「自分の頭で考え、自分の言葉で語ろうとするほど疎外されるこの社会っていったい何なんですか?」
ちょっと個人的に興味を持った話題を取り上げてみたい。
成人の日の朝日新聞(1月12日)の社説は、「成人の日に考える」と題したものだった。こんな指摘をしている。
「就職活動シーズンに街にあふれる黒のリクルートスーツ」
「『個性を大切に』と言ってきたはずの学校や企業、社会はなぜ、この真っ黒な世界をよしとしているのだろうか」
「黒のリクルートスーツを着ずに就活にのぞむ学生は、『異物』扱いされるかもしれない」
就職活動のリクルートスーツは、とにかく黒一色とのこと。
話は少し飛ぶが、その前日の日曜日。子供が所属している少年野球の練習に顔を出した。
その日、野球の練習に参加していた小学生は13人。何気なく、子供たちのグローブの色をチェックしてみると、そのうち10人が黒色のグローブをしていたのである。あとの3人は、茶色、黄色、青色。
たまたまうちのチームだけなのかもしれないが、理由を聞いてもはっきりしない。とにかく野球少年たちは何故か黒いグローブを選んでいる。
そういえば、今やプロ野球のユニフォームも、黒色ベースのチームが多くなっている。
ジャイアンツ、タイガース、ホークス、マリーンズ、ファイターズの5チームが完全に黒色ベースのチームカラー。
青色がチームカラーのドラゴンズ、スワローズ、バッファローズ、ライオンズの4チームも、以前に比べて色は紺色というか、かなり黒色に近い青になっている。
ベイスターズは、一時期は濃い紺色だったが、親会社が変わったためか、青みが増した。あとは、カープの赤色とイーグルスのエンジ色。実に、12チーム中、9チームが黒系のチームカラーである。
なぜ黒系が増えているかは、分からないけど…。
話を就職活動に戻すと、就職四季報プラスワン編集長の田宮寛之さんは、今、就職活動の学生の9割以上が黒系のスーツを着ていると指摘。サイト『東洋経済オンライン』(2014年10月28日)より。そして「リクルートスーツは黒系を選べ!」としたうえで、その理由について次のように語っている。
「黒の無地のスーツで行けば、服装に関してリスクはありません」
「服装などの外見で目立つのではなくて、中身で目立つべきです」
確かに無難なアドバイスなのだろう。でも、である。服装で「リスク」を避ける人間が、どこまで中身で勝負できるのか。そして採用する側も中身をちゃんと判断しているのだろうか。
上記の朝日新聞(1月12日)の社説には、政治的な話題に触れて内定を取り消された21歳の専門学生の「菜々子さん」の思いが書かれている。
「おかしいと思っても、気づかないふりをしないと生かしてくれない社会って何だ。自分の頭で考え、自分の言葉で語ろうとするほど疎外されるこの社会っていったい何なんですか?」
ズシリと響く言葉である。
今年の成人たちが生まれたのは、20年前。地下鉄サリン事件が起きた都市である。朝日新聞(1月11日)には、元編集委員の降幡賢一さんがオウム真理教についての次のように書いている。
「自立を放棄し、疑問を持つことは自らの汚れだと思考を停止する。その支配と被支配の構造の中で、信者たちは『上官の命令は天皇の命令』と絶対服従を強いられた旧軍隊の兵士たちと同じようにして、暴走を続けたのだった」
先の菜々子さんの思いと、どこか重なっているような気がする。
フランスの寓話『茶色の朝』(著・フランク・バヴロフ)を思い出す。ある朝、みんな茶色の服を着ていた。突然、茶色(ファシズム)の時代がやってきたという話だった。
そんな茶色の時代は、日本にもあった。
東京新聞(1月4日)には、『覆う空気』という連載特集が載っていて、その日のタイトルは『カーキ色の街』というもの。
「陸軍が国防色としたカーキ色の国民服が法令で定められたのは40年。街は次第に一色に染まった」
「『おしゃれ』は異を唱えるものとして、目の敵にされた」
翌日(1月5日)の東京新聞のスポーツ面には、『希望のプレーボール』という特集が載っている。1943年のことが書かれている。
「泥沼化する戦争の余波は容赦なく球界に及んだ」
「娯楽を許さない風潮が強まる中、職業野球は必死に存続を図った。戦闘帽と軍服のような国防色(カーキ色)を用いたユニホームを着用」
まさに街も野球の世界も、カーキ色で染められていた時代があったのである。
それから70年余りが過ぎ、今度は街や野球の世界は黒色で染められかけている。カーキ色や茶色ではないのがせめてもの救いなのだろうか。
どんな事情にせよ黒色しか選べない風潮には「違和感」を抱いてしまう。いつか振り返った時、「黒色の時代」と呼ばれないよう、せめて着る服やグローブの色くらいは自分の好みで選んでおきたい。そう思う。
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