社会保障の予算は今や国の一般会計の3分の1近くを占め、さらに膨らみ続けている。

 膨大な借金を抱える国の財政を立て直すには、その問題にどう対処するかがかぎとなる。

 もらえる年金やサービスは抑えられる一方、消費税などによる負担は増える。国民にとって痛みの分配は避けられない。

 国はそれで得られた財源をいかし、国債発行という将来世代へのつけ回しを減らす。同時に、必要な制度はきちんと充実させる。それが「社会保障と税の一体改革」のはずだ。

 ところが安倍首相が消費税の再引き上げを先送りし、15年度に予定していた財源に穴が開いた。どう対応するかが、予算編成の焦点の一つとなった。

 政権が予算案で示した解答をひと言でいえば、「所得の少ない人へのしわ寄せ」である。

 低所得者向けに予定されていた三つの対策のうち、年金がらみの二つは丸ごと先送りされる。低年金者への給付金と、年金保険料の支払期間の短縮だ。介護保険料については軽くするが、当初より規模を大きく圧縮する。

 これらは一体改革がうたう充実策のなかに位置づけられてきた。充実策全体の財源は国と地方合わせて1・8兆円の予定だったが、消費増税の先送りで1・3兆円余にとどまった。

 「負担なくして給付なし」を貫き、一体改革を堅持した。財務省などはそう説明する。しかし、経済的な弱者を狙い撃ちする対応が、国全体にとってもプラスになるとは思えない。

 デフレ脱却と経済活性化のためには、一部の豊かな人だけでなく、幅広い国民の消費を底上げする必要がある。低所得者を支えることも重要で、格差の拡大を防ぐことにもつながる。

 社会保障と財政の今後を見すえても、得策とは言えまい。

 消費税率を10%にしても社会保障費をすべてまかなうにはほど遠く、給付見直しと負担増の長く、険しい道のりは続く。ならば一体改革という枠組みにとらわれず、予算全体を厳しくチェックし、社会保障に回す努力が欠かせないはずだ。

 この予算案にも首をかしげる項目が多くある。例えば、整備新幹線である。与党や自治体の要望で北海道など3路線の開業時期の前倒しを決めたが、国と地方が投じる公費が膨らむ危険をはらんでいる。

 分野ごとの縦割りにしばられ、応援団がいる項目は認められる一方、声なき声は顧みられない。そんな予算編成を、いつまで続けるつもりなのか。