苦しむ江戸の庶民を救うため隠密同心が立ち上がる。
我が命我が物と思わず。
武門の儀あくまで陰にて己の器量伏しご下命いかにても果たすべし。
なお死して屍拾う者なし
えい。
(拍手)えい。
えい。
よっ。
よっ。
ふるまい酒だ。
えい。
(小弥太)待て待て待て。
よっ。
これ持っとけ。
いいかお前そんなんじゃ上がんねえよ。
いくぞせえの走れ。
よし今だ!糸伸ばせ糸伸ばせ。
(お吉)祭りだよさぁどいたどいた。
よいしょ。
あっ先生あとで食べてってください。
(長庵)わかった。
隠密同心。
それは旗本寄合席内藤勘解由に命を預け人知れず人生の裏街道を歩かねばならぬ宿命を自らに求めた者たちである。
極悪非道の悪に虐げられ過酷な法の冷たさに泣く大江戸八百八町の人々をあるときは助け励ましまたあるときは影のように支える彼ら。
だが身をやつし姿を変えて敢然と悪に挑む隠密同心に明日という日はない
明和から天明にかけて神田の田沼家・上屋敷には来客の絶え間がなかった
珍しき品が手に入りましたゆえお届けにあがりました。
出世や利権を狙う人々が金品を手に老中田沼意次のもとを訪れる
いやぁこれはこれはお心遣い痛み入る。
賄賂の横行する世に言う田沼時代である。
しかし
(意知)奥州の飢饉米の値上がり早々に手を打たねばならぬことが山積みでござるな。
今年は冷夏にならねばよいのだが。
(佐野)山城守待て。
(佐野)覚えがあろう。
えい!おのれ。
おのれ。
おのれ狼藉者。
黙れ。
黙れ。
うっ。
思い知ったか濁れる田沼め。
うぁ。
(勘解由)お鎮まりなされ。
離せ。
悪人を成敗いたす。
殿中でござるぞ。
離せ。
殿中でござるぞ。
離せ!
(三浦)殿一大事にござりまする。
(意次)何事じゃ?山城守様が殿中にて襲われましてござります。
なに意知が。
御用部屋を出られたところを佐野なにがしと申す者にいきなり斬りつけられたとのこと。
して意知は刀を抜いたか?いいえお抜きになりませんでした。
さようか。
殿中で刀を抜くは御法度。
よくぞ辛抱してくれた。
死ぬなよ。
意次の嫡男若年寄田沼意知はその数日後に息を引き取った。
それは田沼時代の終焉を告げる事件だった
(善太)さぁ大変だ大変だみんな集まっておくれ。
ご城内で刃傷沙汰だよ。
え〜。
斬られたのは誰あろう権勢並ぶものなき御老中田沼様のせがれだってから大変だ。
この間の遺恨覚えたるか!と斬りつけたところを殿中でござる殿中でござると組み止めたってえから芝居で見る「忠臣蔵」松の廊下そのまんま。
おぉ。
買った買った。
この頃日本は立て続く天変地異に見舞われていた。
冷夏豪雨の異常気象が続いたうえ天明三年には浅間山が大噴火。
農作物は壊滅的な打撃を受けた。
とりわけ東北の被害は甚大で餓死者は数十万人にのぼったという。
貧しさにあえぐ人々は江戸市中に流れ込み政権への不満の声は次第に高まっていった
米商人の買い占めと売り惜しみによって米価が前年の五倍にまで高騰すると民衆の怒りはついに沸点に達した
(秋草)鎮まれ鎮まれ。
暴徒ども鎮まらねば叩っ斬るぞ。
うるせえ斬るなら斬りやがれ。
じっとしてても飢え死にだ。
子どもたちが腹を空かせて泣いてるんだよ。
(一同)そうだ。
構わん皆ひっくくれ。
はっ。
じいさま。
ちくしょう。
手向かう者は斬る。
うわぁ。
あぁ。
どけどけどけどけ!弱いもん相手に刀振り回すとは卑怯だぜ。
どけお役目の邪魔だ。
ここは俺が引き受けた。
今のうちに女や子どもを逃がすんだ。
えっ。
くそっ。
おのれ。
動くな神妙にしろ!
(勘解由)さぁ行け。
みんなこっちだよ。
(秋草)やっ。
貴様が首謀者か。
ふんっ打ち壊しに首謀者なんぞいねえ。
食えねえ人間の怒りが爆発しただけよ。
小役人のなまくら刀で俺が斬れるかな?秋草新十郎狼藉者は斬り捨てる!やぁ!どけ。
少ししみますが我慢しなさい。
貴様!あっつぼだ。
療治の邪魔です。
(早苗)江戸がここまで荒れているとは。
(春朗)木挽町の下屋敷ももはや危ういのでは?
(源内)そうだな。
しばらく例のところに潜んで身を隠しましょう。
はい。
その太刀筋抜刀無念流だな。
旦那は新陰流かい。
貴様何者だ?侍が大嫌いなただの遊び人よ。
待った!やめたやめた。
なに?旦那勝負はこれまでにしようぜ。
怖気づいたか?へへ。
旦那の腕と俺の腕は五分と五分だ。
このまま斬り合いを続ければ相討ちになって揃って死ぬだけよ。
お互いたったひとつしかねえ命だ。
無駄に捨てるのはばかばかしいや。
煮るなと焼くなと好きにしてくんな。
ひっくくれ。
はっ。
お吉の調べたとおり使える男だな。
腕も度胸も人並み優れております。
うんあの義侠心が気に入った。
命を粗末にせぬところもな。
(町村)その方打ち壊しの一件ではなかなかの働きであった。
ははっ。
近頃江戸市中には火付け盗賊の類が横行し物情騒然たるありさまじゃ。
秋草そなたには格別の計らいをもって悪人は詮議無用斬り捨て御免を許す。
手ぬるい真似はいたすな厳しく取り締まれ。
はっ承知仕りました。
いやなんでも特別なお役目を拝命したそうですよ。
成り上がり者は上に取り入るのがうまいゆえ。
賄賂はいかほど贈ったのであろうな?はははは。
何かご不審でも?町奉行の奴米がなけりゃ豆を食えそれもなけりゃ犬でも食えってぬかしやがった。
ひでえ話だな。
いちばんの悪は老中の田沼だぜ。
俺たちが食うや食わずでいるときにてめえは賄賂三昧で肥え太ってよ。
そうだ。
世の中あべこべだぜ。
牢にぶち込まなきゃならねえのは欲得づくの商人や袖の下でいい思いする役人どもじゃねえか!そうだそうだ。
おい牢番ここ開けろ。
おい牢番!何を騒いでいる。
おぉ来た来た。
おう牢の中に罪人はいねえやみんなを解き放て。
ばかを申すな。
ばか?食えねえから米寄こせってのはあたりめえの話だろ。
悪いのは天下の政だこのとんちきめ。
えい黙れ。
こんなことしかできねえのか。
こらやめんか。
代わりに役人どもを牢にぶち込め。
水。
はっ。
まだ口を割らぬか。
牢内で騒ぎを起こすとは不届き千万。
米屋の打ち壊しもその方が先導したのであろう。
それとも誰かの指図によるものか。
ふん俺は誰の指図も受けねえよ。
生意気な打て。
はっ。
なに内藤様が?待て。
だいぶ痛めつけたようじゃのう。
はっ強情な奴でござりまして一向に白状いたしませぬ。
責められたって話すことは何もねえぜ。
しばらく人払いをしてくれるか。
はっ。
名はなんという?わしは旗本寄合席内藤勘解由。
珊次郎ケチな遊び人さ。
それは仮の名であろう。
名字帯刀を許された家柄の者とみた。
なにゆえ無宿者になったのだ。
まぁ話さずともよい。
これからは氏素性など関わりのない役目に就いてもらうのだからな。
何の話だい?お主わしのもとで江戸の治安を守るために働いてくれぬか?はははは。
お断りだね。
侍に使われるくらいならお仕置きになったほうがましだ。
よほど侍が嫌いのようじゃのう。
ふんああ嫌いだね。
人斬り包丁を腰に差して威張り散らしちゃいるがいざとなりゃからきし意気地がねえ。
そのくせ弱い者を痛めつけ賄賂で私腹を肥やしやがる。
お主それを黙って見ているというのか?あぁ?ご牢内で騒いだところで世の中はよくはならぬぞ。
弱い者が虐げられ血の涙を流す。
そんな世を変えてみようとは思わぬか?そのためには身を捨てて戦う者が必要なのだ。
そなたの腕は抜刀無念流の皆伝とみた。
なぜそれを?うわ旦那あのときの。
田沼様は老中の座を追われた。
まもなく白河候松平定信様が老中首座に就かれる。
さすればこれまでの悪政を一新しご改革を断行されるであろう。
このご下命は白河候より下されたもの。
この懐剣はその証しじゃ。
そなたの命わしに預けてくれぬか?ただしこれだけは言っておこう。
お役目のことは断じて口外無用。
あくまでも市井の者として暮らし事あるときは命を捨てて戦う。
たとえ死すとも骨は拾ってやれぬ。
旦那の言葉には少しも嘘がねえや。
心底弱い者の味方になるおつもりかい?よしのった。
俺の命は旦那に預ける。
お役目お引き受けいたします。
そうか。
あっおめえたちは。
みんなこっちだよ。
少ししみますが我慢しなさいあのときの。
同じ役目に就く者たちだ。
原長庵蘭学医です。
不知火お吉。
御前の指令でお役目にふさわしい方を探しておりました。
俺の名は十文字小弥太。
小弥太長庵お吉。
そなたたちに隠密同心の名を与える。
隠密同心。
江戸の平安のために我が命我が物と思わずご下命いかにても果たすべし。
(二人)はっ。
はっ。
松平定信様御成り〜。
程なくして松平定信が老中首座に就任。
政権の座を追われた田沼意次は失意のうちに世を去った。
だが江戸の町にはびこる悪が絶えることはなく
(悲鳴)誰か助けて。
へへへ。
(中瀬)女だ若い女をひっさらえ!おう。
珊次郎さんまた朝帰りかい?昨日はちょいといい目が出たもんでね。
あきれるよいい男がふらふらしてお天道様に恥ずかしくないのかい?おっなんだい今日もいい天気だ。
えっお天道さんありがとよ。
いくら男がよくても駄目だね遊び人は。
やかましいや。
ほんとだよちっとはお道ちゃんの爪の垢でも煎じてお飲みよ。
ああおう。
お道ちゃんどっか行くのかい?
(お道)珊次郎さんおかえんなさい。
私奉公先が見つかったんです。
中州新地の小さな店。
そうかいそいつはよかったな。
はい。
(三吉)姉ちゃんもう帰ってこねえのか?住み込みだからしばらくは戻ってこれないと思うけどおっかさんのこと頼んだよ。
うん。
朝晩の薬も忘れずに飲んでおくれね。
(お栄)うん。
くれぐれも体に気をつけるんだよ。
うん。
姉ちゃん。
おっかさんの世話は私たちが手伝うから。
心配いらないよ。
頑張っておいで。
お願いします。
珊次郎さん。
おう。
三吉たちと遊んでやってね。
うちはおとっつぁんがいないから。
任しとけ。
しっかりやれよお道ちゃん。
はい。
さぁ大変だ大変だ大変だ大変だ!どいてくれ大変だ。
大川中州新地の盛り場に白塗りの化け物が現れるとよ。
化け物?こいつはとんでもねえ悪党だ。
さんざん大暴れをしたあげく若い女をかっさらったってんだから大変だ!四文だ四文だ一人じゃねえんだ。
ちょちょっとごめんよおい善太俺にも一枚くんな。
おうおうへい。
ちょうだいってば。
さぁさぁ買った買った。
中州新地。
地蔵に赤いはちまき。
それは隠密同心集合の合図である
お呼び出しはこの件か。
中州新地とは永代橋近くに造営された埋め立て地で料理茶屋や見世物小屋が立ち並ぶ賑やかな歓楽街であった
やってるかい?あっ珊次郎さんいらっしゃい。
ようとっつぁん一本つけてくんな。
へいただいま。
亀戸の天神様ちょうど藤の花が見頃なんだって。
ねぇ一緒に行こうよ。
亀戸か。
おいお結うかうか出歩いて白塗りのごろつきに襲われても知らねえぞ。
あら珊次郎さんが一緒だったらやっつけてくれるでしょう?なんだい俺は用心棒かははは。
そうじゃないけど。
いらっしゃい。
おっ長庵先生いいとこに来たね。
はい?お結ちゃんがよ亀戸の天神様に行きてえってよ。
えっ私とですか?えっ?いやぁ二人でというのはどうかなぁ。
もう。
(お吉)かつおかつお。
毎度かつおのいいのが入ったよ。
よぅお吉。
おう兄貴いいお日和だね。
だなどうだい?今日は。
よっ。
おっこれはすげえや。
すげえだろ?よいしょ。
はははは。
半身どうだい?まけとくよ。
あらいいかつおもらおうかおじいちゃん。
どれどれよいしょ。
こりゃ立派だへへへ。
あっいけねえおい油切らしちまった。
すまねえがちょいと買ってきてくんな。
えっでも。
おいぐずぐずしねえで行ってきなあよ。
はい。
おじいちゃんったらいつも邪魔するんだから。
おいお結ちゃん気をつけてな。
はい。
奥で御前様がお待ちです。
おじさんいつもすまないね。
なにお嬢。
その昔不知火の親分さんにはひとかたならぬお世話になったご恩がありやす。
ただ孫のお結は何にも知らねえんでご内密に願いやす。
あい承知してるよ。
お呼び出しはこの件でございますね?ただのごろつきとは思えぬ。
中州は田沼様が御老中の折に埋め立てた新地だ。
あるいは残党が引き起こす騒ぎかもしれぬな。
いったい何のために?田沼様が失脚されてから遠州相楽のお城は取り壊され所領はわずか一万石に減封となった。
厳しいご処断を恨む者もおるであろう。
だからって昔の悪政に戻されちゃたまりませんよ。
世は寛政に変わり御老中は着々と改革を進めておられる。
罪なき人々を苦しめる悪の芽は摘まねばならぬ。
中州新地を探索して怪しい者たちの正体を突き止めてくれ。
(三人)はっ。
実はな新しい仲間をすでに送り込んであるのだ。
ふふ。
長庵がまの油だへへへ。
たいしたもんだな。
騒ぎがあったばかりだというのにたいそうな賑わいですね。
ああ白塗りの化け物ども今夜は現れねえかな。
さぁどいたどいた危ねえよ。
はっ。
お見事!天ぷらいかがですか?天ぷらおいしい天ぷらいかがですか?天ぷらです。
おいお道ちゃんかい。
あ〜珊次郎さん。
ははは。
奉公先はこの店かい。
はい。
(お六)旦那さん中にどうぞ空いてますよ。
あっどうも。
ほんとにおいしいんだから。
食べてってください。
おうあとでな。
それより気をつけろよ。
中州は物騒だ。
もしも妙な連中が襲ってきたら店の奥に一目散に逃げ込むんだぜ。
はい。
よし。
珊次郎さんも夜遊びはほどほどにね。
朝帰りしたらまた女将さんたちに叱られるよ。
あっいけねえこりゃ一本とられた。
ははは。
いつものもらえませんか。
いらっしゃいませ中に。
(十蔵)「骨はばらばら」
(十蔵)「紙やぶれても」
(三味線)「露は尾花と寝たと言う」「尾花は露と寝ぬ」
(お仙)やめて!待ちな。
(お仙)離して。
ほら待ちな待ちな。
お高くとまりやがってよ売り物のくせにははは。
やめて堪忍しておくんなさい!いいかげんにおしよ!玉竜姐さん。
芸者は芸を売るのが商売色事は無用に願いますよ。
生意気なこっちはな金払ってんだよ金を。
野暮な客だね金などいらないとっとと帰っとくれ。
気の強え女だなおもしれえお前が相手しろ。
なんだ?お前は。
俺かい?俺はお前この中州の雇われ用心棒よ。
酔っ払いは引っ込んでろ。
あいた!おら。
用心棒覚えてろよ!旦那ありがとうござんした。
せっかくの花が散ってしまった。
ほい。
「槍」おい長庵おいへへへ。
おぉきれいだな。
東錦絵は江戸土産でいちばん人気だそうですよ。
そうかい。
いらっしゃいまし。
どうぞお手にとってご覧なさいまし。
うん。
いやこいつはいい絵だ。
まぁお客さんお目が高い。
こりゃ珍しい花だなこれ。
北の寒いところで咲く花なんです。
ふ〜ん。
春朗ですか聞かない名ですね。
うちの抱えの絵師ですよ。
うん?この色は。
どうした?錦絵の青は露草の染料で出すのですがこれは違うな。
こんな鮮やかな青見たことがない。
この色どうやって出したんですか?おっとそいつは教えられねえな。
はははごめんなさいねよそさまに真似されちゃ商売あがったりだからね。
それもそうだな。
(二人)ははは。
どけどけ!来たぞ奴らだ。
(悲鳴)女だ女をつかまえろ!おう。
危ねえ中に入っていなせえ。
はい。
長庵いくぞ。
はい。
なんだなんだ今日はたちの悪い客が多いな。
邪魔するとぶっ殺すぞ。
野郎。
おい助太刀するぜ。
(指笛)どけどけどけ!動くと的にするよ。
卑怯な真似はよしな。
(源内)ごろつきめ出ていきなさい。
化け物ども思い知れ。
いったん引くぞ。
命が惜しい奴は二度と来るな。
奴らのあとは私が。
おう頼む。
小弥太さん御前が送り込んできた密偵はあの人では?うむ。
いらぬ手出しをしてくれたな。
えっ?俺一人で片がついたものを。
余計な真似しやがって。
なんだと?あぁさてともうひと眠りするか。
なんだあいつは。
これだから侍は嫌いなんだよ。
小弥太さんと長庵先生ですか?ああ。
芸者玉竜こと稲妻お竜。
じゃあ御前の指令を受けたってのは。
ええ私です。
役立たずどもめ。
なんのために金を払ってお前たちを雇っていると思うのだ。
あの者たちが中州新地に潜んでいるのはまず間違いない。
あいつら中州で誰か捜しているのか?その方らまことの狙いに気づかれてはおらぬだろうな。
面体がわからぬようこしらえ手当たりしだい暴れまわっておりますれば気づかれるはずありません。
ねずみか。
もう猶予はならん。
今宵再び中州を襲う!手勢を増やし若い女を洗いざらい引っさらうのだ。
はっ。
しかしお竜さん奴らなんだって中州ばかりを何度も狙うんだい?そこがわからないんだよ。
ただのごろつきなら他の盛り場にも現れそうなもんなんだけどね。
中州でなければならないわけがあるのでしょうか?中州ね。
(十蔵)その中州を探っていたところよ。
井坂の旦那。
いてっ。
今日こそ奴らをひっ捕まえて狙いを吐かせるつもりだったんだがおめえらが余計な手出しをするから逃げられちまった。
あっなんだとこの野郎。
もしかして旦那も?ほい。
ご下命を受けて用心棒として入り込んでいたのよ。
なんだいお前。
だったらはなからそう言やいいんだよなぁ。
まずはおめえさん方の腕前を見届けさせてもらったぜ。
ふん。
でお気に召したのかい?うん?ふふん。
ふふん?おいおいちょっと待てお前それは俺の酒だ。
まぁいいじゃないですか。
なに勝手によかねえよ。
人の足は踏むしお前。
(お吉)大変だよ大変だ!お吉ちゃん。
なんだい。
旦那?旦那?来てたんですね。
お吉知ってたのかい?それよりあいつら今夜もういっぺん中州を襲う気だよ。
なんだって?手勢をかき集めて大勢で向かう算段をしてる。
くそっ寝込みを襲う気か。
奴ら中州で誰か人を捜してる様子だった。
そいつは女かい?ええ。
やはりな。
あの連中女をつかまえちゃ袖をめくり上げて腕を見ていた。
何かの目印を確かめていたのかもしれねえな。
若い女を洗いざらい引っさらうって言ってた。
洗いざらいだと?おいしい天ぷらいかがですか?そんなことはさせねえ。
(早苗)どうしてもここを出なければなりませんか?夜の明けぬうちに出立しましょう。
明日にもまた襲ってくるやもしれません。
あのならず者たちやはり追っ手でしょうか?まず間違いなく。
ではここに潜んでいては中州の人たちに迷惑がかかりますね。
はい。
江戸の様子を見張るにはもってこいの場所だったんですがね。
しかたがないさぁお支度を。
はい。
何か来る。
いぶりだしてくれるわいけ!おう。
おう。
おう。
火事だ。
火事だぞ。
しまった奴らだ。
急ぎましょう。
火事よ。
(悲鳴)若い女は皆生け捕れ!一人も逃すな。
おう。
お玉女房を返せ。
お前さん!邪魔だばばあ。
おばさん危ない!うっ。
お道ちゃん。
この女は違う。
(お道)おっかさん…。
おっかさん…。
お道!この悪党めあ〜!うるせえ。
(半鐘の音)これはいかん。
屋根づたいに逃げましょう。
お加代お加代!お加代!お母ちゃん。
お加代お加代。
お母ちゃん…。
(泣き声)なりませんこの人たちを身代わりにして私たちだけ逃げるわけにはいきません。
お道ちゃん。
おいしっかりするんだ目開けるんだお道ちゃん。
お道ちゃん!許せねえ。
隠密同心心得の条。
我が命我が物と思わず。
武門の儀あくまで陰にて己の器量伏しご下命いかにても果たすべし
若い女を引っさらえいぶりだすのだ。
おう。
化け物じみた悪党どももう許しちゃおかねえぞ。
命が惜しい奴は二度と来るなと言ったはずだぜ。
大川ならぬ三途の川をまとめて渡ってもらおうか。
こんな無法者相手なら荒療治もしかたがない。
覚悟を決めてかかっておいで。
お前たち何者だ!隠密同心十文字小弥太。
同じく井坂十蔵。
同じく稲妻お竜。
同じく原長庵。
同じく不知火お吉。
(笑い声)たった五人で何ができる。
叩っ斬れ!おう。
〜お前たちは女を連れていけ。
はっ。
女を放せ。
逃げろ早く!旦那いい腕だな。
おめえもな。
(半鐘の音)店が店が。
ひるんではなりません。
皆で消し止めるのです。
さぁ姫これを火よけに。
これしきのぼや恐れるな。
中州を守れ中州を守るのだ。
落ち着け水だ水だ。
皆列を作って。
並べ並べ。
早くしろ。
くそっ。
おい逃げたのは誰だ。
お前ら誰に雇われた?言え!うっ。
しまった。
急げ中州の方角だ!おう。
火付けは大罪問答無用でぶった斬る。
これは…。
さぁ大変だ大変だ大変だ。
中州新地の盛り場で今度は火事騒ぎだ。
さぁ買った買った買った。
やれ火を消せやれ水をかけろ。
中州の連中は大変な騒ぎださぁ買った買った買った。
押すんじゃねえ。
こいつはひでえ話だ。
斬り合いのことは書かれていないようですよ。
騒ぎが広まるのを恐れておおかた奉行所あたりが裏から手回したんだろう。
あんなにまでして悪党たちが捜していたのはいったい誰だったんでしょうね。
うむ。
なんであんないい子がこんな目にあうんだよ。
奉公なんかに出さなければよかった。
私が病になったばっかりに…。
私が先に死ねばよかったんだ。
いけねえよそんなこと言っちゃ。
お道ちゃんが悲しむぜ。
お道!おじちゃん俺…。
仇を討ちてえ!姉ちゃんの仇を討ちてえよ。
三吉。
ごめんな守ってやれなくて。
(定信)騒ぎの黒幕はまだ見つからぬのか?
(勘解由)はっいまだ突き止められずまことに申し訳ござりませぬ。
まぁよいいずれわかる。
隠密同心たちの働き大儀であった。
ははっ。
わしはのこの折に中州新地を一掃しようと思うておるのだが。
はっ?あの地は大川が増水すれば水に浸かる恐れがある。
また悪の温床となりやすく此度のような騒乱も起きる。
なれど中州で暮らしを立てている者も大勢おりまする。
立ち退かせるにあたってはよい替え地を与えよう。
そうじゃ。
跡地には学問奨励のための聖堂を建てよう。
なるほどそれはよいご思案。
わしはのご政道を誤らぬため常に自らに問うておるのだ。
享保の頃幕政を一新なされた我が祖父徳川吉宗公ならばいかがなされるかと。
吉宗公の改革にならって歪んだ世を正すのがわしの役目じゃ。
はい。
そこでもう一つ思案がある。
石川島に無宿者や入れ墨者を集め人足寄場を作ろうと思う。
道を外した者にもやり直す機会を与えるということですな。
うん。
民への慈悲こそ国を治める良策。
申し上げます一橋候がお見えにござります。
今参る。
御三の一つ一橋家の当主治済は十一代将軍家斉の実の父であった。
御三とは将軍家跡継ぎの予備軍として吉宗が創設した大名家である。
先の将軍家治の子が急死したため一橋家から家斉が養子に入り徳川家と将軍職を継いだしかし
上様の御成り〜。
生涯に五十三人もの子をなしおっとせい将軍とあだ名された家斉は政務よりも女たちの品定めに忙しかった
面を上げ。
はい。
(家斉)今宵はあの者を呼べ。
かしこまりました。
(治済)近頃上様におかれましては色事…。
いや奥向きのことに精を出されて政に身が入らぬご様子と承るが。
お年若ゆえしかたありますまい。
改革にまい進していただかねばならぬ折ははは育て方を誤ったのかと父として気をもんでおります。
ご改革のことはこの定信にお任せあってどうかご案じなさらぬよう。
はぁ。
口を出すなと?決してさようなことは。
田沼を追い落とすことができたのは御三家御三のお歴々とりわけ一橋様の力があればこそにござる。
小姓風情から成り上がった田沼などに国を預けるわけにはまいらぬゆえなははは。
おのおのが身分をわきまえ上下の区別をつけねば世は治まりませぬ。
さよう。
それにしても上様の奥通いがすぎるとはるばる薩摩の島津家から嫁入りした御台様がお気の毒での。
舅として面目ないわ。
白河家に養子に入った定信も御三のひとつ田安家の生まれである。
この二人は共に八代将軍吉宗の孫従兄弟同士であった
(寔子)ほらほらお玉。
いい子ね。
上様がまた新参の女中に手をおつけ遊ばしたそうにござりまする。
そうか。
このところお渡りがないのはそれゆえか。
御台様がお気の毒でございます。
子を作るのも大切なお役目ですよ。
お世継ぎがいなければ徳川宗家が途絶えてしまいますもの。
それにしてもああ次から次へと。
節度というものがございましょうに。
上様の血を引く子は多いほどよいのです。
養子や嫁に出せばどの大名家も一橋家の血筋になりますものね。
これ爪を立ててはならぬ。
締まり屋の老中は畳ひとつ代えてくれないのですよ。
清廉潔白との評判なれどあれはただのどけちにございますね。
困ったものです。
幕政を揺るがす事件が起きたのはその年の秋のことであった
訴えの者にござります!控えよ直訴は許さぬ。
何事じゃ!
(発砲音)逃げたぞ追え!御老中の駕籠が襲われた?ご公儀の威信に関わるから表沙汰にはできないんだけれど御前の話ではお命が危うかったそうだよ。
襲った奴の目星はついてるのかい?得体の知れない浪人たちでそれも斬り合いで死んじまったから。
う〜ん。
内々の探索じゃ手配書を回すわけにもいかないね。
(長庵)これは?一味の中に一人短筒を使う男がいてそいつだけが逃げ延びたんだ。
その時に落としていったのがこの根付だよ。
手がかりは短筒と女物の根付か。
妙な取り合わせだな。
まあかわいい!あ。
へえ竹細工の中に鈴が入ってるのね。
ちょっと返してくんなよ大事なもんなんだ。
あら誰かにあげるの?いやそんなんじゃねえよ。
だったらなあに?赤い紐の根付。
女持ちでしょ?いや。
私がお客さんから頂戴したのさ。
ほらちょいと珍しい細工だからみんなにご披露してたんだよ。
そうそう。
なんだ玉竜姐さんのか。
ふふふ。
へへへ。
十蔵:水が出たぞ〜みな早く逃げろ急げ!水が出たぞ〜!早く逃げろ!早く逃げろ!
(山川)こっちだ!早く逃げろ!早く逃げろ!急げ!誰かいないか?誰もいないか?喜八郎お前なのか?旦那いったいどうなすったんです?これに見覚えでもおありですかい?じっと見ていなさったけど。
いいや。
ただ少し気にかかることがある。
しばらくこいつは借り受けるぜ。
ちょっと待っておくんなさい。
あ?その気にかかることってのをどうか話しておくんなさい。
お主らに話すようなことじゃねえよ。
おいおい俺たちは互いに命を預けあって危ねえ勤めを果たしているんだぜ。
隠し事をされていたんじゃ信用できねえや。
人間なんぞそう簡単に信じられるものじゃねえ。
おい。
ご下命は果たす。
だが役目を超えて踏み込んで来られちゃ迷惑ってもんだぜ兄さん。
旦那。
なんだいなんだい妙な隔てを作りやがる。
え?けっこれだから侍は厄介なんだ。
いらっしゃいませ。
短筒と竹細工の根付を手がかりに隠密同心たちは姿を変え逃げた男の探索を続けた
連発式の短筒なんて作れますかね?連発?作れるわけねえだろそんなもんお前。
ごめんください。
はいいらっしゃいませ。
おたずねしますこちらの根付ご存じですか?ほう鈴でございますね。
おじさんおじさん。
このへんで竹で作った根付を商ってるとこ知らないかい?
一方奉行所側も秋草らが秘密裏に犯人を追っていたがその行方はようとして知れなかった
よ〜し。
おお長庵先生。
ああいい湯だな今日は姉さんちょっとごめんよ。
俺は隅が好きなんだいあ〜。
いや〜ああ長庵何かわかったかい?いえまだ何も。
そうかこっちもだ。
姉さん何かわかったかい?気持いいねこりゃどうもええ?おったいさん来てたのかい。
おい長庵なんだい?このぼろ切れは。
以前中州の騒ぎのときに拾ったんですよ。
気になってずっと持っていたんですが。
なんだいなんか硬くて妙な手触りだね。
どうやら火浣布のようです。
かかかか?火浣布。
火浣布なんだいそりゃ。
『かぐや姫』の話に出てくるでしょう?火ねずみの皮衣。
おおっあの火にくべて燃えなけりゃ本物だってやつかい。
これは本物です。
ほら。
ほう。
石綿を糸にして織ってあるんです。
だったらこれで火消しの刺子半纏作りゃいいのにな。
たやすく作れるものではありません。
これを作れるのは日本でただ一人。
平賀源内先生だけです。
ああ源内?私の医術の師匠杉田玄白先生の盟友で蘭学の大天才ですよ。
しかし火浣布はご公儀に献上したはず。
どうして中州に落ちていたのかな?平賀源内ね。
あっちょっと待った!源内先生といやあエレキテルの御仁ですよね。
生きてりゃまたおもしろいことをやってくれたんでしょうが。
生きてりゃ?亡くなったんです。
もう10年以上も前に。
ひょんなことから人を殺めてご牢内で病死しました。
ふ〜んそうかい。
エレキテルを作ったり土用にうなぎを流行らせたりずいぶんと瓦版のねたにさせてもらいました。
ああああ幽霊でもいいから出て来てくんねえかな?そうすりゃまた瓦版も飛ぶように売れんのに。
おい善公おめえも瓦版屋ならこんなとこで油売ってねえで駆けずり回ってねた拾ってきな。
そうおっしゃいますけどね。
なんだい。
ねたの宝庫だった中州新地も取り潰されて今じゃあ孔子様を祀る聖堂があるっきりだ。
そうそうおもしろいことは起きやしませんよ。
中州新地か。
いらっしゃいまし。
こいつはいい絵だ。
まあお客さんお目が高いあの店はどうしたかな?ぴんぞろの丁と出ました。
(笑い声)壺。
よござんすかよござんすね?ぴんぞろの丁かぶります。
さあさあはいどうぞさあはってはって。
半!半。
丁。
(山川)半。
丁半こま揃いました勝負。
四六の丁。
丁と出ました。
丁と出ました。
お客人もう少し遊んでいきなせえ。
(山川)いや世話であった。
ちょいと兄さん。
へい。
今のご浪人さんどういった筋のお方でござんすか?さあこのあたりでは見ねえ顔ですね。
すまないけどちょいと代わっておくんなさいな。
へえ。
「かごめかごめ籠の中の鳥は」おじさん誰?いやすまぬ。
(尺八)あれは。
(尺八)俺だよ。
井坂さん。
捜したぞ喜八郎。
今更何の用ですか?これに見覚えがあってな。
老中が襲われた場所に落ちていたそうだ。
落としていった者は短筒の使い手だったと聞く。
喜八郎お前なのか?国許の銅山で働いていた折山まわりの警護のためお前は鉄砲の腕を磨いていた。
そしてこの竹細工。
よ〜しそろそろ交代だ。
みんな頼むぞ。
へい。
気をつけて行け慌てるな。
喜八郎何を作っているんだい?娘への土産にと思いましてね老中を襲ったのはお主か?待て!待て喜八郎!俺を捕らえに来たのか?そうではない他の者より先にお前を見つけたかったのだ。
何があったのか聞かせてくれ。
喜八郎!あと半月もすれば何事もなく山を下りられるはずでしたあの出水さえなければ。
(山川)大勢の坑夫が水に飲まれて。
井坂さんも私も無理な採掘をしては出水の恐れがあると幾度も訴えていたのに。
あげくはあの出水です。
それを銅山奉行と代官がぐるになって。
その方ら人足どもを引き連れて持ち場を離れたこと不届き千万!お待ちください坑道を出なければみな溺れ死んでいたところです。
また出水の恐れがあることを報告せずお家の銅山に莫大な損害を与えた怠慢は許しがたい。
ばかなことを何が怠慢ですか。
我々は幾度も上申いたしました。
控えよ!この調べ間違うておりまする。
今一度お調べくだされ!私たちは禄を召し上げられ国を追われた。
ご公儀へのうらみからか?お前が老中襲撃に加わったのは。
そんなんじゃありません金ですよ。
食うや食わずの貧しさのなか妻が病に。
医者に診せる金欲しさに盗みを働いて捕まったんです。
武士の誇りも何もない!落ちるところまで落ちました。
喜八郎。
ところがある日牢から引き出されて。
町村:引き受ければ罪一等を減じるうえおのおのに金子十両をつかわす。
このなかに鉄砲の使い手はおるか?これは南蛮渡りの品じゃ。
(一同)わあ!それがしが。
しくじるなよ。
は!ご妻女はどうしたのだ?家に戻ったときにはもう死んでいました。
そうか娘ごは?智寿は積もった借財のかたに女衒に連れて行かれたあとでした。
身請けの金を作ろうと通った賭場でも裏目裏目と出て。
運の悪い人間は何をやってもだめです。
井坂さん奥方は?離縁して里に返した。
銅山奉行や代官は今ものうのうと暮らしているのに。
待て。
お竜いつからそこにいた?旦那その人をどうするんです?ご下命に背くおつもりですか?このお方は黒幕の正体を探る大事な手がかり。
井坂さんやはり役人の手先だったのか!ちがうそうではない喜八郎!そこをのいてください。
のかぬ。
私も元は御家人の娘。
貧しさゆえに芸者に売られたこの身です。
無念な思いはお察しいたします。
あの男を死なせるわけにはいかぬ。
お願いですのいておくんなさい。
いたぞあの男だ!どけそこをどけ!よせ!うわ〜!この奸賊めが!喜八郎。
旦那!ち智寿。
喜八郎!喜八郎しっかりしろ!なぜ斬った?お前もこの男の仲間か?こいつは天下の大罪人。
見つけ次第斬り捨てろとのお達しだ。
誰が誰がこの男をここまで追い詰めたと思うのだ?許せん。
手向かうなら貴様も斬るぞ。
旦那!
(町村)待て秋草。
御奉行。
得体の知れぬやつ生け捕って責め問いにかけよ。
はは。
縄を打て!
(一同)は!よくぞ仕留めたな秋草。
は!旦那…。
当たり!へへへ。
おっ新入りかい笑うと色っぽいね。
垂れ目ってのが好きなんだよね。
よしじゃあ次は私が。
おっやるか?はい。
残念でした。
弓矢はどうも苦手です。
へへへそろそろお吉がつなぎつけに来る時分だがな。
あっここにいたのかい!おい違ったい。
大変ですよ。
大姐御のお出ましだ。
軽口叩いてる場合じゃありません井坂の旦那が!ちょっとちょっとちょっと。
井坂の旦那が捕まった?奉行所に連れていかれたんですか?それが…。
(町村)何をかぎ回っていたのだ?何も。
あの男から何を聞いた?なぜ虚無僧のなりをしている?浪人じゃ飯が食えねえからな。
素浪人のわりには腕が立ちすぎる。
誰ぞに雇われたのではないのか?ははは。
打て。
骨が砕けるまで打って打って吐かせよ。
(一同)はっ!頭巾の男は確かに御奉行と呼ばれてたんだな?ええ秋草という男に。
秋草。
小役人のなまくら刀で俺が斬れるかな?秋草新十郎狼藉者は斬り捨てる!北町奉行所同心秋草新十郎か。
すると頭巾の男は北町奉行の町村典膳?町奉行がなぜあんなところを吟味するんでしょうか?う〜ん。
そうか旦那わざと捕まったな。
え?旦那と秋草なら腕は互角だむざむざ捕まったのはお竜姐さんにあとつけさせてそいつの正体を突き止めるためだ。
きっとそうですよ。
待てよ。
中州を襲った悪党どもを束ねていたのも立派な身なりの頭巾の男。
ではあれも御奉行が?とにかく早く旦那を助けにいかないと。
しかし奉行所が絡んでいるとなると御前にお伺いを立てたほうが。
もたもたしてたら本当に殺されちまいますよ!お竜さんお竜さん!珊次郎さんどうかしたのかい?おっ姉さんひとつ頼まれてくんな。
あいよ承知。
頼んだよ。
長庵行くぞ!はい。
ちっあいつがいるんじゃ厄介だな。
おい!火だ!なんだ?今だ!旦那しっかりしておくんなさい!ひでえことしやがるぜ。
大丈夫です息はしっかりしてます。
そうかい。
やはり来たかい。
おうよ。
北町奉行の町村典膳って野郎が動いてる。
ああ。
大事な生き証人をあの野郎何の詮議もせずに斬り捨てやがった。
あれは口封じだ。
山川に老中暗殺を命じたのもおそらくあの奉行だ。
ごほっだがなまだ何か裏があるはずだぜ。
わかったまずはここを出るんだ。
俺はいい。
ご下命に背いたんだ。
旦那ばかを言わないでおくんなさい!山川を逃がすつもりだったんだ。
もう隠密同心には戻れねえ。
つまらねえ意地張るんじゃねえよ。
すまねえな。
いいってことよさ行くぜ。
おうすまない。
くせ者の仲間が現れたか。
秋草。
その太刀筋抜刀無念流だな。
旦那は新陰流かいあのときの男か。
やはり天下騒乱を企む者たちの一味だったのだな。
違う俺たちは御老中襲撃には関わりはねえ。
なぜそのことを?それは…。
待て。
黙れ!許さん。
うっ!旦那!旦那!小弥太こいつを使え。
旦那とは命のやりとりをする運命のようだな。
なんだ!?えいえい!開きません。
小屋を閉ざしてなんとする気だ?勘違いするない俺たちじゃねえ。
ちょっと待った。
なんだかきな臭いよ。
これ火薬です。
奉行の奴小屋ごと吹き飛ばす気か。
ばかな俺たちがまだここにいるのに。
わからねえのかい。
おめえも奉行の捨て駒に使われたってことさ。
開けろ!開けぬか開けろ開けろ開けぬか!くそこれまでか。
これで厄介な奴らが一気に片づいたわ。
は。
功を焦った同心が大事な証人を斬り殺し勝手に詮議を行ったあげく悪漢どもの自爆の道連れにされた。
ははは。
奉行所の記録にはそう記しておけばよかろう。
では早速次の一手を。
御老中のお乗りものとお見受けいたす。
何者だ?お命頂戴!あいにくだがな御老中は別の道行ったよ。
何者だ?人に名を聞くときはそっちから名乗りな。
雇い主の名を言え。
うう!白状すれば命まではとらん。
うう!誰に頼まれた?言え。
(町村)もうじき老中の首を討ち取ったとの知らせが届く。
今度こそ抜かりはありますまいな?中州ではしくじった。
思わぬ邪魔が入ってお探しの女を献上できなかったが今宵の首尾は上々。
密命を果たしたうえはご加増の件改めてあのお方に願い出てもらいたい。
老中の首を見届けましたらただちに。
一万石にご加増となれば大名の仲間入りだ。
身分卑しき田沼意次が老中首座まで上りつめたのだ。
わしとて若年寄の席くらい望んでもよかろう。
あのお方の密謀に手を貸したのだからな。
左様なことはうかつに口にされぬほうがお身のためかと存じます。
なに聞いているのはそなたとあの月ばかりだ。
日ごとに満ちる上弦の月か。
ふふふわしの行く末を占うようじゃ。
あいにくだがお前の行く先は地獄だぜ。
隠密同心十文字小弥太。
同じく井坂十蔵。
同じく稲妻お竜。
同じく原長庵。
同じく不知火お吉。
お前たちは秋草ともども吹き飛んだはず。
間一髪間に合ったのさ。
小梅村のぼろ小屋?珊次郎さんがお吉さんが来たらそう伝えてくんなってさ。
ありがとよ不知火吉兵衛を知っているかい?不知火…。
あの伝説の大泥棒か。
私はその吉兵衛の忘れ形見。
錠前破りに手裏剣投げ縄抜けに早変わり。
盗人の秘伝はひと通り子供の頃から仕込まれているのさ。
これまでか。
(お吉)小弥太さん!小弥太さんみんな!こっちだよ天井切りぐらい朝飯前だよ。
くっ。
駕籠を襲った奴が白状したよ。
御奉行に頼まれたってな。
ふんでたらめを言うな。
中州の騒動も裏で命じていたのはあんただね。
天井裏で話は聞かせてもらったよ。
しかし町奉行風情がおのれ一人の了見で老中を狙うとは思えねえ。
誰が書いた筋書きか話してもらいましょうか。
え〜いくせ者じゃ!出あえ出あえ!
(一同)おう!斬れ一人残らず斬り捨てよ!てめえら斬り合いなんざとは何の関わりもねえ健気に生きている人たちの命を虫けらみてえに扱いやがって。
許せねえ!おおっ秋草!よいところに戻ってきてくれたこやつらを斬り捨てよ!おめえさんまだ目が覚めねえのかい?ななんだ?俺は。
俺はあんたの捨て駒じゃない。
悪は問答無用で叩き斬れ。
そう命じたのは御奉行だ。
待て!殺すんじゃねえ。
そやつからはまだ聞かなきゃならねえことがある。
なれど…。
黒幕を突き止めるんだよ。
でなきゃ山川の無念が晴らせねえ。
町村。
てめえ誰の指図で動いてるんだ?言わねえかい!なななぜだ?これは…茶の湯に毒が。
しまった大事な証人が。
(勘解由)一同の働き大儀であった。
町村を死なせ申し訳ございません。
一万石の加増を願い出るそう申しておったのだな?はい確かに。
そのような法外な加増上様に願い出ることができるのは老中首座定信様しかおらぬはずだが。
いやもうお一人おった。
しかしそのようなことが…。
(治済)またしくじったか。
欲ばかり深くて使えぬ男であった。
町村の始末つけてきたであろうな?は。
隠密同心とは何者だ?中州を襲わせた折にもその者どもが現れ探索の邪魔をしたと聞くが。
老中のお声がかりで集められたようにござります。
定信め。
こしゃくなまねを。
まずはあの者たちを倒しますか?いや捨てておけ。
下手に動いてこちらの動きをつかまれても面倒だ。
はっ。
だが当分定信を襲うすきはあるまい。
やはりあの娘を手に入れねばならぬ。
定信が血眼で追っているなにやら妙な力を持っているらしいあの女を。
見よそなたが探し出してきたこの絵。
あの娘蝦夷地の秘密を握っているに違いない。
ひっ捕らえて定信の清廉潔白の仮面引っぱがしてくれるわ!早く見つけ出せ。
江戸のどこかに潜んでいるはずだ。
(十蔵)喜八郎。
その積み石は…。
申し訳ござんせん。
あのとき私がとめだてしたばっかりに。
山川は国許でもこの江戸でも上の者たちの欲に振り回され虫けらのように殺されてしまった。
黒幕はきっと突き止める。
でなけりゃ喜八郎が浮かばれぬ。
はい。
旦那は?ん?里に戻った奥様に便りを送っておいでですか?いや。
文を書いておあげなさいまし。
きっと旦那の身を案じておられると思います。
望んで離縁なすったわけじゃないのですから。
書いても送る宛がないのだ。
え?それは?形見だ。
妻は自ら命を絶った。
十蔵:帰ったぞ。
久栄?久栄!なんだってこんなことを!しっかりしろ久栄!
(久栄)ああ…旦那さ…。
死なんでくれ久栄!久栄!代官と銅山奉行は秘かに銅の横流しをしていた。
出水の詮議から不正が発覚することを恐れそれをも俺たちのとがにすり替えた。
なんて非道な。
(十蔵)関わり合いを恐れた里からも絶縁され妻は行き場を無くし…。
せめて墓だけでも建ててやりたい。
お竜。
お辛うございましたな。
旦那も奥様も。
(秋草)もし。
秋草殿そのお姿は?それはあの男のか…。
ほ〜ら。
(笑い声)おおすまねえな。
一橋のお殿様えらいご威勢だってね。
おおよ。
将軍様のお父様だぜ。
上様がお若けえからうちのお殿様が陰で指図すりゃ世の中が動くって寸法さ。
そうかいまあ飲みねえ飲みねえ!あぁ。
何しろうちの殿様はここがいい。
薩摩の島津様から寔子っていう嫁をもらっておいたんだから。
外様大名の姫が将軍の御台様になるなんて聞いたことがねえよ。
外様でも島津は金をたんまり持っている金と力。
殿様はその両方手に入れたってわけさ。
は〜てえしたもんだな!よっどうだいもひとつ飲みねえ!すまねえなあ。
でもよ上様の側には老中の松平定信様がいるだろ?それが目の上のたんこぶさ。
えらいお方だって聞いてるよ。
けどなあれだけ力を持っちゃなんのこっちゃねえ第二の田沼よ。
老中が第二の田沼。
だがなうちのお殿様もあんまり欲をかいちゃいけねえな。
運よく将軍お世継ぎの話が転がり込んできたのも馬のおかげじゃから。
馬。
お結。
俺は誰よりも武士らしくありたかった。
貧乏御家人の三男坊として生まれ生涯厄介者の冷や飯食いで終わると先は見えてた。
ただ一つの憂さ晴らしが剣術の稽古だったんだ。
や〜!や!や〜えいや〜えい!えいえいえい!
(秋草)剣の腕を見込まれ俺は秋草の家に養子に入った。
金で御家人株を買った成り上がりの家が今度俺のために同心の株を手に入れたんだ。
金で買った同心株と蔑まれぬためには手柄を上げるしかない。
ご下命とあらば問答無用で人を斬った。
この奸賊めが!うう!悪の手先に使われた俺にもはや人を捕らえる資格はない。
奉行所にも養家にも暇を乞うてきた。
旦那とは不思議に縁が深え。
どうだいこれからは俺たちと手を組まねえかい?隠密同心か。
ああ。
俺はそなたの友を斬った男だ。
仲間として受け入れ信じることができるか?そいつはできねえ相談だな。
旦那。
これを預からせてはもらえぬか?あの人の供養をさせてくれ。
すべてはそれが済んでからのこと。
わかりました待ってますよ。
(鈴の音)お世継ぎが馬に蹴られて死んだだと?はっきりとは言えないんだけど今の将軍家斉様が徳川家に養子に入ったのは本来のお世継ぎが急死したからだろう。
それこそお前殺されたってんじゃねえだろうな?御前の話では当時は老中の田沼様が毒を盛ったっていう噂も流れていたらしい。
その噂私も聞いたことがあります。
家基様はまだ十七歳とお若く持病もなかったそうですから。
ところが亡くなられたのは鷹狩りから戻ってすぐのことなんだよ。
おお!誰か早くお止めしろ!あ〜誰か!打ちどころが悪かったか…。
うむなるほど。
まあ将軍のお世継ぎが落馬して死んだんじゃかっこがつかないから表向き病死ということにしたわけか。
でその馬を献上したのが一橋様なんだよ。
一橋?なんでも異国産のひどく気性の荒い馬だったらしい。
奴ら馬が暴れることを見越していたのかもしれねえな。
ひょっとしたらって話だけどね。
それがまことなら将軍ご実父となられた一橋様は大御所として存分に力を振るいたいはず。
となると邪魔なのは。
御老中定信様か。
御老中のこと第二の田沼と言ってたよ。
それじゃ北町奉行を操り御老中暗殺を仕組んだのは公方様の父親か?町村が殺されちまったから確かな証しはないけど。
許せねえ。
お上だろうが御三だろうが己の欲のために人を踏みにじる奴は許しちゃおけねえ。
だがわからねえことが一つある。
中州の騒ぎもあの一橋候が起こしたもんなら二つの件は果たしてどこでどうつながっているのか?中州新地か。
いってえあそこに誰がいたんだ?
(早苗)料亭花政の前にはニ八そば屋。
その隣の煙草屋の行灯にはかずさやと書いてあります。
店の前には担ぎ商いのお茶屋がいてただ飲み御勝手の文字。
掛け茶屋が十八軒。
(早苗)あの中州が今はもう更地に。
また一つ大切なものが消されてしまった。
(源内)さあ参りましょう日の暮れぬうちに。
(源内)しかしあの聖堂は。
(春朗)不気味ですね。
(定信)我が祖父吉宗公に願い上げ奉る。
我に吉宗公の魂を授けたまえ。
知力と武力ともに我にあり!一橋に手出しはさせぬ。
まことの将軍にふさわしいのは…。
ははははははは!はははは!なんでえけんかか?手出し無用!我らの獲物だ去れ!おい待て待て待て!おう何してんだ?てめえら。
邪魔だてするな!さあ。
引け!なんだ?あいつら。
あれ?消えた。
時は寛政。
老中松平定信の時代。
2015/01/02(金) 18:00〜20:25
テレビ大阪1
新春ワイド時代劇「大江戸捜査網2015〜隠密同心、悪を斬る!」[字][デ]
「死して屍拾う者なし」テレビ東京にて放送したあの人気時代劇が23年ぶりに復活!隠密同心が様々な手段を駆使し、裏にはびこる江戸の悪を斬り捨てていく痛快娯楽時代劇!
詳細情報
番組内容
江戸の中州新地で悪党一味が何人もの若い女をさらう事件が起きていた。旗本・内藤勘解由(里見浩太朗)により集められた十文字小弥太(高橋克典)、稲妻お竜(藤原紀香)、不知火お吉(夏菜)、榊原長庵(柄本時生)、井坂十蔵(村上弘明)…その名も隠密同心が、江戸の人々を守るために動き出す。北町奉行所同心の秋草新十郎(松岡昌宏)と対立する中、黒幕の
出演者
十文字小弥太…高橋克典、秋草新十郎…松岡昌宏、稲妻お竜…藤原紀香、不知火お吉…夏菜、榊原長庵…柄本時生、井坂十蔵…村上弘明 / 田沼早苗…波瑠、春朗…永井大、お結…新川優愛、伊兵衛…笹野高史、田沼意次…瑳川哲朗、松島…かたせ梨乃、町村典膳…榎木孝明、一橋治済…西村雅彦、松平定信…加藤雅也、平賀源内…小林稔侍/内藤勘解由…里見浩太朗
出演者2
孫六…近藤芳正、善太…林家三平、近衛寔子…小芝風花、山川喜八郎…宮川一朗太、川路左太夫…小沢和義、山川智寿…谷 花音、平太…スギちゃん、五十鈴屋の女将…滝沢沙織、巴屋忠兵衛…鶴田忍、蔦屋重三郎…山田純大、お栄…山口いづみ、島津重豪…伊吹吾郎
ナレーター…山寺宏一
原作脚本
【脚本】山本むつみ
音楽
【音楽】沢田完
監督・演出
【監督】猪原達三
制作
【企画監修】元村武(G・カンパニー)
【制作協力】ユニオン映画
【製作著作】テレビ東京
関連情報
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