イルカを思わせる水の中のダンス。
自由自在な水との戯れ。
気持ちいい。
水の生物になった気分ですね。
世界トップクラスのフリーダイバーです。
空気タンクをつけずに海に潜り深さを競う…自己ベストは世界歴代3位となる水深90m。
数々の国際大会で優勝。
華々しい活躍を収めてきました。
岡本選手の人生を変えたのは20代の壮絶な体験。
地下鉄サリン事件で命の危険にさらされました。
悔いなく生きるために飛び込んだフリーダイビングの世界。
しかし経験した事のない深さに挑む事は危険と隣り合わせ。
それでも己を鍛えるために記録に挑戦し続けてきました。
危険の多いスポーツを好きになってしまったという。
しょうがない。
運命なので。
それを乗り越えた時の…この冬フリーダイビングの聖地バハマの国際大会に参戦。
自己ベスト更に世界記録の更新に挑みました。
強く生きるために潜り続ける岡本美鈴選手。
その飽くなき戦いを見つめました。
岡本選手は毎週末フリーダイビング仲間と一緒に練習を積んでいます。
15mです。
岡本選手は仲間たちの指導役です。
この日はフリーダイビングを始めたばかりの女性たちと潜ります。
ロープを伝って水深20mへ。
浮力に任せて水面へ戻ります。
上に向かってくる時に脱力するんですけど天に昇る気持ち。
何か水に溶ける感じがしますその時は。
(笑い声)
(拍手)ヤッタ〜!
(拍手)イエ〜イ!ここで珍客が。
2匹いる。
真鶴は沖合に出るとすぐに深海が広がる格好のダイビングスポットです。
空を飛ぶような浮遊感。
フリーダイビングの大きな魅力です。
岡本選手はインストラクターとしてヨガを教えながら一日2時間プールでトレーニングに励みます。
ヨーグルトですね。
これはアサイージュース。
アサイー好きで。
朝食は果物やヨーグルトが中心。
ビタミンや糖分をたっぷりとります。
見た目悪いけど。
ただし夜食べる量は人並み以上です。
潜る日の前は高校生の時みたいにカレーライス2杯お代わりしたりとか。
ものすごいいっぱい食べてますね。
フフフッ。
部屋にはイルカにまつわる物がいっぱい。
フリーダイバー岡本選手にとってしなやかでスムーズなイルカの泳ぎは憧れです。
顎をこうやって振ってこう…回ろ…回ろう回ろうって言うんですよ。
でバク転するみたいにこう…こうやって回って…何か尊敬するところもありますよね。
岡本選手は3年前世界選手権で銅メダルを獲得。
日本人初の快挙を成し遂げました。
(歓声)自己ベストは世界歴代3位の水深90m。
世界記録にあと11mまで迫りました。
岡本選手が潜る水深90mの世界。
息を止めたまま3分間潜り続けます。
海の中は水圧との闘い。
10mを過ぎるとサッカーボールがへこむほどの水圧で肺が圧迫されて小さくなります。
更に潜っていくと次第に暗くなっていきます。
音も聞こえません。
およそ1分半で水深90mに到達。
ロープに設置されたプレートから証拠となるタグを取って引き返します。
問題は帰りの90m。
肺の中の酸素は残り僅か。
酸欠で意識を失うブラックアウトのリスクが高まります。
酸欠の恐怖。
頼れるのは自分の肉体だけ。
最後に必ず言わなければならない言葉があります。
意識がしっかりしていなければ記録は認められないのです。
「I’mOK!」みたいな感じですよね。
もう…「どうだ!」みたいな。
岡本選手はなぜこれほど深く潜る事ができるのか。
東京海洋大学潜水生理学の実験室で探りました。
このベッドにこう…。
深く潜り続けるには息ができないストレスや恐怖感によるパニックに陥らない事が大切です。
岡本選手の心拍数は1分間に60前後。
息を止め続けて変化を調べました。
スタート。
通常呼吸を止めるとストレスから心拍数が上がります。
ところが4分が経過しても心拍数は上がりません。
寝ちゃった?極限の状況でも平静さを保つ力。
これが記録につながるのです。
自律神経と呼ばれてる自分で律すると書く神経なので…岡本選手はある特別な大会を目指していました。
1か月後中米バハマで開かれる世界最高峰の大会。
自己ベストの更新が目標です。
フリーダイビングは急に深くまで潜ると水圧が体に深刻な影響を及ぼします。
そのため1〜2か月かけて徐々に潜る深さを伸ばしていきます。
この日は自己ベストより25m浅い65mを潜ります。
岡本選手は肺に違和感を覚えていました。
この日は1か月ぶりの本格的な練習。
肺が水圧に柔軟に対応できていないと感じたのです。
岡本選手は肺を慣れさせるため水深20mまでゆっくりと潜る練習を繰り返しました。
水圧に耐える体作りは自宅でも行います。
息を吐きながらおなかを大きく引っ込め一番深い場所での状態を再現します。
岡本選手が目指すのは横隔膜を引き上げ肺を小さくできる体。
あらかじめ肺の中の圧力を高めて水圧に潰されないようにします。
鍛錬を積まなければ手に入らない肉体。
バハマに向け更に磨きをかけていました。
自己ベスト更新を目指す岡本選手。
泳ぎ方も改良する事にしました。
酸素の消費量を減らしたフォームです。
速く泳ごうとすると脚に力を入れてフィンを蹴るので疲労がたまりやすくなります。
フィンに頼らず全身を使って泳ぐように指示されました。
フィンを外すとキックをしてもあまり進まないので全身を使って泳ぐ意識が高まります。
この結果体がしなるような動きになるのです。
以前の岡本選手のフォームです。
脚で蹴る意識が強く膝が曲がっています。
これでは太ももに水の抵抗を受けてしまいます。
現在のフォームは全身を柔らかくくねらせて水の抵抗を減らしています。
膝はまっすぐです。
バハマには最高の泳ぎで挑みたい。
常に進歩を目指してダイビングを続ける。
その原点はある壮絶な体験でした。
23歳の岡本選手。
仕事一筋で家と会社を往復する毎日でした。
そんなある日。
(サイレン)地下鉄サリン事件に遭遇。
出勤途中サリンがまかれた列車に乗り合わせたのです。
初めて直面した死の恐怖。
入院するほどの被害には遭わなかったものの今も恐怖がふとよみがえるといいます。
更にその1年後。
おなかの違和感や息苦しさを感じて病院で診察を受けました。
見つかったのは…破裂寸前でした。
あと少し発見が遅れていたら死んでいたかもしれない…。
医師にそう告げられました。
明日死ぬかもしれないなら今を悔いなく生きたい。
何か打ち込めるものが欲しい。
そんな時出会ったのがフリーダイビングでした。
水泳は苦手だったにもかかわらず無我夢中で参加した競技会。
初めて潜った深さは20mでした。
浮上して息を吸った時経験した事のない感動が湧き上がってきました。
最初に息ができますよね。
練習すればするほど伸びていく記録。
やがてフリーダイビングは岡本選手にとって生きる喜びになっていきました。
だんだん情熱を持って続けられるものになってそれによって自分が…変わらない気持ちで続けられてるんだと思います。
大会3週間前。
フリーダイビングの競技会が開かれ全国から40人近くの選手が集まりました。
バハマを目指す岡本選手にとって貴重な実戦です。
しかし思わぬ事態が降りかかります。
20秒。
ある男子選手の潜水中でした。
ゆっくり落ちて…。
タッチダウン!45メーター。
目標深度に到達し浮上していたその時。
ブラックアウト。
酸素がなくなり失神しました。
引き上げろ!引き上げろ!アップして構わない!上げろ上げろ上げろ上げろ!全力。
全力全力。
水面水面!確保確保!確保して!岡本選手の目の前で起きたブラックアウト。
ボート上の医師に処置を委ねます。
間もなく意識を回復。
なんとか事なきを得ました。
結局大会は中断しました。
実は岡本選手自身もかつてブラックアウトを経験した事があります。
ダイビングを始めて4年目。
プールでの練習中の事でした。
無理に息を止め過ぎて起きたブラックアウト。
恐怖感はどんなに経験を積んでも消える事はありません。
競技会のあと岡本選手に声をかけたのは夫の耕輔さんでした。
ダイビング仲間の耕輔さんは岡本選手が立ち止まった時さりげなく背中を押してくれる存在です。
浮き足だってしまいそうな時に地に足を着けてくれる助言を絶妙にしてくれるので駄目になりかけた時にちょっとメールするんですよね。
そうするとシュッて返ってきてそういうお言葉を頂けるんですよね。
結構それに支えられてます。
不安に立ち向かう岡本選手に耕輔さんが手渡したものがあります。
主人が作ってくれました。
ロープにつける命綱の金具に耕輔さんが記しました。
今まで何度も行ってる深さなんだけど…バハマ出発の3日前。
岡本選手は東京にいました。
酸素の濃度を薄くした部屋で行う低酸素トレーニングです。
酸素濃度は標高5,500mとほぼ同じ。
通常の半分しかありません。
酸欠状態を作り出したこの部屋で90分間動き続けました。
未体験の深さへの挑戦。
恐怖を振り払うためギリギリまで自分を追い込みます。
50分が経過した時…呼吸を止めました。
血液中の酸素は40%。
普通なら失神してしまう濃度です。
(荒い息遣い)
(荒い息遣い)全ては強く生きる力を手に入れるため。
中米カリブ海の国バハマ。
700余りの島から成るリゾート地です。
戦いの舞台は浅瀬に口を開けた海中洞窟。
深さ203m。
海流の影響が少なく好記録が出やすいため世界中のフリーダイバーの憧れの場所です。
大会が開幕。
世界中から男女合わせて35人の選手が集まりました。
潜れるのは一日1回。
6回潜って最も深かった記録で競います。
(拍手と歓声)岡本選手の1回目。
しかし姿が見えません。
(取材者)美鈴さんは?車の中で…?うん。
まだもうちょっと集中っつうか…。
(取材者)ゆっくり?そうです。
岡本選手車から出られずにいました。
無事にやり遂げる事ができるのか。
20分後ようやく車から出てきました。
当初は初日から自己ベストの90mに挑むつもりでした。
慎重を期して86mからのスタートです。
水中の選手の位置はジャッジが探知機で確認します。
今潜行しています。
いよいよ本番。
大会最初のチャレンジ。
フォースリーツーワン…。
空気を食べるように吸い込みます。
繰り返し練習してきた全身を使ったフォーム。
順調に潜行していきます。
やがて86mのプレートが見えてきました。
目標のタグをつかんで浮上。
そして問題の帰り道。
肺の酸素はほぼ0。
動きを止め浮力だけで上昇します。
意識は…?成功。
初日の重圧を乗り越えました。
疲れた!ハハハ!その後も順調に記録を伸ばし4日目自己ベストを上回る91mに挑みます。
ところが…。
おはようございます。
(取材者)おはようございます。
直前になって出場を辞退。
連日の潜水で腰や背中に激しい痛みが出ていました。
91mという未知の世界。
ギリギリまで迷って見送りました。
今大会自己ベスト更新に挑みブラックアウトする有力選手が相次ぎました。
ほんの少し深く潜っても命取りになりかねません。
その夜。
痛みと恐怖心が岡本選手を襲っていました。
そうそうそう。
体調を考えればチャレンジは1回。
自己ベスト更新断念か?それとも挑むのか?岡本選手は日記に思いを記しました。
「未知の深さへの恐怖がある」。
「しかし乗り越えていけば弱さは逆に大きな強さに変わる」。
岡本選手は91mに挑戦する事を決意しました。
自己ベスト更新へ。
未知の世界へのダイブが始まります。
スリーフォーファイブシックスセブンエイトナイン。
次第に暗くなる海。
音が消えていきます。
91mに置かれたプレート。
岡本選手の姿が…。
残りは20m。
果たして無事に上がってこられるのか?生還。
あとはあのひと言。
91m。
自己ベストを見事更新しました。
しっかり呼吸して。
はいゆっくり。
顔後ろ。
I’mOK!
(拍手と歓声)自己ベストを更新した岡本選手は女子のこの種目金メダルを獲得。
未知の世界への恐怖を乗り越えまた一つ強さを手にしました。
生きる力を求めて挑戦を続ける41歳岡本美鈴選手。
もっと深くもっと強く。
2015/01/08(木) 01:30〜02:15
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「生きるために強くなれ フリーダイビング 岡本美鈴」[字]
足につけたフィンだけで海中深く潜るフリーダイビング。岡本美鈴選手は世界歴代3位、90mの記録を持つ。「潜ることは生きること」と語る岡本選手の挑戦を見つめた。
詳細情報
番組内容
フリーダイビングの潜水時間はおよそ3分。深く潜ると水圧で肺がつぶれ、真っ暗な海中で恐怖から酸素を消費し過ぎて失神することもある。岡本美鈴選手がこの過酷な競技を続ける理由は、地下鉄サリン事件と卵巣腫瘍という壮絶な体験だ。海底から浮上すると生きている実感が押し寄せると言う。この冬、岡本選手は自己ベスト更新を目指し、中南米バハマの国際大会に挑んだ。自らの生と向き合い限界と闘う姿を追った。【語り】杉本哲太
出演者
【語り】杉本哲太
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – マリン・ウィンタースポーツ
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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