上方浪曲特選 ▽「おさん茂兵衛」春野恵子、「南部坂雪の別れ」真山一郎 2015.01.09


「上方浪曲特選」ご案内役の芦川淳平です。
私は今NHK大阪ホールの客席に来ています。
ここでNHK東西浪曲大会が開かれてたくさんの浪曲ファンが詰めかけるんですが今日はこの東西浪曲大会の中から真山一郎さんと春野恵子さんの浪曲2席をお楽しみ頂きましょう。
最初の出演は春野恵子さんです。
よく稽古100回舞台1回という言葉があります。
これは1回の舞台を務めるためには100回ぐらい稽古しなさい。
そういう意味もあるんですがもう一つ1回お客様の前で演じるという事は稽古を100回する分ぐらい勉強になる。
それぐらい実践の舞台がいかに得るものが多いかという事なんですね。
英語浪曲をはじめとして年間200回の舞台を務めるという春野恵子さん。
徐々に師匠譲りのネタの中にもこの人らしさが現れてきました。
さあそれではここで春野恵子さんの誰も知らない取って置きのエピソードを一つ。
…と思いましたがちょうどお時間のようでございます。
それでは春野恵子さん今日の一席「おさん茂兵衛」でお楽しみ下さい。
(拍手)京都四条烏丸角引き回した大店は大経師以春の宅。
奥の一間に内儀のさん。
「これお玉。
お玉。
ちょっとここへ来てお座り。
ほかやないけどお前今この部屋でうちの旦はんと何をごちゃごちゃ話をしておいやした。
はて黙っていては分からへんやないか。
お玉お前までがわてを馬鹿にしておいるのやな」。
「いいえめっそうもござりまへん。
ごりょんさんの前どすけどうちの旦はんほんまに嫌らしいお方どす。
私がご当家様にご奉公にあがりましてあれはまだみつき経つや経たん時分からけったいな事ばっかり。
それがこのごろではもう3日にあげず私の部屋へ忍んでお見えになってただいまのように『今晩は遅うなる。
お前は先に寝よ』。
何やら優しゅうおいやしてお出かけの晩はへえ。
もう間違いのう店の衆がみんな寝静まった頃にそ〜っとお帰りやして私が休まして頂いております台所の天窓から忍んでお見えでござります。
このごろでは私があんまり言う事を聞かんので手代の茂兵衛さんとの仲を疑うて何やかやと無理難題。
何にも知らんあのおとなしい茂兵衛さんにもお気の毒。
どうしたらよいかとお玉はもうごりょんさん思案に暮れておりました」。
「まあ…そうやったんか。
うちの旦はんの女癖の悪いのはなもう今日や昨日に始まった事ではないけれどまあ恥も知らんとお前のような小娘にまで。
堪忍しておくれ。
女房のわての不行き届き。
けどようまあ言いにくい事を隠さんとな打ち明けておくれた。
わてによい思案がある。
あのな今晩お前とわての寝間をちょっと取り替えておくれ。
お前安心してこの奥の間でお休み。
私がお前の代わりにその台所の女中部屋に寝てあげよう。
そのうち旦さんが遅うなって何にも知らんとお帰りやしてその台所の天窓からお前の寝間へ忍んでこられたらそこをわてが取って押さえてご意見申そう。
それでもしお聞き入れのない時にはまたその上で分別もあろう。
さっ店の者には悟られぬようお玉しっかりと頼みましたぞえ」。
内儀といえど二十五のまだ分別も若嫁御おさんは玉の不憫さにそっと寝間替え女中部屋慣れぬ木綿の夜着にさえ思い乱れて連れ合いの女狂いも茶屋酒もこれが男の甲斐性じゃと是非なく辛抱したものをこの眼の前でおなごしに手出しするとは何事ぞ妻の身性はどこで立つ言わで叶わぬ今宵こそ思い定めて妻おさん夜寒の襟をかき合わせそっと行灯吹き消せばそらこそ来たぞ旦那様と身を震わせて空寝入り目は開きながらあぁ暗闇の畳のへりを踏まぬようそろりそろりとすり足で立てた屏風に突き当たりはっと驚き膝わなわな杖を取られて足探り手探りながら忍び寄るその手を取って床の中
(拍手)「へえ旦さんお帰りやす。
ええ宵のうちからごりょんさんどこへもお出かけの様子はござりません。
ごりょんさん!ごりょんさ〜ん!旦さんのお帰りどっせ」。
店の間で我が名を呼ぶは確か番頭助右衛門の声。
夫はここと思うたに胸をつかれて内儀のさん。
窓の明かりに透かしてみれば…。
「あ…お前は茂兵衛!」。
「いやお玉でのうてごりょんさん!こりゃまあどうした!間違いか!」。
かねてお玉の誘いの水も濡れちゃ勤めの傷となる奉公大事と今日までははやり立つ男心を押し鎮めじっと我慢をしてきたものを女房おさんを袖にして旦那以春の目に余る今日此の頃のご乱行見るに見かねてええままよ!もとから嫌いなお玉じゃなしこの身一つが不義者と朋輩衆にそしられて永の暇を頂くこともただ何事も御家の為と覚悟の上で忍んだものをいかなる神のいたずらか玉にはあらでお主の妻申し開きも身の証しも立つるによしないこの場の始末。
内儀の不在を怪しんで廊下間近や店の間から…。
「おさん様〜」。
次第次第に近づいてくる奉公人たちの声出るに出られぬ女中部屋。
不義は天下のご法度なれば心もそらに2人は手に手を取って裏木戸から心も闇に消えてゆく。
おさん茂兵衛は夢にさえ恋せぬ中の恋となり思いがけない旅に出るはたの見る目は夫婦でも夫婦にあらでお尋ね者互いの心恥ずかしく顔見合わせては頬赤らめつ野辺の草木のそよぎにもさては追手か役人かと互いの心びくびくと涙に濡らす草枕京都いでてはるばると泊まり重ねてたどり着いたはここは丹後の与謝の浦とある漁師の離れ家に浮世を偲ぶ侘び住まい「ごりょんさんここにおいででござりましたか。
またしてもこのようなさみしい浜辺で。
都の事を考えておいでたのでござりますか」。
「茂兵衛殿。
もう都の事は言うておくれな。
思い出すのは悔しい事ばっかり。
15の年に嫁にいてから10年間以春殿の女狂いに悩まされあげくの果てがこの始末。
何の罪もないお前にまで不自由な旅から旅。
堪忍しておくれ。
そやけどわてはお前と旅をして初めてまことの女の情知らされたように思っている。
いいや隠さいでもよい。
もうこの思いはとうにお前には通じていよう。
そやけどお前はいつまで経ってもこのわてをその胸に抱いてくれようとはせん。
いいや今更どうあがいてみてもあの晩の事2人の仲申し開きの聞かれるようなそんな甘い世間と思うてか。
茂兵衛殿わては今更言い訳をして大経師に戻りたいなどとはつゆさら思わぬ。
残された命たとえつかの間でも女子の幸せに生きてみたい。
身も心もお前に抱かれまことの不義者になりたい」。
「ごりょんさんその思いはこの茂兵衛とて同じ事でござりました。
子飼いの時分からなんとあでやかなお方じゃとお慕い申したあなた様。
どのような運命のいたずらか顔突き合わせたこの暮らし明日をも知れぬ2人の運命。
どうせ言い訳が聞かれぬのならせめてこの世の名残この美しいお方を我が身の胸にぐっと力いっぱい抱き締めてその上で2人が捕らえられ槍の仕置きとやらになりましても何の後悔する事があろう。
思うた事は2遍や3遍ではござりまへなんだ」。
「茂兵衛殿。
お前がそんな思いなら何の遠慮がいろう。
わての名をおさんと呼んでおくれ。
なっ?わての名をおさんと呼んで…」。
「へえ。
そんならあの…もったいない事ではござりまするがあの…もし…おさん!いや〜様…。
これが言えたら言えますくらいなら…」。
初めて知ったる真の恋さてそれからの二人は再び京に舞い戻り悲しみ深く泣き沈む親のもとへと今生の別れを告げに訪ねゆく皆様ご存じ溝口健二監督の近松物語にも描かれたおさん茂兵衛の物語はまずはこれまで
(拍手)春野恵子さん「おさん茂兵衛」の一席でした。
春野百合子さんの名人芸に憧れて浪曲の世界へ飛び込んだ恵子さんが自らの芸風を築いていくための果てしない道はまだまだ続いていく事でしょう。
代わって真山一郎さんの登場です。
この人も先代一郎さんに憧れて「河内音頭」から浪曲に入門しました。
師の芸風に忠実に演歌浪曲を語り続けて30年。
今度はその二代目の芸風に憧れた若い新人も誕生しました。
一つの芸が人の人生を左右するほど浪曲にはそら恐ろしい力があるんですね。
今日の演目は「忠臣蔵」の名作「南部坂雪の別れ」の一席。
真山一郎さんの舞台です。
どうぞ。
(柝の音)
(拍手)せまる大事を討ち入りを胸にかくして胸にかくして渋蛇の目男大石心の中を知るは粉雪南部坂
(拍手)「内蔵助よく来てくれました。
この大雪の中さぞ寒かった事でしょう。
何のおもてなしもできませぬが一つ盃を受けて下さい。
日頃のご苦労に報いる瑤泉院の志です」。
「御後室様よりのお盃内蔵助ありがたく頂戴を致します」。
「内蔵助どうしたのです?」。
「いや…はい。
お情け籠もるこのお盃ごもったいなく思わずうれし涙がこぼれましてございます!」。
押し頂いたお盃これがこの世の別れになるかと思えばたまらない落ちる涙を盃をぐっと飲みほす大石の胸に切ない血がみえる世が世であれば浅野家の奥方様ともあろう身が人の運命と言いながらこの世思い切髪の花の姿がいたましいせめて一言この人だけに今宵にせまる討ち入りをつげて行きたい胸のうち知るや知らぬやお庭先枝をはなれてさらさらと雪が落ちます松の雪「御後室様は知りたがっている。
言わずと知れた復讐の事を。
そっとひと言知らせてあげたらどんなにお喜びなさるだろう。
だが待て。
先ほどから酔うたふりをしてみているとこの内蔵助にじっと目をつけている一人の女中。
油断のならぬあの目つき御後室様にはすまないがうかと大事は漏らされぬ」。
「内蔵助何をそう考えているのです?遠慮せんともう少し飲んで下さい」。
「あ…はい。
もうたくさん頂戴を致しましてこのとおりすっかり酔いが回ってございます」。
「これほどのお酒で酔いの回るそなたではないでしょう。
今日は久しぶりに訪ねてくれた内蔵助とゆっくり話がしたい。
みんなしばらく座を外して下さい」。
「内蔵助これで気を遣う者は誰もいません。
さっ何かよい土産話でも聞かせて頂きましょう」。
「御後室様に申し上げるような土産話とてないこの内蔵助。
今日お伺いをしましたの実は御後室様に永のお暇が頂きたく」。
「何?永の暇をくれ?内蔵助それは一体どういう事なのです」。
「はい。
この度江戸表の用事も滞りなく終わりましたのでこれからまた山科へ戻りまして武士を捨てて町人になりいずれ小間物屋でも始める考えでございます」。
「ええ?内蔵助武士を捨てて町人になり小間物屋を始めるというのですか?うっうっうっ…。
そなたは何でそのような冗談を言うのです」。
「いいえ冗談ではありません。
武士の世界がつくづく嫌になったこの内蔵助は町人になって気楽な生活が送りたいのでございます。
遠く離れておりましては二度とお会いする事もないかと思われます。
何とぞ御身大切にお暮らし下さいませ」。
「それでは内蔵助殿のご無念はどうなるのです?そなたには敵吉良上野を討つ気はさらにないとでもいうのですか?」。
「いかにもこの内蔵助にはあだ討つ心は毛頭ございません。
あだ討つより好きな女の膝枕浮世を面白おかしゅう暮らすのがこの身にとって何よりの楽しみ」。
「そのような事はないはずです。
酒に酔いしれ女狂いをしているのもそれはみんな敵を欺く手段でしょ?この瑤泉院に何も隠す事はないではないか!声に出して言えなければこの耳元でそっと聞かせて下さい。
そなたの本心を」。
(拍手)花の瞳に一杯のこぼれ落ちそなお涙をみせてつめよる御後室何でたまろう内蔵助実はこれこれこうですと打ち明けようか身の大事いやいやならぬそりゃできぬ壁に耳あり障子に目漏れた秘密が敵方の耳に入ったその時は一年九ヶ月身を削る同志の苦労が水の泡
(拍手)「御後室様フフフッ内蔵助は…内蔵助はそのような忠義むるいの男ではございません」。
「それではやっぱりそなたにはあだ討つ心はなかったのか?」。
「あだ討つ心が全くなかった訳ではございません。
この内蔵助も一度はその事を考えてはみましたが上野介ももはや寄る年波。
あえて手を下さぬとも時を待てば必ず近いうちに死にましょう。
人騒がせなあだ討ちをするよりも浪人をして初めて知った女の味いやまた酒の味この世の極楽を味わうため内蔵助はフフフッ命が惜しゅうございます」。
「ええ…もうそのような事は聞きとうない。
そなたが敵吉良上野を討って殿のご無念晴らしをしてくれるのをただ一つの楽しみとしてこの瑤泉院は今日まで生きてきたのです。
それにつけてもお気の毒なのはお殿様。
お家盛んであったそのころに殿はそなたの事をお口癖のように言っておられました。
5万3,000石の浅野家で過ぎた家来は大石である。
内蔵助は我が家の宝物だと来る人々にご自慢なさっておられました。
お江戸お屋敷におられる時殿はそなたの事をお口になさらぬ日はなかったのです。
今頃国の赤穂で大石はどうしているのであろう。
人一倍寒がり屋の内蔵助。
風邪でもひいてくれなければよいがと主が家来の身の上をご案じなされたお心が今にして思えばお痛ましゅうてなりません」。
「不忠者の内蔵助何と申し上げようもございません」。
「まだそれだけではありません。
松の廊下のご刃傷殿はどんなにご無念であった事でしょう。
田村屋敷でご切腹のその時に弟大学殿には何のご遺言もなく片岡もってその方へ余は無念なるぞのお言葉にご辞世書かれし短冊や。
お肉通しの短刀まで形見に下されし殿のご胸中そのお心をも打ち忘れ遊女に憂き身をやつすとは見下げ果てたる人でなし犬侍の顔などはええいもう見とうない!」。
(拍手)積もる恨みをご無念を泣いて震える泣いて震える花のあま明日の嬉しい涙の便り知るは粉雪南部坂
(拍手)たった一言言えぬまま別れを告げた内蔵助表に出れば夕闇の空より落ちる粉雪が心に重く身に重く渋蛇の傘に降りかかるお怒り悲しい後ろ髪ひかれる思い大石の張り裂けそうな胸のうち流す男の血の涙
(拍手)泣けば雪さえ数を増し別れて帰る人影を闇に包んで降りしきる赤穂浪士の討ち入りを天も泣いてか音もなく雪にうもれる南部坂雪にうもれる南部坂
(拍手)2015/01/09(金) 15:15〜16:00
NHK総合1・神戸
上方浪曲特選 ▽「おさん茂兵衛」春野恵子、「南部坂雪の別れ」真山一郎[字]

「おさん茂兵衛」春野恵子(曲師:一風亭初月)、「南部坂雪の別れ」真山一郎▽NHK東西浪曲大会(26年11月29日)で収録▽ご案内:芦川淳平(浪曲評論家)

詳細情報
番組内容
平成26年11月29日にNHK大阪ホールで開催した「NHK東西浪曲大会」の舞台から、春野恵子の「おさん茂兵衛」(曲師:一風亭初月)と真山一郎の「南部坂雪の別れ」をお届けする。▽ご案内:芦川淳平(浪曲評論家)
出演者
【浪曲師】春野恵子,真山一郎,【曲師】一風亭初月,【ご案内】芦川淳平
キーワード1
浪曲
キーワード2
落語

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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