プロフェッショナル 仕事の流儀「ウイルス学者・高田礼人」 2015.01.09


アフリカ南部ザンビア。
防護服に身を包んだ日本人科学者が決死の調査に臨もうとしていた。
野生のコウモリを捕獲し今世界を恐怖に陥れるウイルスの感染ルートを突き止める。
時に…人類が遭遇した史上最も危険なウイルスだ。
根本的な治療薬はなく…ウイルスが寄生する生物「自然宿主」はいまだ不明。
謎に満ちた強敵に男は命を賭して挑み続けてきた。
権威ある科学雑誌「Nature」からも取材が舞い込む。
エボラウイルス研究の世界的第一人者。
エボラの治療に劇的な効果をもたらす夢の新薬誕生へ。
世紀の発見その瞬間をカメラが捉えた。

(主題歌)アフリカの風土病としか見なされていなかったエボラウイルスに田が着目したのは20年前。
ウイルスの感染メカニズムを世界で初めて解明した。
薬を製品化しようにも見向きもされず黙々と研究を続ける日々。
(サイレン)感染は欧米にも飛び火。
ウイルスの圧倒的な破壊力に無力感さえ覚えた。
新たな国へエボラ感染拡大の疑い。
緊迫の現場で試される気骨の科学者に密着!ウイルス学者田礼人の研究拠点は北海道大学にある。
(田)おはよう。
おはようございます。
あだ名は「お侍先生」。
ボサボサに伸びた髪とヒゲがそのゆえんだ。
おちゃめな性格。
ウイルス研究の第一人者にはとても見えない。
だがその研究は世界の最先端を行く。
専門はインフルエンザやエボラ出血熱など動物を介して人に感染するウイルス。
感染症のコントロールに必要な感染ルートの解明から治療薬の開発まで圧倒的な実績を残してきた。
防護服を身にまとい向かったのは研究棟の心臓部。
(アラーム音)ここは日本で最も厳しいセーフティーレベルを満たした実験室…毒性の極めて高いウイルスを扱う。
その一室で田は1年前から極秘の研究を進めてきた。
それはエボラウイルスに効くかつてない治療薬の開発。
核となるのはウイルスが体内に侵入した際感染を防ぐためにつくり出される抗体という物質だ。
田は数億の中からあるかどうかも分からない「究極の抗体」を探し出そうとしていた。
それは5つあるエボラウイルスの種類全てに効力のある抗体。
現在は1つの種類に効く抗体しか見つかっていないが5つ全てに効けばかつてない治療薬となる。
田はこれまでに得た知見から究極の抗体が見つけやすくなる手法を求めて試行錯誤していた。
この日待望の実験結果がもたらされた。
ついに5つの種類全てに効く抗体が見つかったかもしれないという。
(笑い声)これから2週間かけて抗体の効力を実証していく。
良い結果が得られれば誰も成し遂げていない世界的な発見となる。
だが田はいつもと変わらず落ち着き払っていた。
科学者として貫く流儀がある。
田のもとには世界各国からさまざまなウイルスの調査依頼が入る。
今回はインドネシア。
新型のインフルエンザが発生した疑いがあり力を貸してほしいという。
インドネシアでは近年鳥インフルエンザの人への感染が多発。
多数の死者が出ている。
田が向かったのはニワトリを生きたまま売る市場。
この市場に新型の鳥インフルエンザウイルスが流入していないか。
ニワトリの気管から粘液を採る。
続いてフンも採取。
すぐさま100羽を超えるニワトリの検査に着手した。
30分後インフルエンザの陽性反応が出た。
それが新型ウイルスかどうか更に精密な検査をして調べる。
世界的権威でありながら求められればどこへでも赴く。
気付けば田の周りには若手研究者の人垣ができていた。
新型の鳥インフルエンザウイルスは検出されなかった。
現場に足を運び誰かのために仕事をなす。
それが田の日常だ。
ウイルスを追って世界を飛び回っている田さん。
いつも持ち歩くかばんを見せてもらった。
緊急要請に応じてどこへでも駆けつけられるよう必要なものが全て入っている。
パスポート。
そしてアメリカドル。
着替えはパンツと靴下一そろえのみ。
足りなくなれば洗うという。
この体温計は最先端のウイルス研究を行う機関から特別に配布されたものだ。
重宝するのはやっぱり日本人ならではのもの。
田はアフリカ南部のザンビア共和国に入った。
エボラウイルスが寄生する生物自然宿主を突き止めるためだ。
田は渡りコウモリが感染の大本だと疑いこの地で8年前から調査してきた。
自然宿主が判明すれば接触を避けるよう注意喚起できエボラ対策は大きく前進する。
地元の野生動物管理局の助けを借りて捕獲を試みる。
多分そっちへ行くよ。
ほっ!Oh!Yes!4時間かけて40匹のコウモリを捕獲した。
2日後。
地元の人ですらあまり立ち入らないという洞窟に入る。
ここにも自然宿主と疑われるコウモリの一種が生息しているという。
田はこれまでの調査でコウモリがエボラウイルスに対する抗体を持っている事を突き止めた。
それはコウモリが自然宿主である可能性を示す。
今回の調査で更に体内からウイルスが発見できれば決定的な証拠となる。
捕獲したコウモリから血液を採取する。
ウイルスは見つかるか。
だが今回もエボラウイルスは検出されなかった。
なかなか…なかなか…帰国した田は研究室に一人籠もっていた。
8年分のデータを洗い出したところ新たな事実が浮かび上がってきたという。
それは人とコウモリの奇妙な一致。
例えば一昨年捕獲したコウモリからはそれまでと比べエボラウイルス5つのうちザイール種の抗体が多く検出された。
すると去年人にもザイール種が大流行。
多数の死者を出した。
遡って調べても人とコウモリが感染したウイルスの種類はほぼ一致していた。
コウモリを調査し続ければ人に流行するエボラの種類を予測できる可能性がある。
8年間地道に続けてきた研究が導き出した新たな真実だった。
田さんは妻詠子さんと二人暮らし。
帰宅は毎晩11時過ぎ。
晩酌が唯一の心安らぐ時間だ。
(田)そうですね。
お疲れ〜。
えぃ〜っす。
マジで?まだ見てない。
おもむろに見始めたのは学生時代打ち込んだ剣道の試合。
世界の第一線でエボラと対峙してきた田さん。
今人生最大の試練のただ中にいる。
田さんは1968年東京生まれ。
幼い頃から毎年心待ちにする時間があった。
それは北海道の祖母の家で過ごす夏休み。
生き物が大好きだった田さんは北海道大学獣医学部に進学した。
その後アメリカで研究員をしていた27歳の時。
ウイルス学者河岡義裕さんから人生を決める言葉をかけられる。
エボラウイルスが発見されたのは1976年。
僅か20年前の事だった。
極めて高い致死率にもかかわらず単なるアフリカの風土病と見なされ研究する科学者はほとんどいなかった。
だが田さんは二つ返事で引き受けた。
しかしその研究を始めるには大きな障害があった。
エボラウイルスは猛毒なため「BSL4」という世界最高のセーフティーレベルの実験室でしか扱う事ができない。
だがこの実験室を使わせてもらうだけの実績が駆け出しの田さんにはなかった。
「BSL4を使わずともエボラウイルスを研究できないか」。
田さんは前代未聞の手法に取り組む。
毒性の弱い別のウイルスにエボラウイルスの成分を置き換える事で毒性を弱めたいわば「偽エボラ」を作る。
1年がかりで実験に成功。
この世界にのめり込んでいく。
帰国した田さんは36歳の若さで母校の教授に就任。
偽エボラで研究を重ねエボラウイルスに効く画期的な抗体を探し出した。
治療薬の完成まであと一歩のところまでこぎ着けた。
だが薬の実用化に名乗りをあげる製薬会社は一つもなかった。
それでも田さんは諦めなかった。
アメリカに通っては日本にはないBSL4を借り動物を使っての実証試験を繰り返した。
ついに5年後世界で初めて猿での実験に成功。
抗体の効力が確かな事を証明した。
しかしそれでも世界の製薬会社からのオファーはなかった。
「エボラは所詮アフリカの風土病」。
誰からも相手にされなかった。
そんな中去年エボラ出血熱がアウトブレイク。
感染者1万9,000人死者7,000人を超える未曽有の惨事となった。
悲劇を招いた最大の要因は根本的な治療薬の欠如。
田さんはやりきれない気持ちでいっぱいだった。
現地では医療に不信感を覚えた患者が隔離病棟から逃げ出す事態となっていた。
今こそ真価が問われる時。
田さんは夢の治療薬開発に持てる力の全てを注ぎ込んでいく。
エボラウイルス5つの種類全てに効く可能性があるあの抗体を発見してから2週間。
結果が出る日を迎えた。
光って見えるのがウイルスに感染している細胞。
抗体を入れるとウイルスは劇的に消滅した。
スーダン種もほぼ消滅。
全てのエボラウイルスの感染を99%の確率で抑える驚異的な威力を実証。
世界で初めての快挙だった。
この抗体を使って製薬会社と製品化を目指す事が決まった。
20年の研究が初めて実を結ぼうとしていた。
(一同)お疲れさまで〜す!この日政府からの緊急要請を受けた田はザンビアに入った。
この1年で4度目の訪問だ。
向かったのはエボラ対策の拠点の一つとなっている最高学府ザンビア大学。
田は8年前からこの大学に日本人研究者を派遣技術指導を行ってきた。
エボラへの感染が疑われる患者が出た場合どのようにして陽性陰性の診断を下すか。
それを田たちが請け負う事となった。
この時点でザンビアでは一人もエボラ感染者は出ていなかった。
だが北隣のコンゴはエボラ出血熱が最初に発生した震源地。
いつ国境を越えてウイルスが流入してもおかしくない。
エボラ対策の要は的確な診断による早期発見。
田はザンビアの人々も診断を行えるよう体制を整える必要があると考えていた。
診断を現地の研究者に任せるにはある致命的な問題があった。
技術を有する人がまだ一人もいないのだ。
その中で田が期待を寄せる研究者がいた。
2年前に来日し田の下で5か月間エボラの研究を行い帰国後も一人学び続けていた。
休日のこの日国を揺るがす事態が起きた。
南部の街でエボラ感染が疑われる患者が出たという。
エボラが蔓延するコンゴから国境を越えてきたトラック運転手が謎の死を遂げた。
患者の血液は1時間後に届く。
田はカテンディも診断に加わるよう指示した。
午後3時患者の血液が届いた。
自らも感染するリスクのある危険な作業に取りかかった。
だが思わぬ問題が発生した。
死後1日たっての血液採取だったため状態が悪く診断が極めて難しい。
血液を遠心分離器にかけ成分を慎重に分離させる。
そして薬液と混ぜて毒性をなくし安全に診断ができるようにしていく。
ここからが血液を診断できる状態にもっていくための重要な局面。
田はこの仕事をカテンディに任せる事にした。
カテンディにとっては初めての経験。
マニュアルが手放せない。
重圧からか手が止まってしまった。
見かねた日本人研究員が作業を代わる。
だが田はカテンディにもう一度自分でやるよう促した。
その手元はおぼつかない。
しかし田は手を貸さない。
診断結果を下す時が来た。
患者はエボラに感染していないと思われた。
だが血液の状態が悪かったため田はもう一度検査を行う事にした。
田はその重要な任務をカテンディに委ねた。
エボラとの闘いはこれから何十年にもわたって続く。
伝えたい科学者としての矜持があった。
この夜カテンディは自らの力で作業をやり通した。
翌朝。
診断結果を確定させる。
あぁ〜。
結果は陰性。
エボラウイルスの感染はなかった。

(主題歌)一月後。
田は更なる研究に乗り出していた。
エボラウイルスに効く治療薬をより大量により安く作るための物質をゼロから探す。
ウイルス学者田礼人。
まだ見ぬ真実を追って今日も闘い続ける。
どんな仕事でもそれは自分以外の誰かのために役に立っているものだと思うんですよ。
だからそのために自分のできる事とか自分のオリジナリティーをちゃんと活用している人だと思います。
2015/01/09(金) 00:40〜01:30
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「ウイルス学者・高田礼人」[解][字][再]

世界を揺るがす「アウトブレイク」となったエボラウイルスに挑み続けてきた日本人科学者に密着。史上初となる夢の新薬誕生へ、「世紀の発見」の瞬間をカメラがとらえた!

詳細情報
番組内容
世界を揺るがす「アウトブレイク」となったエボラウイルスに挑み続けてきた科学者・高田礼人に密着。治療に劇的な効果をもたらす夢の新薬誕生へ、「世紀の発見」の瞬間をカメラがとらえた!謎に包まれた感染ルートを突き止めるため単身アフリカで調査。野生コウモリの血液検査から新事実が浮かび上がってきた!エボラ感染が拡大するなか「人類の脅威」と化したウイルスとの戦いの最前線に立つウイルス学者の知られざる記録。
出演者
【出演】北海道大学教授…高田礼人,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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