昔ある家の天井裏に主のようにとりついた貧乏神がいた。
そうだ。
わしはれっきとした神様じゃ。
人の世に貧乏のつらさや苦しみをたっぷりと教えてやるのが仕事…。
じゃがそれがどうもうまくいかんのだ。
というのも竹を編んでカゴやホウキを売り歩くこの夫婦。
一向に貧乏に音を上げる様子がないからだ。
足を棒にして売り歩いても晩飯はいつもわずかな粥ばかり。
なのにいつもこうして笑顔でいられては貧乏神としては失格である。
今夜も何とかお粥がいただける。
家神様のおかげじゃ。
ほんとにありがとう。
あちゃ〜。
家神様ったってわしゃ貧乏神じゃぞ。
ありがたがられちまったらおしまいじゃ。
その不安は的中した…。
年の瀬のある夜…。
き来た!天の神からの辞令がついに来た〜!「貧乏神の仕事が全うできておらぬようじゃ。
ならば今年中に家を出ろ。
代わりに福の神を送る」。
え〜っ!この寒空に家探しとはあんまりだ〜!夫婦はお正月を迎えるために神棚をきれいに掃除した。
何もお供えできません。
お神酒の代わりに山の湧き水を汲んできました。
(2人)家神様今年もお世話になりました。
来年も私どもをお守りください。
来年たってわしゃおらんのに…。
(泣き声)泣き声じゃないかね。
た確かに…。
(2人)うわ〜っ!すまん。
貧乏神様だったとは。
それじゃ私たちの貧乏暮らしは…。
そうだわしのせいだ。
でもどうして泣いていたんです?うっ…そそれは…。
貧乏神がこの家を追い出されることを知っても夫婦は喜ぶどころか心から同情した…。
大みそかだから特別な大根入りのお粥じゃ。
冷めんうちにどうぞ。
そりゃあ貧乏はつらいがくじけそうなときは元気をつけるおまじないをするんじゃ。
まじない?こんな粗末な夕飯でも腹があったまったらこう腹をさすってのふっくらぽっくり力もりもりってな。
元気が出るぞ。
やってみてくだされ。
無理よ。
だって貧乏神さんは神様だもの。
(笑い声)貧乏神さんはこの家の大事な神様じゃ。
ドーンと構えていつまでもいてくだされ。
(鐘の音)除夜の鐘じゃ…あいつが来る…。
(2人)あいつ?福の神が来る〜。
オーホッホッホ。
(2人)福の神!?嫌だ〜!わしは代わりたくねえ!
(2人)貧乏神さん。
(物音)ごめん!わしは福の神だ!フン…薄汚ねえボロ屋だな。
こら!福の神が来てやったんだ。
茶の1杯も出さんかっ!偉そうなやつだな。
こんな神様は嫌い!私この神様がいい!ひえ〜。
なんじゃ貧乏神まだおったのか。
早う去れや!待て福の神!この家をどっちが守るかここで相撲を取って決めねえか!なに相撲?そうじゃ。
お前が勝てばわしが去る。
もしわしが勝ったらお前はとっととここを去れ!おもしれえいいとも。
貧乏神と福の神の相撲が始まった。
お前のような骨と皮はわしがひねりつぶしてやるわい。
そうはいかんぞ〜!くっ…くっ…。
どうじゃわしは重いぞ。
それそれ〜!うっ…。
頑張れ貧乏神さ〜ん!ふっくらぽっくり力もりもり!よ〜し!ふっくらぽっくり力もりもり!ぐお〜っ!ああ〜!頑張れ〜!よしいけ!よ〜しよ〜し!
(2人)わ〜い勝った勝った!貧乏神さんが勝った!なんじゃいこんな家!イテテテ!一生貧乏してろ!ハァ…ハァ…勝ってしまった。
あれ?なんと福の神は打ち出の小槌を落としていった。
正月じゃのう!
(2人)家神様おめでとうございます。
この小槌わしが使ってはならぬものじゃがのう…。
えい!えい!えい!
(2人)わぁ!お餅もお米もこんな新しい着物もありがとう!あ〜また天の神に怒られる。
貧乏神さん。
え…。
嬉しいお正月ありがとう。
じゃがお年玉はこれっきりじゃぞ。
もう二度と使わん。
わかってますよ。
もう十分です。
この夫婦は年が明けても相変わらず貧しいままだったが一生懸命働いて少しずつ蓄えも増えていき次の大みそかにはようやく神棚にお神酒をお供えできるようになった。
今年はおかげでこんなによく売れました。
明日は野菜たっぷりのお雑煮をいただけます。
わしゃ知らんぞよ何もしとらんからの。
ぐぅ〜ぐぅ〜。
こらいいかげんにしろ。
貧乏神がついとってこれじゃあまずいよなぁ〜。
昔むかしそりゃあ貧乏な爺と婆がおった。
爺は親譲りの田んぼの一枚もなかったし婆も親からもらったものといや命ひとつだけじゃった。
それでも2人は働きもんで村の家々から声をかけられ日雇い仕事で爺婆になるまで食いつないできたのじゃった。
ほれ婆さんドジョウだ。
あいよ。
ほれほれほれほれ。
ほい!取れたな。
ほら。
夕飯のええおかずができたな。
さて…。
爺は子供の頃から遊びが上手で近所の子供たちとよく遊び忙しい親たちから重宝がられた。
そんな爺の後ろにくっついて歩いているうちに婆はいつの間にか連れ合いになっていた。
家に帰れば日中のきつい仕事の疲れで足も腰も立つもんじゃない。
2人の暮らしは来る日も来る日も食うものといえば大根ばかり。
爺さま爺さま夕飯できたでよ。
ああ…。
あれ?婆さんドジョウ食わんのか?おらはいらねえ。
なんでも2人で分けてきたでねえか。
ほら婆さん丼出しな。
もったいねえだ爺さま。
いいから食え。
うめえ。
どうした?婆さん。
おら小さい頃から爺さまのあとをついて行くだけでなんにもできん。
うんにゃようやってくれとるがな。
爺さまはつらい仕事をやって働き続けているのにどんどん貧乏になっていく。
んだな。
なんでかのう働くほど貧乏になるのは。
そこんところがおらにもさっぱりわからんのじゃ。
わかっとるのは働かんと生きていけんということじゃ。
爺も婆も生きているだけでありがたいと思っておった。
そうしてまた冬がきた。
今年も今日で終わりじゃ。
よう死なずに生きてこれたもんじゃ。
ほんにな。
明日は正月。
餅は…あるわけはねえな。
大旦那のところでおからをもらっただ。
あれを煮て雑煮のつもりにするべ。
ほうかおからで雑煮か。
次の日正月の朝は上天気じゃった。
爺と婆はおからの雑煮で正月を祝った。
こんなとこにもこうして正月さまは来てくれるんじゃの。
ありがたいこっちゃな。
フフフフ。
あ?フフフフ。
フフフフ。
ななんだ?貧乏。
小僧バカにしに来たんか!貧乏転ぶフフフフ。
こら!転ぶ転ぶ!待て小僧!転ぶ転ぶ!こら!転ぶ転ぶ!待て小僧!転ぶ転ぶ!バカにしおって待て!転ぶ転ぶ。
フフフフ。
何を言うか歳はとっても足腰は鍛えてある。
転びはしねえぞ。
子供とはいえ貧乏や年寄りを笑うものは許せなかった。
フフフ転ぶ転ぶ。
転ぶ転ぶ。
転ぶとひっくり返る。
転ぶ転ぶ。
おら転んだことは一度もねえっちゅうに!待て小僧!フフフフ転ぶ転ぶ。
転ぶ転ぶ。
転ぶとひっくり返る。
ハァハァ逃げられた。
じゃが足跡は残っとる。
そうよこの足跡をつけていけば居所はわかるだ。
小僧の足跡は住職のいない山寺のほうへと続いていた。
爺と婆は一緒に寺へ入っていった。
足跡は裏のブナの大木の前まで続いていた。
小僧はこの中に隠れただな。
穴ん中へ入ったんならたぬきが小僧に化けたんかの?そうじゃしめてたぬき汁にして食ってやるだ!たぬきらしいものはいないようだが。
奥のほうに固いもんがあるだ。
よいしょ。
こんなもんがあっただ。
なんじゃろ…。
(2人)あっ!壺の中には小判がぎっしり詰まっていた。
世の中何が起こるかわからない。
たぬきが化けたと思っていた小僧が宝物をくれたのじゃ。
爺と婆は町に行って餅を買い雑煮を食ってもう一度正月を祝った。
おらでっけえ間違いをしてただ。
何かね?あの小僧おらの顔と着物を見て貧乏と言ったと思ったがありゃおらの心を見て言ったんじゃ。
心?そうじゃ。
心が貧乏では考えることもすることもみんな貧しくなるだ。
小僧は転ぶとひっくり返ると言ったが裏っ返しになるとは金持ちになるということじゃ。
貧乏の反対は金持ちじゃからのう。
転ぶっちゅうのはそれじゃよ。
逆にすることなんじゃ。
これからは心を豊かに楽しく暮らすんじゃ。
このカネで田んぼ買って自分の好きなもの作って婆さんと楽しく暮らすんじゃ。
これも一生懸命働いてきたから正月様がご褒美くれたんじゃな。
(2人)ハハハハ!その後爺と婆は一日一日を楽しみながら心豊かにずいぶんと長生きしたそうじゃ。
転ぶ転ぶ。
転ぶ転ぶ。
転ぶとひっくり返る。
その年も押し詰まって明日は大みそかです。
村の人たちは正月に備え掃除をしたりおせちを作ったり大忙しです。
しかし村はずれに暮らす夫婦者の家はひっそりしていました。
ひと間きりじゃ大掃除といっても簡単なもんじゃ。
せめて餅でもあれば正月を祝えるのにな。
貧しい夫婦には正月の食べ物を用意する蓄えがありませんでした。
お前様これを売って餅を買ってきては?この麻糸を…。
これは…いざという時のためにとお前が何日も夜なべをしてこしらえたものじゃないか。
今がその時ですよ。
お正月を迎えるんですから。
深い深い冬の夜でした。
一夜明け凍るような朝になりました。
お前様久しぶりの町だから気いつけてな。
あぁいってくるよ。
今日は雪になるかもしれないね。
久しぶりの町は正月の買い物をする人たちで賑わっていました。
さ〜て麻はいらんか。
丈夫な麻糸はいらんか。
ほ〜れ麻糸だよ。
麻糸はいらんか。
けれども誰も見向きもしません。
麻糸はいらんか。
丈夫な麻糸はいらんか。
大みそかに欲しいものは米や餅魚。
(ため息)夕方になってもとうとう麻糸は売れませんでした。
いつの間にか空の色が変わって暗くなってきました。
なんだか冷えると思ったらとうとう降りだしたか。
正月のもの欲しかったのう。
どうしよう。
いや〜こりゃあ見事な麻の糸じゃな。
わかるかのう爺さま。
見たところお前様も売れなかったようじゃの。
爺さまの傘も売れなんだか。
売れないどうしじゃ。
お前様の麻とわしの笠と取り替えてはどうじゃ?男は考えました。
笠もあれば困らない。
このようにいい笠ならありがたい。
そこで2人はそれぞれの売り物を取り替えることにしました。
気いつけてな。
爺さまも気いつけてな。
かみさんに麻の糸が褒められたと言ったらきっと喜ぶことだろう。
村へと向かう分かれ道に雪にまみれた六地蔵が立っていました。
お地蔵さまこんなになって…。
さぞや冷たかろう。
雪の中にずっと立っていて。
そうじゃ笠がいるのは誰よりもお地蔵さまじゃ。
これをかぶってくだされ。
男は地蔵さま一つひとつに笠をかぶせました。
あれよ〜1つ足らんか。
そんならわしの使い古しで悪いがこれで我慢してくだされ。
こんなボロでもいくらかはよかろう。
よい正月をお迎えくだされや。
6番目の地蔵さまに自分の笠をかぶせると峠を越えてゆきました。
ただいまけえったよ。
お前様早く火に当たってくだされ。
男は今日あったことを話しました。
それはよいことをしました。
笠が役に立ちましたね。
だけど餅は正月に間に合わなかったな。
ひえも粟もまだありますから。
大丈夫ですよ。
夜も更けて除夜の鐘が鳴り始めました。
(鐘の音)寺の鐘がよく聞こえる。
どうやら雪もやんだようだ。
なんとか今年もつつがなく暮らせましたね。
あぁ来年もいい年になるといいな。
いつしか2人は眠ってしまいましたがふと物音に目を覚ましました。
雪を踏みしめるような音が近づいてきました。
キツネでもなさそうだが何だろう?今時分訪ねてくる人もいないでしょうに。
音は家の前でぴたりと止まると…。
いちばん役に立つところにそ〜れ。
いちばん嬉しいところにそ〜れ。
何だ?こりゃあ。
その時ドスンギュッと遠ざかっていく音が聞こえました。
お〜!お地蔵さまだ!お地蔵さま!まぁ。
地蔵さまの彼方に今年初めてのお日さまが昇りました。
地蔵さまがくださった袋の中にはお餅がお米が昆布に魚が小判も入っていました。
わしらには過ぎた恵みじゃ。
大切に使わせていただきましょう。
村の人にも分けてあげましょう。
新しい年が明けてこの夫婦にも村にも幸せが届きました。
2014/12/28(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字][デ]
「相撲を取った貧乏神」
「ころぶころぶ」
「笠地蔵」
の3本です。お楽しみに!!
詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
柄本明
松金よね子
テーマ曲
『一人のキミが生まれたとさ』
作詞・作曲:大倉智之(INSPi)
編曲:吉田圭介(INSPi)、貞国公洋
歌:中川翔子
コーラス:INSPi(Sony Music Records)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】鈴木卓夫
制作
【アニメーション制作】トマソン
ホームページ
http://ani.tv/mukashibanashi
ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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