「成長の限界」を超えるために 今なすべきこと

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名著で考える「人機一体の経営」

『機械との競争』(エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー著)

2013/07/01
平野 雅章=早稲田大学ビジネススクール教授

 本書では、「Race against the Machineに希望はない」と言い切っています。まず心底からそのことを認めて覚悟を決め、伝統産業やサービス業であっても、機械の進歩を享受しようという姿勢に転換することが必要です。

 著者らによる19項目の提言の中で、経営者が直接的に関与可能で、かつ効果も期待できると思われる提言は、(特にホワイトカラー中間層への) 新時代の教育の拡充と起業家精神の育成でしょう。

 社内の制度や風土も、社内外のアイデア交換や起業をしやすくするようなものに変えていく必要があります。同時に、機械の急速な進歩を飼い慣らす、あるいは新技術に興味を持ち技術進歩を進んで受け入れて活用できる姿勢と素養の育成が求められます。

 つまり、「人機一体」を実現できる経営が求められます。

 機械の活用という点では、一般にブルーカラーの職場の方が進んでいます。製造業では、多くの現場労働者が自動機械制御のスキルを身に付け、機械を使いこなしながら仕事をしています。

 これに対してホワイトカラーの職場ではまだまだIT活用は限られているので、底上げが緊急に必要です。すなわち、「Race with the Machine」を可能とする人材の育成です。

市場縮小を防ぐのも経営者の役割

 この競争では、ただ自社のことだけを考え、傍観していると、結果として自社だけが生き残るということは不可能になります。画期的な政策変更を行わなければ、機械によって人間の職は奪われていくので、中産階級が崩壊し、社会全体の需要が減少していきます。

 製品やサービスの種類によっては、短期的需要は持ちこたえるかもしれません。人を機械に置き換えてコストダウンを図ることができるかもしれません。しかし、社会全体の需要が縮小するなかで、自社だけ栄え続けるということはあり得ず、いずれ多くの企業の製品やサービスを買える人が市場からいなくなってしまうのです。

 ですから、これは、社会全体で協力して当たらなければならない種類の競争です。あたかもSF映画の中で、それまで戦っていた敵同士が、突然のエイリアンの出現に一時休戦して、共同してエイリアンに立ち向かうような場面だといえます。

 経営者は、自社の競争優位性の向上だけでなく、広い意味での社会全体の需要をも増加させるように、従業員や協力企業の厚生等にも気を配るバランス感覚が求められます。

 特に技術が絡むことなので、ただ乗りしようと傍観していると、その間に自社の競争力を失います。全ての経営者の積極的な対応が求められる所以です。

平野 雅章(ひらの まさあき)
早稲田大学経営専門職大学院/大学院商学研究科(ビジネススクール)教授
1949年生まれ。東京工業大学・ロンドン大学卒業、東京工業大学大学院修了(工学博士)。専門は、経営情報学・組織工学・社会事業経営学。オックスフォード大学スワイヤ研究員、INSEAD(欧州経営大学院)客員教授などを歴任。現在、東京芸術大学非常勤講師、経営情報学会および Japan Association for Information Systems 会長を兼務