海をバックに群れ飛ぶチョウ。
アサギマダラです。
ただのチョウではありませんよ。
渡り鳥ならぬ「渡りチョウ」なんです。
その旅は壮大。
春は南から北へ秋は北から南へ。
日本列島を縦断して2,000キロもの大移動をするんです。
でも道行きは苦労の連続です。
2,000メートルを超す高い山々。
向かい風に翻弄されてなかなか前へ進めません。
そして最大の難関が海。
休む所のない海の上を懸命に羽ばたいて飛んでいきます。
こんなに苦労してまで一体何のために長い旅をするんでしょうか。
山を越え海を越え。
アサギマダラのはるかな旅に密着します。
(テーマ音楽)鹿児島から南へ380キロ。
5月半ばアサギマダラの大移動を追う旅はここ喜界島から始まりました。
これ見て下さい。
「蝶に超注意!」。
この先行ってみましょう。
ヒゲじい顔負けの標識がお出迎え。
渡りの時期たくさんのアサギマダラがやってくるそうです。
こんにちは。
(子どもたち)こんにちは。
アサギマダラ?早速出会えました。
きれいですね〜!アサギマダラは羽を広げると10センチほど。
アゲハチョウと同じくらいの大きさです。
子どもたちが何のために捕まえているかというとある調査を行っているんです。
羽に場所や日付などの情報を書いて放しチョウがどこまで飛ぶのか調べます。
「マーキング調査」と呼ばれます。
各地で30年以上続くこの調査によって謎に包まれていたアサギマダラの渡りの様子が次第に分かってきました。
そこで私も…。
とった!とった!捕まえました!捕まえたアサギマダラに「ダーウィン」と書きます。
更に地名を表す「キカイ」の文字や日付も記入。
捕まえてね。
行った!喜界島を出発したアサギマダラは北を目指すと考えられます。
誰かが見つけてくれることを祈って見送りました。
5月下旬私たちが目指したのは喜界島から北へ600キロ。
瀬戸内海に浮かぶ大分県の姫島です。
姫島は面積7平方キロメートルの小さな島。
アサギマダラが集まる島として知られています。
朝早く。
海岸にものすごい数のアサギマダラが飛んでいます。
数百匹はいるでしょうか。
ごく狭い一角に固まって飛んでいます。
集まっていたのはスナビキソウという花。
アサギマダラはこの花が大好きなんです。
島の人たちは毎日観察をしています。
その中で九州各地でマークを付けたチョウが見つかったそうです。
残念ながら喜界島からのチョウは見つかりませんでした。
ここでもダーウィンマークを付けて放します。
しかし長い旅には危険が待ち構えています。
スナビキソウの間にアサギマダラの羽が落ちていました。
海岸で群れているアサギマダラはよく目立つので鳥に狙われやすいようです。
こちらのチョウは左右の羽が同じように破れています。
羽を閉じている時鳥にくちばしで挟まれたのかもしれません。
アサギマダラにとって命懸けの旅なんです。
6月1日うれしい知らせが入りました。
姫島で放したチョウが再び見つかったというんです。
その知らせは姫島から東へ320キロ兵庫県の淡路島から届きました。
明石海峡大橋に程近い海岸にスナビキソウが咲いています。
この場所で見つかったそうです。
網を振っているこの人が発見者の吉本佐代子さん。
発見した時の写真を見せてくれました。
「ヒメ」は姫島の意味。
そして「ダーウィン」の文字。
確かに取材班が姫島でマークを付けたうちの1匹です。
吉本さんどうもありがとうございました。
私たちが姫島でマークを付けたのは5月28日。
吉本さんが見つけるわずか4日前のことです。
道のりは320キロ。
このチョウは1日に平均して80キロも飛んだことになります。
これまでの調査によると春は1日に100キロ前後という猛スピードで飛ぶものが多いんです。
この時期日本の上空には西寄りの風がよく吹きます。
アサギマダラはこの風に乗って一気に長い距離を飛んでいるようです。
それにしてもなぜこんな大移動をするんでしょうか。
秘密は温度にあります。
これは早朝の姫島の様子です。
気温は21度ほど。
海岸には無数のアサギマダラが舞っていました。
ところが昼気温が30度近くになるとあれほどたくさんいたチョウの姿が見当たりません。
海岸近くの木陰を探してみると…。
いました。
日陰の草で休んでいます。
暑い時は蜜を吸うのも日陰です。
実はアサギマダラは暑いのが大の苦手。
春北へ向かう旅は暑さから逃れるのが大きな理由だと考えられているんです。
ちょっと待った!来ましたねヒゲじい。
はい。
いくら暑いのが苦手だからってわざわざ2,000キロも旅をしなくたっていいんじゃないですかね?最初から涼しい所にいればいいんですよ。
それがそうもいかないんです。
暑さに加え食べ物も問題なんです。
はあ?どどういうこと?思い出して下さい。
姫島でも淡路島でも集まっていたのはスナビキソウでしたよね。
あ〜そういえば同じ花でしたな。
どうしてこの花ばっかりに来るんですか?蜜なんてどんな花にでもあるでしょうに。
実はスナビキソウに集まるのはほとんどがオス。
後ろ羽にある黒い部分これオスの特徴なんです。
へ〜あそうなんだ。
おお〜こっちは随分たくさん集まってますなぁ。
はい。
これも全部オスなんです。
ほう不思議ですなぁ。
どうしてオスばっかりこんなに集まるんですか?はい。
スナビキソウからオスが吸っているのは蜜だけではありません。
子孫を残すために欠かせない成分を取り込んでいるんです。
子孫を残すための成分?どういうこと?はい。
オスはスナビキソウからその成分を取り込むと体の中でメスの気を引くための物質フェロモンを作ります。
それを使ってメスを誘い子孫を残すんです。
へ〜あそうなんですか。
フェロモンのもととなるこの成分はスナビキソウのほかヨツバヒヨドリやフジバカマなどごく限られた植物だけに含まれています。
へえ〜。
これらの花はそれぞれ限られた場所で限られた時期にしか咲きません。
春も秋もアサギマダラはそうした花を追いかけるために旅をしているとも考えられているんです。
なるほど!子孫を残すための旅だったんですな。
アサギマダラというチョウはチョウどいい温度とチョウどいい花を求めてチョウ距離を移動するということなんですな。
北へ向かうアサギマダラの旅。
6月初めアサギマダラ前線が富士山に到達したという情報が入りました。
富士山の中腹はアサギマダラが多く見られる場所の一つです。
標高1,400メートルほど。
木の上から舞い降りてくるのはアサギマダラです。
ほとんど花のない森の中をふらふらと飛んでいます。
葉に止まったかと思うとすぐにまた別の葉へ。
今度は葉に止まるとおなかを曲げました。
卵です。
メスが産卵していたんです。
メスはオスと共に旅をしながら各地で子孫を残していきます。
卵からかえった幼虫は葉を食べて成長します。
さなぎの表面に羽の模様が透けて見え始めました。
産卵からおよそ1か月。
新たな世代のチョウの誕生です。
アサギマダラの名は浅葱色という色の名前から付けられました。
羽のこの部分の色です。
光を受けると一層輝きます。
命をつなぎながら更に北を目指すアサギマダラ。
旅はまだまだ続きます。
第2章ではアサギマダラの南への旅が始まります。
その旅は更に過酷。
そして最大の難関「海越え」への挑戦に密着します。
アサギマダラのように大移動する生きものはいろいろいます。
こちらはアフリカのオグロヌー。
雨季と乾季の変わり目の時期ワニの潜む危険な川を越え数百キロにも及ぶ大行進をします。
無事に川を渡りきるとヌーは新鮮な草を求めてまっしぐら。
こちらはモンゴルの大草原。
小型のツルアネハヅルが子育てをしています。
秋アネハヅルは越冬のためにモンゴルを飛び立ち4,000キロ離れたインド西部に向かいます。
行く手にはヒマラヤ山脈が立ちはだかります。
ツルたちは上昇気流に乗って数千メートル上空まで舞い上がりヒマラヤを越えていくんです。
海にも大移動をする動物がいます。
ザトウクジラです。
冬メキシコの暖かい海で子育てをしたザトウクジラは春食べ物の豊富な北の海を目指します。
その距離なんと5,000キロ。
アラスカ沖までやってきたザトウクジラたちは集団で魚を追い込み空腹を満たしていきます。
生きものの大移動は季節の変化という地球の仕組みの中で築き上げられた大スペクタクルです。
8月アサギマダラの北への旅はそろそろ終わりです。
多くのアサギマダラが夏を過ごすという福島県の裏磐梯を訪ねました。
アサギマダラは旅の途中で世代交代をします。
今この高原にいるのはほとんどが新しい世代のチョウです。
この時期のお気に入りはヨツバヒヨドリ。
スナビキソウと同じ成分を含んでいます。
ここでも毎年マーキング調査が行われています。
取材班もここで134匹にマーキング。
南へ向かうアサギマダラを追跡します。
9月上旬高原に秋の気配が漂うころ。
アサギマダラの行動に変化が現れます。
多くのチョウが空高くへと舞い上がっていきます。
南への旅が始まったんです。
ほとんど羽ばたかず滑るように飛んでいます。
「滑空」と呼ばれるアサギマダラお得意の飛び方です。
この滑空こそ長距離を飛び続ける旅に欠かせないワザなんです。
風に乗りあっという間に空へと上っていきます。
上昇気流をつかまえたようです。
今度は滑空しながら急降下。
落ちる速度を利用して一気に前に進みます。
上昇気流に乗って高く上がり滑空して前進するアサギマダラ。
羽ばたくエネルギーを最小限にすることで長距離を効率的に移動することができるんです。
秋の深まりとともにアサギマダラは皆裏磐梯から旅立っていきました。
9月下旬京都の中学校から情報が寄せられました。
校庭にアサギマダラがやってくるというんです。
あっ来ました!この花はフジバカマ。
オスが子孫を残すのに欠かせない成分を含んでいます。
4年前校庭に植えたところ毎年秋にアサギマダラがやってくるようになったんだそうです。
今フジバカマは各地で数を減らし絶滅が心配されています。
アサギマダラの渡りは人の力にも支えられているんです。
10月うれしい知らせが相次いで届きました。
京都でダーウィンマークを付けたチョウが高知でそして裏磐梯のチョウが徳島で見つかったんです。
注目すべきはかかった日数。
京都から高知まで370キロを32日。
裏磐梯から徳島までは660キロを46日もかけて移動していました。
春に比べ随分ゆっくりしたペースです。
その理由の一つは風です。
春は西寄りの風に乗って一気に移動することができました。
しかし秋は風向きが安定せず風に乗るのは難しくなります。
自力に頼る過酷な旅です。
そんな南へ向かう旅で最大の難関が海です。
休む所がない海の上をどうやって渡るのか?実はその様子はこれまでほとんど観察されたことがありません。
海を渡る姿を撮影するため訪れたのは愛知県の伊良湖岬。
渡り鳥の通り道として知られ多くの鳥が海を越えていきます。
ここでは海に飛び出していくアサギマダラの姿が度々目撃されているんです。
海を越える様子を詳しく観察するため沖に船を出して待ち構えます。
午前6時過ぎ1匹のアサギマダラが岬の上を舞い始めました。
あっ海に出ていきます。
羽ばたきながらどんどん高度を上げていきます。
上昇気流に乗ったようです。
そして滑空。
巧みに風をとらえる飛行術。
さすがはアサギマダラです。
でもいつもいい風が吹いているとはかぎりません。
風に乗れず海面からわずか数メートルの高さを飛んでいくアサギマダラも多く見かけました。
こうなると頼れるのは自分の力だけ。
短い滑空と羽ばたきを何度も何度も繰り返し懸命に前へ進みます。
飛行の名手アサギマダラといえども海越えは決して簡単なことではないようです。
う〜ん頑張れ頑張れ〜!ヒゲじいも応援したくなりますよね。
はい。
だってこんなに頑張ってるんですから。
でもこんな調子じゃいつか海に落っこっちゃうんじゃないですかねぇ?はい。
実際今回の撮影中にも海に落ちたアサギマダラを見かけました。
あ〜かわいそうに。
でもねヒゲじいそんなに心配しなくても大丈夫。
こちらの映像よ〜く見ていて下さい。
海面に浮いたアサギマダラが…。
あ〜飛んだ!はい。
たとえ海に落ちても海面から舞い上がり飛んでいくことができるんです。
ほ〜う!お〜こりゃすごい!漁師さんのこんな目撃談まであるんですよ。
そりゃびっくりだ。
でしょ?もしかしたらアサギマダラは海面に降りて休憩しながら海を越えるのではないかと考えている専門家もいるんですよ。
う〜んなるほどね。
小さな体で大きな海を越えていくアサギマダラ。
いろんな能力を持ってるんですなぁ。
これがホントのチョウ能力!なんちゃってね。
ハハハ。
頑張ってね〜!11月驚きの情報が飛び込んできました。
裏磐梯で放したダーウィンマークのチョウが私たちの旅の出発点だった喜界島で見つかったというんです。
このチョウは9月3日に裏磐梯を出発。
その後10月19日に徳島県で見つかり11月15日に喜界島で再び発見されました。
全行程1,420キロ。
73日間の壮大な旅です。
私たちは再び喜界島を訪ねました。
島にはアサギマダラがたくさん。
羽が傷んだチョウが目につきます。
過酷な旅を乗り越え文字どおり羽を休めています。
でも油断は禁物。
クモの巣に引っ掛かってしまいました。
懸命に羽ばたき何とか逃れることができました。
森の一角で落ち着きなく葉から葉へ飛び回るメスを見つけました。
メスが去った葉の裏には白い卵。
長い旅を経て産み落とされた小さな命です。
でもアサギマダラの旅はまだ終わりません。
子どもたちがまたマーキングをしています。
アサギマダラの多くは沖縄や台湾もしかすると更に遠くまで渡っていくと考えられています。
今度はどこで見つかるんでしょう。
風に乗りぐんぐん上昇するアサギマダラ。
得意の滑空で宙を舞う姿はまさに大空の旅人です。
列島縦断2,000キロ。
アサギマダラにとって旅は生きることそのものなのです。
2015/01/11(日) 19:30〜20:00
NHK総合1・神戸
ダーウィンが来た!「日本縦断2000キロ!旅するチョウを追え」[字]
日本列島縦断2000km!渡りをするチョウ、アサギマダラ。視聴者からの情報を頼りに、壮大な旅を追跡する。海を越える珍しい姿の撮影にも成功。驚きのワザを解き明かす
詳細情報
番組内容
春は南から北へ、秋は北から南へ。日本列島を縦断して2000kmもの旅をするチョウ、アサギマダラが主人公。羽に印をつけて放す調査により、謎だらけの渡りの様子が次第に分かってきた。今回、取材班もアサギマダラの調査に参加。視聴者からの情報を頼りに、ダーウィンマークをつけたチョウの壮大な旅を追跡する。最大の難所は海。小さなチョウが、休む場所のない海をどうやって越えるのか?驚きのワザを解き明かす。歌:平原綾
出演者
【語り】近田雄一,龍田直樹,豊嶋真千子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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