見て下さいこの大きな鼻。
今日の主人公サイガ。
絶滅危惧種に指定される珍獣です。
すんでいるのはカザフスタンの乾燥した大草原。
夏の最高気温は50度にもなります。
とてつもない暑さ!ところが冬はなんとマイナス20度。
ここは寒暖の差が世界で最も激しい場所の一つなんです。
この過酷な環境で生き残るためサイガの奇妙な鼻が欠かせないといいます。
一体どういうことでしょうか。
あっ赤ちゃんも随分立派な鼻ですね。
おっと!サイガの群れが全力疾走。
見かけによらず速いんですね。
その上持久力も抜群。
これもあの大きな鼻のおかげだったんです。
今日は珍獣サイガの大きな鼻に秘められた驚きの能力に迫ります。
(テーマ音楽)ユーラシア大陸の中央に位置するカザフスタン。
面積は日本のおよそ7倍です。
サイガを撮影するためこの地を訪れたのは4月中旬。
広大な草原を車で移動します。
あっ目の前に大きな川!でも運転手さんはためらうことなくどんどん進んでいきます。
カザフスタンでは当たり前のことだそうです。
う〜んワイルドですねぇ。
川を越えた先には乾燥した大地が延々と続きます。
1年を通じてほとんど雨の降らないこの場所。
年間の降水量はおよそ200ミリと日本の10分の1しかありません。
ここにいるのは暑さや乾燥に耐えられる生きものだけです。
あっ足元に何かいます。
分かりますか?ここ。
アガマトカゲの仲間です。
見事岩になりきっていますね。
こちらにいるのはオオスナネズミ。
体長はおよそ20センチです。
植物に含まれるわずかな水だけで水分を賄っています。
住まいは地面に掘った穴。
ここなら暑さをしのぐことができます。
乾燥した草原を走り続けること4日間。
いよいよサイガが暮らす場所にやってきました。
季節によって南北500キロの範囲を移動しながら暮らすサイガ。
取材に訪れた4月中旬はこの辺りにいるはずです。
雪解け水が集まった大きな水たまりを見つけました。
乾燥した大地でとっても貴重な水場です。
サイガが水を飲みに来ているかもしれません。
あっ!サイガの足跡を見つけました。
大きさは7センチぐらい。
辺りを見回すとかなりたくさんの足跡があります。
この時期サイガは30頭から100頭ほどの群れを作るといいます。
取材班は足跡の向かっている方向を目指しました。
そして…。
(スタッフ)あっサイガだ!ほらほら!どこどこ?あ〜いました!サイガです。
サイガはとっても神経質。
気付かれないようにそっと近づきます。
ようやくサイガの群れに出会いました。
角が生えているのがオス。
体長は150センチほどです。
サイガはウシの仲間なんだそうです。
メスはオスよりも少し小柄で角がありません。
間近で見るサイガの顔。
大きくてやわらかそうな鼻がホント目立ちますよね。
ではこの鼻の重要な役割をご紹介しましょう。
1つは暑さ対策です。
真夏には50度にもなるこの場所。
日陰を作るような木は1本も生えていません。
想像してみて下さい。
皆さんがこんな場所にいたらどうなるか。
まず汗が出ますよね。
汗は人間が持つ暑さ対策の1つです。
皮膚の表面に広がった汗が蒸発する時熱を奪ってくれます。
こうして体温が異常に上がるのを防いでいるんです。
一方サイガは汗をかきません。
そのかわり鼻を使って暑さ対策をしています。
その仕組みを見てみましょう。
鼻に潜入すると大きな空洞の奥には湿った粘膜の壁があります。
ここに空気を吸い込むと粘膜の表面から熱が奪われます。
そしてその近くを通る血液が冷やされる仕組みになっています。
冷やされた血液は脳の下にある奇網という器官を通ります。
ここには脳に血液を運ぶ血管も通っています。
この奇網で両方の血管が合流する時脳に運ばれる血液が冷やされるんです。
実は体の中で最も熱に弱いのは脳です。
人間の汗による体温調節も最も重要なのは脳の温度上昇を抑えること。
汗をかかないサイガは鼻を使って脳の温度が上がるのを防いでいるというわけなんです。
そして鼻が大きいほど脳の温度を下げる効果は高いといいます。
更に鼻の役割は暑さ対策だけではありません。
寒さ対策にだって役立ちます。
冬のカザフスタンの草原。
マイナス20度以下になる日もしばしばです。
すると…サイガも冬のいでたちになります。
長〜い毛に覆われて随分印象が違いますよね。
特に鼻を見て下さい。
冬のほうが膨らんでいますよね。
これ大量の空気をためているんです。
その量は500ミリリットルにもなります。
こうして冷たい空気を鼻で暖め肺が凍らないようにしているんです。
また乾燥した空気を湿らせる効果もあります。
極寒の冬から猛暑の夏へ。
年間の温度差70度という過酷な環境で生きていけるのはこの大きな鼻のおかげだったんですね。
あっサイガが走りだしました。
速い速い!炎天下にもかかわらず全力疾走。
なんと最高時速80キロにもなるといいます。
しかもほとんど休むことなく移動し続けられるそうです。
これも大きな鼻のおかげで脳の温度が上がらないからこそできるワザなんです。
取材を始めて1か月ほどがたちました。
サイガを目撃した場所を地図に記してみると次第に移動距離が短くなっています。
どこか目的地に向かっているようです。
研究者によるとこの時期サイガは出産するために1か所に集まるといいます。
どうやら目撃地点が密集しているこの辺りが出産場所になりそうです。
研究者と共に目星をつけたこの場所でサイガたちを待つことにしました。
じ〜っと待つこと4日間。
あっ!サイガが現れました。
丘の上をゆっくり歩いています。
こちらに来てくれるでしょうか。
来ました来ました!続々とサイガの群れが集まってきます。
その数およそ2,000頭。
ほら見て下さい!おなかが真ん丸。
出産間近のメスたちです。
やっぱりここを出産場所に選んだようですね。
第2章では赤ちゃんが誕生。
お母さんそっくりですね。
あっオオカミ!なんとお母さん赤ちゃんを置いて逃げちゃった?でもこれこそ子を守る秘策だったんです。
大きな鼻を使って暑さ対策をするサイガ。
ユニークな暑さ対策を持つ動物はほかにもいますよ。
サイガよりも大きな鼻のゾウ。
でもゾウは鼻ではなく耳を使って暑さ対策をします。
耳にたくさんの血管が通っているのが分かりますか?裏にもほらこのとおり。
暑い時に耳をパタパタと動かすことで血管を流れる血液を冷やすんです。
大きな耳にはこんな役割があったんですね。
続いてはカンガルー。
なんともリラックスした様子ですが今暑さ対策の真っ最中です。
前足をペロペロとなめていますよね。
前足の内側は毛が薄くなっていてすぐ下に何十本もの血管が集まっています。
そこをなめることで体温を下げているんです。
試しにぬれたタオルで腕の内側を湿らせて息を吹きかけてみて下さい。
冷たく感じませんか?それと同じ仕組みで皮膚から熱を逃がしているんですって。
こちらは草原に横たわるライオン。
ハアハアして暑そうですね。
このハアハアこそ大事な暑さ対策。
呼吸する時に舌や喉の唾液を蒸発させて熱を逃がしているんです。
ペットのイヌなどもよくやっていますよね。
ただ暑がっているだけじゃなくてちゃんと意味があったんですね。
いやあ生きものたちの体の仕組みには驚きがいっぱいです。
再びサイガたちが暮らすカザフスタンの大草原です。
出産のために1か所に集まってきた群れ。
どうやらいよいよ出産が近づいてきたようです。
1頭のメスがうずくまってじっとしています。
あっ!足元に赤ちゃんがいました。
たった今生まれたばかりのようです。
こうして1日に数百頭の赤ちゃんが誕生します。
すぐに立ち上がろうとする赤ちゃん。
お母さんはそばで赤ちゃんを見守ります。
立ち上がりました!早速お乳をもらいます。
まだおぼつかない足取りの赤ちゃん。
お母さんのそばにうずくまってしまいました。
あれ?そんな赤ちゃんを置いてお母さんがどこかへ行っちゃいます。
こちらのお母さんもお乳を与え終わるとやはり赤ちゃんから離れていきます。
お母さんたち連れ立って自分たちのお食事に出かけたんです。
お母さんたちがやってきたのは1キロ以上離れた場所。
お乳をたくさん出すためにはしっかり食べなければなりません。
一方こちらは1頭でお留守番の赤ちゃん。
しゃがんだままじっとしています。
あっ!上空に天敵のハゲワシが現れました。
そんな危険を知ってか知らずか赤ちゃんは息をひそめているようです。
ちょっと待った!こんな危険な場所に赤ちゃんを置いていくなんてひどいですぞ。
お母さん一緒に連れていけばいいじゃないですか!いえいえそうもいかないんです。
まだ赤ちゃんは生まれて1日もたっていません。
お母さんについていくのは無理です。
あそっか。
それにねむしろお母さんが一緒のほうがず〜っと危険なんですよ。
え?どどうして?ほらお母さんの体は大きいでしょ?これだとかえって天敵に見つかりやすいんです。
ふむふむ。
だからお母さんは赤ちゃんを置いてあえて1キロ以上も離れた所で食事をしていたんです。
あえて離れるのも母親の愛ということですか。
でもこんなところを天敵に見つかったら大変ですな。
実はね赤ちゃんには身を隠すワザがあるんですよ。
えっどんな?これです。
え?ただじっとしてるだけじゃないですか。
そのとおり。
こんなふうにじっとしていると赤ちゃんがいることに気が付かないでしょ?あホントだ。
更にこちら横にある枯れ葉の色や大きさとそっくり。
これならまず見つかりません。
ほうこりゃお見事!サイガの赤ちゃんは身を隠す天サイガ〜!なんちゃって。
朝になりました。
結局お母さんは一晩中帰ってきませんでした。
赤ちゃんはたった1頭で前の日と同じ場所にしゃがみ込んでいます。
8時ごろ遠くから鳴き声が聞こえてきます。
・
(鳴き声)
(鳴き声)赤ちゃんを呼ぶお母さんの鳴き声です。
(鳴き声)「どこにいるの?」。
何度も鳴いて赤ちゃんに呼びかけます。
(鳴き声)「ここだよ」。
赤ちゃんも鳴いてお母さんに返事です。
(鳴き声)うわ!あちこちから赤ちゃん。
これじゃ自分の子どもが分かりません。
するとお母さんしきりに大きな鼻を動かし始めました。
においで自分の子を探しているんです。
(鳴き声)我が子のにおいに気が付いたようです。
ようやく母と子の再会です。
大きな鼻はこんな時にも役に立つんですね。
母子水入らずでお乳の時間。
でもそれは危険な時間でもあります。
あっ!オオカミです。
お母さんがジャンプ。
そして走りだします。
こちらでも。
危険を感じたサイガのお母さん子どもを残して走りだしました。
右へ左へとジグザグに走ります。
そしてジャンプ。
こうした動きを何度も繰り返します。
お母さんの動きはこんな感じ。
ジャンプするとその瞬間だけ姿が丸見えになります。
これを左右に走りながらするとまるであっちこっちにサイガがいるように見えます。
こうして敵の関心を子どもからそらしているんです。
う〜ん我が子を守る母の知恵ですね。
出産から4日目。
お母さんたちが子どもを連れて移動を始めました。
再び広い草原を旅する暮らしに戻ったんです。
大人たちに交じってまだ幼い子どもが懸命についていきます。
子どもたちにとっては初めての旅。
凸凹の丘や草原を突き進みます。
あっ群れからはぐれた子どもが地面にうずくまっています。
立ち上がろうとしていますが立てないようです。
足にけがでもしたんでしょうか。
上空にはハゲワシがやってきました。
ものすごい数。
移動し続けるサイガにとって歩けないことは死を意味します。
結局この子どもが群れに戻ることはありませんでした。
かわいそうですが生まれた子どもの6割はこんなふうにして半年以内に命を落としてしまうそうです。
(鳴き声)まだ幼い子どもにとっては命懸けの長旅です。
ちょっと待った!今度はどうしました?ヒゲじい。
いや子どもたちは生まれてまだ4日でしょ?長旅なんてムチャですぞ。
もうちょっと大きくなるまで生まれた場所にいたほうがよかったんじゃないですかね?確かにそう思いますよね。
でもねサイガには移動しなきゃならない理由があるんです。
どんな?ヒントはサイガと同じようにカザフスタンの草原を移動して暮らす遊牧民が教えてくれました。
うん?まだ分かりませんな。
栄養が偏るってどういうこと?ではご説明しましょう。
例えばサイガがよく食べる4種類の草。
その1つヨモギの仲間にはセリンとカリウムが多く含まれています。
でもカルシウムはほとんど含まれていません。
うん?あららホントだ。
一方こちらはホウキギの仲間。
カルシウムはたくさんありますがセリンやカリウムはほとんど含まれていません。
ふむふむ。
ほかの2種類もやっぱり栄養が偏っています。
へえ〜そうなんですか。
でもねこの4種類を満遍なく食べるとほらバランス良く栄養をとることができるでしょ。
あ確かに。
サイガが歩き続けるのはさまざまな種類の草を食べて必要な栄養を偏らないようにとるためでもあるんです。
なんとサイガは80種類もの植物を食べているんですよ。
へえ〜!なるほどね。
たとえ生まれて4日目の幼い子どもでも生きていくためには移動しなければならないということなんですね。
う〜ん厳しい自然のおきてですなぁ。
それにしても80種類もの草を食べるなんてサイガにとっては「多菜が」重要。
大きな鼻を持つサイガだけに栄養バランスは大きな「ハナ…丸」なんちゃってね。
6月。
サイガたちは草原の北部にある川のほとりにたどりつきました。
水と緑が豊富なこの場所はサイガたちにとってまるで憩いの場所。
貴重な水で喉を潤します。
あっ5月に生まれた子どもたちがいます。
自分たちの足でここまでやってきました。
旅の間に足取りもしっかりしましたね。
もう2か月もすると独り立ちの時期を迎えます。
そして夏が終わると今度は極寒の冬がやってきます。
サイガは雪に追われるように南へと移動を始めるのです。
一見ユーモラスなサイガの鼻。
でも過酷な環境を生き抜くために欠かせないものでした。
ご自慢の鼻を揺らしながら今日もサイガはカザフスタンの大草原を旅していることでしょう。
2015/01/04(日) 19:30〜20:00
NHK総合1・神戸
ダーウィンが来た!「珍獣サイガ 巨大な鼻の秘密!」[字]
巨大な鼻をもつ珍獣サイガが主人公。暮らしているのはカザフスタンの大草原。暑さと寒さが厳しい過酷な場所。巨大な鼻には、この場所で生きるための驚きの役割があるという
詳細情報
番組内容
異様に大きな鼻をもつ珍獣、サイガが主人公。絶滅危惧種に指定されているウシの仲間だ。暮らしているのは中央アジア・カザフスタンの大草原。夏は最高気温50度、冬は氷点下20度にもなる。世界で最も寒暖の差が激しい場所の1つだ。この厳しい環境を生き抜くため、サイガの「巨大な鼻」には、驚くべき役割があるという。広大な草原を大移動しながら暮らすサイガの群れを徹底追跡!珍獣サイガの巨大鼻の秘密に迫る。歌:平原綾香
出演者
【語り】近田雄一,龍田直樹,豊嶋真千子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア
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