
(幸子)助けて下さい。
お願いします。
(警官)おいこっちだ!
戦争で親を失った子どもたちが町にあふれていました
おい。
こっちに浮浪児が2人逃げてきただろう。
あっ。
あの子たちじゃないですか?今走って角を曲がっていきました。
追え〜!はっ!私たちも小さい頃いつもこんなふうにおなかすかせてたね。
そうだったわね。
そして数日後
(もも)お姉やん!ああももさんいらっしゃい。
もも…そんなに慌ててどうしたの?お姉やん。
かよ姉やんの店に一緒に来て。
かよ姉やんあのみなしごたち引き取るって言ってるの。
てっ…。
あの子たちうちは空襲で焼けてしまってお父さんとお母さんも…。
そうだったの…。
あの子たちさえよければ私引き取りたい。
世の中を渡っていくにはそれぞれ割り当てられた苦労をしなきゃいけないって最近よく思うの。
お姉やんには子どもたちに夢を与える仕事があるしももは家族のために頑張ってる。
私はこれまで自分のためだけに生きてきたけど今度はあの子たちのために何か役に立ちたいの。
かよがそこまで覚悟してるなら応援するわ。
私も協力する。
ありがとう。
その日の夕方
龍一さん…。
純平の戦死の知らせが届いてから蓮子はずっとふさぎ込んでいて…。
蓮子を立ち直らせる事ができるのは花子さんだけです。
お願いします!蓮子に会ってやって下さい!お願いします!
龍一に頼まれた花子は蓮子の家を訪れました
回想あなたが純平を戦地へ送ったのよ。
純平を返してちょうだい!お願い…。
花子おば様が来て下さいましたよ。
蓮様…ごめんなさい。
この間蓮様から言われた言葉突き刺さったわ。
私は純平君や大勢の子どもたちを戦地へ駆り立てた。
お国のために命をささげなさいとラジオで語りかけて…。
蓮様に会わせる顔がなかったの。
ごめんなさい!やめてはなちゃん!あなたにはあんな事言ったけれど時代の波にのみ込まれたのは私も同じなの。
(泣き声)
悲しみに打ちひしがれる蓮子。
花子はただ抱き締める事しかできませんでした。
家に帰った花子は蓮子のために何かできないかと考えました
ねえ英治さん。
戦争で子どもを失った母親は大勢いるはず。
その人たちの悲しみを一番よく分かるのは蓮様だわ。
その人たちにラジオで語りかけるのはどうかと思うの。
花子さんすごくいい考えだと思うよ。
そして蓮子はラジオに出演する事になりました
何だか恐ろしくなってきたわ。
ねえ蓮様。
スコット先生を覚えてる?ええ。
修和女学校の…。
ええ。
あの先生がカナダに帰国なさる時に本を渡して下さったの。
そこに出てくる主人公がこう言うの。
「自分の未来はまっすぐに延びた道のように思えた。
いつも先までずっと見通せるような気がした。
ところが今曲がり角に来たのよ。
曲がり角を曲がった先に何があるのかは分からないの。
でもきっと一番よいものに違いないと思うの」。
蓮様も勇気を出して曲がり角を曲がって。
きっと蓮様の思いは届くわ。
先の戦争で私は最愛の息子純平を失いました。
「子を失う事は心臓をもぎ取られるよりもつらい事なのだと私は身をもって知りました」。
戦争は人類を最大の不幸に導く唯一の現実です。
最愛の子を亡くされたお母様方あなた方は独りではありません。
同じ悲しみを抱く母が全国には大勢おります。
私たちはその悲しみをもって平和な国を造らねばならないと思うのです。
私は命が続く限り平和を訴え続けてまいります。
それから6年がたったある日
新しい作品ですか。
はい。
ええ。
ちょっとお待ち下さい。
花子は以前断られたあの作品を思い切ってもう一度差し出したのです
ああ…まだ出版されてなかったんですね。
ええ。
日本では知られていない作家だから皆さん冒険したがらなくて。
「ANNEofGREENGABLES」?ひょっとして読まずに断ったんですか?いや〜…おわびしなきゃいけないですね。
実は読んでないんですよ。
(戸が開く音)
(美里)ひどすぎます!読みもせずに断っただなんて許せないわ!美里。
お客様に何を言うの。
門倉社長小泉さん申し訳ありません。
いえ。
お嬢さんが怒るのも無理ないです。
すいません。
(門倉)分かりました。
これから読みますから。
原稿をお借りしても?ええ。
よろしくお願い致します。
確かに。
その夜の事です
(英治)誰かいるんですか?門倉社長…小泉さん。
遅くまでお邪魔してすみません!今まで原稿読んでらっしゃったんですか?はい…。
あの…昼間はついカ〜ッとなってしまって…。
申し訳ありませんでした。
いいじゃないですか!アン・シャーリーのようで!はっ?それより僕は今自分に腹が立ってしょうがない!えっ?こんなに面白い物語を何で僕は今まで出版しなかったんだ!さあ小泉君社に戻ろう。
えっ?すぐ出版の準備に取りかかるんだよ!社長!つまり…出版できるという事?そうだよ。
お母様よかったわね。
ついに本になるのね。
とうとう念願の出版が決まりました。
残すは本の題名です
(小泉)「窓辺の少女」「窓辺に倚る少女」。
う〜ん…なるほど。
「島の少女」は?「曲がり角の先の少女」は?それでしたらやっぱり「窓辺に倚る少女」がいいと思うんです。
題名は「窓辺に倚る少女」に決まりましたが…
小泉さんったら「赤毛のアン」ですって。
「赤毛のアン」…。
「赤毛のアン」?いいじゃない!すばらしいわ。
断然「赤毛のアン」になさいよお母様。
えっ…。
そうだな…。
「アン」を読むのは若い人たちだからね。
美里の感覚の方が案外正しいのかもしれないよ。
そうかもしれないけど…。
「赤毛のアン」にすべきよ。
花子は美里の感覚を信じてみる事に
出来ました。
こうして「赤毛のアン」が誕生したのです。
昭和27年5月10日ついに「赤毛のアン」が出版されました
「プリンス・エドワード島は世界中で一番きれいな所だっていつも聞いていましたから自分がそこに住んでいるところをよく想像していましたけれどまさか本当にそうなるなんて夢にも思わなかったわ」。
「もう驚きもしないしあんた方を気の毒とも思いませんよ」。
「愛すべき懐かしき世界よ。
あなたはなんて美しいのでしょう」。
「小さな手が自分の手に触れた時何か身内の温まるような快いものがマリラの胸に湧き上がった。
多分これまで味わわなかった母性愛であろう」。
(旭)「重なっていく日々は一年と名付けられたネックレスに連ねられた黄金の玉のようにもアンには思われた」。
「その次にすてきな事は美人の腹心の友を持つ事だわ」。
「赤毛のアン」はたちまちベストセラーになりました
(小泉)ああ…村岡先生。
新聞や雑誌から取材の依頼が殺到しています。
後でお時間下さい。
その前に続編の打ち合わせだよ。
てっ!続編?はい。
君が読むのを我慢していた「ANNEofAVONLEA」。
英治さん…。
(小泉)では最後に村岡花子先生にご登壇頂きましょう。
どうしたのかしら。
cantankerous…cantankerous…。
花子さん!はい英治さん。
ねえ辞書はないかしら?えっ!?みんな君のスピーチを待ってるんだよ!ほら急いで!
(拍手)13年前私はミススコットと約束しました。
「平和が訪れた時必ずこの本を翻訳して日本の多くの人に読んでもらいます」と。
けれど日本は大きな曲がり角を曲がり戦争は激しくなる一方でした。
どんなに不安で暗い夜でも必ず明けて朝がやって来ます。
そして曲がり角の先にはきっと一番いいものが待っている。
それは物語の中でアンが教えてくれた事でした。
アンのように勇気を出して歩いていけば曲がり角の先にはきっと…きっと美しい景色が待っています。
(拍手)村岡先生!花子さん!あった。
「意地悪な」「気難しい」か。
「ある気持ちのよい8月の午後の事。
プリンス・エドワード島の一軒の農家の玄関先赤い砂岩の踏み段の上に背の高いほっそりとした少女が座っていた」。

(羽ばたく音)
花子が命懸けで守り愛と友情を込めて翻訳した「赤毛のアン」は昭和から平成を経て今なお多くの人々に読み継がれ希望を与えています
「アンの心ははるか彼方のすばらしい世界へ飛び去っていた」。
「花子とアン」いかがでしたでしょうか?半年間にわたって村岡花子を演じさせて頂きましたが最後までやり遂げる事ができたのはすてきな現場に恵まれたのと皆さんの応援があったからだと思います。
本当にありがとうございました。
私にとって今年は忘れられない一年になりました。
そして一年の最後を締めくくる「紅白歌合戦」紅組司会という大役を全力で務めさせて頂きます。
それでは来年皆さんがすてきな一年を過ごせますように。
ごきげんよう。
さようなら。
「赤毛のアン」の物語が生まれた…2014/12/29(月) 15:35〜17:41
NHK総合1・神戸
「花子とアン」ダイジェスト こぴっと一挙放送!「昭和編」[字]

連続テレビ小説「花子とアン」を第21週から最終週まで「昭和編」をダイジェストでお送りします。

詳細情報
番組内容
(第21週)花子(吉高由里子)がラジオ出演することに。ラジオ好きだった息子・歩(横山歩)を想い、放送に挑む花子。北海道で放送を聞いた妹・もも(土屋太鳳)が花子の前に現れる。(第22週)花子(吉高由里子)と暮らすことになった妹・もも(土屋太鳳)。ももは、結婚し女の子を出産するが、夫が結核になってしまう。看病で東京を離れるももは、娘を花子に託す。
出演者
【出演】吉高由里子,伊原剛志,室井滋,鈴木亮平,賀来賢人,黒木華,土屋太鳳,窪田正孝,松本明子,カンニング竹山,高梨臨,矢本悠馬,金井勇太,横山歩,木村彰吾,堀部圭亮,岩松了,仲間由紀恵
原作・脚本
【原案】村岡恵理,【脚本】中園ミホ
キーワード1
連続テレビ小説
キーワード2
花子とアン

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:4672(0x1240)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: