耳をすませば 第2回「米倉斉加年・赤瀬川原平」 2014.12.30


こだわりを貫いて表現の世界に生きた2人が今年世を去りました。
喜代美塗り箸の作り方知っとるこ?うん?上がってこ。
独特の存在感と味わいのある演技で人気を博した俳優米倉斉加年さん。
うわ〜!きれいやろ?貝殻やら松葉やらほかしてしまうようなもんがこんなきれいな模様になって出てくる。
すごいね。
うん。
絵本作家としても知られた米倉さん。
普通に生きる事平和に生きる事の大切さを描きました。
客が多けりゃいい。
取るギャラが高ければいい。
前衛芸術家や作家として才能を発揮した赤瀬川原平さん。
人の意表をつくユニークな発想で世の中を驚かせました。
米倉斉加年さん赤瀬川原平さん2人からのメッセージです。
米倉斉加年さんは60年にわたって舞台や映画テレビなどで幅広く活躍しました。
芝居に向き合う真摯な姿は「永遠の演劇青年」と称賛されました。
やあ先ほどはどうも。
あっごめんなさい。
つい気が付きませんでした。
考え事をしてたもんですから。
米倉さんは昭和9年福岡市に生まれます。
芝居好きの祖母の影響で少年時代から演劇に親しみました。
二十歳の時本格的に俳優を目指して東京へ。
宇野重吉さんが活躍する劇団民藝に研究生として入団します。
27歳の時に出演したテレビドラマ。
感情の起伏が激しい難しい役を演じました。
俺君のおやじさんに会ったらまずちゃんと言うよ。
「僕は朝鮮人です。
生まれて育ったのは日本ですがでも朝鮮人だというので就職がなかなかうまくいかないんです。
でも真面目に働きますからどうかよろしく」って。
帰れ!その詩集をやるよ。
なぜ君を今絞め殺さなかったか教えてやろうか?君があんまりきれいだからさ。
…なんてうそだよ!うそだ冗談だ。
このドラマで父親役を演じたのが米倉さんが師と仰ぐ宇野重吉さんでした。
稽古の最中宇野さんから生涯忘れられない教えを受けました。
舞台…3か月に及んだ厳しい稽古で米倉さんは普通に演技する事を学び取ろうとします。
演技的な基礎というのかな…でも普通に言うっていう事ぐらい難しい事ないですね。
普通に生きる事ぐらい意志的で勇気がいる事はないんじゃないかな。
普通に演技するには日常を自分らしく普通に生きる事が大切だと米倉さんは感じ取りました。
(鈴木)宇野さんは米倉さんにとって今も目標という事ですか?目標っていうと宇野先生になろうとする意味ですか?はい。
あっ違います。
なろうと思わないもん。
その後「大河ドラマ」や「朝の連続テレビ小説」の常連としてお茶の間で親しまれます。
わしは武者ではないが…恥は知っている。
うっ…!およそ14秒の自害シーン。
撮影では10分以上にわたって演じました。
人はそう簡単に死なないという事を表現したのです。
あん時の事は…謝る。
おやじの箸を継がしてくれ。
あかん!お前を…許す訳にはいかんのや。
こんだけ頼んでもあかんのか?息子との葛藤を抱える父親をどう自然に演じるか。
もうええ。
もうええ!大ベテランになっても自分の演技を追い求めました。
でもああいうふうに…僕が分からない事やれば僕より優れた人はそれは理解できるんじゃないかな。
米倉さんのもう一つの顔。
それが絵本作家です。
40代から次々と絵本を発表。
絵の世界でも普通に生きる事の大切さを訴えました。
海外でも高い評価を受けた「多毛留」。
主人公多毛留は漁師の父と朝鮮から来た母との間に生まれました。
ある時差別をあらわにした父を多毛留は刺し殺してしまいます。
差別が普通に生きる事を妨げたのです。
平和への思いが込められています。
戦争中幼い弟を栄養失調で失ったつらい経験を基に描きました。
絵本を携えて子どもたちに自分の作品を読み聞かせます。
「僕が小学校4年生の時に生まれました。
太平洋戦争の真っ最中です。
その頃は食べ物が充分になかったので母は僕たちに食べさせて自分はあまり食べませんでした。
母は自分が食べないのでお乳が出なくなりました。
でも時々配給がありました。
ミルクが1缶。
母はよく言いました。
ミルクは寛征のご飯だから寛征はそれしか食べられないのだからと。
でも僕は隠れて寛征の大切な大切なミルクを盗み飲みしてしまいました。
それも何回も。
母と僕に見守られて弟は死にました。
病名はありません。
栄養失調です」。
どうもありがとう。
(拍手)73歳になった米倉さんは舞台俳優として演出家として原点に戻ろうと自分の劇団を旗揚げします。
お父さんですか?うん。
年が寄ると…それだけの…働きもできん。
(泣き声)舞台のここに草が生えてんの。
分かった?地方の劇団を回り指導にも取り組みました。

(歌声)お日様の方見て。
見てもいいのよ。
お日様見てごらん。
こっちだよお日様。
普通に言う。
普通に生きる。
演技と人生へのこだわりを伝え続けました。
歌ったり芝居したりするっていうのは自分の心がフワ〜ッと開いていく事でしょ。
そして心が開いていけばほかの人はどういう事を思ってるか分かるじゃない。
心を閉ざしてれば相手の人がどういう事を思ってるか分からないじゃない。
(シャッター音)これはすごいですね。
何気ない日常の中に芸術を見いだす。
それが赤瀬川原平さんの表現の出発点でした。
鋭い観察力と発想で世の中に一石を投じ続けました。
何かまだ…赤瀬川さんは昭和12年横浜市に生まれます。
終戦後すぐに父が失業。
貧乏生活の中身の回りに面白い事を発見しては家族を和ませる少年でした。
振り返れば思いますけどね。
6歳上の兄隼さんはしょっちゅう弟に驚かされたといいます。
そういう表現とかね。
それから…絵の才能を開花させた赤瀬川さんは高校を出ると東京の武蔵野美術学校へ進学しました。
やがて時代は60年安保へ。
若者たちが次々と既成の価値観を覆していきます。
美術の世界でも同じ事が起きていました。
赤瀬川さんは美術学校で知り合った仲間たちと前衛芸術のグループを結成。
芸術で既成概念の破壊を試みます。
屋上から鞄や服などを落としたこのパフォーマンス。
地面をキャンバスに見立てたのです。
白衣にマスクといういでたちで銀座を掃除する赤瀬川さんたち。
東京オリンピックのさなか国を挙げての美化運動を皮肉りました。
缶詰を見つめるうちにラベルを内側に貼る事を思いつきました。
再び封をすると外にある私たちの宇宙が缶の中に閉じ込められるという発想です。
このころ赤瀬川さんたちが行った奇妙なパフォーマンスが記録映画に残されています。
目的を知らされずに集まった人たち。
無言のうちに身体測定が始まります。
赤瀬川さんの芸術仲間だったオノ・ヨーコさんも参加しました。
お湯につかって体積も計測。
徹底して人体を観察したのです。
何かを置いてみるとか動かしてみるとか何かそういうところでどうなるのかなっていう事が…まあ実験ですよね。
今から振り返って言葉で言うと…観察を極めようとする精神はこんなところにも向けられました。
横1.8メートルに模写した千円札です。
完成まで6か月。
集中し過ぎて胃けいれんを起こすほどでした。
描けるかなと思って最初見た時はとても描けないと思ってですね。
それで…面白いぞというのでそれを分析しているうちに…ところが展覧会の案内状などに千円札を原寸大で印刷した事が問題となり通貨模造の容疑で起訴されてしまいます。
世間の注目を集めた千円札裁判。
赤瀬川さんは思いがけず芸術作品の意味を言葉で説明する事になります。
6日間ありましたかね。
5年にわたる裁判で執行猶予つきの有罪判決が確定。
しかし赤瀬川さんはこの経験を通して言葉にする面白さに目覚めます。
やっぱり…そういう気持ちは。
ただやっぱ書きたいというのはあるんですよね。
夢中になった赤瀬川さんは純文学小説に挑みます。
尾克彦というペンネームで芥川賞を受賞。
父の遺骨を納める墓地を探す主人公の心の動きをつづりました。
自分の本は一番奥にまとめてあるんですよね。
その後小説やエッセーを次々と発表し著作は120冊を超えました。
(拍手)何でも面白がろうという精神はとどまるところを知りません。
49歳の時今度は路上観察学会を作ります。
カメラを片手に美しいものではなく意表をつく景観を探します。
東京・四谷で見つけたこの不思議な階段。
上って下りるだけ。
目的のない階段です。
赤瀬川さんは路上には芸術を超える超芸術が潜んでいるといいます。
あとちょっと押せばもうゴミに落ちちゃうみたいにギリギリ建ってるという。
まあ何だか分からないんですよね。
装飾ではないですよね。
それで別にどこか例えば…路上の超芸術を求めて全国を歩きました。
何気ない日常の中に芸術を見つけ出すという赤瀬川さんの思いは路上観察で花咲いたのです。
観察へのこだわりが生み出したエッセー「老人力」。
老人力という言葉は路上観察の仲間内の冗談から生まれました。
物忘れや目のかすみといった自分の老いを観察しそれを前向きに受け止め逆に楽しんでしまおうという発想です。
「老人力」は多くの高齢者を勇気づけベストセラーに。
平成10年の流行語大賞にも選ばれました。
実際に年取ると。
おお格好いいね。
言えるんですよ。
そうするとぽっと感じて体でこれはいいないい色だなとか…仕事の上でも何でもね。
「老人力」の中にこんな一節があります。
最後の最後まで「普通」にこだわり芝居への情熱を抱き続けた米倉斉加年さん。
だから僕は「普通に言う」というのはもうこれは役者始めた最初の芝居で出された「だめ」だけど…どんな時も発見と感動を大切にした赤瀬川原平さん。
見てるけど気が付かないものを気が付く面白さというのは…こだわりの人生を生き抜いた2人からのメッセージでした。
2014/12/30(火) 07:20〜07:45
NHK総合1・神戸
耳をすませば 第2回「米倉斉加年・赤瀬川原平」[字]

ユニークな才能で世の中に一石を投じながらも、今年惜しまれつつ亡くなった俳優・米倉斉加年さんと作家・赤瀬川原平さんのこだわりの原点が語られる。

詳細情報
番組内容
今年惜しまれつつ亡くなった著名人の言葉に耳を傾けるシリーズ。2回目は米倉斉加年さんと赤瀬川原平さん。米倉さんは宇野重吉に師事、舞台、テレビドラマ、映画で活躍し、絵本作家としても才能を発揮した。赤瀬川さんは前衛芸術家として世間を驚かす作品を発表し続けたほか、小説家の顔も持ち、「父が消えた」で芥川賞を受賞。路上観察学会の活動もユニークだった。2人のこだわりの原点が語られる。
出演者
【出演】俳優・絵本作家…米倉斉加年,前衛芸術家・作家…赤瀬川原平,【語り】加賀美幸子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – インタビュー・討論
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント

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サンプリングレート : 48kHz

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